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第119話 マール

 ポアソン領は領地としてはとても小さく、城壁に囲まれた港町とその周辺が全てであるが、南の海岸には比較的大きな港があり、商業が発達した豊かな町である。また温暖な気候から南の海岸にはポアソン家のプライベートビーチがあり、派閥を問わずポアソン家との親交のある貴族がバカンスを楽しみに来る。


 そのポアソン邸プライベートビーチでフレイヤーを降り、俺とマールは港町を北に向かって全速力で走っていった。


 街の中心部を抜けて北側にある城門へ向かうにつれて、街の建物を焼く炎が激しさを増していく。俺達が何度か利用した冒険者ギルドもすでに炎上して、炎が空高く立ち上っていた。そんな街だが住人はすでに一人もいなかった。


 ポアソンさんが全員を避難させていたようだ。




「マール、そろそろ城門が見えて来たぞ・・・しまった、少し遅かったか。城門がすでに破られている」


 城門の付近では騎士同士の戦いが続いているが、すでに多くのポアソン騎士が倒されている。ポアソンさんもその一人で、3人の敵騎士によってどこかへ連れていかれるところだった。


 だが、俺がそのことを認識するよりも早く、隣を走っていたマールが一気に加速して、ポアソンさんを抱えた敵騎士に向かって突撃した。


 マールの体からは、怒りに満ちた風属性のオーラが立ち上っていた。



 【風属性中級魔法・ウインドカッター】



 ここまで走りながら練り続けていた風属性の魔力を、敵騎士団に向けて一気に放出する。


 ポアソンさんを抱えた敵騎士の行く先には、別のナルティン騎士たちが集まっている。そこをめがけてマールのウインドカッターが発動し、空気の刃が無数に乱舞する。


「お父様!」


 魔法で敵の一団を無力化して増援を封じ、マールは小銃を構えて走りながら発砲。ポアソンさんを運び出そうとする3人の騎士を一人ずつ撃ち倒していった。


 敵の手から離れて地面に転がったポアソンさんのもとに、マールは駆け寄る。


「お父様!」


 ポアソンさんを抱き上げて必死に呼びかけるマールだったが、それに返事をすることなく、ぐったりと横たわるポアソンさん。


 マールがキュアをかけて回復させようと詠唱をはじめるが、その時城門から悠然とナルティン子爵が現れて、いきなりマールとポアソンさんに魔法を放った。



  【雷属性上級魔法・エレクトロンバースト】



 地面に巨大な魔法陣が出現し、熱電子流が大量に発生する。


 かなり強い魔力だ!


 ナルティンの魔力はマールの魔法防御力を超えてしまっている。これをくらえば、マールはともかくポアソンさんが持たないだろう。


 ならば。


「マール、魔法防御シールドで物理防御最大!」


「分かった!」


  【無属性魔法・魔法防御シールド】

  【無属性魔法・バリアーとばし】


 俺はマールとポアソンさんの場所めがけて、全力でバリアーを飛ばした。二人をバリアーで吹き飛ばし、ギリギリのタイミングでエレクトロンバーストの範囲外に二人を追い出したのだ。


 マールとポアソンさんは壁に激突したが、マールのバリアーのお陰でダメージの心配はない。




 誰もいない空間で熱電子流がうごめく様子を横目でみながら、俺はナルティンの前に超速で移動して全力の剣撃を食らわせた。


「うグハッ!」


 ナルティンが衝撃で城壁に体を激しくぶつけた。が、何事もなかったように立ち上がって、俺をギロリと睨む。ダメージをあまり与えられなかったのか。


「貴様は何者だ。この私を誰だかわかってやっているのか」


「俺はメルクリウス男爵。ナルティン子爵、お前を討伐しに来た者だ。帝国の犬め」


「貴様があのメルクリウス男爵か・・・本当にまだガキだな。お前、これは貴族家同士の戦争ということになるが、覚悟はできているのか。大義名分なき他家への一方的な侵略行為は、王国の秩序を乱す行為として認められてはいない。ガキのケンカじゃないんだよ、バカが」


