五、堂島ルート(後)
まだ、放送業界の倫理観が緩かった頃のこと。
絵本や図鑑が好きだった堂島少年は、動物たちの生態について特集しているドキュメンタリー番組に夢中になっていた。
インドの山奥に棲息するという珍しい野鳥に目を奪われたり、コーカサスの森にしか居ないという昆虫に興味を惹かれたりと、毎週の放送を楽しみにしていた。
そして、密林に潜む大蛇を特集した回でのこと。
いつものように興味深く視聴していた少年の目に、忘れられない映像が飛び込んできた。
それは、人間の胴体ほどの太さの蛇が、カバを丸呑みにするシーンを映したものだった。
*
「ヒッ! 来ないで!」
消防士か、あるいは沙悟浄が持っていそうな刺股を手にした堂島は、ジリジリと迫り来るアオダイショウに向かって、それをデタラメに振り回していた。
『そんな逃げ腰では、一匹も捕まえられんぞ?』
「嫌だ! 僕は、食べても美味しくないよ」
『ヤレヤレ。聞く耳を持たん奴じゃな』
アオダイショウたちは、堂島が振り回す刺股をノラリクラリと器用に避けながら、徐々に距離を詰めていく。
堂島は、恐怖で蒼い顔をしながら、それらから逃げようとする。が、それほど広い店内でも無いので、程なくしてコーナーに追い詰められてしまう。
『ホレホレ。もう、逃げ場は無いぞ?』
「南無三!」
腰が抜けてへたり込んだ堂島は、諦め半分で刺股を振り下ろした。すると、偶然にもそれが一匹の蛇を挟む形となり、挟まれた蛇は光の玉へと変化し、そのまま宙を飛んで天井のランプの中に入った。
『はぁ、かろうじて一匹倒したか。じゃが、もう時間切れじゃ』
「うぅ。しにたくないよぉ……」
『安心せい。命までは奪わんわい。しかし、相応の罰は受けてもらうぞ。ソレッ!』
掛け声とともに、堂島の身体に変化が生じ始めた。
「う、動けない。誰か、助け……」
堂島の両腕は、気を付けの姿勢で胴体に張り付き、両脚もピタリとくっついてしまう。
しばらくはグネグネとあがいていたが、やがて、身体中の皮膚から青白い鱗が浮かび上がり、そのまま細長く収縮していくと、最後には他の二匹と変わらない姿になった。