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第113話 アゾートの紅蓮の瞳

 大会3日目。昨日中断されたDブロック予選トーナメントが、全校生徒の観戦の中開催される。


 俺の組の対戦相手には、大方の予想通りバレン・フィッシャー、サリー・アルバハイム、フェイ・バートリーの2年生ドリームチームと呼ばれているこの3人組が勝ち上がってきた。かなりの強敵だ。




 俺は昨日からこのチームに勝つための方法をずっと考えている。


 これまで色々な試合を見てきて思ったのは、何よりも警戒すべきはやはり固有魔法だ。


 まずバレンの固有魔法「リフレクト」、そしてバレンとフェイのどちらも持ってるであろう「護国の絶対防衛圏」、そしてサリー・アルバハイム伯爵令嬢が保有しているであろう、何らかの固有魔法だ。


 フィッシャー家特有のパワーと技も脅威だ。剣術実技ではカインに全く歯が立たない俺。そのカインよりもパワーでさらに上回るというバレンとフェイの2人を相手にしなければいけない。このカイン級の剣士2人をどうやって倒すのか。


 魔力も全く侮れない。サリーは伯爵令嬢であり、その魔力は相当なものだろう。バレンも辺境伯家であり、フェイは一般には知られていないが200年前のバートリー辺境伯家の末裔。つまり3人ともが伯爵級の魔力保有者とみて間違いないだろう。


 そんな彼らが2人の剣士と1人の魔導士というバランスのいいチーム編成をしている。評判通りのドリームチームであり2年生最強クラスだろう。




 ・・・こんな奴らに俺たちが勝つ方法があるのだろうか。


 昨日一晩考えたが、ついに決定打になるような作戦は思い付かなかった。


 非常にまずい・・・。



 攻略のヒントはハシム組を倒したダン達なのだが、あれはヤンデレの戦闘力で勝ったようなものだから、俺たちの参考にはならない。


 取り敢えず今最善と思われる作戦をネオンとマールに伝えて配置についた。そして審判の合図により、予選トーナメント決勝戦の試合がいよいよ始まった。






 俺たちは開始早々、サリー・アルバハイムをめがけて走り出すが、当然相手に阻まれる。俺に対峙するのはやはりバレン・フィッシャーか。


「昨日は運良く反則勝ちを拾ったようだが、実際の戦いならお前は負けていた。折角フィッツと決着をつけようとしてたのに、お前のような空気の読めない輩が決勝に残るなよ、バカが」


 まるで俺なんか眼中にないといった様子で剛剣を振り下ろしてくる。


 ドゴッ!


 剣でまともに受けたため、身体が全体が押し込まれ思わず膝をついてしまった。・・・パワーはカインを超えている。なんてやつだ。


 ネオンのやつもフェイに苦戦しているようで、サリーに近づけずにいる。


 結果的にマール対サリーの構図になっているが、マールの様子がおかしい。マールは魔法を撃とうとせずに、ただ慌てている。どうしたんだ?






 私は、決勝リーグ出場者だけが座れる特等席でお兄様たちの試合を観戦している。そして、マール先輩が恋愛同盟に基づき、カイン様に試合の解説を私にしてくれるように頼んでくれたのだ。つまり今、カイン様は私の隣にいる。


 コホン。大事なことだから、もう一度言うね。


 私はカイン様の隣の特等席でお兄様の試合を観戦しています。てへっ。


「アゾートはやはり苦戦してるな。バレンは俺と同い年のフィッシャ一族の中では一番強かったんだよ。パワーも技もスピードも、俺やハシムよりも頭一つ上に出てた」


「うそ! カイン様よりも強い人なんかいるんですか?」


「フィッシャー家にはわりといるよ。俺はそこそこって感じだったけど、ホルスなんか桁外れに強いぞ」


「そういえば、過去に戻った時に一緒に戦ったバートリーの騎士たちはみんな異常に強かったし、なるほどです。でもそれじゃあ、お兄様は勝てないのではないですか?」


「そうだな。このまま何もしなければ、いずれ力尽きて負ける」


「それではなぜお兄様は、さっきから一切魔法を使わずに剣で打ち合っているのですか。魔法のないお兄様なんて、何の取り柄もないただのやさ男ですのに」


「使わないんじゃなく、使えないんだよ。向こうのメンバーにいるサリーって女の子、彼女はアルバハイム伯爵家の令嬢で、固有魔法「マジックジャミング」を発動しているんだ。おそらく試合会場全体をカバーする広範囲で、魔法が一切使えなくなっているはずだ。今あの場で使える魔法はバリアーだけだよ」


