第01日目 共通ルート③
③
ファミリーレストラン「ロイヤルポスト」内。
八月一日 午前十一時四十五分。
「ロイポ」ことロイヤルポストは真っ赤なポストのマークが目印のファミリーレストランだ。
ちょっと高めの価格設定とその反面、DQNが少なく落ち着いた雰囲気で割と人気がある。
プルルルル……。
そんなことを考えてると、ケータイが鳴った。
着信は……と。達人からだ。
どうやら音を拾えるように電話をくれたらしい。
オレが席に着くまで、音声で流れを補完してくれるつもりのようだ。
まったく、やることにそつがないな。
ここで「ヤることにそつがない」って書くと、なんかエロいから、それはやめておこう。
とにかく、達人たちが席に着くまではオレも待機。
少しの間、ラジオのように音声のみを楽しむことにしよう。
ロイヤルポスト・店内。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました」
今までそんな切り返され方をしたことがなかったんだろう。
ロイポの店員の動揺が目に浮かぶようだ。
しかし、彼女は頭を切り換えてすぐに業務を再開した。
うむ、プロだ。ファミレスの店員の鑑だ。
プロたる者、こうでなけれあいけません(中原○也風)。
「何名様ですか?」
「三名で」
「三名様ですね。もう一人の方は後から来られますか?」
「いや、見えてないだけでここにいるけど?」
電波な受け答えをする達人。
……冗談 ……だよな?
「……お席はすぐご用意できます」
つっこむ気も失せたのか、店員が華麗にスルーした。
「タバコはお吸いになりますか?」
「タバコより君のおっぱいを吸いたいんだけどね」
「セクハラ?」
女の子がツッコミを入れる。
「いいや、オレなりのコミュニケーションさ。自分、不器用ですから」
どこがやねん、とツッコミを入れたいところけど、今のオレは店外にいるわけで。
こんなオイシイツッコミどころを見送るしかない自分を歯がゆく思いながら、静かに成り行きを見守るだけだ。
「それで、禁煙席と喫煙席、どちらになさいますか?」
「そうだな……」
一瞬、考える達人。
「キミはタバコ吸う人?」
達人がそう尋ねると、女の子がふるふる、と首を横に振る。
「んじゃ、禁煙席で」
女の子に気を遣ったらしい達人は禁煙席を選んだ。
ヤツはヤニがないと生きていけない人種だけど、少しの間なら我慢できるみたいだからな。
とにかく、達人を見失うわけにはいかない。
そんなわけで、少し遅れてオレも店に入る。
オレは目立つことはせず、案内されるままに席に着いた。
もちろん、達人たちと同じ禁煙席だ。
まだ昼前とあって店内にはいくつか空席があった。
これでもう少しすると、ラッシュに入るんだろう。
割といいポジションを確保できた。
ここでなら会話もよく聞き取れる。
もう必要ないのでオレは達人との通話を切った。オレが払うわけじゃないとはいえ、ケータイ代も馬鹿にならないし。
こっからはほぼ聞き取りモードでいくぜ。
そんなわけで、オレの主観も交えたレポートをお楽しみ下さい。
「そう言や、自己紹介もまだだったね。オレは達人。『達人』って書いて『たつひと』。キミの名前は?」
「あたし? あたしはマイ」
マイちゃんか。見た目通り軽そうな名前だ。
……全国のマイちゃん、ごめんな。悪気はないんだ。なんとなく、ノリで。
「いい名前だね」
セオリー通りに達人が褒める。
陳腐って言えば陳腐だけど褒められて悪い気がする女の子はいないだろう。
オレは「いい名前」なんて言われたこと一度もないけどな。「変わった名前だね」とはよく言われるけど。
たいていの名前は学年に何人かはかぶるもんだけど、オレは今までの人生でオレと同じ名前のヤツに会ったことないからな。
まあ、確かに変わった名前は変わった名前なんだろう。
そんなことを考えてる間にも二人は会話を続ける。
「オレは学生なんだけど、マイちゃんは何やってる人?」
「あたし? あたしも学生」
