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第128話 ときめきロンの宿

 ソルレート潜伏初日にいきなりレジスタンス組織と接触した俺たちは、そこでリーダーや幹部たちを交えて話し合いをし、その後は無事ロンの宿に帰ってきた。


 少し遅くなってしまったが、俺とセレーネは飲み屋のテーブル席に座り、宿屋の娘・リンちゃんに頼んで、二人分の夕食を運んでもらう。


 セレーネと二人向かい合って、夕食を食べながら今日あった色々なことを話しあった。


 夕食の食べ始めこそ話も盛り上がり、楽しそうに笑っていたセレーネだったが、夕食が進んでいくうちに俺たちの会話は、少しずつぎこちないものになっていく。


 俺たちの脳裏には、今日見てしまったある光景が、どうにも焼き付いてしまったからだ。





 そう、俺たちが今日から泊るあの部屋のことだ。



 この食事が済むと、俺たちは否応なくあの部屋に入ることになる。


 別にあの部屋が悪い訳ではない。


 リンちゃんの何気ない一言が、俺たちの心を縛り付けてしまっただけなのだから。



 ドクンッ! ドクンッ!



 セレーネとは生まれた時からの幼馴染みで、10年来の婚約者。もはや家族同然であるはずなのに、なんでこんなに緊張しなければならないんだ。


 まずい! まずいぞ、俺!


 セレーネを見ると、心なしか顔が赤くなっていて、俺の方をチラっとみては、素知らぬ顔ですぐに視線を外す。そしていかにも楽しそうに会話しているように見えて、その会話はどこか表面的で上滑りしている。



 ・・・これは、セレーネも完全に意識してしまっている。



 そして無情にも、夕食を完食してしまった俺たち二人。自分達の部屋に戻る時間が、ついに来てしまったのだ。


 テーブル席を立ち、飲み屋の奥の階段を手をつないで上がっていく俺たち二人。


 階段の一歩一歩に心臓の鼓動がリンクする。


 俺の手をギュッと握るセレーネの手が少し汗をかいていて、小刻みな震えが俺の手に伝わってくる。


 飲み屋のオッサンたちまで、あまりの緊張感にごくりと唾を飲みこむほどだ。



 ドクンッ! ドクンッ!



 オッサンたちの心臓の鼓動まで聞こえてくるほど、シーンと静まり返った飲み屋を後にして、俺たちは二階の部屋に入る。部屋の真ん中には、相変わらず大きなベッドが一つ、その存在を主張していた。



