ボクが勇者?国を救え?はは、ご冗談を。~国を追放されたボクですが、実は勇者でした。今更戻るわけないだろ!俺は自由に生きるんだ!!~
面白い・続きが気になる!との声を頂ければ続編書きます(^。^)
勇者伝説って知ってるか?
世界を支配せんと大暴れしていた魔王を、勇者が倒し世界を平和に導くっていう良くある話さ。
そう、ボクのいる国・・・ジルフィール王国はそんな勇者様が興した国だ。といっても、魔王が倒されて何百年も経ってるんだけどね。
そんなジルフィール王国の貴族の子息には、十八歳になると必ず行われる特殊な儀式がある。それは、選定の儀と呼ばれ、王宮にある聖剣を引き抜くという儀式だ。聖剣に選ばれた者にしか聖剣は抜けず、見事聖剣を引き抜けた者は、勇者の称号と王の座を得ることになる。
一応、初代勇者・・・初代国王の血が濃いければ濃い程、聖剣に選ばれやすいらしい。今まで引き抜いた者が、一人もいないから本当なのかどうかわからないけど。
「シルスナ!勇者・・・いや、次期国王としてアルジラが命じる。貴様が俺に対してはたらいた数々の無礼、許されるものではない!・・・だが俺は優しい。本来ならば死罪だが、貴様を国外追放とする」
はい。見事に聖剣を引き抜き時期国王の座が確定した西の公爵家子息アルジラ=フォトナが、さっそくとんでもないことを口走ってますね。
しかし、よりによってアルジラかよ・・・
ボクことシルスナとアルジラは仲が悪い。いや、この場合は馬が合わないと言ったほうが正確かもしれない。アルジラはとにかく尊大な性格をしており、傍若無人な行動が目立つやつだ。実際にアルジラの起こしたトラブルは数知れない。
しかも面倒なことにやつは公爵家。アルジラを諫めることが出来るのは、王家か同じ公爵家であるボクしかいないときたもんだ。
アルジラが何かやらかす度に諫めてきたけど、やつはそれがかなり気に食わなかったらしい。
それにしても、まさか国外追放される程とは思わなかったけどね。
「おい!聞いてるのか!次期国王の言葉だぞ!」
「えーっと。・・・聞こえてはいるっちゃいるけど」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
喚くアルジラに、どうしたもんかと周囲を見渡す。すると現国王を始め、周囲にいたみんなが一斉にボクから目を反らす。どうやら、巻き込まれたくないようだ。
そりゃそうだよね。この国では、聖剣に選ばれるということは絶大な意味を持つ。今やアルジラは、この国一番の権力を得たと言っても過言ではない。そんな相手に、不興を買うのは得策ではないもんね。
それにしてもねぇ・・・
巻き込まれたくないのは分かるよ?でもさ、アルジラの傍若無人な行動を諫めるように頼んできたのは君たちじゃん?少しはフォローしてくれても良いんじゃない?
