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第117話 敵補給基地を叩け

進軍マップを追加しました(2022.9.23)

 帝国アージェント方面軍司令官ヘルツ中将は、参謀長のカフス中佐から戦況の報告を受けていた。


「例の学生の集団はこの司令部めがけて突撃をかけてきました。魔将クラスの魔導騎士が固まって行動しているため通常の兵士では歯が立たず、前線の守りは次々に突破されています」


「集団行動などという似合わないこと始めたから何をするのか警戒したが、やはりこの司令部が目標か」


「司令部の防衛体制は万全です。防衛戦に特化した重鎧部隊が多数控えており、魔将クラスが何人いても簡単に突破されることはありません。また大型ボウガンの飽和攻撃でやつらのバリアーをある程度破壊できます」


「だが念のため、対魔法戦用の魔術具も用意しておけ。ご自慢の絶対のバリアーとやらも弱体化させてやるのだ」


「すでに他の基地から、必要分をこちらに運びこんでいます」


「それならいい。それから別の騎士学園から来たという未確認の魔導騎士について、情報は収集できたか」


「特徴的な者を何人かは。まず一番の脅威となるのが常に先頭を行くゴーレム使いの女子生徒です。彼女の魔力は魔将軍ドルムを超えており、彼女がこの集団のリーダーだと思われます。他にもゴーレム少女ほど魔力は高くありませんが、やたら高速で動く2人組の男子生徒の剣士が脅威です。パワーこそドルムやホルスには及びませんが、動きが速すぎて我が軍では全く追いつけません。今後、この2人がこの戦場に常駐するようなら、専用の対策チームを用意する必要があります」


「スピード特化型か。これまでにもたまに出没していたが、あれとは違うのか」


「早さが2倍以上違います。それに一般のスピード特化型に比べてパワーが桁違いに強い。別格です。他にもスピードが異常に早い魔導騎士も何体か確認できています」


「突然変異かそれとも先祖返りか。いずれにせよ新種と考えてよさそうだな。それでコイツらはやはりアージェント騎士学園か」


「本国に確認したところ、制服のデザインからボロンブラーク騎士学園ではないかとのことでした」


「ボロンブラーク・・・アージェント王国最奥の地。そんな遠方の学生がなぜわざわざこの戦場に大挙して押し寄せたのか。王国内部で一体何が起きてる・・・。他に何か気づいたことはないか」


「実はやつらが不可解な武器を使用しているのです。負傷した兵士の治療に当たった救護班から、兵士の体内に金属製の弾が入り込んでいたとの報告があり、早速調査したところ、この武器は金属の弾を高速で射出して目標にぶつけるもので、ボウガンの矢よりもはるかに高速で射程距離が長く、殺傷力も高いのです」


「なんだそれは・・・やつらそんなものまで持っているのか」


「我々も保有していない新兵器の可能性があります」


「・・・頭にカビの生えた時代遅れの魔導騎士が、我々よりも高度な武器を持っているなどと、そんなバカな」


「あるいはそういう魔法なのかもしれませんが、魔法防御シールドでは防げませんでした」


「なんとかその武器を捕獲して、本国へ送れないか」


「それにはまず、あの魔導騎士の集団を倒さなければなりません」






 昼過ぎになり、当初の作戦通り俺たちは別動隊として補給基地に向かった。フリュはゴーレム軍団を自動モードにしてホルス達の側に残し、俺たちはこっそりと馬で駆けだしたのだ。


 敵兵に見つからないように、森の中を通ったり川の浅瀬を進んだり馬には過酷な状況が続いたが、マールが馬にキュアをかけ続け、驚異的なスピードで目標地点へと駆け抜けていった。


 そうして補給基地には夕方の少し前には到着することができた。




 基地の前には当然、守備隊が控えている。ここをどうやって突破するかだが、このエリアにもご丁寧にジャミングがかかっている。


 サリー・アルバハイム嬢の固有魔法のような完璧なジャミングではなく、帝国のものは多少は魔法が発動する。だが、発動までの閾値が高すぎて、俺の魔力では攻撃力があまり期待できないのだ。


 だから俺とネオンが電光石火で突撃するか、セレーネのエクスプロージョンで力任せに吹き飛ばすか、どちらかで迷っていると、フリュが、


「アゾート様、わたくしにお任せください。複合魔法・イオンバーストを使用いたします」


「イオンバースト! その手があったか」



 複合魔法・イオンバースト。


 この魔法は、王都の魔法協会で俺がマールと二人で表彰を受けた際、なぜか結婚式っぽくなってしまった時に生まれたものだ。


 俺がつけてあげた指輪に喜ぶマールを、羨ましそうに見つめるフリュを見て、俺はこれまでフリュに何一つプレゼントをしていなかった事実に気づき、あわてて完成させたフリュ専用の魔法の指輪。


