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第109話 予選Fブロック、フィッシャー校の実力

 大会2日目は予選トーナメントだ。


 昨日の予選バトルロワイアルで勝ち残った36組が今日の予選トーナメントを戦い、この中から各学年で3組、総勢9組が決勝リーグへの進出を果たすことになる。


 今日の試合の順番は、公平を期すために前日のバトルロワイヤルとは逆になっている。2年生だとFブロックから試合が始まる。


 さてこのFブロックにはダン組とダーシュ組の2チームが出場している。決勝リーグに進めるのは少なくともどちらか一組。ダンとダーシュが今日の決勝であたるかもしれない。


 だが相手チームはフィッシャー校の精鋭であり、どちらも敗退する可能性だって十分にある。


 俺は試合場に向かうダンに声をかけた。


「ダン、絶対に油断するなよ」


「おう、任せとけ」





 初戦はダン組からだ。


 広い庭園を使った3対3の戦いは、審判の試合開始の合図とともに、アネットのバリアー押し戦法からスタートした。


 あのアネットの強固な物理バリアーを展開されれば、物理攻撃主体のフィッシャー校はかなり不利だろう。普通の模擬剣ではまずダメージが通らないからだ。



 という俺の予想は間もなく簡単に覆った。


 一人の生徒が剣に魔力を込めて、アネットのバリアーを全力で叩き割ってしまったのだ。



 パリーン!



 俺はアネットのバリアーが突破されるのを初めて見た。あれは魔導士の一般的なバリアーとは異なる、専用の無属性魔法なのに、なんなんだ今の技は。


 そして、剣を構えた3人がアネットに襲いかかる。だが今度はパーラが展開していたバリアーに遮られることとなった。


 ダン組には、アネットとパーラの2枚、バリアーが存在するのだ。


 相手もさすがにこの2重のバリアーの展開は想定していなかったのか、パーラのバリアーを目の前にして完全に攻めあぐねていた。先程の生徒が次のバリアー破りの技に手こずっているのだ。


 そしてどうにかパーラのバリアーを破った相手方だが、今度は再びアネットのバリアーに阻まれる。


 二重バリアーの存在に、相手方のバリアー破壊が追い付かない。やがて魔力の尽きたフィッシャー校チームに、アネット&パーラのバリアー飛ばしが炸裂。3人がすごい勢いで後方に飛ばされた。


 後は一方的な展開になり、ダンたちは予選トーナメント決勝まで駒を進めた。





 俺は今の試合について、ネオンの評価も聞いてみた。


「さっきのバリアー破りの技、なんだったと思う?」


「あれは、原理としては私たちがフォスファーと戦ったときに使った技に近いと思う。相手より強い魔力でバリアーを浸食するやり方ね」


「やっぱりそう思うか。だがあれは基本的に、相手よりも大きな魔力を使ってバリアーを破壊するものだから、あの時は俺たち2人の魔力を完全同調させて、一つの大きな魔力に見せかけたんだ」


「そうだね。でもあの生徒は単独でアネットより強い魔力を持っているようには見えない。でもバリアーの破壊力は、私たちよりも強かった。だからバリアー破りに特化した魔法じゃないかな。たぶんバリアーブレイク」


「やっぱりあれがバリアーブレイクか・・・。俺たちの周りでは使う人がいないから初めて見たよ。警戒しとこう」





 2戦目はダーシュ、アレン、ユーリのチームだ。完全に魔法オンリーの編成だが、この組には2人の伯爵令息がいて、魔力量では俺たちの組を僅かに上回る、2年生魔力最強チームだ。


 だが特筆すべきは二つの固有魔法の存在だ。


 伯爵家以上の上級貴族家には、代々伝わる秘伝の固有魔法がある。サルファーの「インプロージョン」、フリュの「絶対零度の監獄」、カインの「護国の絶対防衛圏」などがそれだ。


