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第105話 浮かれすぎた生徒は丸焼きにするって、わたし言ったよね

「待ち合わせの相手はマールだったのか。マールのどこがパワー系マニア女子なんだよ、リーズのやつめ」


「リーズって、私の事をそんな伝え方したの?」


「そうなんだよ。でもマールだったらわざわざこんなところに俺を呼び出さなくても、いつも会ってる時に話をすればいいじゃないか」




「・・・・・」


「どうしたんだマール。急に黙り込んで」


「・・・ごくりっ」


「ど、どうしたんだよ。そんな緊張感を漂わせて。俺の方が緊張するだろうが」




「ふ、ふ、ふ、ふんっ。いい気にならないでよねっ、アゾート。あなたなんかのことなんか、これっぽっちもす、好きなんかじゃ、な、な、な、なんだっけ?」


「・・・何言ってんだ、マール?」


「萌え?」


「どこが?」


「アゾートはクロリーネの言葉責めが大好きなドMだって、リーズが言ってたから、私なりに真似をしてみたの。似てた?」


「全く似てない。というか、マールにツンデレは向いてないと思う。クロリーネのモノマネが見せたくて俺をここに呼んだのか?」


「そうじゃないんだけど、こういうとアゾートが大喜びするってリーズが言ってたから」


「またリーズが余計なことを言ったんだな、アイツは何やってるんだよ」




「・・・・・」


「どうしたんだよマール。また急に黙り込んで」


「・・・ごくりっ」


「・・・マール?」




「・・・あのねアゾート。わたしね・・・」



「どうしたんだよマール。・・・時間はあるから、ゆっくり話せ」


「うん、ありがとう。でももう思いきって言うね」


「・・・・・」




「わたしね・・・アゾートのことが好きよ」




「・・・・・」


「・・・ねえ聞いてる? アゾート」


「あ、ああ、聞いてるけど、だってお前」


「びっくりした?」


「あ、ああ、それはびっくりしたけど、だってお前は、ポアソン領の次期当主じゃないか」


「うん・・・そうだね」


「だったら、なんで?」


「次期当主かどうかと、人を好きになる気持ちって別だよ。・・・これは誰にも否定することはできない、私だけの本当の気持ち」


「それにしたって、どうして俺のことなんか」




「どうしてなのかな・・・わたしはいつの間にかアゾートのことが好きになってた」


「・・・・・」


「たぶんきっかけはね、1年生の時の新入生歓迎ダンジョンの夜、私の話を聞いて励ましてくれた時かな。あの時私の心が救われた気がしたの」


「懐かしいな。マールって普段は明るい女の子なのに、心にそんな重荷を背負ってたなんて、あの話を聞くまでは全く気が付かなかったよ」


「でしょ。私、自分の気持ちを隠すのが得意だから。それで、その時からアゾートのことが気になり始めて、私のために新しい魔法や魔術具を作ってくれたり、一緒に冒険したりしたでしょ。海にも行ったよね」


「あの海は楽しかったな。マールとセレーネと三人で砂浜で遊んだのは最高の思い出だ」


「アゾートがエッチな目で、私たちのこと見てたしね」


「ギクッ!」


「ふふっ。それからみんなでジオエルビムへ行ったり、二人でフレイヤーで空飛んだり・・・。ジオエルビムのクエストって、いつも私たち二人だけで行動することが多かったでしょ。わたしがいつも、アゾートの隣でドキドキしてたの、気がついてた?」


「いや全く。実はこの前、魔法協会の表彰式で研究員たちの噂話を聞くまでは、俺とマールが恋人同士っぽく見えていたこと自体、気がついてなかったから」


「アゾートって、本当に鈍感よね」


「うぐっ・・・」




「・・・でもアゾートがセレーネさんのことが好きなのはわかってたし、フリュオリーネさんと婚約したし、私の出る幕なんてなかった。だからこの気持ちは誰にも知られることなく、私の中で一生封印しておこうと、そう思ってたの」


「そうだったのか・・・」


「でもね。リーズと仲良くなって、クロリーネもうちの学園に入学してきて、私の気持ちは変わったの」


「え、どうして?」


「クロリーネってアルゴの婚約者なのに、アゾートのことを好きって気持ちが溢れてて、とにかくすごいのよ」


「え? おれ初耳なんだけど。あ、そうか。普段のツンデレのことを言ってるんだな。あれはそういうキャラ設定というか」


「ツンデレって何か分からないけど、クロリーネの態度がすごく分かりやすいのよ。言葉ではハッキリとは言わないんだけど、アゾートの話になると好き好きオーラが止まらないと言うか・・・あ、ごめん、これ女子会での恋バナだった。アゾート、今のは聞かなかったことにしといて」


