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第132話 ボルグ中佐vsアゾート

8月10日(風)曇り


 北のスラム街を訪問して奴隷商人を撃退して以来、俺はセレーネとマールを連れて、貧民街をこまめに巡回するようにしていた。最低限の物資を配るとともに、奴隷商人たちを見つけては、拠点を破壊して領民を救出するためだ。


 俺たちは貧民街で大変な歓迎を受け、マールは癒しを与える聖女様、セレーネは水瓶様としてもてはやされるようになっていた。


 ただ大っぴらに活動したため、俺達の行動は既に革命政府の知るところとなり、奴隷商人を倒す度に治安維持部隊が出動して来るため、姿を見られる前に高速化して逃げ出すことを繰り返していた。




 だからといって俺には革命政府に隠れて活動する気はさらさらない。一人でも多くの領民を救うため、とにかく奴隷商人を片っ端から潰し、捕らえられた奴隷を解放していった。


 もちろん、奴隷商人だけを相手にしていてはダメだ。貧民街の住人だけでなく、リンちゃんやロンさんのような一般の領民だって困っている。だから、革命政府を打倒するために全領民に立ち上がってもらい、デモ隊を組織して議会や政府機関を占拠する。


 そのために、地下組織との連携にも余念がない。ネオンとガルドルージュが中心になって、レジスタンスや極右政党の活動家たちとも、Xデーに向けての入念な調整が行われていた。


 そんな忙しい日々を送っていた俺たちだったが、東エリアのある奴隷商人を壊滅させたときにそれは起こった。


 アジトのある場所への道路が全て治安維持部隊に封鎖されてしまったのだ。この手際のよさ、おそらくこの奴隷商人を俺たちに襲わせる罠だったのだ。


 俺たちは建物が込み入った市街地の中で包囲されてしまったのだ。






「ニトロ、逃げ道を全て塞がれたわ! 道幅が狭くて突破できない」


「おちつけセレン。逃げられなければ倒すだけだ。治安維持部隊を攻撃するのは避けたかったが、俺達の目的が最優先。抵抗するものは全て排除しよう」


「・・・そうだったわね、気持ちを切り替える。あれは領民ではなくソルレート革命政府という体制側、つまり敵対貴族の配下の騎士と同じ扱いね。だったら命の取り合いは当たり前の戦乱の貴族ルールでやらせていただくわ」

 

「領民だからといって油断するなよセレン。マールは後方で遠隔魔法の準備!」


「わかった!」



 【無属性魔法・超高速知覚解放】



 そして俺たちは超高速で強行突破を図ろうと走り出した途端、前方から強力な電撃が発射された。


「きゃーっ!」


「マール!」


 領民で構成されている治安維持部隊が魔法を撃ってくることを想定していなかったため、俺たちは魔法防御シールドを展開しておらず、マールがダメージを受けてしまった。かくいう俺もダメージは受けなかったものの身体が少し痺れており、無傷なのはセレーネのみだった。


「大丈夫かマール」


「うん平気。少しダメージは受けたけど、けがはないみたい」


 俺はマールを立ち上がらせて魔法防御シールドを展開し、次の攻撃に備える。すると、治安維持部隊の中から一人の男が現れた。40代ぐらいの中肉中背の男性だ。その男が俺たちに向けて話はじめた。


「なるほどな。今のサンダーでお前たちの魔力の大きさが大体わかった。その青髪の少女が約150、白髪の少女が300超・・・そうか、こいつがフェルーム子爵家次期当主のセレーネか。そしてメルクリウス男爵、貴様は280ぐらいだな」


「お前、どうして俺たちのことを?!」


「さあな。しかし予想以上に強力な魔力だな。伯爵超級が二人と、子爵級が一人か。ネストとゾイル、お前ら二人で白髪の少女を、デルトは青髪の少女だ。俺が男爵の相手をしてやる」


「「「了解!」」」


 背後から突然男女3人の声が聞こえ、振り向くと後ろに展開する治安維持部隊の中からその3人が飛び出し、セレーネとマールに襲い掛かってきた。


「後ろを見ている暇はないぞ。お前の相手はこの俺だ」


 男がそう言うと、剣を握って俺に斬りかかってきた。と同時に、魔法の詠唱も始めている。




 ・・・?


