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第102話 修学旅行から始まるソルレート侵攻作戦


 春の舞踏会は、その後もドタバタが続いた。


 生徒会役員は、大人しくそれぞれのファンと順番に踊っていたのだが、パーラはダンとしか踊らず、フリュはずっと俺の側から離れない。


 この二人のファンには特に特典がないのだが、何も不満が出ないのが不思議だ。何が楽しくて、この二人のファンをやってるんだろうか。謎だ。


 今年はネオンも大人しくしてるし、カインも普通に令嬢たちとダンスを踊っている。




 やはり、ドタバタしてるのは俺の周りだけか。


 俺が1年生の女子生徒にモミクチャにされているのを見たセレーネが、チヤホヤされているのと勘違いして乗り込んできた。


 そして、セレーネは俺と踊り始めたのだが、フリュもセットでついてきたので、両手にJKという舞踏会とは思えない絵面のダンスになってしまった。


 セレーネ列の生徒の恨みを一身に背負った俺は、慌ててセレーネを列に返してあげると、青髪の妹が俺の背中に頭突きをしてきてクロリーネを押し付けてきたり、それを押し戻そうとするリーズのお友達に突撃されたりして、またモミクチャになった。


 さらにリーズがマールを呼んできてさらに混乱し、俺がクロリーネと踊ろうとすると、リーズが阻止してマールを俺に押し付けてきた。


「リーズがやたらクロリーネを警戒してる気がするが、マールは何か知ってるか」


「し、知らないヨ?」


「そうか? マールがリーズと何かコソコソ話してるのも怪しいし」


「そ、そ、そんなことないヨ?」


「怪しすぎるな・・・まあいいか。これだけたくさん令嬢がいるのに、俺がまともにダンスできたのがマール一人だけって言うのがすごいよな。これが最後の曲だし」


「え、そうなんだ。 よっし!」




 舞踏会の翌日、俺はリーズを部屋に呼んで事情を説明し、一応リーズの誤解は解けたのだが、覆水盆に返らずの言葉どおり、クロリーネを巡る両派閥の攻防はまだまだ続くのであった。







 そんなドタバタした学園生活が少し落ち着いた頃、ついに商都メルクリウスが完成した。


 厳密に言えば、俺が責任を持って整備する予定だった、城壁、シティーホール、道路等のインフラ部分が完成したのだ。


 街の他の建物は、区画ごとに決められた用途であれば、領民が自由に作ればいいので、住人が増えるとともに街も発展していくことだろう。





 そして今日は、商都メルクリウスの完成式典。


 シティーホールの前の広場に領民を集めて、セレモニーを行うのだ。


 式典会場には、領主である俺とその家族、代官であるリシアおばさんとその家族、街を治める役人たち、この街に駐留するメルクリウス騎士団の一部500名が一同に会した。


 領民側も、この街を拠点に活動することになるソルレート領からの亡命商人や職人たち、近隣の町や村から移住してきた領民たちが集まってきている。


 そんな中で俺はシティーホールのバルコニーに立ち、拡声器の機能を持つ軍用魔術具を使って、みんなに宣言した。



「今ここに、商都メルクリウスの誕生を宣言する。


 この地はアージェント王国南部と王都とを結ぶ交通の要衝・物流の要であり、資源が豊富で手工業品の一大生産拠点としてのポテンシャルも高い。


 その地に旧ソルレート領からの亡命商人たち、旧ヴェニアル領の住人たち、そしてプロメテウス領の人たちが共に暮らし融合していくことで、街を大きく発展させていくことを期待している」


 会場の万雷の拍手に、俺は軽く手を振って答える。鳴り止まない拍手に俺は、住民たちのこの街への期待感の強さを感じとった。


 まだ空き地が多いこの街に、これから住民たちの手で、活気のある素晴らしい街が作られていくことだろう。





 セレモニーが一段落し、俺はシティーホールの執務室で、訪問客からの挨拶を順番に受けている。その中にはロディアン会頭の顔もあった。


 俺は会頭とソファーに腰掛け、簡単な挨拶のあと本題を切り出した。


「ロディアン会頭にはお聞きしたいことと、相談したいことがあります。まずはソルレート領にいた高利貸しについてお聞きしたいのですが、」


「ああ、領主はやはりそいつらが気になるか。今回のソルレート領破綻の裏の主人公だからな」


「裏の主人公・・・」


「ここに亡命してきた商人や職人には、あいつらに苦しめられてきた者も多い。あいつら元は土着の金貸しなんだが、奴隷商人に近い感じだ。金利での稼ぎよりも人身売買の手数料の方が多かったんじゃないかな」