 本当はプロメテウス城の塔の上から、街の夜景を背景にかっこよくフリュにプレゼントする予定だったのに、サルファーのせいでクラスメート全員が見てる中、教室でフリュにプレゼントするという辱めを受けた、いわくつきの魔法である。


 そんな魔法、イオンバーストがついに発動する。




「この魔法であれば、発動するだけでナトリウム爆発による破壊力が持続的に発生します。アゾート様が広範囲に作用できるように作っていただいたおかげで、あの守備隊を全て魔法の範囲に収めることが可能です」


「フリュ、俺の代わりに説明ありがとう。確かにそれがベストな方法だよ。さすがフリュ頭いいな」


「いいえ、そんな・・・それではいきます」




 フリュがジャミングの閾値を超える魔力を指輪にみなぎらせ、長い詠唱を行う。


 土魔法・ウォール、水魔法・ウォーターの魔法発動範囲をできる限り広範囲に広げる。そこに遅延して発動される雷魔法・サンダーストーム。アルカリイオンの沼地に向けて走る電撃ショックとそのスパークで発火する水素爆発。魔法さえ発動すれば、魔力の強さに関係なく化学的連鎖反応で辺りを破壊しつくすだけである。


 そしてフリュの魔法が完成した。



 【水・土・雷属性複合魔法・イオンバースト】



 フリュの強大な魔力がジャミング波と打ち消しあい、みるみる失われていく。しかし先に消滅したのはジャミング波の方。残ったフリュの魔力により発動した魔法はまず、守備隊全体をカバーするように地面に魔法陣が現れて、地面に銀色の金属を出現させる。次のその金属全体を濡らす水が出現し、ナトリウム爆発がスタート。上空にはサンダーストームの魔法陣から複数のスパークが地面に向かって放出し、守備隊は瞬時に地獄へと放りこまれた。


 俺たちはそんな守備隊に同情しつつもその脇を通り抜けて、補給基地の敷地内へと突き進む。


「これが補給基地か。広いな」


 補給基地には、広大なエリアにたくさんの倉庫が立ち並び、輸送用の馬車も数多く配備されている。ここを効率よく破壊するために、俺たち4人のエクスプロージョンで焼き払う。


 援軍を呼ばれるよりも先に、速やかに攻撃しなければならない。


 俺たち4人は同時に完全詠唱のエクスプロージョンを発射した。



【【【【完全詠唱・エクスプロージョン】】】】



 4つの魔法陣から白い光点が4つ、補給基地に向かって落ちていく。


 だが、補給基地の周りには常設の魔法防御シールドが作動しており、白い光点が急速に輝きを失って行く。バリアーを突き抜けることができるかどうか、俺たちは祈るような気持ちで見ていた。


 白い光点のうち、最初にリーズのものが消滅し、次いで俺とネオンのものも消滅。最後にのこったセレーネの光点もやがて消えた。


「そんなバカな・・・。俺たちのエクスプロージョンが全く通じない」


 俺が呆然と補給基地を見ていると、セレーネたちが俺のもとに駆け寄ってきた。


「帝国のバリアーが強力すぎて、私のエクスプロージョンでも無理だったわ」


 セレーネが困惑した表情で俺に告げる。


「ここまで強力だったとは想定外だな。仮にこの補給基地の破壊に失敗した場合、俺たちの作戦に与える影響はどれくらいあると思う?」


 俺はフリュに問いかけた。


「そうですね。ソルレート領周辺に騎士団を包囲させるので、ある程度の物資の流入は防げるとしても、当然完ぺきではないため兵糧攻めに時間がかかってしまいます。今回の作戦はその時間を買うのが目的でしたから」


「この作戦の代替手段はあるかな」


「輸送部隊を徹底的に叩くしかないと思います。陸路はナルティン子爵を打ち取ることである程度防げますが、ナルティン以外の他の地下組織も叩いていく必要があります。また、海路を封鎖するためには軍艦の増援も必要になります。現状帝国海軍の戦力が不明ですので、海路の封鎖は計算に入れない方がいいと思います」


「だよな。やはりここを叩くのと叩かないのでは、時間もコストも大きく違うか」


 バリアーを破壊するためにはバリアーブレイクを使うのがベストだろう。だがこれだけのバリアーを俺に破壊する方法がない。カインでも連れてきて護国の絶対防衛圏でバリアーブレイクすればあるいは破壊可能かも知れないか、今さら言っても仕方がない。