 なんだこの詠唱は。


 これまでに聞いたことのない呪文だ。


 俺はその魔法が何なのか確かめたくなり、男と打合いながら詠唱が終わるのを待つ。果たしてどのような魔法が放たれるのか。


 詠唱は短く、すぐに男の魔力が練りあがった。赤いオーラがほとばしり、男の手元の魔法陣から赤い炎が放たれた。



  【火属性初級魔法・ファイアー】



 男から放たれたファイアーは、とてつもない大きな炎となって俺めがけて高速で向かってくる。刹那、体を左にかわしてギリギリのところで炎をよける。俺の防御力を超えた強力な炎が俺の側面を通過し、背後の建物に当たって爆散。建物が炎上を始めた。


「ほう、あの至近からのファイアーをよけるとは、貴様スピード特化型か」


「なんだよ、そのスピード特化型って。それよりその詠唱、俺の魔法とは全く異なる呪文。ブロマイン帝国の魔法?・・・お前が帝国特殊作戦部隊か」


「・・・その部隊名を知っているとは、お前は俺たちの正体を掴んでいたのか」



(なるほど、こいつらはソルレート革命政府の裏に俺たちがいるのを知っていて、かつこの作戦のアキレス腱が帝国からの補給にあることを看破していた。だからわざわざ帝国国境線まで行って補給基地を叩いてきたという訳か)



「当たり前だ。戦う相手の事を調べ上げるのは常識だろ」


「帝国ではな。だがお前たちアージェント王国は違う。強力な魔法を誇示して武勇を競うのがお前たちの戦い方。お前、帝国にいたことがあるのか?」



 この男、俺に探りを入れてきているな。だったらこちらも探りを入れ返す余地があるか。


 俺はこの男と剣で激しく斬りあいながら、慎重に探りを入れていく。




「どうだろうな。だが帝国式の軍隊は実に興味深い。王国にもぜひ取り入れたいと思っている」


「お誉めいただき光栄だよ。お前がそれを取り入れた成果が、今回のソルレート侵攻作戦という訳か」


「・・・お前、俺達の作戦に気づいていたのか」


「お前が先に言っていたではないか。戦う相手の事を調べ上げるのは常識だとな。だが腑に落ちないのは、お前たちがなぜそれほどの諜報能力を持っているかということだ。どうやって俺達のことを調べたのか教えてくれないか」


「真正面から堂々と聞いてきやがるな。だが、そんなこと教えるわけないだろう」


「・・・いや単純に興味があるのだよ。お前たちは、帝国の前線補給基地の場所とその規模をどうやって知った。前線の遥か奥、帝国の国境付近にある秘密基地の情報は王国には知られていなかったはずだ」


「・・・もう、補給基地の件と俺たちを結びつけているのか。帝国の諜報網は侮れないな」


「そうだ。そしてお前が保有している艦隊の規模と行動もすべて把握済み。帝国本土には戦艦クラスの艦隊を要請した。やがて海路の補給路は復活し、お前たちの戦略は海から瓦解する」


「なんだと・・・そんな」


(ふん、やはり若いな。こんな簡単なブラフに引っかかるとは。だが、ヤツの話ぶりから軍内部の情報をつかんでいるわけではなさそうなので、スパイの線は消えたか。するとこいつらの持つ諜報網の正体は一体何なのだ)


「お前たちはもう勝った気でいたから、のこのこと領都ソルレートまで来て、ここで偽善者のように振る舞っていたのかもしれないが、失敗だったな。我が艦隊が到着するまでに早く騎士団に戻って、ソルレート領に向けて全軍突撃した方がいいのではないのか。せっかく、派閥を越えた連合軍を作ったんだろ。大攻勢をかけるなら今じゃないか」


「・・・そうか、今のお前の言葉でわかった。帝国艦隊の話はブラフか。いや本当だとしても、到着はかなり先。だから俺たちに作戦の変更をさせようとした」


「ちっ。やはりお前は、他の王国魔導騎士とは違うようだな。だがどうして、そのような考え方ができるのだ。フェルーム家はボロンブラーク伯爵支配エリアの奥地に潜んでいた騎士爵だったはず。ここ最近の内戦で戦い慣れたこともあろうが、ずっと平和に生きてきた一族がお前のような軍事的な考え方を身に着けられるわけがない。違うか」


「俺の考え方が王国的でないことが、お前に何の関係があるんだ。何が知りたい」


「俺が知りたいことか・・・・・そうだな、お前はメルクリウス公爵家の子孫だろう」


「・・・!」


「若いな。いちいち顔に出すぎだよお前。剣を打ち合いながら俺との会話に応じているのは、俺から何か情報を引き出せないかと考えての事だろうが、このまま続けていても俺が一方的に情報を得るだけだぞ」


「くそっ!」


 コイツの言う通り、これ以上会話を続けても俺がコイツから情報を引き出すより、奪われる方が多いだろう。


 俺はいったんこの男と距離をとり、魔法戦を挑むことにした。


「賢明な判断だ。いろいろと話を聞けたので、お礼に自己紹介をしてやろう。俺は帝国特殊作戦部隊、連隊長のボルグ中佐だ」


「ボルグ中佐・・・」


「お前の正体は知っているので、お前からの挨拶は不要だ。さあこれでお互いの自己紹介が終わったし、ここからは本気で戦おうではないか。なあ、アゾート・メルクリウス男爵」