「女子会! 恋バナ! ガチのやつじゃないか! もう聞いちゃったし、遅いよ!」


「まぁいいか。それでクロリーネを見てたら、政略結婚が決まってても、実際に結婚するまでは恋愛してもいいんだって気が付いたんだけど、逆にリーズはクロリーネの危険な恋を邪魔しようとして、私をクロリーネの対抗馬にしようと焚き付けてきたの。それが私とリーズの恋愛同盟の始まり」


「リーズのやつが、また訳の分からないことを」


「今日の告白も、本当はリーズの作戦だったんだよ」


「ちなみにどんな作戦だよ」


「クロリーネのマネで告白すれば、アゾートは萌えているはずだから、一発でOKしてくれるって」


「ざるのような作戦だな。それで、よくその作戦に乗ろうと思ったよな、マール」


「でも私にはこの作戦、難しすぎたみたい。だから、私の言葉で告白しちゃった。ダメかな?」


「ダメというか、マールって今や学校一の人気アイドルで、男なんか選びたい放題じゃないか。ポアソン領に婿入りできない俺なんかを選ぶより、ちゃんとした相手を見つけた方がいいんじゃないのか」




「・・・たぶん私、卒業したらすぐに結婚させられると思うの」


「え、婚約者が決まったのか?」


「うん。シャルタガール侯爵領内の上位貴族の3男が、うちに婿入りしてくれることに決まったの」


「そ、そうなのか。それは・・・おめでとう。それでそいつはいいやつなのか」


「・・・ううん、あまりいい人ではないと思う。以前から何度も話があったけど、お父様が断ってたから」


「だったらなんで?」


「その人が私の事を気に入ってるみたいで、どうしてもって。それで、ナルティン子爵から相当な圧力があったみたいで、お父様もついに断り切れなくなったみたい」


「そんなやつなんかと・・・。でもマールは前に、卒業したらどこかの騎士団に入りたいって言ってたけど、それはどうなるんだ」


「それは・・・たぶんできない」


「それでいいのか?」


「ううん、よくはない。でも仕方ないよ。・・・その代わり、もうアゾートとたくさん冒険をしたし、それでジオエルビムにも行けて、一緒に王都までいって王様から表彰までされた。魔法協会の表彰なんか、まるで私たちの結婚式みたいだったよね・・・」


「マール・・・」


「楽しかったよアゾート。私はその想い出だけでもう十分だよ。あとは結婚して、跡継ぎを作るだけ」


「くそっ」


「アゾート?」


「・・・俺は無力だな」


「・・・アゾート」


「俺は男爵になってさらに上を目指して、自分が力を得たつもりでいたけど、マールが騎士団に入る事すら手助けできない」


「アゾートが気にすることじゃないよ。これは私の人生だから」


「それはそうだけど・・・」


「仕方がないよ」


「マールには、そんなやつと結婚してほしくない」


「・・・だったら、どんな人とならいいの?」


「それは・・・」


「・・・ごめん、意地悪な質問だったね」



「悔しいよマール」


「・・・ありがとうアゾート。わたしのために悔しがってくれて。わたしはそんなあなたが、大好きよ」


「・・・マール」


「だからね。卒業までは、私と一緒にいて欲しいの。それで私は大丈夫だから」



 大丈夫といったマールの瞳からは、涙がポロポロとこぼれ落ちていた。


 ちっとも大丈夫じゃないじゃないかマール。自分の気持ちを全然隠せてないよ・・・。


 それでも気丈に振る舞おうとするマールに俺は、その涙に気がつかないふりをして、マールをそっと胸に抱きしめた。


「わかった。マールがそれでいいのなら、俺はマールのそばにいるよ」


「うん。私の気持ちを聞いてくれてありがとう、アゾート。・・・卒業まででいいから、いっぱい甘えさせてね」


「・・・ああ、それでマールの支えになれるのなら」


 マールを抱きしめる腕に自然と力が入る。アゾートに抱きしめられたマールも、アゾートの背中に腕をまわして、思った。


(でもねアゾート。本当はあなたに私を奪い去ってほしいのよ・・・)