未だ私は関係ないですよと目を反らし続ける周囲に、ボクは幻滅する。
別に見返りを求めてたわけじゃないけど、ここまでそっぽを向かれると辛いものがある。
「とにかくお前は国外追放だ!いいですね?国王様」
「う、うむ。・・・シルスナ。ジルフィール王の名の元に、お主を国外追放の刑に処す」
「あっはははは。いい気味だシルスナ。さっさと荷物をまとめてこの国から出ていけ!」
「・・・わかった」
どうやら、国王は本格的にボクを切り捨てるようだ。今まで良いように使われてたようで、とても悔しいけどボクが国外追放なのはもう覆らないだろう。
ボクは国王とアルジラに対し短く答え、王宮に背を向ける。背中から勝ち誇ったかのように嘲笑うアルジラの声だけが響いていた。
「この公爵家の恥さらしがっ!」
家に戻ると、待っていたのは怒り狂ってる父上だった。どうやら、ボクが戻るよりも早く情報が届いたようだ。恐らく父が、王宮に放っている草の者辺りだろう。
「貴様のせいで、我が公爵家は存続すら危ういのだぞ!分かっているのかっ!」
「ですが父上・・・ぐっ」
「黙れ!口答えは許さぬぞ!」
反論しようとして殴られた頬が痛むが、普段温和な父上がここまで怒り狂っている意味を理解する。恐らく本当に家の存続が危ういのだろう。
「くそっ、どうすればフォトナ家の馬鹿息子の機嫌を・・・金?いや、女あたりか」
父上はまるでボクの存在を忘れたかのように、アルファイト家を存続させるべく必死に考えを張り巡らせている。
「・・・ん?」
「「・・・・・・」」
ふと視線を感じた。視線の先には、今までボクに良くしてくれていた執事やメイド達がいた。
彼らは、侮蔑の籠った冷たい目でボクをじっと見つめてくる。
ははっ、ここまで来ると笑うしかないな。
思わず笑ってしまった。いや、笑わないとやってられないってのが正しいのかな?
勇者という言葉は重い。この国で勇者は神と同義だ。崇拝されていると言ってもいい。そんな勇者に嫌われているボクは、まさに国民の敵と言っても過言ではないだろう。
今まで親身に接してくれていた執事やメイド達でさえ、この有様だ。領民達は・・・もっと酷いことになってるだろうな。
「何を笑っているこの恥さらしが!お前の顔など見たくもない。さっさと出ていけ!」
ボクが笑っているのが癪に障ったのか、奥に引っ込んで行ってしまった。残されたのは、ボクと依然と冷たい視線をぶつけてくる使用人たち。
「・・・うん。それじゃあ、出ていくよ。みんなも元気でな」
「「・・・・・・」」
声をかけても返事もしない使用人たちに、苦笑しつつもボクは公爵家を後にした。
「ふぅー、とりあえずどうするかねぇ」
ボクは現在、ジルフィール王国とエスバー共和国の国境にある森で野宿している。
何でこんなとこで野宿してるかって?答えは簡単。ジルフィール王国内で、ボクに宿を貸すとこなんか無に等しいからだ。今やボクは国民の敵、邪見にされるならまだしも酷い時は石を投げられた。
「石はさすがに答えたなぁ」
焚火に木をくべつつ、あの時の出来事を思い出してボクは一人苦笑する。これでも次期公爵として、いろんな事業に参加してきた。その中には慈善事業も多分に含まれる。
各村の衛生管理や適切な税の調整をしていたのもボクだ。別に見返りを求めてやってたワケではないが、自分の愛した領民に石や暴言を投げられるのは思っていた以上に心に堪えた。
それと同時にこうとも思った。人は平気で手のひらを返すと。
今思えば、ボクの人生って人を気遣ってばかりだったなぁ。
学園ではアルデラが何かやらかす度にフォローに回って、家に帰ると領民の為に寝る間も惜しんで事業を考えて・・・あれ?ボクってボクの為に時間使ってない?
