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第100話 クロリーネ様お泊まり事件

記念すべき第100話がアホ回になってしまいました。


それも本作っぽくていいかも・・・。


 フレイヤーで帰還した俺は、プロメテウス城の作戦司令部で待ってくれていたフリュに駆け寄った。


「ありがとうフリュ。君がいてくれなければ、この作戦の成功はなかったよ!」


 フリュはビックリしたように俺を見て、それから穏やかに微笑んだ。


「アゾート様がご無事であれば何よりです」


「俺は君への感謝をどう伝えればいいんだろう。欲しいものがあるなら、何でも言ってくれ」


 フリュは少し考えたあと、微笑みながら一つ提案をした。


「それでは、来週にある春の舞踏会で、最初にわたくしとダンスを踊って頂くというのではいかがですか」


「え、そんなことでいいのか」


「はい。わたくしにはそれで十分です」


 俺はその程度ではとても釣り合わないと思ったが、フリュが楽しそうにしているのを見て、フリュの言うとおりにしてみることにした。





 そんな俺たちに、セレーネが話しかけてきた。


「それよりアゾートもクロリーネも、お腹すいてるでしょ。ごはんを用意したから軽く食べる?」


 そういいながら、セレーネが何やら食べ物を出してきた。


「それ、セレーネが作ったの?」


「そうよ。今回の作戦は、私はあまり役に立てなかったので、せめて二人をもてなそうと思ったのよ。そしてこの料理はアゾートの大好きな、肉に塩をふったものよ。マールに作り方を教えてもらったの」


