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第130話 幕間(2)

 フリュオリーネは、パッカール領で指揮を取るクロリーネのもとを訪問していた。


 これは両軍の連携を図るため、毎日定時的に行っているもので、ベルモール騎士団にいるマミーや、マーキュリー騎士団にいるダーシュの所にも、転移陣を使って毎日訪問している。


 魔力が強いフリュオリーネだからこそ可能な連絡手段である。


 なおロレッチオ騎士団へは、ベルモール子爵を通してマミーから連絡をとってもらっている。


「クロリーネ様、本日の定時連絡です。まずメルクリウス軍の戦況ですが、領都外の残党もすべて拘束しトリステン領を完全に平定しました。ナタリー騎士団長を新たなトリステン領主に推薦いたしますので、その旨をジルバリンク侯爵にご報告いただきたく存じます」


「承知致しました、フリュオリーネ様。お父様には本日中に報告して参ります。それでその・・・昨日5名の重臣を公開処刑なさいましたが、男爵は処刑されませんでした。男爵の処分をどのようになさるおつもりなのでしょうか」


「ナタリー騎士団長のお考えでは、男爵も公開処刑やむなしなのですが、領民が自らの手で彼を断罪したいと申しております。昨日の5名は領民感情を沈めるのが目的だったのですが効果がなく、男爵の処刑方法にお困りのようでした」


「王国法では平民が貴族を処刑することは禁じられていますからね」


「ええ。我々としても、ナタリー騎士団長に王国法に反した処刑はさせられないため、わたくしが少しアドバイスを致しました」


「まあ、フリュオリーネ様がアドバイスを。もしよければお聞かせ願えませんか」


「はい、クロリーネ様。ちょうど王国法が適用されない場所がすぐ近くにございます。そこでなら、男爵の身柄を領民に引き渡して処刑させても、王国法違反にはなりません」


「それってまさか、ソルレート領のことをおっしゃっているのでしょうか。あれは革命政府が勝手に独立を宣言しただけであって、王国法はちゃんと適用されると思いますが」


「クロリーネ様のおっしゃる通りなのですが、我々は彼らとの決戦にあたり彼らの独立を認め、王国ではない外国勢力との戦争という形に致します。現に帝国軍が革命政府の中心にいるため、理屈は通ると思います。そして革命政府を打倒した後で、トリステンの領民たちの要求を飲み、ソルレートの地で彼らに男爵の身柄を引き渡します。彼らが男爵の処刑を終えた後にソルレート領を正式にメルクリウス領に併合すれば再び王国法が適用されるようになります。これで我々は特に何もすることなく領民感情は良好となり、占領後の領地運営も円滑に進むでしょう」


「・・・り、理解致しました。お父様にはそのように報告します」


「よろしくお願いいたします。さて、クロリーネ様、シュトレイマン派連合軍の戦況をお教え頂けますか」


「はい、フリュオリーネ様。我がシュトレイマン派連合軍でもバリケードの敷設が完了致しました。領民軍の大半がメルクリウス軍の方に移動してくれましたので、こちらはかなり余裕ができております」


「それでは、今のうちに騎士たちに休息をとらせ、進軍の準備を整えてくださいませ。わたくしからの指示があるまで積極的な攻撃は控え、防戦主体でお願いいたします」


「ということは、長期戦ではなく近々攻勢に転じる予定なのですか」


「はい。ガルドルージュを通してアゾート様から連絡がございました。ソルレート内の複数の地下組織との連携が進み、早い時期に領民を立ち上がらせる手筈が整うとのことなのです」


「もうそんな状況に! さすがはアゾート先輩です。そういうことであれば、我々はいつでも突撃可能な状態にして待機しておきます。・・・待っていてくださいね、アゾート先輩」






 ソルレート革命政府議長のバンスは、執務室のソファーに腰をかけて、内務局長と税務局長と話をしていた。彼ら二人とはボルグ中佐が設置した幹部養成所の同期なのだ。


「昨日の議会でようやく奴隷法改正案が可決された。同日施行されたので、今日にでも奴隷商人たちがスラム街へ向かっているはずだ。内務局長は何か報告を受けているか」


「ああ。奴隷商人たちからは上限一杯の納付金が納められており、今日さっそく狩りに出発しているはずだ。明日にでも、帝国に回す分の奴隷が送られてくるだろう」


「それはいいのだが、トリステン男爵へ売却する分はどうなるのだ」


「あれは国内流通分なので政府は通さず、商人同士で直接取引が行われる」


「そこを政府が一枚加われないか。聞くところによると、奴隷少女は1人100ゴールドで売れるらしい。ここからサヤを抜きたいので、なんとか食い込んでくれないか」


「そんなに儲かるのか・・・わかった、政府分だけでなく、俺たち個人でも是非絡みたいな。奴隷商人どもに難癖つけて、ピンはねでもするか」




「私の分も頼む。それから税務局長、例の税率変更の件だがまとめて議会を通しておいた。追加徴税の準備はどうだ」


「さっそく今日から各地で取り立てを始めているよ。すでに何ヵ所かの村に出向いた徴税官からは報告を受けていて、やはり隠し持っている穀物が相当程度あったため、強制徴集を進めている。かなり抵抗を受けたようだが神の御名と教えを示せば、最後は渋々だが受け入れてくれるようだ」