「ブロマイン帝国とのつながりはあったのですか」


「あっただろう。外国への奴隷売買は禁止されているし基本的は国内の顧客がメインだろうが、帝国の方が奴隷の需要が高いので、闇で取引するやつらは必ずいる。ハイリスクハイリターンだ」


「帝国への輸送ルートや関与している貴族側の協力者はわかりますか」


「さすがにわからんよ。俺は一介の商人だし、商売の分野が違うからな。だが、もし俺が奴隷商人ならば、奴隷は船を使って輸送するな。だから協力者となる貴族は、ソルレート伯爵か、その隣のトリステン男爵、あるいはシャルタガール侯爵領内に港を持つ貴族の中から探すことになる」


「なるほど。参考になりました、ロディアン会頭。それでは相談なのですが、船を用意していただけませんか。騎士団の輸送用に使えるもので、海賊船も打ち払える武装を装備した軍艦を3隻、大至急です」


「商談か。もちろんできるだけ早く用意しよう。アージェント王国の海域には、海賊ばかりでなく、ブロマイン帝国の軍艦までいるからな。あいつらを始末してくれるなら、俺たち商人はすごく助かるよ」






 ロディアン会頭との会談が終わったあとは、城塞都市ヴェニアルからセレモニーのために来ていたカイレンおじさんとの打ち合わせだ。


 シャルタガール侯爵家の四男ピエールを地下牢に拘束して尋問をお願いしていたが、その結果を聞くためだ。


「アゾート。ピエールから聞き出した情報だが、やはり奴隷売買にはシャルタガール侯爵領の貴族が関与していたよ。支配エリア南部一体を領地とするナルティン子爵家だ」


「ナルティン子爵か・・・」


「どうしたアゾート。こいつが何か問題があるのか」


「カイレンおじさんは宴会で何度かあったことあると思うけど、俺のクラスメイトのマールの実家がポアソン騎士爵で、そのナルティン子爵が主君家に当たるんだ」


「マールちゃんって、リーズといつも一緒にいるあの子だろ。ネオンがピエールを連れてきた時にもいたし、顔はよく知っている。あのマールちゃんの家が・・・どうするんだアゾート。ナルティンは王国の法律で禁じられている奴隷の外国への輸出を行った犯罪者だ。もしポアソンさんがその一味であれば、ナルティンと同様に処罰の対象となる。ナルティンの告発をやめるか」


「ピエールを捕まえたときにポアソンさんと話した限りは、奴隷売買に関わっている様子はなかった。そこは信用できると思う」


「それはよかった。なら、王国裁判所に告発するか」


「それは待ってほしい」


「どうしてだ。ピエールの供述では不十分か」


「裁判所に言えば、ナルティン子爵は処罰されると思う。ただ今回の件は、それでは根本的な解決にはならない。問題は奴隷売買の違法行為なんていう小さな話ではなく、ブロマイン帝国による侵略戦争の一局面に過ぎないんだ」


「どういうことだ。詳しく話せ」


「待ってくれカイレンおじさん。ここからは関係者を集めて話をしたい」





 日中の全ての仕事が終わった夕方、俺は会議室に関係者を集めた。


 メルクリウス騎士団長、ロエル

 メルクリウス騎士団参謀長、フリュオリーネ

 メルクリウス銃装騎兵隊隊長、サー少佐

 メルクリウス砲兵隊隊長、マミー

       同客員隊員、セレーネ

 メルクリウス空軍エース、クロリーネ

       同客員隊員、マール

 ガルドルージュ司令官、ネオン、ネオン親衛隊

       同隊長・副官、テシウス、ミラージュ

 ヴェニアル方面司令官、カイレン

 王都方面司令官、リシア

 アドリテ騎士爵

 マルティー騎士爵

 見習い魔導騎士、リーズ、アルゴ


 メルクリウス軍総司令官、アゾート




 メルクリウス軍の幹部を、商都メルクリウスの誕生の日に一同に集めたのだ。


 結構なメンバーだなと、自画自賛しているとなぜか父上が文句を言い始めた。


「おいアゾート、メンバーがおかしいだろう」


「父上、どこがおかしいのでしょうか」


「何でセレーネがここにいるんだ。あとクロリーネ。それからマールちゃんたち学園のクラスメイトを勝手にメンバーにするな!」


「え、なんでダメなんだ?」


「ダメに決まってるだろ、みんなまだ学生だし、親御さんの許可をとってないだろ、お前」


「と、とってないな。やはり許可はいるのか・・・」


「当たり前だ!」


「うーん、だがこのメンバーは絶対に必要なんだよ。これは領主決定だから、これで行く」




 俺の断固とした決意に、しゅんとなっていたみんなも、反論を始めた。まずセレーネが、


「私はアゾートに協力したいのよ! 私が参加することが気に入らないのなら、ロエルおじさまでも容赦しないわ。フェルーム一族らしく、最後は火力で会話をしましょう。表に出なさい勝負よ!」