「ははは。何かバカらしくなってきたな」
思わず笑ってしまった。この十五年間、ボクはボクの為に時間を使ったことがほとんどないことに気づいてしまったのだ。
しかもその十五年間の積み重ねは、勇者という存在で全てを覆されてしまった。全部無意味だったと言ってもいいだろう。
「・・・好きに生きてみるってのもアリなのかもな」
言葉に出してみると、意外としっくりと来た。・・・良いかもしれない。今更、失うモノなんて何もないし、自分勝手に自由気ままに生きてみよう。
それには、まずエスバー共和国へたどり着かないとな。
焚火を見つめるシルスナの目には、活力が戻っていた。
「ギャッ!」
「・・・ふぅ、やっと片付いたな」
剣にこびりついた血を払いつつ、ボクは額の汗を拭う。
ジルフィールとエスバーの国境の森の中を進むこと三日、ボクはフォレストウルフの群れを一人で片づけていた。
息絶えてるフォレストウルフを、ボクは浮かない表情で見つめる。
フォレストウルフの体躯は優に二メートルを超え、その牙や爪はとても鋭くそこいらに生えている木程度なら容易くへし折ってしまいそうなほどだ。
実戦経験がほとんどないボクが、このフォレストウルフに勝てる道理はない。しかし、そんなフォレストウルフに、たった一人無傷で勝ってしまった。しかもフォレストウルフの群れ相手に。
「・・・おかしい」
実は二日程前から、自分の体に違和感を感じていた。厳密に言うと、二日前に遭遇したはぐれゴブリンを倒した後からだ。
・・・あれはとても酷い戦いだった。実戦経験のないボクとゴブリンの実力は拮抗しており、三時間に及ぶ泥仕合・・・もとい激闘の末にゴブリンに何とか勝つことができた。
そしてゴブリンを倒した直後に、ボクは体に奇妙な違和感を感じだのだ。まるで力が漲るような・・・体が軽くなったような・・・
二度目の遭遇はゴブリンの群れだった。ゴブリン一匹に相当手こずったボクとしては、絶望しかなかったが出会ってしまったものはしょうがない。ボクは腹を括ってゴブリンの群れに飛び掛かった。
結論から言うと、ボクが勝った。圧勝と言っても良いほどに蹴散らした。そして再び感じる体への違和感。この違和感は魔物と戦う度に感じていった。
「やっぱり強くなってる」
そして極めつけは、このフォレストウルフの群れだ。ゴブリンより圧倒的な格上。それを容易に倒すことができた。
魔物と戦って倒すと強くなる。薄々感じてはいたが、今回のフォレストウルフとの戦闘でそれが確信に変わった。
「うーん。原理はわからないけど、これは使えるな」
何で強くなるかは全くわからないけど、これから身一つで生きていくには申し分ない能力だともいえる。
エスバー共和国に着いたら、冒険者として生計を立てていくのもアリかもしれないな。
「とりあえず、肉は食べるとして・・・牙と爪と毛皮ぐらい取って置くか?」
再度、フォレストウルフを見る。・・・解体できるかな?ボクは意を決して、フォレストウルフの体に剣を入れる・・・うぇっ、グロっ。
「人間、不思議なもんで・・・腹は減るんだよなぁ」
フォレストウルフの解体を終えた頃には、すっかり日が落ちてしまっていた。
ボクは幸い魔法が使えるから、焚火や灯りの確保には困らない。ちなみに今は、焚火でフォレストウルフの肉を炙ってる所だ。
解体してる時は、あまりのグロさに肉なんてとても食べれないと思ったけど。お腹が空くと、そんなの気にならなくなるんだね。人間って現金な生き物だわ。
おっと。そんなこと考えてたら、良い感じに肉が焼けてきた。
「それでは、いただきます。・・・うまぁ」
なんだこれ、なんだこれ!めっちゃ、美味いんだが!?ボクは一心不乱に、フォレストウルフの肉にかぶりつく。
自分でも言うのもなんだけど、ボクは元公爵家の人間。美味い物は食べなれてる。でも、このただ焼いただけの肉は、公爵家で食べてたものよりも格別に美味かった。
「はふっ、はふっ・・・ふう。美味かったなぁ」
もうおなか一杯だ。ボクは満たされたお腹をさすりながら満足する。
「しっかし、美味しかったなぁ。冒険者って実は良いもの食べてるのか?」
こんなに美味いモノが食べられるなら、冒険者になるのも本格的に検討しなきゃな。もしかして、ゴブリンも案外美味いのか?今度食べて・・・いや、やっぱりあれはないわ。
ゴブリンの肉を想像したところで、気持ち悪くなったのでやめておく。あれはないわ。
「ゴブリンは・・・捨て置くとして、他の魔物の肉は気になるな・・・次から積極的に狩るか」
ボクはフォレストウルフとの戦いを経て、自分の強さと魔物の肉の味を知ってしまった。魔物を倒せばボクは強くなる。そしておまけに美味い肉も食える。これはまさに一石二鳥ではなかろうか?