 これは一般に普及している魔法とは一線を画する能力があり、使い方によっては上級魔法を遥かに超える破壊力を発揮しうるのだ。このチームにはその固有魔法が二つもある。


 正直、ダーシュ組とは俺が戦いたかった。




 さてそんなダーシュ組の相手だが、こちらもフィッシャー校の有力者であり、彼らの登場で向こうの応援のボルテージが一気に跳ね上がった。


 メンバー表にはフィッシャー辺境伯家の分家の名前が入っている。他にも上位貴族が2人も入っているため、魔法攻撃も警戒しておく必要がある。


 そして審判の合図とともに試合が開始された。




 序盤はお互いに様子を見る静かな滑り出しだ。バリアーを展開しつつ、時間をかけて上級魔法を練り上げていくオーソドックスな展開。


 そして、先に動いたのはアレンだった。



  【火属性上級魔法・エクスプロージョン】



 アレンの放ったエクスプロージョンの白い光点が相手チーム頭上に落下して、相手バリアーを浸食していく。


 白い光点がバリアーを突破したとたん発生するスタン波が、相手チームを容赦なく襲うが、彼らの意識を刈り取るまでにはまだまだ足りなかった。


「エクスプロージョンって、アゾートたちの一族以外にも使う人がいるんだね」


「そうだよマール。あれは固有魔法ではなく一般に公開されているものだから、十分な魔力さえあれば基本誰でも使えるんだ」


「そっかー。でもアレンのエクスプロージョンより、アゾートやフェルーム家の人達の方が強いね」


「まあ、フェルーム家はエクスプロージョンの強さで人間の価値を決めるような人達だから、みんな練習に余念がないんだよ」


 アレンはさすが伯爵令息だけあって、エクスプロージョンも強力だ。だが、リーズには及ばない。アレンのバーナム家の本領は、光属性固有魔法だしな。


 さて、スタン波が消えた相手陣営も反撃の魔法攻撃を発射する。エレクトロンバーストだ。


 地面から這い上がるようなスタン波がダーシュたちを襲う。だがやはり意識を刈り取るまでには至らない。どちらの陣営も、魔力が大きく魔法防御力が高いため、上級魔法一発程度ではお互いに決め手にならないらしい。




 さて次の攻撃ターンはどうなるのかと思いきや、例の分家の男子生徒が突進してきた。上級魔法の打ち合いで一時的に消失したバリアーが再度展開されるまでの、ほんの一瞬の隙をついたのだ。


 そして、そいつの剛剣がダーシュにヒットする。瞬間にバリアーを展開してクリーンヒットは避けたが、ダーシュがずっと詠唱していた魔法は霧散してしまい、自身も右方向に大きく吹っ飛ばされた。


 とんでもない馬鹿力だ。


 だが今度は、ユーリが準備していた大量のアイスジャベリンをそいつに次々とヒットさせた。


 ダーシュへの追撃を狙っていたそいつは、いったん諦めて距離をとるため後ろに引いた。


 仕切り直しだ。




「ユーリの反撃も見事だったが、フィッシャー分家のあいつ、結構戦い慣れしてるよな。あんな大柄なのにあのスピード。そして一瞬の隙も逃さない狡猾さがあるなんて、さすがフィッシャー校の有力者」


「あいつはハシム・フィッシャーって言って、俺の従兄弟だよ」


「カイン、昨日言っていた親戚ってお前の従兄弟なのか。あいつは強いのか」


「強い。俺とは幼馴染みで一緒に騎士団で鍛えられたからあいつの戦いかたはよく知っているが、当時は俺よりも強かった。その後、帝国との戦線にも出て戦っているはすだし、実戦経験もあるだろう」


