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第108話 騎士学園最強決定戦、予選大会

 いよいよ、ボロンブラーク校とフィッシャー校による騎士学園最強決定戦が、今日幕を開ける。そのルールだが、


① 3対3によるチーム戦。1対1の戦いだと呪文詠唱の間に剣士の攻撃が決まってしまうため、魔導士と剣士の有利不利に配慮した結果だ。ただし、チーム編成は同一学年の生徒同士とする。


② 予選は騎士学園内で行い、学年ごとに分かれた各予選ブロックを勝ち抜いた9組が、決勝リーグへと駒を進める。


③ 決勝は実際の戦場で行い、ブロマイン帝国との戦争での功績の大きさで勝敗が決まる。審判としてフィッシャー騎士団の騎士団長がその作戦行動中に随行する。


 その予選ブロックだが、くじ引きによって1年生がA~C、2年生がD~F、3年生がG~Iに別れる。




 なお、俺たちボロンブラーク校の主なチーム分けは以下のようになっている。


3年生

セレーネ、フリュオリーネ、サルファー


2年生

アゾート、ネオン、マール

ダン、パーラ、アネット

ダーシュ、アレン、ユーリ

カイン、アン、ローラ(ネオン親衛隊)


1年生

リーズ、アイル、ロック(アウレウス派)

クロリーネ、リナ、エリサ(シュトレイマン派)

カレン、ザック、モナ(中立派)




 ・・・サルファーのやつ、学園長のくせに本当に出やがったよ。


 昨日の晩餐会でホルスとかなり揉めていたが、まさか出場が認められるとは。しかもアイツ、いくらセレーネと組みたいからって、自分が手ひどく捨てたフリュと同じチームに入りやがった。さすが上級貴族、面の皮が厚すぎるぜ。


 しかし、3年生はこのメンバーが最強だな。うちが優勝するとすればこのチームに間違いないだろう。剣士や盾職がいない魔導士3人組だが、セレーネとフリュが超高速知覚解放を使える時点で、そんなもの不要。あとは、この中で一番弱いサルファーが足を引っ張らないことだな。




 2年生のチーム分けはなんとなくこうなった。最初にダンたちのチームが決まり、次にネオンとマールが俺にくっついてきて、俺のチームが決まった。


 そのあと、ダーシュたち3人は幼馴染で集まったので、カインが一人浮いてしまった。カインは騎士クラスAの友人と組むのかと思っていたら、遠隔攻撃の不足を補いたいということで、ネオン親衛隊の2人が仲間に加わった。


 ネオン親衛隊も、他のクラスの女子を加えて4チーム編成しての参加だ。AAA団が必死に食い込もうとしていたが、相手にもされなかった。




 1年生は単純な派閥別だ。この3チームだとリーズ率いるアウレウス派が魔力的には最強だが、クロリーネとお稲荷姉妹も全く負けてない。ボカロ率いる中立派の3人のことはよく知らないがどうなんだろうか。


 まあ1年生は実力が伯仲していて、面白そうではある。




 さて厳正なる抽選の結果、ブロック分けも決定した。


セレーネ組  G

アゾート組  D

ダン組    F

ダーシュ組  F

カイン組   E

リーズ組   A

クロリーネ組 C

カレン組   A


 ダン組とダーシュ組、リーズ組とカレン組が同じブロックになってしまった。決勝に出られるのは1組なので、少なくともどちらかは予選で敗退してしまうこととなる。



 さて、予選の戦い方だが、各ブロックごとに両校あわせて20組前後が参加している。これをまず4つに分けてバトルロワイヤルを実施。勝ち残った4組が予選トーナメントを戦い、その優勝者が決勝リーグに駒を進める。


 各学年ごとに会場も分かれていて、1年生は体育館、2年生は学園の庭園、3年生はグラウンドだ。


 武器は例によって木製の模擬剣であり、魔法は実際には発動せずにその魔法と同強度のスタン波が相手に加えられるおなじみのシステムだ。対戦相手を殺してしまったり、建物や動植物を破壊する心配のない安心・安全の設計である。





 さて俺たち2年生は全員、予選を戦うために試合会場となる庭園に移動した。


 フィッシャー校の庭園は、うちの学園と同様に食堂のテラス席に面しており、よく手入れされた植木が並ぶエリアから、その先にはきれいな芝生が広がっている。今回の試合では、その隣の森も使えるようなので、全学年中で一番戦略性に富んだ戦いが展開されるはずだ。