実際にボクがどこまで強くなってるのかは分からない。でもフォレストウルフの群れを余裕で倒せたことは事実だ。そして、その時よりボクは更に強くなっていると。
「・・・明日が楽しみだな」
本当は今すぐにでも、狩りに行きたいけどもう夜も遅い。はやる気持ちを抑えつつ、ボクは眠りに入る。
「・・・ちょっと調子に乗り過ぎたかな?」
魔物の肉の美味さに魅了されたボクは、気付けば森に一ヶ月も篭っていた。この一ヶ月間、ボクはあらゆる魔物を狩りに狩りまくった。
色んな魔物を狩っては食べて、そしてボクは気付いた。強い魔物ほど・・・美味いと!
三メートルはある鹿に、五メートルはある四本腕の熊。極めつけは全長十メートルオーバーの蛇等々、本当に色んな魔物を狩っては・・・食べた。そして気付いたら一ヶ月経ってた。
一ヶ月間も森でサバイバル性格を送っていたせいか、服はボロボロに破け髪の毛もボサボサ、髭もボーボーだ。
多分っていうか、どっからどうみても世捨て人みたいな風貌だよな。
「お、あの鳥美味いんだよな・・・ふっ!」
「ギョァッ!?」
おおよそ百メートル先の木の上に止まっている鳥型の魔物を見つけ、ボクは狙いを定め石を投げる。
ボクの投げた石は、一直線に飛んでいき見事鳥に命中し・・・貫通して森の彼方へと消えていった。
「あちゃぁ、力加減間違ったなぁ。食べるとこが減っちゃった」
魔物を倒すほど強くなるボクは、この一ヶ月間で尋常じゃなく強くなった。どれくらい強くなったかと言うと、ここいらの魔物程度なら素手で余裕で倒せるほどに強くなった。
というより、持っていた剣がボクの力に耐えきれず壊れてしまい、素手で戦わざるを得なかったというのが正しい。
「良かった。一番うまい胸肉は無事だ」
ボクは、仕留めた鳥を回収すると手慣れた手つきで解体を始める。肉は鮮度が命だ。倒して解体するまでの時間で、肉の味が大きく変わる。ボクは自作のナイフで、綺麗に鳥を捌いていく。
ちなみにナイフは、フォレストウルフの牙を研いだモノだ。色んな魔物の牙で試してみたけど、フォレストウルフの牙が一番切れ味が良かった。
「よし、こんなもんか。ぼちぼち戻るかね」
綺麗に剥ぎ取れた肉に満足したボクは、意気揚々と拠点へと戻ることにした。
サバイバル生活を始めたての頃は、色んな魔物が襲い掛かってきたけど、それを撃退してる内に魔物が襲って来ないようになった。まるでボクを避けるように行動していると言っても良いくらいだ。
恐らくだけど、ボクはこの森のヒエラルキーのトップに立ったんだと思う。この森のルールは単純だ。弱肉強食、この一言に尽きる。文字通り強い者が生きて弱い者が死ぬ。ただそれだけだ。
そのヒエラルキーのトップに立ったボクに、襲い掛かってくる魔物は最早皆無だ。
おかげで悠々と拠点を構えることが出来ている。
「到着ー。飯・・・には少し早いし、昼寝でもしようかな」
ボクの拠点は、森の中央にあるすっごくでかい木の根元だ。元々は六メートル位の筋骨隆々のゴリラみたいな魔物の縄張りだったんだけど、壮絶な殴り合いの末にボクがぶっ殺して奪い取った。
ちなみに肉は、筋張っててあんまり美味しくなかった。結構強かったんだけど、唯一不味かった肉はあのゴリラだけだったなぁ。
「ふぃ~」
熊の毛皮で作った寝床に寝ころび一息つく。あの四つ手の熊の毛皮は、見た目に反して物凄く柔らかかった。解体している時に、これは絶対寝床に使うと決めたほどだ。