「さすがはシリウス神。神の御威光は絶対的だな。帝国からの補給物資が遅れているため、追加徴税がないと領民への配給が滞り、野党との約束分の配給も提供できなくなる。ただ当面は臨時で配給を減らさざるを得ないため、なるべく早急に農民から徴税してくれたまえ」


「わかった」




「そう言えば秘書官。各領地との戦争はどのような状況だ。各方面軍の司令官から報告を受けていたはずだが」


「ちょうど今朝定例報告があったばかりなんですが、少し奇妙なんです」


「奇妙?」


「はい。パッカール方面軍司令官からの報告では、トリステン方面に新たな敵が現れたため、ゾイル隊長のアドバイスにより軍を2つに分けたようです。また、領民軍司令部へも同様のアドバイスがあって、新たにトリステン方面軍司令官とその幕僚を任命し、徴兵したばかりの新兵も全てトリステン方面に配属させたようです」


「なんだそれは・・・そんな話初めて聞いたぞ」


「どうやら元はボルグ中佐からの指示のようで、ここ数日の間に決まったことのようです」


「そんな急な話だったのか。・・・そう言えばボルグ中佐とこの前あった時にトリステン領について聞かれたが、ひょっとしてあの領地で何かあったのでは。秘書官、至急トリステン男爵と連絡を取ってみてくれ」


「承知しました」






 帝国アージェント方面軍特殊作戦部隊ボルグ中佐の執務室では、臨時の作戦会議が行われていた。メルクリウス男爵の行動を諜報員に探らせており、その結果が第二部隊隊長のゾイルから報告されるためだ



「やはりメルクリウス男爵はこの領都ソルレートに潜伏していました」


「そうか! それでヤツはどうしている?」


「それがスラム街に突然現れたかと思うと、奴隷商たちと戦いを始めて、結果的に6つの組織を壊滅させました。実は怪しい人物としてマークしていたのですが、スラム街で強力な火属性魔法を使用したため、男爵本人と特定できたものです」


「・・・スラム街で火属性魔法をブッぱなしたのか。随分と派手に活動しているな。潜伏活動ではなかったのか」


「彼の目的はわかりませんが、我々を特に気にすることなく自由に行動しているようです。そもそも男爵とおぼしき怪しい人物として彼をマークしはじめたのも、冒険者ギルドでの奇行が原因だからです」


「奇行だと?」


「はい。実は冒険者ギルドで怪しい人物がいると噂になっていたんですよ。8月になってから急に冒険者ギルドに出没するようになった初心者剣士で、冒険者をまとめて殴り倒すようなゴリラ女と、毎日手をつないで街中をイチャイチャとほっつき歩いていたそうで、とんだバカップルが現れたもんだと」


「わかったもういい・・・諜報員がもったいないので、これからは一般兵にでも監視をさせろ」


「はっ!」




「それではネスト大尉、メルクリウス男爵の情報を洗い出した結果を報告しろ」


「はっ! 諜報員総出で男爵の情報を全て洗いなおしたのですが、やはり不思議なほど大した戦績が残っていませんでした。最初に確認されたのは、昨年夏のボロンブラーク内戦です。以下時系列に並べます」



【ボロンブラーク内戦】

・スカイアープ平原会戦では目立った戦果を確認できず

・フェルーム領内での貴族の決闘で、スキュー男爵を一対一で撃破(公式記録上の初戦果)

・プロメテウス城に捕らえられていたアウレウス公爵家令嬢を発見・救出

・アウレウス伯爵との戦後処理の結果、男爵に昇格し中立派からアウレウス派へ移籍


【ソルレート管理戦争】

・城塞都市ヴェニアル攻城戦では目立った戦果を確認できず

・ベゼル平原会戦では姿を確認できず

・ソルレート伯爵、ロレッチオ男爵との交戦記録も一切確認できず


【冒険者としての実績】

・クレイドルの森ダンジョン攻略パーティーのリーダー(ただし大した戦績は確認できず)

・ジオエルビムの発見と、古代遺物による人類初飛行に成功 → 勲二等受勲、魔法協会特別研究員就任

・冒険者ランクDからCに昇格


【ナルティン戦】

・現在調査中につき詳細不明。ポアソン領の防衛に当たったと言う目撃証言あり



【学園での評判】

・学校をサボることが多く、毎回追試を受けている

・顔や戦闘力、学校の成績すべて弟に負けているパッとしないダメ兄貴

・美少女好きの女たらし

・プロデューサーのくせにアイドルを食うろくでなし

・美少女とイチャついただけで王家より勲章を授与

・学園一の嫌われもの




「以上です。ハッキリいってコイツの回りにいる少女たちの方がはるかに立派な戦績をあげており、なんでコイツがメルクリウス男爵などと名乗っているのか不思議なほど、パッとしない男でした。特に学園での評判が最悪で、私なら部屋に引きこもるレベルです。面の皮が厚いというか、性格が鈍感なのかあるいは他人の言葉が全く聞こえていない難聴も疑われます」