 夏の夜風がそんな二人に優しく吹きつけた。


 だが、しっかりと抱きしめあった二人の間を、夏の風が通り抜けることはなかった。






 修学旅行4日目の朝、朝食に向かう俺たちを見てみんながギョッとしていた。


 俺の左腕にフリュがくっついているのはいつものことで、既に学園の生徒全員からあきらめられている俺なのだが、今朝は右腕にマールがくっついていたからだ。


「おいアゾート、なんだそれは」


 ダーシュからは、当然の質問が出てきた。


 セレーネとネオンも険悪な表情で俺を睨みつけているが、リーズだけはガッツポーズを決めて、俺たちの様子に狂喜乱舞していた。


 リーズはなんであんなに喜んでいるんだ。あいつ、自分の作戦でうまくいったと思ってるんじゃないだろうな。




 しかし俺はダーシュになんて答えればいいんだ。マールの卒業後の事情をここで話すわけにもいかないし、だからと言ってマールの本当の気持ちを嘘で汚すことだけは断じてしたくなかった。



「・・・昨日、マールから告白された」


「・・・それで?」


「婚約者というわけではないのだが・・・マールの気持ちを受け入れることにした」


 すると周りの女子生徒からは黄色い悲鳴がたち、マール派の男子生徒からはまるで親の仇を見るような目で睨みつけられた。


 フリュオリーネ派の男子生徒が優越感に浸る目も見受けられた。もちろん、ドMでNTR性癖の先輩としての目だ。




 ダーシュが心底バカにした表情で俺に、


「・・・お前は、人の実家で何をやってるんだ」


「本当にすまない。だが結果としてこうなってしまった」


「お前はどこまでこの修学旅行を満喫するつもりなんだよ!」


「返す言葉もありません・・・」






 マーキュリー城の裏の空き地に呼び出されて丸焼きにされた俺は、セレーネとネオンに土下座をさせられていた。


「アゾート・・・修学旅行に出発する時、浮かれすぎた生徒は丸焼きにするって、わたし言ったよね。どうして生徒会役員のあなたが一番浮かれてるのよ。バカなの? ドМなの?」


「セレーネ。正確には、清く正しく上品に振る舞うことのできない生徒を丸焼きにするだよ」


「同じでしょっ! また燃やされたいの?」


「大変、申し訳ございませんでした」


「それにどうして私より先にマールと仲良くなってるのよ! 順番が逆でしょ。私はどうすればいいのよ!」


「それはセレーネも修学旅行で浮かれたいと」


「・・・焼き加減が足りないようね。それとも新しい「彼女さん」にキュアをかけてもらうから、私のエクスプロージョンぐらい平気だと、そういう惚気をしているのかしら」


「しっ、失言でしたっ!・・・。ネオン~、俺を助けてくれよ~」




「セレン姉様の言う通り。私がちょっと目を離すとすぐに他の女のところに行くんだから。これからは毎晩アゾートを見張ります。勝手に外に出ることも一切許しません」


「そうねネオン。あなたがアゾートをちゃんと見張ってなさい。生まれて初めてネオンが役に立つ時が来たようね」


「生まれて初めて役に立つって、相当ひどい言われ方だけど、確かに生まれて初めてセレン姉様を仲間だと思えた気がするな」


「ずっと敵だと思ってたわけね。ネオンこそ、ひどいわよ」


「二人とも待ってくれ! 俺の話を最後まで聞いてくれよ。そしてエクスプロージョンを撃つのはもうやめてくれ。それマジで熱いんだから」


「大丈夫よ。死なないギリギリの熱さに抑えてあげてるから。あ、でもマールのキュアがあるから、アゾートはもう少し頑張れるかしら?」


「ひーーーっ!」




 俺は額を地面に押し付けて、昨日聞いたマールの事情を必死に説明した。そして何とか、マールの置かれている状況だけは理解してもらった。


「・・・私もマールと似たような状況だから理解はできるけど、じゃあ、私のことはどうするのよ」


「だからセレーネのためにソルレート侵攻してるんじゃないか」


「そんなこと聞いてるんじゃないの。マールと付き合うんだったら、私とも付き合ってよ」


「セレン姉様、付き合うって何?」


「あ、そうか。ネオンにはわからないのね。・・・平民って政略結婚しないでしょ」


「うん」


「つまり自由恋愛なのよ。それが付き合うってこと」


「おー、確かに当たり前の事に今気がついた。目からウロコ?」


「ネオンの目のウロコのことなんか、どうでもいいのよ。アゾート、今日から私とも付き合って。じゃないと燃やすわよ」


「わかった! わかったから、目に魔力を込めながら告るのだけはやめてくれ。次のエクスプロージョンで俺は確実に死ぬから」

メインヒロインとして、セレーネはそれでいいのか


次回もご期待ください

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