 するとネオンも同じことを考えていたようで、


「バリアーブレイクを使う方法は、今の私たちには無理だと思う。もう一度原点に立ち返ると、やはりフォスファー戦の時のやり方が私たちには向いてると思う」


「どうやってやるんだ?」


「私たち4人のエクスプロージョンを縦に並べて放つ」


「そうか。4つの光点を同一箇所に並べれば、一つの大きな魔力とみなされてバリアーを打ち消せるはずか。早速やってみよう」


 ところがリーズが俺に文句を言う。


「お兄様、さっきのエクスプロージョンは予選トーナメント決勝のバレンに放ったものよりも小さかったではありませんか。ちゃんと本気を出してください」


「やっぱり気がついたか。あの時は俺史上最高のエクスプロージョンだったが、なぜか今回はちょっと調子がでなかったんだよ」


 俺は頭をかいて誤魔化した。しかし、


「調子がどうのではありません。お兄様の目が赤くなっていないからです」


「俺の目が赤く? 何のことだ」


「パーラ様の目が黒くなるのと同じように、お兄様は目が赤くなると魔力が一気に増大するのです。気が付いてなかったのですか」


「そんなこと、自分で気が付くわけがないだろ。て言うか俺って目が赤くなってるの? パーラみたいに? まじか。ネオンをヤンデレ化させようと思ってたら、俺がヤンデレ化してしまっていたのか」


「なによアゾート。私をヤンデレ化させるってどういうこと?」


「いや、こっちの話だから気にしないでくれ。でもどうやったら俺の目が赤くなるんだ、リーズ」


「そんなこと私にはわかりませんが、あの時の戦いを思い出せば、目が赤くなるかもしれませんよ」


「わかった。みんなも目が赤くなることを意識して、4人でエクスプロージョンを同時に撃とう」





 俺たちは再び長い詠唱を始めた。俺たちを見つけて攻撃してくる守備兵は、フリュとマールで撃退してくれている。そして、4人全員が魔力を完成させ、タイミングを合わせて発動させた。



  【完全詠唱・エクスプロージョン】

  【完全詠唱・エクスプロージョン】

  【完全詠唱・エクスプロージョン】

  【完全詠唱・エクスプロージョン】



 上空には巨大な魔法陣が4つ縦に並んで浮かび上がった。そこから白い光点が4つ並んで降下していく。最初の一つ目の光点がバリアに突入し急速に光を失っていくが、後ろの3つの光点は健在だ。


 まるでスリップストリームに入ったかのように進み、最初の光点が消えると2つ目の光点がその役割を受け継ぐ。


 そして3つ目の光点もやがてその役割を終えところで、最後の光点がバリアー内部に突入した。


 やった、成功だ!




 補給基地の上空で爆裂の花を開いた白い光点は、倉庫を紅蓮の炎で焼きはらい、破壊の限りを尽くした。


 だが補給基地は広い。まだ健在な倉庫や輸送部隊を破壊しきれていないため、俺たちはマジックポーションを飲みながら急いで別の場所に移動し、同じようにエクスプロージョンを撃ちこむ。


 俺は目が赤くなるように、目に力を込めて頑張ったが、結局前みたいな渾身の光点はついに作れなかった。


 よく考えると俺以外の3人はみんなもともと目が赤いし、俺は無理にいきみすぎたため、白目の部分が赤く充血しただけだった。


 リーズのせいで、無駄な努力をしてしまった。






 帝国アージェント方面軍司令官ヘルツ中将は、参謀長のカフス中佐からの報告に愕然としていた。


「補給基地が全滅だと・・・」


「・・・はい。司令部への総攻撃が陽動で、真の目的は我々の補給基地への打撃でした。まさか、前時代的な騎士物語の連中が、連携して兵站を破壊する作戦をとるなんて、完全に油断していました」


「・・・あいつらが統制のとれたまともな軍事行動をとり始めたのは脅威だが、補給基地はどうやって破壊したんだ。バリアーは完ぺきだったはずだ」


「守備隊が全滅しているため詳しくはわかりませんが、現場の状況からエクスプロージョンが使用されたようです」


「エクスプロージョンで補給基地がやられたのか・・・一体どれほどの魔力を使えばあのバリアーを突破できるというんだ。それこそ古の魔王でなければ到底考えられん」


「魔王ってあの物語のですか?」


「そうだ。アージェント王国建国物語に出てくる、あの化け物だよ。それぐらいあり得ないという比喩だ」


「比喩ですか、なるほど。その魔王の魔力量が実際どの程度なのかはもう測定ができませんが、補給基地を破壊できるほどのエクスプロージョンが存在するのであれば、現代においては最強の魔将が出現したということでしょう。本国には勇者部隊の育成を急ぐように進言した方がいいと思います」


「そうしてくれ。それと本国の特殊作戦部隊に言って、ボロンブラーク騎士学園に関する情報を出させろ」


「わかりましたが、彼らは我々とは独立した組織ですので、どこまで要請に応じてくれるか」


「なら、王国ソルレート領のボルグ中佐と連絡をとれ。形式的には私の部下だ。要請には応じるはずだ」



挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新種って、現代なら人権問題ですが、世界の歴史では敵国の人を去るだの野蛮人など呼称してた時代もあったようですからね。 [気になる点] 実際は守備隊が全滅してるので悲惨な事になってるんだろうな…
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