乙子ルート 第6日目①
貞君のアパート。
八月六日 午前四時四五分。
気が付くと、もう外は明るくなり始めていた。
む、もう朝か。
時計を見ると、目覚ましが鳴る一時間前だ。
ムダに早く起きてしまった。
けど、二度寝したら絶対に起きられないと思うし、目はもうばっちり覚めてる。
さっさと起きよう。
昨日用意したバッグを見ると、ものの見事にふくれていた。
バッグん中ァパンパンだぜ。
む、いくら海に行くからといって張り切りすぎたか。
まあいいさ。
持ってって後悔した方が持ってかないで後悔するよりはいいし。
オレは手早く朝食を済ませると、早めに家を出発した。
駅。
八月六日 午前五時二八分。
まあすることもないんで、三十分前には集合場所に来てしまったが。
所在なくボーッとしていると、ほどなく乙子がやって来た。
「あれ? 貞君、もう来てたの? 早っ!」
「なんか予定してたより早く目が覚めちまってな……。することないし、早めに出てきた」
「あんた昔っから遠足の前の日は眠れないタイプだったもんね。ガキ」
「骨の髄まで遠足を味わい尽くす男」の通り名は伊達じゃないわけで。
「家に着くまでが遠足」。
使い古された言葉だけど、オレは家に帰る直前まで遠足気分を満喫するような、そんな子どもでした。
今はもう遠足があるような歳じゃないけどな。
「ビッグなお世話だ。そう言うお前だって二十分前に来てんじゃん。人のこと言えねーだろ」
「遅刻するよりいいでしょ」
「まあな……。つか、そのセリフそのまんまリボンでもつけてお前に返してやる」
昨日と同じような会話をする。
……ライターの手抜きじゃないですよ?
「っていうか、なんなのよ? その大荷物は……。日帰りなのよ?」
「男の子には色々と必要なのですよ」
そんな会話をしていると、達人もやってきた。
「おー気張ったな、貞君。少し持ってやろうか?」
「ありがとう、友よ。だが大丈夫だ。気持ちだけ頂いておこう」
「すごい荷物ね。一体何が入っているのかしら?」
「あなたへの愛です」とか言いたいところだけど。
「夜のお供です」
と答えると、
「やらしー」
と乙子に言われてしまった。
しまった。「旅のお供」の間違いだった。