「いやセレーネ、俺は別にそれが好きな料理というわけではないのだが。でも、せっかく作ってくれたし、ありがたくいただくよ」


 俺はセレーネの手料理をつまんで口にいれた。




 俺の舌の上を塩味の効いた肉汁が広がり、鼻腔全体が肉の生臭い香りで満たされた。


「・・・これは?」


「だから、肉に塩をふったものよ。好きでしょ」


「この肉、焼いてないよね」


「え、焼いた方がいいの?」


「そりゃあ、生肉よりは」



  【火属性初級魔法・ファイアー】



「はい、どうぞ」


 俺はセレーネの火力によって真っ黒に焦げた肉をつまみ、口に頬張った。


 苦くて硬い。


 セレーネの手元には、白い大皿の上に黒焦げ肉が大量に出来上がっていた。焼きたてほやほやだ。


 せっかくセレーネが作ってくれた肉料理だが、これをクロリーネに食べさせるわけにはいかない。


 だから、俺が全部いただくことにした。





 さて俺たち4人は、登校時間までまだ少しあるため、作戦指令部で仮眠をとった。ベッドでちゃんと眠ると起きれる気がしなかったからだ。


 そして時間ギリギリまで眠ったあと、バタバタと着替えをする。


 俺は隣が自室だし男なので、準備はすぐに終わった。




 フリュとクロリーネは城の下の階にある自室に戻り、身だしなみを整えている。女の子だから時間がかかるのだ。


 一方セレーネは、先ほどから作戦司令部を一歩も動いていない。


「セレーネは先に寮の自室に戻って、身だしなみを整えた方がいいのではないのか」


「どうして?」


「どうしてって・・・風呂に入らなくていいのか?」


「軍用魔術具があるから大丈夫よ」


「服が昨日と同じもののような気がするが」


「軍用魔術具があるから大丈夫よ」


「ひ、ひょっとして下着も・・・」


「軍用魔術具があるから大丈夫よ。それにアゾートが心配してくれなくても、下着なんて黙っていれば、昨日と同じものをはいていても誰にもわからないわよ」


 セレーネ・・・貴族令嬢として君はそれでいいのか。しかも前世も京都のお嬢様じゃなかったのか。




 結局今回の作戦でのセレーネは、俺に黒焦げの焼肉を作ってくれたことと、風呂に入らず昨日と同じ下着を身に付けていることを俺だけに教えてくれた以外、何もしていない。


 そんな役立たずのセレーネのことが、なぜかどうしようもなく俺は好きなのだ。本当なんでだろうな。





 そんなことをしているうちに、フリュとクロリーネの準備が整い、作戦指令部に全員そろった。


 セレーネのことは・・・黙っておくことにした。


「じゃあ、学園にジャンプするか。ところでクロリーネ、カバンは持っていかなくていいのか」


「たぶん、アゾート先輩の部屋に置いてきちゃいました。そのまま学園に持っていきます」


「そうか。じゃあクロリーネは俺と転移だ。あとの二人もすぐ後でな」


「はい、アゾート様。寮の前に行きますので待っていてくださいませ」


「私もフリュさんと一緒に行くから、待っててね」


「おう」





 俺とクロリーネは寮に転移した。


 部屋にはネオンが帰ってきた形跡はない。ヴェニアル経由だからちょっと大変だったかな。マールや親衛隊にも悪いことをしたな。


 少し反省しつつ、部屋に放り投げてあったクロリーネのカバンを見つけて、俺たちは待ち合わせ場所に向かった。すでに、ダンたちが待っていたので、


「ダン、待たせたな」


「おう、遅かったな、ってお前クロリーネと一緒に何やってたんだよ」


「何って、一緒に学校に行くだけだよ」


「・・・昨日、男子寮の訪問許可申請を出しておいたんだけど、帰りの際にちゃんと帰宅届け出したのか」


「まだだった。出してくるから、ちょっと待っててくれ」


「先輩、わたくしも一緒に行きます」


 俺は寮に戻って届出を出し、再び寮から出たところでフリュとセレーネと合流し、一緒に登校した。






 私が1年上級クラスのラノベ主人公席に座っていると、いつものようにアイルたちが私の机の周りに群がってきた。


 こうなると、女子と話をする隙を与えてくれないので、私は仕方なくこの人たちと話をする。


「今日はシュトレイマン派の男子たちは一緒に登校しなかったね」


 いつも、リーズ親衛隊全員そろって登校するのに、今朝は4人少なかったのだ。


「どうも、昨日クロリーネが寮に帰ってこなかったらしくて、ちょっとした騒ぎになってたそうなんだよ」


「え、クロリーネ様が? そういえば、今朝も見かけなかったよね。いつもはお兄様がクロリーネ様を女子寮まで迎えに来るのに、今朝はお兄様も見なかったよね」


「それがさ、昨日の夕方アゾートさんがクロリーネを男子寮に連れて来てたんだよ。何か急いでいるようで、ダンさんが代わりに訪問許可申請出してたのを、俺見てたんだ」


「お兄様がクロリーネ様を? 何かあったのかな」


 そんなことを話していると、少し遅れてクロリーネ様が登校してきた。なんだ、登校が少し遅かっただけだったのか。


 だけどシュトレイマン派のみんなの様子が少しおかしい。男子たちが何かを一生懸命女子たちに話していて、それを聞いた女子が慌てふためいている。


 何かあったのかな。




 私がクロリーネ様に話を聞きに行こうとすると、いつものように、派閥の壁が私の前に立ちふさがる。


 リナ・フォックスとエリサ・フォックス、双子の男爵令嬢だ。


 いつもの私なら、ここですごすごと引き返しているところだが、クロリーネ様の事が心配なので、もう少し頑張ってみる。


「クロリーネ様が昨日居なくなっていたそうね。何があったのか教えてくださらない?」


 すると妹のエリサが無表情に答える。


「あなたはアウレウス派だから関係ない。あっちへ行って」


 そしていつもなら、私をグイグイ押し返すのだ。このエリサ、小柄な見た目に反してやたらと力が強いのだ。


 だけど今日は、姉のリナが妹を止める。


「はわわわ・・・や、やめなさいエリサ。リーズ様はシュトレイマン派に入られるかも知れないのよ」


 私がシュトレイマン派に入るって、どういうこと?


「リナ、どうしてコイツがシュトレイマン派に入るの?」


「それは私も聞きたいよ。どうしてですか?」


 するとクロリーネ様も私たちの方に来て、


「リナ様、派閥の皆様が何を騒がれているのか、わたくしにもちゃんと教えてくださいませ」


 なんか急に人が集まってきたな。


 後ろを振り返ると私の後ろにはアウレウス派令嬢のメリア様、ヒルダ様、ターニャ様が腕をくみながら恐い顔をして、クロリーネ様たちを睨んで立っている。


 その近くにはカレン様たち中立派の令嬢もいて、こちらの様子を、面白そうにうかがっている。


 私の親衛隊は・・・その様子を遠巻きに眺めている。




 あれ、ちょっと待って、この状況?