「アルバハイム伯爵家って、カレン様と同じ家門ね。彼女そんな固有魔法を持っていたのね」


「そうだな。あの魔法は、フィッシャー家の戦闘スタイルにすごくあっているんだ。だから昔から婚姻関係を結んだりして、懇意にしている家柄なんだよ」


「・・・その、カレン様とカイン様っていつも一緒にいらっしゃいますが、ど、ど、どのようなお関係なのかお聞きしてもよろしいでしょうか」


「ああ、カレンは俺の婚約者」


「ガーン!」


「にしようとやたらうるさい正妻のエメラダに配慮して、一緒にいる関係だよ」


「ガクッ! ・・・ということはまだ婚約者じゃないという理解でよろしいですか?」


「そうだな。まだ婚約者ではないよ」


「よっし!」


「なんで喜んでるんだ?」


「いえ何でもございませんのよ、オホホホ」






 俺の考えた作戦はことごとく効果がなかった。魔法はサリーに封じられ、打ち合いではバレンに全く歯が立たない。ネオンがフェイに苦戦してるのも俺と同じ。


 俺たちは強みをすべて封じられて肉弾戦を余儀なくされた。その状態で散々体力を消耗させられて上、今はバレンの張った護国の絶対防衛圏の前で何もできずに佇んでいる。


 バリアーの中ではバレンがニヤニヤ笑っており、サリーはバレンの後ろに隠れて姿さえ見せない。


 俺もネオンもボロボロだ。ここまでやられたのはおよそ記憶にないな。


 はっきりいって、強い・・・。


 サリーに魔法が封じられているため、俺たちが何をやってもバリアーがびくともしない。思い付くことは全て試してみたが、それでもなお打開の糸口すらみえない。


 完全に詰んだ。





 もうこうなったら、うちのメンバーをヤンデレ化させるしかない。たぶん、マールよりもネオンの方が素質があるよな。あいつ、俺に対する執着心が半端ないし。


 ・・・いかんいかん、現実逃避してそんなアホなことを考えてる場合じゃない。うちにヤンデレはいないんだから、無駄な事を考えても仕方がないじゃないか。





 ・・・いや待てよ。俺はとんでもない考え違いをしていた。


 発想が逆だよ。




 俺は「ヤンデレは強い」という一般常識に捕らわれ過ぎていて、思考停止していた。


 そうじゃないんだ。


 この世の中にはヤンデレが強い理由がちゃんとあるんだよ。今はパーラが強い理由。今回の場合はアネットでも同じだ。



 答えは、バリアー飛ばし。



 なぜバリアー飛ばしだと、大の大人を吹っ飛ばせるんだ。それは、バリアーという媒体を通して魔力を物理的な力に変換して、空間に強力な力場を発生させているからだろう。これを俺たちのパワー不足に利用する。


 もう一つ。なぜパーラは護国の絶対防衛圏を壊せたか。それはバリアーを細い筒状にして魔力密度を一点に集中させて、一点を集中的に破壊を行うことを可能にしたからだ。それで格下のバリアーでもその一点において魔力の強さは逆転する。


 バリアーは面で防御するもの。この常識を全く無視して、針のように細いバリアーを構築してしまったパーラの発想の勝利だよ。


 全て物理的に説明可能なものばかりだった。


 つまり今の俺の苦境を招いたのは、ヤンデレは強いという常識の前に、完全に思考停止していた俺のボンミスだ。




「ネオン! パーラのパイルバンカーを真似するぞ。それでバレンのバリアーを破壊する。魔力は先端に集中させろ。詠唱術式は魔法防御シールド。イメージは鋼鉄の鉄槌パイルバンカー。魔力密度最大、一点集中突破。それにエクスプロージョンで発射する大砲のイメージを追加」


「・・・そうか。何が言いたいのか理解したよ!」


 俺たちは同時に詠唱を始めた。



 【無属性魔法・パイルバンカー】



 俺とネオンは不可視の鉄槌を具現化させ、バレンが構築した護国の絶対防衛圏の一点に突きつけた。


 ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン


 俺たちはバリアーで作ったパイルバンカーを無心に打ち付け続ける。


 ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン


「おいお前、何をやっているんだ。そんな事をしても魔力の無駄だ。うるさいからやめろ!」


 ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン


「やめろって言ってるだろ、いい加減にしろ」


 ビシッ、パリーンッ!