「バカはお前だ、人の話をよく聞け。俺はお前を帝国の犬と言ったんだ。ポアソン領への侵攻こそが王国の秩序を乱す行為。さっさとくたばれ、ナルティン!」


 俺は高速詠唱のフレアーで、ナルティンの体を包み込んだ。この狭い場所では味方への被害がでるため、エクスプロージョンは撃てない。だからナルティンだけをじっくり焼くために、フレアーを使用したのだ。


 ナルティンの魔法防御力を越えて、炎がナルティンの体に巻き付いた。慌てて炎を振りほどこうとするナルティンだが、彼の魔力では離れない。


 魔力の違いに衝撃を受けたナルティンは、俺への攻撃をあきらめ、業火で焼かれたまま走り出して城門の外へ逃げていった。それと入れ替わるかのように、ナルティン騎士団が大挙して城門内へと流れ込んだ。


 ナルティンを逃がすか!


 俺は全速力で騎士たちをなぎ倒す。打って、打って、打って、打って、打って、打って、打って


 いつ果てるとも知れぬ騎士たちの群れに、俺は一心不乱に剣をふるい続けた。





 結局ナルティンには逃げられてしまったが、ナルティン騎士団もやがて退却していった。


 両軍の騎士たちが多数地に伏す中、俺とマールはポアソンさんとまだ健在な騎士たちを引き連れて、態勢の立て直しを図る。


「マール、ポアソンさんの様子はどうだ?」


「まだ、生きてる。でもキュアをかけても意識が戻らないの。どうしよう・・・」


「かなりひどい状態だな。ひとまず、ポアソン邸まで戻って、ベッドで安静にさせておくしかないな。壊された城門は・・・気休めだが、俺のウォールでふさいでおくよ。街の防衛は一旦あきらめて、ポアソン邸の周辺に限定しよう」


「うん・・・わかった」






 シャルタガール侯爵の助力を得るために、侯爵の居城にジャンプしたナルティン子爵は、城のエントランスで全身のやけどを治癒師に治療させながら、侯爵のもとへ通されるのを待っていた。


 メルクリウス男爵から受けた火傷が全身をズキズキ痛めつける。その度に彼が自分よりも魔力が上だったという事実と、その忌々しい顔を思い浮かべ、周りの騎士たちを怒りのはけ口にする。


 だが、ようやくエントランスに戻ってきた侯爵の執事が告げた言葉に、ナルティンは自分の耳を疑った。


「侯爵が私には会わないと、そう言ったのか」


 予想外の執事の回答に、ナルティンは動揺を隠せない。


「どうして私にあって下さらないんだ。今までそんなこと一度もなかったじゃないか。この私は、侯爵家に代々忠誠を果たしてきたナルティン家の当主だぞ」


「だが侯爵は、ナルティン子爵は通してはならぬと、言明されました」


「緊急事態なのだ。メルクリウス男爵がナルティン家に理由なく宣戦布告したのだ。侯爵家の支配エリアを土足で踏みにじっているのだぞ。不敬にあたるのだ。早く反逆者の烙印を!」




 しつこいナルティン子爵にうんざりした執事は、ため息交じりに告げた。


「・・・本当はあなたにこんな事を教える必要はないのですが、このままここに居座られても迷惑ですので申し上げることにします」


「なんだと貴様、執事のくせに口の利き方を知らん奴だな」


「・・・侯爵は、メルクリウス男爵と事前にお会いになっており、あなたの討伐許可をすでに与えております。だから侯爵はあなたへの助力はなさらないでしょう」


「私の討伐・・・まさかそんな」


「メルクリウス男爵がピエール様を城にお連れになって、侯爵に真相をすべてお伝えしております」


「ピエールだと! どうして私より先にメルクリウス男爵がピエールを見つけたんだ・・・くそっ、ようやくわかったわ。ガレー船を襲ったのは他でもない、メルクリウス男爵だったんだ」