 そして早速、Dブロックつまり俺たちのブロックから予選が開始される。俺の組はその中でも一番最初にバトルロワイアルを戦う5組に選ばれた。


 この5組のうちの1組はボロンブラーク校の2年生上級クラスの3人組で、あとの3組はフィッシャー校の人達だ。


 ランダムに決められた位置に5組がつき、戦いがスタートした。俺の組は森の一番奥からだ。



  【無属性固有魔法・超高速知覚解放】



 俺たち3人が加速モードで、森の中を駆け抜ける。ただしこの魔法、加速状態に個人差があるようで、マールの加速状態は俺とネオンよりも少し遅い。


 俺たちの中で比較すると、俺=ネオン > セレーネ > マール > フリュ=リーズ > ダン という順番になっている。移動速度をマールにあわせてしばらく進むと、やがて敵の気配がした。


「森の中に一組見つけたぞ、あれはフィッシャー校のチームだな。まずはお手並み拝見だ」


 俺たちは木と木の間をジグザグに駆け抜けながら、敵に近付いていく。死角をうまくついてある程度までは近づけたが、さすがに敵に気付かれた。相手も俺たちの突然の接近に慌てている。



  【火属性初級魔法・ファイアー】



 まだ少し距離があるが、俺はファイアーを打ち込んでみた。だが相手は盾を使って、俺のファイアーを軽々と弾き飛ばした。そしてすぐさま盾を正面に構えて、俺に突っ込んできた。


「反応が速い! それにあの盾は軽そうに見えて、魔法・物理両面でかなりの防御力を持っていやがる。ネオン、あれが何か知っているか?」


「あの盾は、フィッシャー騎士団の標準装備品の一つで、このフィッシャー校でも導入されているそうだよ。軽量だから学生にも扱いやすいって、以前ホルスが自慢してた」


「なるほど。魔導士対策はバッチリということか」


 俺は盾で突っ込んできた敵を模擬剣でいなして敵の右側、つまり敵左側面に体を移動させる。だが、盾に隠れる形でもう一人の学生が背後に隠れていて、俺に剣で打ち込んできた。


 見事な連携技だ。


 だが、相手が悪かったな。俺にはその動きはスローモーションに見えるんだ。


 敵の打ち込みをさらに右にかわして隠れていた二人目の生徒の背後をとり、ゼロ距離からのファイアーを撃ち込んだ。さすがに背中を盾で守ることはできないため、その生徒は一撃で戦闘不能のスタン波を受けた。


 ネオンも一人倒したらしく、残ったのは最初に盾で俺のファイアーを弾いた生徒だけだった。一瞬で仲間二人を失ったこの生徒は驚愕の表情で俺たちを見ていたが、それも一瞬のことであり、俺とネオンの斬撃を同時に受けて間もなくリタイアとなった。まずは1組撃破だが、


「やはりフィッシャー校は剣術のレベルが高いな。反応速度も速いし連携技もいい。油断せずに次行くぞ」




 俺たちが森を抜けて芝生に出ると、すでに2組が戦っていた。テラス席には一組が撃破されて倒れていたが、あれはうちの上級クラスの3人組だな。たぶん相手にもならずに瞬殺されたらしい。


 後ろをチラリと確認すると、マールがコクリとうなずいた。魔法の準備が整ったようだ。


「よし、マール撃て!」



  【風属性中級魔法・ウインドカッター】



 ウインドカッターは風属性の範囲魔法であり、魔力により鋭利化された無数の気体の刃が、ランダムに飛び交って相手を攻撃する。今のマールは騎士爵の子女でありながら、その魔力はもはや同学年の子爵令嬢と比較しても優秀なレベルであり、下手な伯爵級に迫る勢いだ。


 完全に不意打ちが決まったマールの発動したウインドカッターは、その威力も範囲の広さも、2組の生徒を蹂躙するのに充分であった。


 魔法発動と同時に、学園のシステムは6人をリタイアさせるに十分と判断。全員の意識を刈り取るレベルのスタン波が発生し全滅、俺たちの予選トーナメント進出が確定した。


「やったなマール。また、魔法の威力が上がったじゃないか」


「私、風魔法が使えるようになったし、今は魔法実技の授業がすごく楽しいのよ」


 マールはもともと魔力が強く才能はあったと思うが、やはりジオエルビムの魔導コアの影響が強くでているのかもしれないな。





 大会スタッフに確認すると、バトルロワイヤルに勝利した俺たちは、明日の予選トーナメントまでもう出番がないそうだ。あとは自由にしていいとのことだった。


「俺はリーズの試合を見に行こうと思うが、お前たちはどうする?」


「私とマールもリーズを応援しに行くよ。それにセレン姉様たちは最強だし、私たちが応援しなくても必ず予選リーグは突破するから」


「ネオン、それは負けフラグと言ってだな」


 俺がネオンの不用意な発言を注意しようとしたところで、グラウンドから大きな歓声が聞こえた。そちらを見るとセレーネたちが観客に手を振っているところだった。きっとド派手に圧勝したのだろう。