「うっ・・・さすがにセレーネのあの本気のエクスプロージョンを食らえば、ワシは死ぬ。セレーネの火力は戦力として貴重だし認めよう。だがクロリーネはさすがにマズイだろう。侯爵にどう説明するんだ」


「わたくしは嫁に来る身なので、フリュオリーネ様と同様にお考えいただければいいと存じますが、フレイヤーのエースパイロットの座だけは奪われたくないのです」


「そのエースなんとかが何なのかわからんが、フリュちゃんと同じ扱いでいいのであれば認めよう。だが、マールちゃんは別だ」


「私は確かにクロリーネにエースパイロットの座を奪われました。でも私はまだ負けを認めていません。必ずエースを奪い返します。だから私にチャンスをください」


「また、そのエースなんとかが出てきたな。ワシにはわからんが、そのエースを巡って二人の少女が激突する熱血展開にワシは弱いのだ。わかった、マールちゃんは認めよう。だが、ネオン親衛隊は・・・」


 ウダウダと文句ばかり言うロエルに、横で聞いていてイライラしていたマミーが大声で一喝した。


「ロエル、いい加減にしなさい。みっともないわよ。ネオン親衛隊のみんなは、これまでも私たちともに最前線を潜り抜けてきた同志、戦友よ。いまさら学生だから、なんたらと拒絶をするのは、大人の都合でしかないじゃない。見苦しいその考え方を今すぐ捨てなさい!」


「は、はひっ!」


「わかればよろしい。アゾート、これでいいかしら」


「はい、母上。完璧です」





 うるさい父上が静かになってくれたので、ようやく本題の説明に入る。


 すなわち、俺とフリュ、ネオン、セレーネの4人で作戦司令部に集まり、コツコツと練り上げてきた作戦の全容を、今この場で発表する。


「これから俺が話すことは極秘作戦だ。情報が漏洩すると大変なことになるので、真剣に取り組んでほしい」


 全員しーんとなって、俺の話の続きを催促した。


「改めて紹介するが、ここにいるガルドルージュはシリウス教国の秘密諜報部隊であり、ネオンに絶対の忠誠を誓うメルクリウス一族の末裔だ」


「まさか、あの時の!」


「そうだ。そしてガルドルージュからの情報をベースに今回の作戦は作られている。これが大前提。そして彼らからの情報を元に、俺とフリュが状況を分析して出した結論と、今後の方針を伝える」


「・・・ごくりっ」




「まず、ソルレート領を占拠している革命軍の正体は、ブロマイン帝国内の新教徒部隊であり、本質的にはアージェント王国の侵略を目的とした戦争行為だ。そして王国内に彼らを手引きし支援している組織がある。全容はまだ不明だが、その実行部隊がナルティン子爵であり、侯爵家四男のピエール・シャルタガールであることはわかった」


「じゃあ、証拠を集めてそいつらを裁判所に告発するのか」



「いや、彼らは実行部隊であり、王国内の中枢に真の敵がいるかもしれない。とかげの尻尾切りにされたらそこまでだ。だからまだ裁判所には渡さない。俺たちがやることは、まずはソルレート領の奪還だ。帝国の部隊を実力で排除し、その後、帝国に与する王国内の組織をあぶり出して叩く」


「俺たちだけでそれをやるのか」



「基本的な部分はそうなるが、状況に応じて連合軍を組織するつもりだ。まずはこの地図を見て欲しい。ソルレート領を囲んでいるのはこの5領。南西のベルモール子爵領から時計回りに、ロレッチオ男爵領、マーキュリー伯爵支配エリアのノール高原一帯、パッカール子爵領、トリステン男爵領、そして南側は海だ。ここを全て封鎖し、革命軍が領民に配給している物資の流入を遮断する。籠城戦を領地規模で行うイメージだ」