 よし! 護国の絶対防衛圏が破れた。





「そ、そんなばかな、俺のバリアーが破られただと・・・」


 敵がひるんだ。ここは強キャラ感だっ!


「バレンよ、お前のバリアーなんかカインの足下にも及ばないな。まさにゴミ。なんて脆いバリアーなんだ、くくくくくく」


「貴様・・・言うにことかいて。フェイ、お前のバリアーを出せ!」


 強キャラ感が効いた。バレンは煽り耐性がないな。


 しかし次はフェイのバリアーか。やつはバートリ一族であり、本来の護国の絶対防衛圏の持ち主だ。おそらくバレンよりも強固なバリアーを保有しているのだろう。


 そのフェイがバリアーを発動するが、俺たちもすかさずカウンター攻撃だ!



  【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】

  【無属性魔法・パイルバンカー】



 ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン ガーン


 パリーン!



 やった。ギリギリだったが、フェイのバリアーも俺たちに撃破できた。これでやつらは丸裸だ!


「よし、ネオン。次は剣術の打撃戦でコイツらを圧倒するぞ!」


「打撃戦で? そんな方法があるの?」


「剣に細くバリアーをはって、ヒットと同時に剣の方向にバリアー飛ばしだ」


「細いバリアー! さっきのパイルバンカーの応用技だね。わかったやってみる」


「ネオンは察しがよくていいな」


「アゾートの考えてることは何でもわかるよ。だから他の女なんか放っといて私と一緒にいようよ」


「コホン、その話はまた今度な。ネオンはフェイを頼む、俺はバレンだ」


「わかった」


 俺たちは互いの相手に突撃していった。


「行くぞ、バレン! うおーーーーーっ!」


 俺は剣にバリアーをまとわせて、剣がバレンにヒットする瞬間に、剣を押し出すようにバリアーを飛ばした。


 ドゴーーンッ!


 バレンの剣を弾き飛ばし、俺の剣がバレンの右肩にめり込んだ。


「ぐわーーっ!」


 よし、魔力のパワーへの変換がうまくいった。これでかなりダメージがあたえられるな。


 俺はさらにバレンに剣を打ちこんでいく。


 超高速知覚解放で動ける限界速度で、剣にバリアーの魔力を込めて滅多打ちだ!


 打って、打って、打って、打って、打って、打って、打って、打って、打って、打って。


 そんな俺の連続攻撃により、バレンがついに体が崩れた。そしてずっとバレンに守られていたサリーが、ようやくバレンの背後から姿を表した。


 マジックジャミングの発生源だ。コイツさえ仕留められれば、魔法が撃てる。


 そしてこのサリーの位置、射線が通っている!



「よし今だ、マール撃て!」


 試合会場の遥か外側、ジャミングの範囲外である校舎の屋上に移動させていたマールに向かって、俺は叫んだ。



 パーン!