 俺たちは今夜、このベッドで一緒に眠るのか。


 俺はセレーネの方をチラッと見る。セレーネは恥ずかしそうに俺の方を見てこう言った。


「アゾートちょっと待っててね。私、お風呂に入らなくてもいい軍用魔術具を使うから」


「あ、ああ。俺もお風呂に入らなくてもいい軍用魔術具を使うよ」


「そ、そ、そうね・・・わかったわ」


 気まずすぎる。どうしたらいいんだよ、この空気。




 俺は軍用魔術具を使って、念入りに身体を擦る。


 セレーネを見ると、彼女も俺以上に念入りに軍用魔術具で身体を擦っている。そして顔は真っ赤だ。


「こっちを見ないで、アゾート。・・・恥ずかしいから」


 ・・・・・


「ねえ、アゾート・・・寝る時の服はどうしようか。私はいつもネグリジェを着てるんだけど、・・・その、ここで着たらやっぱりまずいわよね」


 セレーネのネグリジェ姿か。 ・・・見てみたい。


 だけど、そんな俺の気持ちをセレーネに悟られたら、エッチだとかキモいって思われてしまう。


 それだけは断じて嫌だ。


 俺はセレーネには絶対に嫌われたくないのだ。


 なんて返事をすれば正解かわからないので、玉虫色の回答をしてこの場は逃げることにした。


「俺のことは気にせず、セレーネが着たいものを着ればいいよ。それが制服だろうがネグリジェだろうが、セレーネは何を着ていても、とても美しいから」


「そう・・・嬉しい。じゃあネグリジェを着るね。でも恥ずかしいから、私のことをあまりジロジロ見ないでね」


「わかった」


 どうやらこの回答で正解だったようだ。さすがは前世でギャルゲーを遊び尽くしたこの俺だ。フラグを折ることなく次のシーンに進められる。


 そしてセレーネは少し恥ずかしそうに、着替えなくても済む軍用魔術具を使って、町娘の服からネグリジェに瞬間換装した。


 薄いピンクのネグリジェで、下着がうっすらと透けて見える。


「このネグリジェ、少し見えちゃうから明かりを消すね・・・じゃあ、そろそろ寝ようか。久しぶりね。二人で同じベッドで眠るなんて」


「そうだな。何年ぶりだろうな」




 そして、俺とセレーネは同じベッドに横たわった。


「ねえ、アゾート。もう少し近くに行ってもいい?」


 頬を赤く染めたセレーネが、モゾモゾと俺に近づこうとしたとき、部屋の扉が突然開いた。




「はい、そこまで! セレン姉様はすぐにアゾートから離れて」


 ネオンが部屋に飛び込んできたのだ。


「ネオン! 何であなたがここにいるのよ。私たちの所には近づかないでって言ったでしょ」


「昼間はね。でも夜は別よ・・・って何この部屋。ピンク系統の怪しげな内装に大きなベッドが一つだけ。受付のリンちゃんが言っていたとおり、本当に新婚さん専用の部屋なんだ」


 ネオンが部屋の様子を見て、呆れかえっていた。


「そうなんだよネオン。この部屋に二人きりでいると、大変な空気になるんだよ。それよりもよく俺達がここに泊まっていることがわかったな」


「それはガルドルージュの諜報網を使って調べたんだ・・・って言いたいところだけど、そんなもの使わなくてもすぐにわかった。アゾートたちは目立ちすぎなんだよ!」


「え、俺たちって目立ってた?」


「メチャクチャ目立ってたよ。ギルドに来て早々、いきなり冒険者10人を魔法の杖の丸いとこで殴り倒す黒魔術師(物理)の美少女と、そんな彼女とずっと手をつないで街中をイチヤつき歩く全身皮装備の初心者剣士のバカップルって、冒険者ギルドでいきなり噂になってたよ。一体なにやってるのよ」


「すまん・・・一応、隠密行動のつもりだったんだが、今日は初日だから市街地の探索をしてたんだよ。セレーネは見ての通りの美少女なので、襲われないようにしっかりと手を握って守っていただけで、デートでイチャついていたわけではない」


「ギルドの冒険者はセレン姉様のことをゴリラじゃないかと疑っていて、みんなビビりまくっていたわよ。こんな女なんか、アゾートが守らなくても全然平気よ」


「何ですって! もう一度言ってみなさい、バカネオン!」


「二人ともこんなところまで来て、ケンカはやめろよ。それに俺たちはただ街中を歩いていただけじゃない。レジスタンスのリーダーにも会ってきた」


「へぇ・・・ちゃんと仕事もしてたんだ。やるじゃん。私たちはここの議員に接触する事ができたよ。旧教徒系の極右政党なんだけど、議会の話を色々仕入れてきた」


「さすがネオン、お前もやるじゃないか。それでどんな話が聞けたんだ」


「奴隷法の改正の話。街の浮浪者を合法的に奴隷にして、帝国に高値で売り付ける法案らしいよ。与党と最大野党が裏で手を握って法案が可決しそうだって」


「・・・とんでもない法律だな。はやく何とかしないとな」






 ネオンが来てくれたおかげで、セレーネとの二人だけの危険な夜はなくなったんだけど、実は状況はまるで変わっていなかった。これじゃあ全く眠れない。


 結局ネオンも俺たちの部屋に一緒に泊ることになり、あの大きなベッドに3人で眠ることになったのだが。


 ネグリジェ姿のセレーネとネオンが俺にくっついて、二人とも気持ち良さそうに眠ってる。つまり俺の両サイドにはこの姉妹の色々なものが当たっている。


 気になって全然寝れないのだ。


 俺は優等生タイプなので、貴族のルールを一晩中しっかりと守り続ける訳だが、別にヘタレというわけではないので念のため。


 ・・・しかしこいつらと結婚したら、俺は一体どうなるのだろうか。





 結局、眠れたのは明け方近くになってからであり、俺は眠い目を擦りながら朝食を食べに食堂へと降りていった。すると俺に気づいたリンちゃんは、すぐに俺に駆け寄ってきた。


「おはようございます、アゾニトロさん。昨日はすごく静かにシてましたね。飲み屋のお客さんも、すごく静かに飲んでいましたよ」


 こいつ、朝から下ネタ全開だな。


「ご心配なくリンちゃん。俺は紳士だから、昨日は何もしてないよ」


「え、あんな綺麗な奥さんなのに、何もシなかったんですか!?・・・アゾニトロさんはヘタレなんですね」


「ヘタレじゃないし! ついでにアゾニトロって変な名前でもねえよ!」


 俺はさっさと朝飯を食べ終わると、セレーネを連れて街に飛び出していった。

今日も夕方のいつもの時間帯ごろには、2話目をアップできると思います


ご期待ください

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