「お前よりも強いのか・・・。俺はお前とは剣術の実技で何度も当たっているが、お前の強さは別格だと思っている」


「フィッシャー家ではそうでもないんだ。兄貴たちや親戚の方が俺よりも強いし、バートリーの本家筋にも俺は敵わない」


「嘘だろ・・・そんな馬鹿な」


「本当にそうなんだよ。俺はパワーではどうしても彼らに敵わないんだ。だけど護国の絶対防衛圏だけは誰にも負けない。俺の唯一の強みはそこだ」


「お前が敵わないって・・・フィッシャー校はそこまで強いのか」


「それは違う。魔法ではボロンブラークが上だ。だから戦い方を間違えなければ勝てるはずなんだ」


「戦い方を間違えなければか。・・・俺もハシムと戦ってみたかったな」


「いや、お前も戦えるぞ。あいつの双子の弟がお前の予選トーナメントにいる。そのチームも2年の優勝候補に挙げられているよ」


「メンバー表に載っていたやつ、ハシムの双子の弟なのか。あのチームにはバートリーの名前もあったし、楽しみだな」





 戦いはその後一進一退の攻防が続いたが、ダーシュが放った一撃で、一気に試合が動いた。



  【土属性固有魔法・ライジングドライバー】



 マーキュリー家に伝承されるこの固有魔法は、地殻の下に滞留するマグマを地表に噴出させるものであり、膨大な溶岩流の熱と質量で周囲一面を破壊する、大規模範囲魔法なのだ。


 だが、



  【無属性固有魔法・リフレクト】



 ハシム・フィッシャーの放った固有魔法が自分のほとんどすべての体力、魔力と引き換えに、ダーシュの固有魔法を完全に跳ね返した。


 そのスタン波がダーシュたち三人を容赦なく蹂躙する。


 ダーシュの固有魔法の圧倒的な破壊力が逆に災いし、アレンとユーリは一撃で戦闘不能に、ダーシュもかろうじて立っているだけの状態になってしまった。


「な、何だあの魔法は。カウンター攻撃か・・・」


 フィッシャー校サイドも、リフレクトの発動によりハシムが戦闘不能になったが、残りの二人はまだ健在であり、そこからの集中攻撃により、ダーシュも呆気なく力尽きてしまった。


 ダーシュたちの敗北だった。




「カイン、あのリフレクトという魔法はフィッシャー家の固有魔法か」


「そうだ。バートリー家の固有魔法とは別に、フィッシャー家にも固有魔法が引き継がれている。俺は使うことが出来ないが、本家に近い血筋のものにはあの魔法の使い手は多い。あれは自分を犠牲にして、仲間に活路を見いだすための捨て身の技だよ」


「・・・それって、命と引き換えということか」


「場合によってはな。跳ね返す相手の魔法の強さと自分の魔力の大きさで決まるんだが、自分の魔力が上回っていればそれほどの対価は必要ない。だがそれが逆だと根こそぎ持っていかれて、下手をすると自分の命まで奪われてしまうんだ」


「そんな魔法があるなんて・・・」


「相手の魔法の強さによっては自分の命は失なわれる。リフレクトを放つ時は、常にそういう覚悟を持って詠唱を行うんだよ」


「仲間や国を守るために自分の命を捧げる魔法か。辺境伯家らしい固有魔法だな」


「ああ、そうだな。俺も使えればよかったんだが、いい技だと思うよ」





 結局、決勝はダン組vsハシム組に決まったが、戦闘不能になってしまったハシムの回復を待つために、先にEブロックの試合を行うことになった。


「ダンの決勝よりもカイン、お前の試合が先になってしまったな。まあ、お前の試合まではまだ時間がありそうだから、俺はちょっとクロリーネの試合を覗いてくるよ」


「おう、俺のことは気にするな。しっかり後輩の応援をしてやれよ」


「よしマールとネオン、体育館に急ぐぞ」


「うん!」






 ポアソンは昨日ナルティン子爵の提案に頭を悩ませていた。それは家族との朝食の時も同じで、子爵の話が頭をよぎる度に手が止まり、食事が全く喉を通らなかった。


「あなた、昨日からずっとそのようなご様子ですが、ナルティン子爵のところで何かあったのですか」


 ポアソン夫人が心配になって、夫に訊ねた。


 朝食の席には自分の息子や娘たちもいるため、ポアソンも口にするのをためらっていたが、早く結論を出す必要があるため思いきって話すことにした。


「実はマールのあの縁談をなかったことにしてくれると、子爵は言ってくれたのだ」


「まあ、それっていいことじゃないですか。でしたらなぜそのような暗いお顔を」


「・・・その代わり奴隷を預かってくれと頼まれた。おそらくソルレートの領民だよ」


「それって例の!」


「ああ、革命軍・・・帝国軍が我が王国の領民を奴隷として拉致するその実働部隊は、どうやらナルティン子爵だったようだ。・・・最悪だよ。しかもそれにポアソン家も引きずり込もうとしている。それがマールの縁談破棄の交換条件だよ」