 マールの放った遠距離からのパルスレーザーのスナイプショットは、見事一撃でサリーの額を撃ち抜いた。


 マールの膨大な魔力によって発生したジャイアントパルスは、強烈なスタン波に変換されて脳天を直撃し、サリーの意識を一撃で葬り去った。


 そしてサリーが地面に倒れると、魔法発動を阻害し続けていたジャミング波がウソのように消えた。


「よし、ジャミングが消えた。ここからは俺たちのターンだ。ネオン、俺が合図するまで、こいつら二人を逃がすな。これから何をするかお前ならわかるよな?」


「もちろんだよ。特大のを頼むね」


「おうよ、任せとけ」






 私はお兄様の豹変ぶりに衝撃を受けていた。


 お兄様が相手のバリアーを突然破壊したかと思うと、急にパワーが増して、あのフィッシャー家の大男たちをいとも簡単に剣で圧倒してしまった。


 でも本当に驚いたのは、剣撃をふるっている時のお兄様の目が赤く輝きだしたこと。それと同時にお兄様から感じる魔力が一回り大きく膨れ上がった。


 あの赤い目、まるで紅蓮の炎みたい。


 隣のカイン様も、衝撃の表情でお兄様を見ている。




 ゾクッ


 突然、寒気がした。この気が遠くなるような魔力、お兄様からのものよね。


 私は恐る恐る上空を見た。


 そこには巨大な魔方陣が浮かび上がり、その中心では白い光点が禍々しいほどに輝きはじめた。


「あれは完全詠唱のエクスプロージョン! しかも異常に膨れ上がった今のお兄様の魔力で!」


 周りが慌ただしく動き出したのでそちらを振り替えると、セレン姉様とフリュ様がみんなに逃げるように伝えていた。


 確かにこれはヤバイわ。私も逃げるとするか。


「カイン様、ここだとスタン波の巻き添えを受けますので、早く離れましょう」






 お互いにボロくずのようになった4人だったが、まだ倒れることなく対峙している。


 私とアゾートの猛攻で一度は膝をついたフェイとバレンが、再び地面から立ち上がったのだ。そしてバレンが私に向かって叫ぶ。


「お前たち、それで勝った気になったんじゃないだろうな。サリーがいなくてもお前たちの魔法など俺たちには効かない」


「じゃあ試してみれば。ずっとあなたたちの有利な状況で剣術のみで戦ってあげたんだから、次は僕たちボロンブラーク校らしい魔法勝負をしようよ」


「知るか。俺たちは力でお前らをねじ伏せる。もはや小細工は不要だ」


「小細工不要、結構じゃないか! どうせなら僕たちの魔法攻撃を一度受けてみて、真の最強を示してみたらどうだ!」


「ああいいだろう。撃つなら、全力で撃ってこい! そんなエクスプロージョン、防ぎきってやる!」


「自分が言ったことを忘れるなよ! アゾート、全身全霊を込めた特大のエクスプロージョンを撃て!」


 そして私はそっと、アゾートに目くばせをした。






 くくく、ネオンがうまく煽ってくれたおかげで、このくそ長い呪文を最後まで詠唱することができそうだ。


 さて、あいつらの最強バリアーに俺の最強魔法が通じるのか。最強決定戦の決勝にふさわしい、最高のシチュエーションじゃないか!



【地の底より召還されし炎龍よ。暗黒の闇を照らし出す熱き溶岩流を母に持ち、1万年の時を経て育まれしその煉獄の業火をもって、この世の全てを焼き尽くせ。 天空の覇者太陽神よ。無限の炎と輝きを生み出せしその根元を、我が眼前に生じせしめ全ての力を解放し、この大地に永遠の滅びをもたらさん。 降臨せよ、降臨せよ。死を司る冥界王よこの地上へと降臨し、天上神の創りし幾年生きる全ての衆生、大洋山河の万物を悉く爆砕し、凡そ全てを無に帰さん! 火属性上級魔法・エクスプロージョン】



 俺史上最高の白い光点が落下してきた。


 なんか完璧すぎて怖いほどの輝きだな。我ながら禍々しすぎる・・・こ、これはやばいぞ。


「ネオン! この場からすぐに逃げるぞ」


 俺はネオンを連れて爆心地からできるだけ遠ざかった。爆心地を見ると、バレンたちが魔力を振り絞って、全力防御する構えだ。


 そして膨大なスタン波が辺りを包んだ。






 試合は終わった。


 もちろん、俺たちアゾート組の優勝だ。これで決勝リーグに駒を進めることができた。


 バレンたちは・・・護国の絶対防衛圏ではあのエクスプロージョンは到底防ぎきれず、爆心地でもろにスタン波を受けた。


 医師の診断では当分意識の回復は見込めないとのことだがまぁ、これから夏休みだししばらく寝てればいいということで問題ないだろう。


 俺たちアゾート組は、激戦区Dブロックの覇者として大歓声をもって迎えられた。フィッシャー校の優勝候補を2チームとも撃破しての決勝リーグ出場だ。これでホルスも含めて、誰も文句は言うまい。

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[良い点] 優勝おめでとうございます。 [気になる点] 1、大会全体通して、フィッシャーの生徒たちアゾートが騎士爵の分家から成り上がって春には表彰されたという事実がまるでなかったかのような感じですね。…
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