 私って今、この学園に入学して初めて、クラスの女子生徒全員と教室で絡めているのでは。


 これは快挙です。


 残念ながら、雰囲気は緊迫してますけど、これはこれでお兄様には後で自慢しないといけませんね。




 さて、クラス全員の注目がリナ様に注がれている。果たしてリナ様からは、どのような答えが飛び出してくるのか。



「はわわわ、はわわわ」


「・・・・・」


「はわわわ、はわわわ」


 なんなのコイツ、話が全く進まない。私はイラッときて、リナ様に少し声を荒げてしまった。


「はわわわじゃ、何もわからないのですが。どうして私がシュトレイマン派に入ることになるのでしょうか」


「はわ・・・あの、その、えーと、リーズ様のお兄様とクロリーネ様がご婚約されるからです。はわわわ!」


「どういうこと?」


 アルゴとの婚約が間違って伝わったのかな? だけどリナ様が話を続ける。


「き、き、昨日の夕方、クロリーネ様がアゾート様の寮のお部屋をお訪ねになったあと、そのまま夜もお帰りにならず、今日の朝になって二人が一緒に男子寮から出てきて、そのまま登校されたのです」


「「「えーーーーっ!」」」


 クラスの女子全員が一斉に悲鳴をあげた。もちろん私もだけど。


「そ、それって、お二人でともに一夜を過ごされたってことよね」


「しかも学園の寮で」


「は、ハレンチな!・・・でも、うらやましい」


「はわわわ、はわわわ」


 それを聞いたクロリーネ様は顔を真っ赤にして、慌てている。


「ご、誤解です。わたくしそんなことしてません」


 すると双子のエリサがクロリーネに詰め寄った。


「それではクロリーネ様は、昨夜はどこで何をして過ごされていたの? それからリナは「はわわわ」言うな。うるさい」


 そう言うと、エリサはリナの胸に思いっきり頭突きした。後ろにふっ飛んだリナの肋骨からは鈍い音が聞こえてたけど、大丈夫なのかな?


「エリサ様、そ、それは・・・言えないの。だってアゾート先輩との秘密だと、お約束いたしましたし」


「それは二人だけの秘密ということね。ますますクロリーネ様の純潔が証明できない」


「じゅ、じゅ、純潔?!」


「はわわわ、え、エリサ! そんなストレートな言い方はやめなさい。令嬢としての慎みに欠けますわ」


 そういって、今度はリナがエリサの胸に頭突きした。メキッという鈍い音とともにエリサが胸を押さえて、膝から崩れ落ちた。


 大丈夫なのか、この姉妹。




 クロリーネ様は完全にフリーズしてしまって、あまりの羞恥心に、顔を真っ赤にして手がワナワナしているだけだ。


 完全に壊れてしまった。


 そして私の後ろにいたメリア様がリナ様に向けて怒りをぶつけた。


「アゾート様は、フリュオリーネ様の婚約者です。例えクロリーネ様でも、そんなはしたない真似をして横取りすれば、王都の社交界でも大問題になりますわよ」


「はわっ、はわわわ!」


「とにかく、アゾート様もリーズ様もシュトレイマン派には絶対に渡しません。お近づきにならないでいただきたいものですわ」


「それはこちらからも望むところ」


 あ、エリサ様が胸を押さえながら立ち上がって、メリア様に言い返した。さすがこれまで私を拒み続けた、シュトレイマン派の鉄壁。頑丈にできている。


 そんなアウレウス派とシュトレイマン派の令嬢どうしのにらみ合いを、カレン様率いる中立派がニヤニヤしながら眺めている。


 まるで共倒れを狙っているかのようなスタンスだ。





 こうして私は、1年上級クラスの女子とようやく絡めるようになったのですが、同時に女の戦いの火蓋が切って落とされてしまいました。


 助けて、お兄様~

次回いよいよ春の舞踏会です。


ご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 学生で独立した男爵になるのがどれくらいすごいか珍しいのか描写が無いですが、ジルバリンク侯爵があわよくはアゾートを自派閥に取り込もうとするのは貴族としては当然ですね。 セレーネは皿まで黒焦…
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