「わかったら、さっさとお引き取りください」



 シャルタガール城を後にしながら、ナルティンは部下に指示を下した。


「メルクリウス男爵はピエールから情報を全て吐かせているとみて間違いない。私を倒すため相当の戦力を用意しているはず。我々の戦力が不足しているとは思わないが、敵の状況がわからない中ひとまず城に立て籠る。そして・・・そうだな、今回の奴隷売買の話を持ち掛けてきた王国の上層部への救援要請を行おう。その救援が来るまでおそらく10日・・・遅くても20日待てば、メルクリウス軍を挟撃することができるはず。それまではとにかく時間を稼ぎ、粘るのだ」






 ポアソン邸に戻った俺とマールは、ポアソンさんを安静にさせたあと、まだ息のある騎士たちを救助しつつ、ポアソン騎士団と共に屋敷の防衛にあたっていた。だが、ナルティン騎士団が再び襲撃してくる様子もなく、ただ時間だけが過ぎていった。


 やがて日が沈み、ポアソン港には8隻の船が到着した。メルクリウス艦隊、フェルーム艦隊にポアソン艦艇の到着である。


 艦隊の寄港後、騎士団の上陸が速やかに完了し、ポアソン領城門の北に兵を展開。ナルティン子爵領への進軍体制を整えていく。その間、メルクリウス騎士団の幹部たちがポアソン邸に集結する。


「アゾート、遅くなってごめん!」


「セレーネ、みんなも来てくれたんだな。ポアソンさんはまだ意識不明だが、間一髪のところで助けることができた。これもセレーネの軍用魔術具のおかげだよ。本当に助かった」


「それはよかったけど、街はひどい状況ね。街の半分ぐらいは火事で焼失しちゃってるわよ」


「ナルティンが焼き討ちにしたんだよ。ポアソンさんが領民を避難させていたから人的被害はないけど、建物は大変な損害だな」


 そこでフリュが部屋に入ってきて、騎士団の状況を報告する。


「アゾート様、騎士団の進軍準備が整いました。いつでも出撃可能ですが、サー少佐の部隊が到着するまでに1日のタイムラグがあります。どういたしますか」


「構わないから進軍しよう。ガルドルージュの調査では、敵の総数は3000。子爵家にしては多すぎる兵力だ。これが集結するまでに各個撃破しておきたい。あるいは子爵が籠城戦を望むなら、大砲でプレッシャーを与えておくこともできると思う」


「承知いたしました」


「おいアゾート。ワシもナルティン討伐に参加させろよ」


 さっきからセレーネの近くでうずうずしていたダリウスが話に入ってきた。


「やっぱりダリウスも来るのか?」


「当たり前だろ。サルファーもここに来てるのに、ワシだけのけ者にすることはないだろ。いつも3人で一緒に戦ってきた仲間じゃないか」


「いや、サルファーがここにいるのは罰ゲームなんだよ。聞いてくれよこいつ、フィッシャー騎士団との最強決定戦で学園長のくせに自ら志願して出場したわりには、フリュとセレーネの邪魔ばかりして全然戦わなかったんだよ。腹が立ったから、ナルティンとの戦いの最前線に放り込んでやろうと思って、セレーネに無理やり連れて来てもらったんだ」


「なんだそういうことか。だからコイツ、猿ぐつわをはめて、ロープでぐるぐる巻きの簀巻きみたいになって床に転がされているんだな。おい、なんかコイツ暴れてモゴモゴ言ってるぞ、ちょっとキモイな。まあサルファーのことなんかどうでもいい、ワシにも何か手伝わせろ」


「うーん。だったら海上封鎖をお願いしていいかな。ソルレート領の港湾都市バーレートに帝国の輸送船が現れたら、この前みたいに全部沈めてほしいんだけど」


「いいけど、なんでバーレートなんだよ。ナルティンと関係ないじゃないか。まさか俺をのけ者にする気じゃ」


「いや、ナルティンこそついでに始末するだけで、本当の目的はソルレート領の奪取だから」


「なんだと! そんな話聞いてないぞ」


「言うとダリウスがうるさいからだよ。文句があるなら、別に帰ってもらってもいいんだけど。別にダリウスの助けなんか借りなくても、俺たちだけで勝手にやるから」


「い、いやわかった、文句はない。というかワシたちも戦いたいんだ。戦わせてくれよ。バーレートの封鎖はやってやるけど、お前のとこの3番艦を貸してくれないか。その代わりにワシが騎士団を引き連れてナルティンに進軍してやる」