 あの人たちに、負けフラグなど関係ないんだな。


 俺たちは予定通り、体育館の方に足を運んだ。





 体育館では、ちょうどリーズたちの試合が始まるところだった。体育館の4隅と真ん中の5箇所にそれぞれの組が位置について試合が始まるようだ。


 リーズは男子二人と体育館の真ん中に立っていた。


「始まったね」


 試合開始と同時に、四隅のチームが真ん中に向かって猛然と走り出した。まずはリーズたちを集中して叩く作戦のようだ。


 だが男子二人はリーズを置いて走りだし、一つのチームに攻撃を開始した。あれはボロンブラーク校の騎士クラスのチームだ。一方のリーズはまだ最初の位置に留まったまま囮になっている。


「アゾート、これはどういう作戦?」


 マールが不思議そうにしている。


「あの男子二人は敵に突撃したのではなく、全力でリーズから距離をとってるんだよ。他の3チームが真ん中に来るまであと10秒。マール天井を見てみな」


「あっ! 魔方陣が見えてきた」


「エクスプロージョンを開幕ブッパする作戦だよ」


「あれ? 今度はリーズが消えた!」


「超高速知覚解放だよ。ほらもう男子二人と一緒に体育館の角に向かってるよ」


「本当だ。あ、一瞬であの1チームを倒して、そのまま体育館のはしっこまで移動しちゃった」


「2、1、点火」


 バチッ!


 リーズのエクスプロージョンは、フェルームの分家筋の中でもかなりの威力を誇っており、この年齢層の魔導騎士ならばバリアーを展開せずに生身で耐えられるものは、まずいないだろう。


 真ん中に集まった生徒たちの頭上に落ちてきた白い光点は、爆裂の花を咲かせる瞬間に防御システムに摘み取られて、代わりの膨大なスタン波が彼らの頭上へと降り注いだ。


「ぐぎゃーーーっ!!」


 試合開始と同時にリーズたちをターゲットにしようと全力で向かってきたのは、おそらくフィッシャー校の作戦なのだろう。


 危険な魔導士は最初に剣で圧倒しておく。例の魔導士用の盾を前面に構えて9対3の乱戦なら圧倒的有利だから、当然の作戦だ。


 まさかエクスプロージョンの高速詠唱など、警戒もしなかっただろうからな。


 体育館の中央に9人、少し離れた場所に3人倒れており、リーズたち3人は健在。


 よって、リーズたちの勝利だ。


「やったー! リーズが勝った」


 マールが飛び跳ねて喜んでいる。


「まあ、予選だとこのぐらい当然だな。ただ勝ち進むと、高速詠唱の対策もされてくると思うから、簡単にはいかなくなってくるけどな」


「じゃあ、最後までとっておいた方が良かったんじゃないの?」


「あれは遅かれ早かれバレるから、先に出した方が油断が誘えていいよ。それに誰が高速詠唱を使えるのか向こうは分かってないから、今後はうちの学園全体を警戒するはず、トータルでうちが得するんだよ」


「ふーん、そういうものか」





 その後、1年生と2年生の会場を行ったり来たりしながら、気になる試合を見学する。


 1年生ではクロリーネたちも難なく勝ち上がった。お稲荷姉妹がクロリーネを守ってる間に、魔力押しで相手を倒すという王道魔力押しで駒を進めたのだ。フリュと同じ戦闘スタイルだな。


 2年生も主だったメンバーは全員勝ち上がり、特に波乱は起こらなかった。その後セレーネたちとも合流し、今日のバトルロワイヤルを振り返った。


「全体の傾向として、剣士としての技、パワー、戦術どれをとってもフィッシャー校の方が一枚上手なのは確かね。ただ魔導士の強さや魔導士と剣士の連携はうちが上。今日の時点では、前評判通りの結果が確認できただけで、サプライズは特になかったわ」


