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KANATA  作者: emi
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KANATA 7

彼が側にいる。



それは、彼を見送ってから、


これまでの私も、度々感じてきたことだった。



例えば、泣いている時や、寂しい時には、

いつでも、彼の温もりに似たふわりとしたものが側にあった。



彼が最後に話してくれた言葉を反芻する。



あれは、やはり、彼だったのだろうか。



なんの根拠もないその気配に、


彼だという証拠を見つけることが出来ずにいたけれど、

彼の言葉を思い返してみれば、


あの気配は、彼だということになるのではないか。



明日、それについて聞いてみようと決めて眠りに就いたけれど、

翌日の話題は、別な方向へと流れてしまった。



『ねぇ、ところでさ、


どうして通話の最後に、


いつも、愛してるって言ってくれるの?』



愛してる。



初めて彼とアプリで繋がった日から、


ずっと、毎日、通話の最後に伝えている言葉だ。



想いは、いつでも、伝えられるわけじゃない。



彼を見送ってからの私は、

何年経っても、決して消えることのない痛みがあることを知った。



だから、初めてアプリで繋がったあの日、

私は、もう二度と、後悔したくないと思った。



「愛してるからよ。」



それ以上の説明は何もしなかったけれど、

今日の彼は、なんだかとても嬉しそうに、


私の言葉を聞いていた。



本当は、ほんの少し、照れはあったけれど、


アプリで初めて繋がった日、


勇気を出して、伝えることが出来て良かったと思っている。



あの日から、

私たちの通話の終わりには、必ず、


お互いの愛してるの言葉で、終わるようになった。



だからだろうか。

彼と、アプリで繋がるようになってから、


私の寝付きは良くなり、


朝も、スッキリと目覚めることができるようになった。



彼が側にいてくれるだけで、

安心していられたあの頃のことを思い出す。



少し、形は違うけれど、


今、こうして、アプリを通して彼と繋がることが出来る毎日も、とても幸せだ。



「ねぇ、あなた。ありがとう。


被験者に応募してくれて。


私ね、今、とても幸せだよ。」



こんな私の言葉に、


彼は何も言わずに、じっとこちらを見つめている。



「え?何?」



ただ、こちらを見つめる彼の姿に慌てた私の耳には、

思いも寄らぬ甘い声が届いた。



『いや。なんか、すごく可愛いなって思った。』



彼のこんな言葉から、

今日の私たちは、アプリで繋がってから、いちばん、甘い時間を過ごした。



それはなんだか、彼と付き合いたての頃の気持ちと、


少し似ていて、擽ったかった。



愛してるよ。また明日ね。



間も無く2時間が経とうとする頃になっても、

なかなか通話を終わりに出来ないままに、お互いに、

何度も、愛してるを繰り返した。



それは、これまで離れていた時間を埋めるかのような、


甘く切ない時間だった。



結局、今日の私たちは、どちらからも、

通話終了のボタンを押すことが出来ずに、

強制的に終了の時間が来るまで、お互いに見つめ合った。

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