「なるほどこれは酷いな。確かにこれではヤツを舐めてかかるのも仕方のないことだな」


「はい。だから、中佐がそこまであの男爵を気になさる理由がわからないのです」


「だから言っているだろう。周りの評判などむしろヤツの正体を隠す、恰好のカムフラージュだと。ここで注目すべき点は2つ。スカイアープ平原会戦とベゼル平原会戦だ。どちらもそれぞれの戦争の趨勢を決定づける重要な戦いだったが、彼はそのどちらでも活躍していない。にもかかわらず最も大きな功績は全て手中にし、周りの誰もがそれに異を唱えていない。つまりヤツは表ではなく裏で活躍している証拠。現に彼は現在の主戦場であるトリステン領ではなく、今このソルレート領に潜入していて、奴隷商人を潰している」




「言われてみれば確かにそのとおりなのです。ただ、中佐もメルクリウス男爵に少しこだわりすぎている気もします」


「こだわりすぎているか。実は自分でも少し引っかかる点があったのだが、その違和感の正体にようやく気がついたのだ」


「違和感の正体ですか?」


「そうだ。俺が引っかかっていたのはメルクリウスという家門と、アゾートという名前だ」


「メルクリウスは、アゾート・フェルームが去年男爵位を授与された時に名乗った名前で、フェルームと区別するため以外に、特に何か意味があるとは思えませんが」


「お前たちは知らないと思うが、王都アージェントの宮廷貴族や上級貴族の間では、特に男児が好んで読む人気の絵本がある。その主人公の名前がアサート・メルクリウスというのだ。やつの名前を聞いた時、どこかで聞いたことのある名前だなと思ったのだが、あの絵本の主人公の名前に似ていたからだったのだ。懐かしいな」


「へえ、それはどんな話なんですか? あ、あくまで参考情報として確認したいだけですが」


「ほう、お前興味があるのか。まぁ荒唐無稽なヒーローもので、普通は14際ぐらいにはみんな卒業してしまう話なのだけど、いいだろう特別に教えてやる。その主人公はこの世界とは別の高度な文明社会から転生してきた少年で、魔法の呪文の真の意味を知り完璧な発音が可能なチート持ちなのだ。それを高速詠唱に利用し、異世界の高度な知識と組み合わせて、どんどん強くなっていくというお話だ」


「それは中々に荒唐無稽な話ですね。ひょっとして中佐は今でもその本をお持ちなのですか」


「おいおいネスト大尉。お前はいい年をして、この本が読みたくなったのか。残念だが、息子にあげてしまったので、今は手元にはない。帝国に戻ったら、うちの息子から借りるといい」


「では、帝国に帰還できる日を楽しみにしています。でもそれなら、ヤツが絵本の主人公になりきっていて、同じ名前を付けた痛いヤツということで、話は終わるのではないでしょうか」


「ところがそれだけではないのだよ・・・作戦会議がどんどん脇道にそれてしまっているが、まあいいか。その話でさらに思い出したのが、現在の王国の公式な歴史からは抹消されているが、過去の王国にはメルクリウス公爵家というものがあったという裏話だ」


「さっきの絵本と同じ名前!」


「そう。そしてその初代公爵の名前こそが、この絵本の主人公と同じアサートだった」


「・・・なんか話が一気に胡散臭くなってきましたが、大丈夫ですか? ボルグ中佐」


「おいお前、俺を疑っているのか? まあ、初代公爵の名前は余計な話だったが、かつて王国の剣といわれたほど魔力の強い一族で、火属性魔法を得意とするメルクリウス公爵家が実在したのは本当だ。そしてちょうどメルクリウス男爵の出自であるフェルーム家も同じ火属性の家系。符合することが多いと思わないか」


「つまり、あの男爵は過去に実在したメルクリウス公爵家の子孫ではないかと、そうおっしゃりたいのですか?」


「歴史のロマンだよ、まあ全て俺の勘だがな。・・・でもこんなことなら、子供の頃に王国の歴史をちゃんと勉強しておくべきだったな」


「いや、十分過ぎるほど王国の歴史にお詳しいですよ。歴史学者にでもなるおつもりですか?」


「そんなんじゃないよ。だがヤツを発見できたことは幸運。戦闘力は不明だが、ヤツがこのソルレートにいる間に直接攻撃して倒してしまってもいいだろう」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「歴史のロマンだよ、まあ全て俺の勘だがな。・・・でもこんなことなら、子供の頃に王国の歴史をちゃんと勉強しておくべきだったな」 王国で隠されている歴史を帝国では、絵本で知れ渡っていたと言うこ…
[良い点] やはりセレーネポンコツだなぁ。これだとメインヒロイン下ろされたり。 [気になる点] 1、スキュー男爵を1対1で倒した事について、なぜ評価や考察がないのでしょうか? 私は騎士爵の分家の学生が…
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