「えーっ、嫌だよ。ダリウスはうるさいから来なくていいよ」


「サルファーの面倒を見てやる。前線で働かせればいいんだろ。それから、船に積んでる大砲を少し貸してやる」


「大砲は魅力的だな・・・しかたない、ダリウスもついて来ていいよ。その代わりサルファーを思い切りこき使ってやってくれよ」


「そうこなくちゃな。サルファーのことはボロンブラーク伯爵からもしっかり面倒を見るように頼まれてるから、まあ任せてくれや。よっしゃ、がんばろうぜアゾートちゃん」



 ・・・無駄にやる気のダリウスだが、この戦いのきっかけが伯爵になってセレーネと結婚することだったって、ダリウスが知ったらどんな反応するかな。今から気が重いよ。





 その後夜間休まず進軍したメルクリウス騎士団とフェルーム騎士団の混成部隊1000騎、それにポアソン騎士団50騎は、次の日の朝には城下町ナルティンの城門の前に布陣していた。城下町ナルティンはポアソン領からほど近く、トリステン領や領都シャルタガールを結ぶ結節点でもあり、ポアソン港から運ばれる物資の集積地にもなっている、いわゆる商都である。


 さて今回は、城塞都市ヴェニアルを攻略した時とは異なり、大砲の数は少ない。進軍スピードに影響するため最低限に絞ったからだが、ナルティン城攻略を考えればフェルームの大砲は正直ありがたかった。


 それでもまだ数は少ないので時間はかかるだろうが、巨大な城門めがけて大砲の一斉射撃を始めた。その間に兵たちは休ませておく。



 今日は母上やエリーネといったいつもの砲兵隊のメンバーおらず、正隊員はセレーネしかいないけど、代わりに俺やネオン、リーズにアルゴと撃ち手の数だけは揃っている。


 さらに、帝国艦隊を主砲で迎撃する競争をしていたらしい父上やダリウス、カイレンおじさんその他の分家筋のオッサンたちが、無駄に大砲の扱いが得意になっていた。


 今までは「そんなチマチマした調整、大の男ができるか」と、バカにしていた男たちだったが、今はナルティン城に向けてチマチマと射角の調整を行っている。


 変われば変わるもんだ。


 打ち手が多すぎて一人一台大砲が割り当てられたため、砲身の自然冷却を待ちながら、鼻くそをほじくりつつ、のんびりと砲弾を発射するオッサンたち。


 攻城戦が楽勝過ぎて、この調子でいけばサー少佐の到着前に決着がつくかもしれないな。





 しばらく砲撃を続けていると、あっさりと城門が破壊された。


 だが、中に待機していた騎士団が次々と出撃し、メルクリウス騎士団に襲い掛かってきた。事前の報告によると推定3000騎。俺たちの3倍だ。俺たちは敵騎馬隊を迎え撃つために重歩兵を前面に展開させて守りを固めた。そして俺たちが遠隔魔法で敵をせん滅していく。


 この前の帝国軍との戦いと異なりちゃんと魔法が通じる分、俺にとっては楽な展開だ。敵は機動力に勝る騎馬兵なのでフリュもゴーレムは使わずに、例のイオンバーストで範囲攻撃主体に切り替えている。


 やはり肉弾戦よりもこういう魔法の打合いの方が俺には向いてるな。


 くらえ俺渾身のエクスプロージョンを!





