乙子ルート 第1日目②
②
「ドラゴンチェリーを探してるの」
「ドラゴンチェリー?」
ドラゴンチェリー……。ドラゴンチェリー……。ドラゴンチェリー?
ドラゴンさく……版権的にやばくないか? これ……。
オレのそんな細やかな気遣いはお構いなしに彼女の説明は続いた。
「男の子の大事なところに星型のほくろがある七人の童貞のことよ。星の数は一つから七つまであって、Hをするとその星は消えちゃうの」
「はあ……。で、その七人の童貞とHすると何でも願いがかなう、とか?」
「……よくわかったわね。その童貞くんたちとHするためにお姉さんは世界中を旅してるの」
世界中とはまたそれは豪気な話で。
「簡単に言いますけど、単純に世界の人口の半分が男だとして三十億人くらいいるんですよ? それって砂漠で落としたダイヤを探すようなもんじゃないですか?」
彼女に『童貞を特定できる特殊能力』とかがない限り、オレの言った例えより難しいことかもしれない。爺さんでも童貞とかもいるかもしれないし。
大体なんのあてもなくSEXしてたらアソコが擦り切れてしまうんじゃないかと思う。
けど、バトルマンガとかでこの能力もってても何の役にも立たないな。
「童貞だってわかったから何?」って感じだ。
せいぜい敵に「お前童貞だろ」って言って精神的なダメージを与えるくらいが関の山だろう。
そんなアホなことを考えていると、彼女が質問に答えた。
「確かにその通りよ。なかなか頭がいいわね」
褒められた。
「ナデナデしてくれません?」
調子に乗ってみた。
ナデナデ。
「ウホッ、いいナデナデ」
本当にしてくれた。冗談だったのに。う~む、なかなか侮れない人だ。
「話を続けるわね。私だって闇雲に探してるわけじゃないの」
「んじゃ、どうやって?」
「このチェリーレーダーを使って、よ」
そう言って彼女はバッグから例のブツを取り出した。
それが彼女の言う『チェリーレーダー』らしい。
そのレーダーのデザインはものすごくどこかで見たようなものだった。
ピコーンピコーン。
そして、彼女がスイッチを入れると光が点滅しだした。
「ほら、今現在位置が点滅してるでしょ? この光があなたよ」
「なんですと?」
「って……あなた、ドラゴンチェリー!?」
ワンテンポ遅れて驚く末理さん。端から見ると、一人ノリツッコミやってるような感じだ。
そういや、確かオレのアソコにも四つほど星の形をしたほくろがあったな。
見たの中二真っ盛りの頃だったから、見つけた時は「こんなほくろがあるなんてオレは選ばれた人間なんだ!」とかほんの一瞬思ったけど、場所は根元の方だし、中二力が衰えたんでそんなことすっかり忘れてました。
え、お前なんでそんなこと知ってるのかって?
読者諸兄は思春期には自分の体はどっかおかしいんじゃないかと思って、アソコについて色々調べたりしませんでしたか?
男の子も女の子も一度は通る道だと思いますが。
ま、それはそれとして。
見た感じ、倍率は最小のようで、今彼女の周りにいる男はオレだけだ。
まさか、オレがドラゴンチェリーだったとは……。お約束にもほどがあるぜ。でも、オレにはそれ以上に気になることがあった。
「……」
「急に黙り込んじゃってどうしたの?」
「……やばくないですか? そのデザイン……」
「……イラストで出さなければ問題ないわ」
そんな大人の事情でレーダーのデザインはお見せできない。
まあ、見慣れたあのデザインだから、それは君の脳内で補完してくれ。
ちゅうことで。
「で、末理さんのかなえたい願いって?」
「それは……」
「それは?」
「ひ・み・つ」
やっぱ、まだ知り合ったばっかだし教えてはくれないようだ。まあ、その辺はおいおい教えてもらうとして。
この話を聞いた感想は……なんか色々ギリギリだ。設定とか、デザインとか。まあ、ネタなんだろうけど。
それにしても、わざわざレーダーまで用意するなんて芸が細かいな。童貞狩りが趣味なんだろうか。
そんなことを考えていると、オレにとっては願ってもない提案を彼女が持ちかけてきた。
「それで、相談なんだけど……お姉さんが手取りナニ取り教えてあげるから、貞君くんの童貞、お姉さんにくれない?」
「……」
……ネタじゃないのか?
さて、どうしようか。
「……」
少し迷った挙句、オレは考える猶予をもらうことを提案した。
何故かただの幼なじみにしか過ぎない乙子の顔が浮かんだり浮かばなかったり。
かっ、カン違いしないでよっ! 別に乙子のことなんて好きじゃないんだからねっ!
「少し考えさせてもらえませんか?」
「どういうことかしら?」
「オレ、末理さんのことほとんどなんにも知らないんですよ。そんなんじゃソープ行くのとなんも変わんないです。オレはただ童貞切れればいいや、って思ってるわけじゃないんで。さすがにすぐ、ってのは無理です。もっと末理さんのことを知った上でなら、そういったことも考える……ってのはダメですか?」
「……あなたの言う通りかもね……。しばらくあなたに付き合うわ。それで私に童貞を捧げてもいいと思ったら、あなたの童貞をちょうだい」
「それって……」
「契約成立ってこと」
「それじゃ、しばらくの間よろしくお願いします」
「こちらこそ。しばらくは普通にデートしてみましょうか。その方がお互いにどういう人間なのかよくわかると思うし。って言っても、ある程度はあなたのこと、わかったけど」
「それで、オレはどんな人間ですか?」
興味本位で訊いてみた。しばらくオレに付き合ってくれるっていうし、そんなに悪い印象ではないと思うけど。
「一言で言えば、面白い子ね。おかげでしばらく退屈せずに済みそうだわ」
「ありがとうございます」
「まあ、今あんまり言っちゃうと、明日からの楽しみがなくなっちゃうから今日はこのくらいにしておくわ」
「そうですね」
「じゃあ明日の十時にまたここでね」
そう言って、末理さんは伝票を持って席を立った。
「あ、お茶代くらいオレが」
「キミ、学生でしょ? 社会人のお姉さんに任せなさい」
「ありがとうございます。それじゃ、ゴチになります」
オレはあっさり引き下がった。男は引き際が大事なのだ。
次の機会があったら「今度はオレが」ってことにすればいいだろう。
そんなことを考えつつ、彼女の後姿を見送った。
オレはコーヒーを飲み干すと、執事喫茶を後にした。
女には色々準備がある、と末理さんは言っていたけどそれはオレも同じじゃないか?
デートに着ていけるようなしゃれた服とか持ってないし。
そう考えたオレはまず本屋に行ってファッションとヘアスタイルとデートコースの雑誌を買った。
一回家へ帰って二時間くらい流行とデートコースについて勉強。
んで、服屋に行ってから美容院(いつもは床屋だけどな)。
そんなんでオレの午後は潰れた。
んで、もう寝る時間だ
女の人と付き合うのって(本当に付き合ってるわけじゃないけど)大変なのな。
少し達人のことを見直したぜ。あいつにとっちゃこんなことは日常茶飯事だからな。確かになんとなく生きてるだけじゃSEXはできないぜ。
とりあえず、明日からだ。明日からがんばろうぜ。
そんなことを考えつつ、オレは眠りについた。