熊の柔らかくも滑らかな毛皮は、今もボクの体重を優しく受け止め包み込んでくれる。
この毛皮のおかげで、野宿とは思えないほどの睡眠がとれている。この寝床のおかげで一ヶ月もサバイバルできていると言っても過言ではないね。まぁ、一番の理由は肉が美味いなんだけど。
「もういっそ、ここに住もうかな」
最初はエスバー共和国に行くつもりだったけど、ここでの生活も悪くないんだよなぁ。
食べ物には困らないし、拠点にも不満はないしな。むしろ、ここを出ていく理由の方がないな。
「あぁ、一つだけあったわ」
思い出した。この生活での唯一の不満。
「米が食べたいなぁ・・・」
そう、ここには米がない。肉はある。野菜や木の実はそこら辺に生えてる。魚も川で捕れる。
米だけがないんだ。ここでの生活が充足してきた分、米への欲求が出てきた。
「王国にいたときは、当たり前に食べてたものがこうも愛しく感じるとはなぁ」
まさにない物ねだりとはこのことだな。
いよいよ我慢できなくなったらその時は、大人しく共和国にでも行きますかね。
「ん?この音は熊と・・・金属音?」
米のことを思い浮かべながら寝転がっていると、ふと微かに四つ手の熊の咆哮と何か金属がぶつかる音が聞こえてきた。
ふむ。どうやら四つ手熊と何かが戦ってるっぽいな。金属音がするからゴブリンか?・・・いや、ゴブリンがあの熊に敵うはずがないか。
「そうすると、残りは・・・人間か?」
いやいや、それこそあり得るか?この一ヶ月間、人の姿はおろか痕跡すら見てないぞ。
うーん。でもこの金属音って、剣撃の音にも聞こえるんだよなぁ。
「・・・見にいくか」
悩んでもしょうがない。行くのが手っ取り早いか。
「おーおー。やってるねぇ」
熊と誰が戦ってるのか様子を見にいくと、まさかの三人組の人間が熊と戦ってた。
斧を持った筋骨隆々のいかついおっさんと、大剣を持った筋骨隆々のいかついおっさんと戦斧を持った筋骨隆々のいかついおっさん三人組が、四つ手の熊と激闘を繰り広げていた。
「うーん。パッと見たとこ、熊のほうが優勢かな?」
おっさん三人組は、とても息の合った連携で熊に攻撃を仕掛けているが、熊はそれを三つの腕で全部防いでいる。さらには残った腕で反撃してくる為、おっさん達は攻めあぐねている感じだった。
「あの熊に苦戦してるのに、良くここまで潜ってこれたなぁ」
おっさん達が満身創痍なのに対し、熊はまだまだ余裕がありそうだった。ただこの熊、そんなに強くないんだよね。
この森の序列的には中の上くらいの強さだ。この森の魔物は、森の中心に行けば行くほど強くなる。
今いる森の深さを考えると、むしろ熊は弱い部類に入る。・・・森に迷ってここまで来ちゃったのかな?
「あっ、大剣のおっさんが吹っ飛ばされた」
色々と考えてたら、おっさん三人組が追い込まれてるな。まぁ、考えるのは後にして、今はおっさん達を助けて話でもしてみるか。
・・・そういえば、ボクって一か月ぶりに人と話すな。上手く話せるかな?やばっ、不安になってきたんだけど。
「えぇい、男は度胸。行くか!」
ボクは、意を決して熊とおっさん達の間に割り込むことにした。
「なぁ、助けはいるか?」
「なっ、お前!いつ出てきた!」
「な、何者だ!」
・・・めっちゃ警戒されてる。そりゃそうだよね。こんな森の奥深くに半裸の髪ボサボサ髭ボーボーの男が、いきなり飛び出してきたんだものね。そんなん俺でも警戒するわ。
でも、いくらなんでも武器を突き付けてなくてもいいじゃない!ちょっと心が傷ついたよ!