 ポアソン騎士団長のパウエルは、騎士団50騎を率いてナルティン騎士団に攻撃をかけていた。基本的には剣での攻撃だが、味方の魔法攻撃範囲に敵騎兵を追い込むのが効率的である。空に浮かぶ魔法陣から逃れようとする敵騎兵を邪魔して、魔方陣の下に追い込むのだ。


 だが、これだけ強力な魔導騎士たちとの大規模な連携プレイは、経験の乏しいパウエルとポアソン騎士団には不馴れなことが多く、すぐに空ばかり目で追ってしまうのだ。


 だからこの時、敵の攻撃が自分を狙っていることに、パウエルたちが気がつくのが遅れた。


 大量の矢がポアソン騎士団めがけて発射されたのに気がついて慌てて騎馬を転進した時、今度は逃げ道の上空にエクスプロージョンの巨大な魔方陣が形成されつつあった。


「まずい!」


 矢を避けようと転進してしまった騎馬は急に進路を変えられず、エクスプロージョンの直撃を受ける覚悟をしたその時、



 【無属性魔法・魔法防御シールド】



 マールがとっさにパウエルの隣に馬を並べて、持てる全力のバリアーで、ポアソン騎士団全体を包み込んだ。


 そしてマールのバリアーがエクスプロージョンを弾き飛ばしたため、騎士団はダメージを受けることなく、危機を脱することができたのだ。


「パウエルお兄様、大丈夫?」


「マールか・・・助かった。お前がいなかったら、味方のエクスプロージョンで我々は大打撃を受けるところだった。しかしお前、あれだけ強力な大魔法をよく完全防御できたな。信じられないよ」


「お兄様。あれはアルゴのエクスプロージョンだから、いくら私でもちゃんと防げるよ。もしリーズの魔法だったら危なかったと思うけど」


「・・・あの魔法を放った魔導騎士と知り合いなのか?」


「うん! アゾートの弟よ。アルゴはまだ13歳だけどまじめで、かわいい婚約者だっているのよ。それからリーズは私の一年後輩で、いつも一緒に遊んでるんだ。ものすごく強いのよ」


「そうか、マールはみんなに仲良くしてもらってるんだな。・・・それからフレイヤーって言ったか、マールはあれに乗って空も飛べるんだよな。お前が来てくれて、父上の命が助かった。改めて礼がいいたい」


「どうしたの? いつものお兄様らしくないね」


「逆だよ。今のマールを見ていると、俺たちの手の届かない別の世界に行ってしまったことを実感したんだ。お前は、メルクリウス一族と同様に、特別な力を持った存在なんだなって」


「何それ。私なんか全然特別じゃないよ。アゾートの周りにはもっとすごい人がいるんだから。フリュオリーネさんなんか学園最強騎士にも選ばれたし、セレーネさんやネオン、それにクロリーネとお稲荷姉妹の3人組なんかも、すっごく強いのよ。私なんてまだまだ修行がたりないよ」


「俺から見ればマールも十分同類だよ。今までは、マールを特別扱いする父上に何かと反発していたが、帝国艦隊を全滅させたメルクリウス一族の戦いや、この戦場での今のマールを見て、最早そんな気も起こらなくなった」


「お兄様・・・」


「父上からの伝言だ。ポアソン家はもうなくなり、お前も次期当主ではなくなる。マールとあのボンクラ息子との婚約も解消だ。これからは家門のことを気にせず自由に生きてほしい。もちろん好きな男がいれば勝手に結婚してもかまわない。その魔力があればどこの貴族家でも喜んで迎え入れてくれるだろう」


「それって・・・」


「母上から話は聞いている。・・・お前、メルクリウス男爵のことが好きなんだろ」


「えーっ! お母様話しちゃったんだ。ひどっ・・・でもアゾートには、フリュオリーネさんとかセレーネさんがいるし」


「俺はそういう恋愛の話は苦手なので何もアドバイスできないが、お前はもう自由なんだ。お前が選んだ人生は、微力ながら応援するつもりだ」


「・・・ありがとうお兄様」



 そしてパウエルは一つ呼吸をついて、マールに謝罪した。


「マール、今更で申し訳ないが、俺たち兄姉がこれまでお前に冷たくしていたことを謝罪させてほしい」


「・・・お兄様」




「マール、今まですまなかったな」

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