「俺もセレーネの意見とほぼ同じだ。だからうちの学園で勝ち上がったのは魔力の強いチームだけで、魔力の低い騎士クラスのチームは全員敗退している。ネオン親衛隊以外はな」


「ただ、向こうはまだ手の内を明かしていないと思う。特にホルスを筆頭にフィッシャー辺境伯家の分家筋が不気味ね。それから強い魔導士は向こうにもいるから、明日の予選トーナメントは気を付けた方がいいと思う」


「確かに2年生にも何人かカインの親戚がいたよ。フィッシャーだけでなくバートリーも含めて・・・」






 マールの父であるポアソン騎士爵は、主君であるナルティン子爵の城を訪れていた。子爵からの呼び出しを受けたからだ。


「よく来たなポアソン。まあ、そこに座るがいい」


 子爵の執務室のソファーに腰かけたポアソンは、自分以外にも配下の騎士爵が呼ばれていることに、何か重要な話があることを予感した。そして全員が揃ったところで子爵が用件を話し始めた。


「まだ公にはされてないが、シャルタガール侯爵家の4男のピエールが失踪した。秘密裏に捜索していたのだが、足取りが全くつかめないためキミたちにも協力を頼みたい」


 ポアソンはピエールの居場所を知っているが、顔色を一つ変えずに話の続きを黙って聞く。だが騎士爵の一人が子爵に、


「あの放蕩息子のピエールですが、最近怪しい連中とつるんで何やら新しい商売を始めたと聞きます。どうせ危ない橋でも渡って、何かの地下組織にでも殺されたんじゃないでしょうか。だとすれば手掛かりもなく捜索しても、見つからないと思いますよ」


 すると子爵は、


「相手のおおよその検討はついている。船に乗っているところを襲われたので、海賊かその類だ。だからお前たちには王国南岸の港や海岸線をしらみつぶしに探してほしい」


「それはいいのですが、主君家の息子とは言え、なんであんな奴に肩入れするのですか」


「上位貴族には色々あるのだ。とにかく捜索を開始してくれ」


「はっ!」





 話が終わり他の騎士爵がぞろぞろと執務室を出ていく中、ナルティン子爵はポアソン騎士爵を呼び止めた。


「キミにはもう一つやってほしい仕事がある。これは極秘の仕事なので、忠誠心の高いキミにしかお願いできない」


「その仕事というのはなんでしょうか」


「なに、奴隷を預かってもらうだけだよ。トリステン男爵領から陸路で運ばれてくる奴隷をキミの領地で一旦保護してもらい、奴隷商がキミの領地の港から出港する際に引き渡してもらうだけでいい」


「・・・その奴隷はどこへ運ばれるのでしょうか」


 ポアソン騎士爵が恐る恐る確認すると、ナルティン子爵が凍てつくような目で


「世の中には知らなくてもいいことがあるのだよ。それでも聞きたいか?」


 ポアソンが黙ってうつむいていると、


「キミの娘、そうマールだったな。例のボンクラ息子との縁談をなかったことにしてやってもいいのだぞ」


「っ! ・・・あの縁談は子爵がどうしてもと」


「あのボンクラ息子は上位貴族のくせに魔力がほとんどない、キミの娘にほれ込んでいるただのスケベなガキだ。あんなのとお前の娘を結婚させれば、ポアソン家の後継ぎにまともな子供が生まれるかどうか。キミも心配だろう」


「それがわかっていて、どうしてあの縁談を強く勧められたのか・・・」


「上位貴族には、色々としがらみもあるのだよ。だが私も鬼ではない。今回の仕事を引き受けてくれたら、私の力で何とかしてあげよう。どうだね考えてくれるか」


「くっ・・・少し、考える時間をいただきたい」


「よかろう。だがあまり時間がない。結論はどうせ決まっているのだから、早く返事をくれ。用件は以上だ」


 執務室を退出したポアソンの表情は硬く、暗かった。

今回はルール説明が多かったですが、次回からは予選トーナメントが進んでいきます。


フィッシャー校のライバルキャラも登場予定です。



平行して、ソルレート侵攻のエピソードも進めていきますので、ご期待ください。

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[一言] 「よかろう。だがあまり時間がない。結論はどうせ決まっているのだから、早く返事をくれ。用件は以上だ」 帝国に国民を売りつけることは、公にはしていないが、もはや明らか、この陰謀に片したら処刑さ…
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