「マジ? すげー偶然じゃん。きっとオレたちは今日出会う運命だったんだよ」
何気なく「運命」という言葉を口にする達人。
女の子は「運命」って言葉に弱いってなんかの雑誌に書いてあったような気がする。
「大げさなんだから~」
「いやいや、オレはけっこう本気で言ってるんだけど?」
押しが強いですね、達人さん。
そうやって今まで数え切れないほどの女の子を食ってきたのですね。
そして、もし「貴様は今までに何人の女の子とHしてきた!?」とか訊かれたら、「貴様は今までに食ってきたパンの枚数をおぼえているのか?」とか言っちゃうんだろうなあ……。
要するに女の子は主食なわけです、ヤツにとって。
……なんかムカつくけど。
オレがそんなことを考えてる間にも二人は会話を続けていたわけで。
「オレの家はこの辺なんだけど、マイちゃんはどの辺に住んでんの?」
「ここから二つ先の駅の三十路駅周辺」
「へー、そうなんだ。結構近いね。もしかしたら、今までどっかですれ違ってたりしたかもしれないな」
「そうだね」
「そのすれ違ってたかもしれない二人が今日出会えたってのはきっとなんか意味があるんだよ」
熱い眼差しで彼女を見つめる達人。
「そうかもね……」
反応を見る限り、まんざらではなさそうだ。
「ところで」
「なに?」
「オレは蟹座なんだけど、マイちゃんは何座?」
「乙女座」
「なるほど。確かに乙女座って感じだね。で、オレはA型なんだけど、マイちゃんは何型?」
「B型だけど……なんで?」
「いや、オレこう見えても相性とか結構気にするタイプなんだよね……。乙女座でB型。相性バッチリじゃん。本当にオレたちは今日あの場所で出会う運命だったのかもしれないな」
こんな風に口から出まかせ(多分)でどんどん話を続けていく。
さすが達人。
何気なく次々と個人情報を聞き出すとは。
何より会話を絶やさないテクがすごいぜ。
オレだったらああはいかないだろうな。
まず自分が話して、相手がその情報を話すようにもっていく。
まったく抜け目がありませんね。
そんな風に二人はオーダー後も延々と他愛のないおしゃべりを続けていた。
で、ほどなく料理が運ばれてくる。
「ガーリックステーキセットのお客様」
「あ、オレオレ」
オレオレ詐欺でも始めそうな雰囲気で達人が料理を受け取る。
……いや本当にそんなノリだったし。
しかし、達人はまだ料理に手をつけようとはしなかった。
そんな達人に気づいたマイちゃんが声をかける。
「あ、先に食べてていいよ? 料理、冷めちゃうし」
「いいよ、そっちの料理もすぐ来ると思うし。それにメシは一緒に食べた方がうまいじゃん?」
そう言ってマイちゃんの料理が来るのを律儀に待つ達人。
こういう心配りはさすがとしか言いようがない。
そんなことを考えてる間にも二人の会話は続く。
「変わってるよね。ナンパしてるっていうのにそんなにガッツリしたメニュー頼むなんて」
「精をつけとかないといけないからな」
言うまでもなく、これからエロいことをする予定だからだ。
もちろん、今食べたからといってすぐスタミナがつくわけないんだけど、それは気分の問題ってことで。
「お待たせしました」
あまり間がなく、マイちゃんの料理も運ばれてきた。
さすがファミレスだ。
早い。安い。うまい。
か、どうかはよくわからないけど、冷食バンザイ、レトルトバンザイ、マニュアルバンザイで早いことは早い。
とにかく、二人の前にオーダーした料理が並んだ。
「んじゃ、食おっか。いただきます」
「いただきます」
マイちゃんもきちんと「いただきます」をした。意外と礼儀正しいようだ。
達人のおごりだからマイちゃんは山のように頼むかと思ったんだけど、注文したのは普通の量だ。デザートはついてるけど。
まあ、女の子が食べる量なんてたかが知れてるからな。
メシ代一回分でSEXできるなら安いものだろう。
まあ、本当にできるかどうかは達人の手腕次第なんだけどな。
そんな流れでしばらく二人は談笑タイムに突入しながら食事をした。