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屋台から香るは美味しそうな食べ物の香り。思わず頰を緩めキョロキョロを視線を彷徨わせる。
「もう、やだわ。どれも美味しそうで選べない…」
右を向くと貝のワイン煮の串が。シャフラの好物だ。お金を渡して三本買って容器に詰めてもらう。
「シャフラ、喜んでくれるかしら」
上機嫌で屋台を巡ると美味しそうな肉の串が見えた。デュハンが好きそうだと思って買う。
「デュハンも喜んでくれたら嬉しいわね」
他にもいくつかの串達と美味しいお酒を買い、冷めないうちに帰ろうと家に歩を進める。木は葉の緑に飾られ、夏の花が風で踊っていて目が楽しい。
機嫌が良くて無意識に口ずさんだのは吟遊詩人が領地に来た時にお母様が気に入ってよく歌っていた英雄譚。私が歌うと本当に嬉しそうに笑うから、その顔が好きでリュートの練習までして披露した。そこには私と同じくらい幼いシャフラとデュハンがいて上達するたびにすごく褒めてくれた。
「あの頃は本当に楽しかったなぁ、これ以上ないほどに幸せで…」
溢れてきた涙を服の袖口で拭う。ガーターベルトに止められた短剣の硬質な感覚が今生きているのは自分であることを訴えてくる。
「生きてるのが、私じゃなくてお母様ならきっと…」
剣術や武術に才のない母親であったが頭が良くて領地の人にも愛されていて世渡り上手だったから私よりも上手く王家に対して立ち回れただろう。どれだけ私が冒険者になりたかったとはいえそれは領地と爵位を奪われてまでなりたかった訳ではなかった。それだけは避けるべきであった。代々受け継がれてきた血はそんなに軽いものではないし、途絶えさせるなど以ての外。私の他に正当な継承者がいるなら話は変わってくるだろうが今はこの身に流れる血のみが公爵足り得る血だ。
「馬鹿なラゼーネ。最初からこうなるかもしれないと気付いていたらもっとやり方はあったはずだもの」
陛下はきっと私を公爵家の人間として引き戻そうとして下さるでしょうけど、一度公爵家から降ろされた人間が公爵領を治めるのは周りの貴族が黙っていない。他貴族からちょっかいを受けながら領地を滞りなく治めるのは不可能だろう。それは領民のことを思えば尚悔しく思う。
「御先祖には謝っても謝りきれない…」
責めて怒って詰ってくれればいいのに思い出す父と母の姿は優しいところばかりで、早く領地に、父と母の元に帰りたいと強く思った。




