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KANATA  作者: emi
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KANATA 5

翌朝は、いつもよりも早くに目が覚めた。

昨日のことを思い出す。

あれは夢だったのだろうか。

彼の、また明日の声が鮮明に蘇る。



「夢・・・だったの?」



慌てて飛び起きて、携帯電話の画面を確認してみると、


やはり、ロックを解除した右下には、【KANATA】のアプリが入っている。

アプリの右上に1の数字がついている。

アプリをタップしてみれば、メッセージが表示された。



『今夜、8時に話そう』



これは、彼からのメッセージだ。

あれは、夢ではなかったのだ。

何処か遠い場所にいる彼が、私にメッセージを送ってくれた。



「あなた・・・」



胸の奥が、ほんの少し擽ったくて、


なんだかニヤけてしまうような、

こんな気持ちを、なんて言うんだったかな。



彼と出会ったばかりの頃と同じ感覚を思い出した私は、


携帯電話を抱き締めずにはいられなかった。





『これはね、こっちで開発されたアプリなの。

そっちに、有能な人がたくさんいるように、


こっちにも有能な人がたくさんいるんだよ。


このアプリのプロジェクトチームが出来たのは、


最近のことなんだけれど、


流石、有能な人は、やることが早いよ。


天才って、何処にいても天才なんだよ。』



彼の話に頷きながら、


こちらの世界を去った、著名人の顔を思い浮かべてみた。



「じゃぁ、そっち側でも、会社があるの?」



『いや、会社とは違うけれど、


まぁ、そっちで言うところの会社と思ってくれてもいいかな。

でもね、こっちの世界では、


働かされている、なんて人は、1人もいないんだ。


彼らは、研究が好きでやっているの。

ここでは、なんでも好きなことが出来るんだよ。

研究を手伝う周りの人たちもまた、


やらされているんじゃなくて、やりたいからやっている。

こっちは、そういうところだよ。』



彼がこの世を去ってから、私が見た彼の夢の数々を思い出していた。



いつだったか、彼は、私を向こう側の世界へ連れて行ってくれて、

案内してくれた夢を見たことがあった。



ここでは、なんでも好きなことが出来るんだよ



あの夢の中と同じ言葉を反芻する。

あの夢の中の彼は、きっと、本物の彼だったのだろう。



いつかの夢の中でのことを思い出していた私の耳に、彼の声が届いた。


『ねぇ、聞いてる?』



「あっ、うん。あなたは、そのプロジェクトに参加してるの?」



『俺は、被験者として、応募したら、採用された。

正確には、俺たちが被験者だけどね。

プロジェクトに参加してるのとは、少し違うかな。

SR8が、俺たちの被験者ナンバーだよ。

ほら、このアプリのメニュー画面左上に、小さく、SR8って書いてあるだろ?』



「うーん。確かに、何か文字が書いてあるような・・・」



画面から離れたり、近付いたりしてみたけれど、


その小さな文字は、よく見えなかった。



若い頃のように、


小さな文字が見えなくなってしまったことに気付かれたくなくて、


非常にゆっくりと、


画面の向こう側からは、


静止しているように見えるだろう感じで動いてみたけれど、


彼の楽しそうな笑い声が聞こえた。



『隠さなくてもいいよ。小さい文字、見えないんでしょ?』



あまりにも楽しそうに笑う彼に、なんだか悔しかったけど、


とても楽しくて、彼と一緒に笑った。



「だって・・・仕方ないでしょ!私、もう、おばあちゃんなのよ!!」



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