「さすがに広すぎて、完全に遮断するのは無理だ」



「だから必ず、国内の支援組織が隙を狙ってくる。そこを捕まえて組織の尻尾をつかむんだ。あとは物資を枯渇させることで、革命軍に対して領民に反乱を起こさせる。実はソルレート伯爵の治世が悪すぎて、現在は領民が革命軍の洗脳状態にあるんだ。この洗脳をどうにかしないと、我々と領民が直接対峙することになり、結果的に革命軍を利することになる」


「下手すると領民が飢えて死ぬぞ」


「そこまで追い込む前に革命軍を始末したい。要するに、革命軍と領民を分断させて、革命軍だけを討つのがこの作戦の要衝だ」




「難しい作戦だが考え方はわかった。それで俺たちは何をすればいいんだ」


「父上とカイレンおじさんはナルティン子爵領への強襲だ。ロディアン商会に軍艦3隻を用意してもらうから、海から直接揚陸してくれ。ついでにダリウスに頼んで、うち専用の軍港を租借しといて」


「租借はいいけど、ナルティン子爵領への強襲はやりすぎじゃないのか。シャルタガール侯爵支配エリアだし、王国への反逆罪に問われないのか」


「そのためにピエールを使うんだ。侯爵がピエールの仲間なら、侯爵自体を反逆者に仕立て上げるだけだし、ピエールの独断行動なら、身柄と引き換えに俺たちの行動を見て見ぬふりをしてもらう」


「侯爵を反逆者に仕立て上げるなんてできるのか?」


「そんなの簡単だよ。アウレウス伯爵とジルバリンク侯爵と連携して叩けばいいんだから。なあ、フリュ、クロリーネ」


「アゾート様のおっしゃる通りでごさいます」


「先輩のためだから、仕方ないですわね」


「・・・我が息子ながら、お前の権力すごいな」


「だからピエールを裁判所に渡さないのか」




「そういうことなんだよ、カイレンおじさん。それから母上は、ベルモール子爵、ロレッチオ男爵との連携。ソルレート領西側を完全封鎖するための物資の支援と増援部隊の展開だ。それから少佐は銃装騎兵隊を引き連れて修学旅行の護衛だ。リシアおばさんのところの騎士団も少し借りるよ」


「なんだその修学旅行って」



「実は夏休み前に、フィッシャー騎士学園との交流試合を予定していて、全校生徒で遠征するんだ。ここ商都メルクリウスから出発して、マーキュリー伯爵支配エリアを東に縦断し、フィッシャー騎士学園までの七日間の旅の護衛を頼みたい。もちろんそれは表向きの理由で、真の目的は、帝国軍の物資補給ルートへの打撃と、父上たちナルティン子爵領侵攻における南北からの挟撃作戦だ。怪しまれずに絶妙の位置に部隊を展開できる、いいアイディアでしょ」


「お前、普通そこまでやるか!」



「ガルドルージュ関係者も従来の諜報活動を続けつつ、基本的にはこの少佐の部隊と同行してほしい。あとは、残り3領との連携だが、ここは俺とフリュで担当する。必要に応じてセレーネたちにも学園や派閥ルートで調整を手伝ってもらうことになる」





「全容はわかったが、ダリウスやサルファーは参加しないのか」


「ダリウスには、さっきも言ったように港湾都市メディウスを軍港として使わせてもらう。もし帝国軍が軍港を叩きに来たりメルクリウス領へ海から侵攻する場合は、フェルーム領を突破してくることになるから、ダリウスは何も言わなくても勝手に参戦してくることになるよ」


「お前ってやつは・・・」


「サルファーも同様だ。位置的にはメルクリウス領の西側の守備の役割を自動的に負っているようなものだからな、アイツは。そうはいいつつも領地を空にするわけにはいかないので、リシアおばさんとアドリテ、マルティー両騎士爵は領内全体の防衛を頼む。以上だ。細かい作戦指示は追って個別に指示する」


「「「了解!」」」






「それで、革命軍を倒したあとのソルレート領はどうするんだ」


「俺が手に入れて、そこの伯爵になろうと思ってる」


「え、ひょっとして、それが本当の目的なの? ワシ初めて聞いたんだけど」


「ロエル! アゾートが当主なんだから、あなたは黙って従いなさい!」


「は、はひっ!」

次回から、青春と戦略の修学旅行回です


ご期待ください

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[良い点] いよいよですね。 なかなか戦略がきちんと書けているかと思います。 [気になる点] 1、「第54話 勇気を出すための」で出て来た湖はどこに行ってしまったのでしょうか? 湖の向こう岸がソルレ…
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