「いやー、ここの一ヶ月前からサバイバル生活してる者なんだけど。何か騒がしいから様子を見にきたらアンタ達が戦ってたもんでね」
「サバイバル生活っ!?」
「うそつけ!ここは魔の森だぞ!こんなとこに人間が一ヶ月も住めるわけないだろっ!」
「・・・えぇー」
えっ?ここってそんなヤバいとこなのっ!?魔の森とか初めて聞いたけど、名前的にヤバそうな感じがプンプンするわ。
もしかして、最初に出会った魔物がゴブリンじゃなかったらボク死んでた?
「そういわれても、本当に住んでるからなぁ」
「ほ、本当なのか?」
「お前、本当に人間か・・・?」
失礼な。今は世捨て人みたいな恰好してるけど、立派な人間だい。
「それで、助けはいるの?いらないの?」
「で、出来れば助けてほしい」
「分かった。なら、あの熊はボクが倒すけど良い?」
「お、おう・・・」
「倒せるのか・・・?」
「まぁ、見てなって・・・ってあれ?」
話がまとまり熊の方へと向き直ると、熊はボクから随分と距離を取っていた。
まるでいつでも逃げ出せるようかのように、今も後ずさりしてる。むむ。そういえば、あの熊ってボクを見るといつも逃げるんだった。
「お、おい。あのキングベアがビビってるのか・・・?」
「わからんが・・・あの様子だとそう見えるな」
「・・・ウソだろ?キングベアはBランクだぞ」
ほう、あいつキングベアって言うのか。Bランクって強い・・・のか?いまいち良くわからん。
でもあの熊、キングっていうほど強いか?昨日、鹿に蹴り殺されてるとこ見たぞ?
「まぁ、久々にあいつの肉を食べるのも悪くないかな。・・・よっと」
「グアッ!?」
「キ、キングベアが逃げ出しただ・・・と」
「キングベア一匹で村が一つ滅ぶとまで言われてる魔物が・・・?」
ボクが足元の石を拾った瞬間、熊が逃げた。その光景がショックだったのか、おっさん三人組が茫然と逃げる熊を見つめている。
っていうか、いやいや村が滅ぶってあの熊だよ?話盛りすぎでしょ。三日前は鳥につつき殺されてたよ?
「逃がさないぞっ・・・と!」
「ギャッ!!」
ボクは熊に向かって石を投げる。ボクの投げた石は熊の頭を・・・貫通し、森の彼方へと消えていった。
ズドーンっと、熊の倒れる音が森中に響く渡る。
「あちゃー、またやっちゃった。食べる部分が・・・まぁ、熊は肉多いからいっか」
「えっ?キングベアを石で?・・・えっ?」
「これは夢か?夢だよな?」
「一撃・・・」
何か知らんけど、おっさん達が顎が外れる勢いで驚いてる。何に驚いてるかわからないけど、今は熊の回収が先だ。
この森は弱肉強食の世界。倒した獲物は早く回収しないと、横から掻っ攫われるからね。油断はいけない。まぁ、ボクの獲物を横取りしようなんてやつは、返り討ちにしてやるけどね。
熊の足を掴み、引きずるようにおっさん達の元へ戻る。あれ?そういえば、ボク何を話そうとしたんだっけ?
あっ、そうだ。思い出したわ。大切なことだったわ。
「なぁ、おっさん。一つ聞いて良いか?」
「お、おう。・・・なんだ?」
ボクの問いかけに、斧を持ったおっさんが代表して答える。どことなくすっご緊張してるように見えるのはなぜだろう。
「いきなりなんだけど・・・米持ってない?」
面白いと感じたら評価お願いします!