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乙子ルート 第2日目⑥

「あ、貞君」


 と、そこで乙子に遭遇。


 うむ、とてもご都合主義な展開だ。


「よう、乙子。こんな所で何やってんの?」


「あんたこそ何やってんの?」


「質問を質問で返すなあーっ!! 疑問文には、疑問文で答えろと、学校で教えているのか?」


 オレはキレるフリをした。


「何よ、いきなり……。びっくりするじゃない……」


 わけもなくキレ気味のオレに驚く乙子。


 まあいい。言い争ってる時間がもったいない。もったいないお化けが出るぞ。


 そんなわけでオレから答える。


「オレは今から帰るとこ。オトコは?」


「あたしはせっかく海に行くんだし、新しい水着を買おうと思って」


「ほう、そうですか。それは楽しみですな」


「貞君……」


 乙子にしては珍しく、ややためらった後にようやく切り出した。


「時間があるなら付き合ってくれないかな?」


「別に構わんが?」


 特に用事があるわけでもないオレはその申し出を快諾した。


 乙子がほっとした表情を見せる。


 あの、乙子さん。水着くらい一人で買いに行けますよね?


 ともあれ、そんな経緯を経てさっきとは別の店ではあるが、再び水着売り場にやってきた。


「せっかくだから貞君が選んでくれないかな?」


「と、言われましても」


「お願い」


「オレにセンスとか期待されても正直困るんですが」


「貞君が選んでくれた水着なら絶対に文句言わないから」


「絶対?」


「絶対!」


「絶対の絶対?」


「絶対の絶対!」


「そこまで言うなら」


 そんなわけで末理さんに引き続いて乙子の水着も選ぶことになった。


 さて、どうしようか。


 乙子の趣味に合わせるのなら、布地多めのスポーティーな水着でいいと思うが、それだったら自分で選ぶと思うし、それは求められていない気がする。


 エロい水着を着た乙子を見てみたい衝動がある反面、水着ってのは公共の場で着るものであって。


 あんまり乙子の肌をどこの馬の骨ともわからん有象無象の男どもに見せたくないぞ。


 だが、こんなチャンスはめったにないわけで。


 うーむ、悩ましい。


 あれでもない、これでもないと散々迷った挙句、オレは胸の布地が大きめの赤いビキニを選んだ。


 ビキニ姿の乙子を見てみたいが、あまり露出の多いものは他の男からエロい目で見られそうで嫌だ。


 ここら辺が妥協点だろう。


「この水着なんですが」


 乙子に選んだ水着を伝える。


「わかった。試着してくるね」


 そう言って試着室へ消えていく。


 厚めのカーテンの中から衣擦れの音がしてくる。


 カーテン越しに乙子が服を脱いでるかと思うと、幼なじみとはいえ、ちょっとドキドキするんですが。


「サイズはどうですか?」


 手持ち無沙汰なので、店員みたいなことを訊いてみる。


「下はいいんだけど、上が……」


 なんと! そんなけしからんおっぱいに成長しているんですか。


「悪いけど、店員さんにもう一つ上のサイズがないか訊いてきてくれない?」


 そう言って、カーテンから手だけ出してオレに脱ぎたての水着を手渡してくる。


 服を着るのに時間がかかるので、おそらく今乙子は下着姿なのだろう。


 手渡された水着についさっきまでこの中に乙子のおっぱいが入っていたのかと思うと、落ち着かない気分になったりならなかったり。


 ともあれ、オレは店員さんにワンサイズ大きい水着を探してくれるよう頼んだ。


 ややすると、店員さんから試着室の中の乙子に水着が手渡された。


 水着を持ってきてもらった乙子はしばらく中でガサゴソやって出てきた。


 どうやら今度は大丈夫だったらしい。


 しかし、試着室から出てきた乙子だったが、水着ではなく私服を着ていた。


「恥ずかしいから、見せるのは海に行った時ね」


 そう言って、レジに向かい会計を済ませる。


 Oh、海に行くまでおあずけですか。


 まあ、海での楽しみが増えるわけですが。


 店から出ると乙子が声をかけてきた。


「貞君」


「なんでしょうか?」


「水着選んでくれてありがと」


 乙子の顔が赤い。それは夕日のせいだけではないような気がした。


「お、おう」


 オレの方もなんとなく気恥ずかしくなってしまい、調子が狂う。


 ここはなんとしても違う話題を振らねば。


「海といえばスイカ割りですよね。スイカ割りならオレはこの宇宙の誰にも負けませんよ」


「あんたそれくらいしか取り柄がないもんね」


 ようやく乙子が本来の調子を取り戻してくる。


 うむ、いい感じだ。


「なんだとう!」


「本当のことでしょ?」


「オレは百八つのあだ名をもつおとこ。取り柄でいっぱいですよ」


 そんないつも通りの会話をしながら、オレと乙子は帰路に着いた。

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