「・・・あなた、どうなさるおつもりですか」


「あのボンクラ息子とマールの結婚には私は反対だった。マールの相手としてさすがにアレはないだろうし、仮にまともな男だったとしてもアイツには魔力がほとんどないから、ポアソン家の跡取りに魔力保有者がいなくなってしまう可能性がある」


「それは最初からわかっていたことなのに、どうしてあの縁談を受け入れたのですか」


「・・・断りきれなかった。可能性の問題であり、魔力保有者の跡取りができるかもしれないと言われて。うちは魔力保有者がほとんどいないため、自力で家を存続するほどの武力がない。そんな状態で子爵に睨まれてしまっては騎士爵ではいられなくなり、領地も手放さなくてはならない。・・・ポアソン家の存続を優先したのだよ」


「だったら、奴隷の密売に手を貸すのですか」


「さすがにそれはできない・・・だから悩んでいるんだよ。いくら主君の頼みでも、こんなことが王国に知られたら私は死罪かよくても爵位は没収で、結局ポアソン家の存続はなくなる。子爵はどうせ何か抜け道があるからこんな危ない橋を渡っているのだろうが、私にはとてもできない話だ」


「・・・そうですね」


「ただ、子爵の話を聞いてしまった以上、ただ断ることも許されないだろう。うちを潰しにかかるかもしれない。だから奴隷の密売に加担する代わりに別の何かを用意する必要がある」


「あなた、まさかあの話を!」


「・・・ああ、うちの娘をナルティン子爵の妾に差し出す。子爵がずっと望んでたことだから、それで許してもらえるように説得しようと思う。・・・ソニア、すまない。ポアソン家のために子爵の妾になってくれないか」


 朝食に同席していたマールの兄姉たちは、全員が険悪な範囲気を隠さず父親であるポアソンを睨んでいた。そして妾になれと言われた当のソニアは、目に涙を浮かべて震えながら、


「またマールのため・・・。私たちには魔力がないからと、これまでマールのためにいろいろと犠牲にして生きてきましたが、もう我慢の限界。今のままではどちらにせよポアソン家がなくなってしまうのだから、そんな分の悪い賭けのために、どうして私があのスケベおやじの妾にならなければいけないのよ!」


「しかし、今はこれしか交渉の材料がないんだ。それにうちにはお前以外に未婚の娘はいない。だからポアソン家のために我慢してくれ」


「イヤよ。それならマールをナルティン子爵の妾にして、できた子供にポアソン家の跡を継がせればいいじゃないの。あのボンクラと結婚させるより、その方がまだ確率が高いわよ」


「それだと完全にポアソン家の生殺与奪を子爵に握られてしまう。最悪の選択だよ」


 自分が何を言っても無駄だと悟ったソニアは、泣きながらダイニングルームを出ていった。それを追いかけるポアソン夫人。


 残った息子たちも父親に冷たい目線を投げるかける。


「父上。魔力のない我々の立場で口にすることではないですが、ポアソン家の寿命はすでに尽きているのです。家門の存続はこれ以上は不可能だとご認識ください」


「何を言っているんだお前たちは。うちにはまだマールがいる! マールさえいれば、ポアソン家は貴族として存続していけるんだ」


「父上・・・。一応最後まで父上とは行動を共にしようと思いますが、あまりマールに期待しすぎて、判断を誤らないようにお願いします。万が一の時は父上を見限り、我々兄妹一同が結束を固めて行動することになりますよ」


「私を見捨てるというのか・・・」


「我々がポアソン家を継げない身であることをお忘れなく。家族としての情があるからこれまで我慢して来ましたが、マールのためにソニアが犠牲になるのを黙って見ていることはできません。・・・マールだけを見ずに、我々のこともちゃんと見てください、父上」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンが良いです。作者様が慣れていらしたのかなと思いました。 またポワソン騎士爵のところも緊迫感というか主君の命令を断れない感じが伝わってきました。 [気になる点] 重箱の隅をつつくよ…
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