乙子ルート 第2日目③
③
そこに達人と乙子に出くわした。
「よう、貞君。奇遇だな」
「おう、達人。土偶だな」
「どこからつっこめばいいのかしら?」
オレのボケに光の速さでツッコミを入れる乙子。
「あら、貞君くんのお友達?」
そこに末理さんが口をはさむ。
「お友達、っていうか幼なじみです」
律儀に答えるオレ。
「で、その美人なお姉さんはどこのどなたののかしら? 説明してくれるわよね、貞君?」
そう言って満面の笑みを浮かべる乙子。
しかし、その後ろにはゴゴゴ……とか聞こえてきそうなほどの迫力があった。
乙子さん、笑顔で威嚇するのは止めて下さい。怖いから。
いや、マジで。
しかし、なんかの漫画で「笑うとは本来攻撃的な行為である(うろ覚え)」みたいな説明があったような気がする。
ってことは別にいいのか。いや、良くない(反語)。全然良くない。
しかし、乙子はいったい何に対して怒ってるんだろうか? サッパリわからない。
もしかして、オレがキャバクラのおねーちゃんと同伴してるとでも思ってるんだろうか。
そんなピンチっぽいオレに親友である達人が助け舟を出してくれる。
「やるじゃん、貞君。で、どこでこんな美人と知り合ったわけ?」
「どこって……執事喫茶で」
「はぁ? 執事喫茶? なんであんたがそんな所に行ったのよ? メイド喫茶ならまだわかるけど」
「べ、別に執事が見たかったわけじゃないんだからねっ! のどが渇いたから行っただけなんだからっ! カン違いしないでよっ!」
「……」
「……」
達人と乙子が押し黙る。
時が止まった。
これがオレのスタ○ド能力『ときとめメモリアル』だッッ!!
略して『ときメ○』。
……版権的にまずいか? コレ…。
まずいよな?
じゃあ、今のはなかったということで。
そういう方向で。
「何、それ?」
オレのスタ○ド能力発動中にもかかわらず、乙子が口を開いた。
彼奴め、やりおるわ。
「いや、これからはツンデレキャラで売っていこうかと」
「……気持ち悪いんだけど」
「素で言わないで下さい、傷つくから……」
立ち話しをするのも何なので、結局近くの喫茶店にオレたちは入った。
で、飲み物のみ注文。
ウェイトレスが去ると、直球で乙子がオレに質問をぶつけてきた。
「で、あんたはこのお姉さんと何の話をしてたわけ?」
「なんの話って、別に……」
オレは口ごもった。
乙子は同い年のくせにオレの保護者面をしたがる悪いくせがあるので、「末理さんと海に行く」なんてバカ正直に話しちゃ日にはその場でご破算にされる可能性が多分にあるわけで。
こいつは口が裂けても言えないぜ。
と思っていた矢先。
「私と貞君くんで海に行くって話よ」
悪気もなくばらす末理さん。
終わった。オレの夏は終わった。
「これで何もかも終わりだ……。任務完了……」
腐女子に大人気だったタンクトッパー&スパッツァーの少年の美声が脳裏にこだました。