 ボルグ中佐との会話を打ち切り、戦いは仕切り直しとなった。後ろを振り返ってみると、セレーネとマールも敵と互角に戦っているようだ。


 しかしさっきのサンダー一発で互いの戦力バランスを一瞬で見抜くとは、このボルグという男は戦い慣れしている上、頭も切れる。


 だがヤツと打ち合って分かったが、スピードは俺の方がはるかに上だ。ボルグ中佐も通常の騎士より反応速度がかなり速いのだが、超高速知覚解放とは比較にならない。


 厄介なのは魔力の大きさだ。ヒットした時の剣の感触から、侯爵家四男のピエールよりもさらに上だ。


 こんな相手とどのように戦うのか。


 ボルグ中佐が放ったファイアーで、建物が炎上し隣の建物にも少しずつ火が広がっている。この辺りには他の奴隷商人たちのアジトもあり、まだたくさんの奴隷がとらえられているはずだ。火属性魔法を使うのは危険、ならば、



  【無属性魔法・バリアー飛ばし】



 俺はバリアーを全力でボルグ中佐に飛ばした。だが、中佐はそれを容易く弾きかえし、詠唱しながら剣で打ち込んできた。


 俺もそれに対抗するため剣にバリアーをまとわせて、魔力を物理攻撃力に変換する。バッサリ行くぜ!


 そして俺が打ち込んだ剣がボルグ中佐にヒットする瞬間に、剣にまとわせたバリアーを飛ばして剣を加速、中佐を叩き斬る。


 ドギャッ!


 剣が当たった瞬間、ボルグ中佐は顔色を変えた。


 ボルグ中佐の詠唱を阻止するには至らなかったが、それなりに効果はあったことを確認し、超高速で滅多打ちにした。


 ドギャッ! バゴッ! ズドッ!


 防戦一方のボルグ中佐だったが、これだけ連打を食らわせても詠唱をやめない。鋼の精神力である。中佐の呪文が王国とは異なるため、発動するまで何の魔法なのかわからないのが戦いにくい。


 やがて俺の攻撃を受けきった中佐は、詠唱を終えるとニヤリと笑ってその魔法を放った。



  【闇属性上級魔法・ワームホール】



 この魔法、フリュが使ったのを見たことがあるが、黒い闇に包まれるとどこかへ転移してしまうものだ。


 そして、黒い闇が俺の方にすごいスピードで接近している。


 俺はとっさに黒い闇から逃げようと、左に身体をひねる。


「くっ!」


 両足を全力で踏み込んで思い切りジャンプすると、身体はギリギリ闇から逃れられたが、剣の半分が闇に触れてしまいどこかへ転移してしまった。


 先がなくなって半分になってしまった鉄の剣を放り投げて、俺は予備の短剣を握りなおす。




「うまくよけたな男爵。その身体能力とスピードは脅威に値する。だが、次はどうかな」


 そう言うとボルグ中佐は、また何らかの魔法を詠唱しながら、再び俺に斬り込んで来た。


 そして先程と同様の打ち合いになり、その間にボルグが新たな魔法を練り上げていく。実力は完全に向こうの方が上で、俺は受け身の展開を余儀なくされていた。その時、


「アゾート! お待たせ」


 ネオンが俺のもとに走ってきた。


「お前、よくこの場所がわかったな」


「東の方で急に火の手が上がったから、ひょっとしてと思って来てみたら、治安維持部隊が集まっていたので突破したらここにたどり着いた。私も参戦するよ」


「頼む、コイツが特殊作戦部隊のボスだ。かなり強い。だからあの作戦で行こう」


「あれね、了解」


 俺とネオンはわざわざ言葉にしなくても、お互いに何を考えているのかわかってしまう。だから阿吽の呼吸で意思疎通を図り、俺たち二人で攻撃を開始する。だが、ボルグ中佐に焦った様子はなく、鋼の精神力で魔法の詠唱を続けている。そんなボルグに俺とネオンが同時に動いた。



  【無属性魔法・バリアーブレイク】



 フィッシャー校との最強決定戦で修得した新魔法・バリアーブレイクを、二人同時に1点に集中させた。フィッシャー校との最強決定戦予選決勝で、護国の絶対防衛圏をも破った俺たちのこの連携技は、ボルグ中佐のバリアーもその一点から破壊した。


「俺のバリアーが!」


 バリアーが破られることが想定外だったのか、詠唱を中断してしまったボルグが慌ててバリアーを張りなおす。そのわずかな瞬間に俺とネオンが魔法を撃ち込んだ。



  【火属性初級魔法・ファイアー】



 ゼロ距離からの最大火力で放たれた特大プラズマ弾が二つ、ボルグの身体を直撃し灼熱の炎で包み込む。


「ぐわっ!」


 魔力の強いボルグだから致命傷には程遠いものの、これでダメージは与えられたはずだ。俺たちの連携プレイにやられた形のボルグだったが、彼の驚きは自分が攻撃を受けてしまったことではなく、別のことに対してのものだった。


「高速詠唱だと・・・あの絵本の主人公と同じだ!」

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