97:生存者
ムラマサ達を襲った謎のキャラクター消失現象から一夜が明け……
97:生存者
その日、マジホリRSプレイヤーの六割に近いキャラクターデータ全てが消えた。
翌朝、始業前に教室で大声で泣き出したソノカをコウヤが親身になって慰め、節操のない男、などとカナリを呆れさせつつ、結局、カナリ、ソノカ、ハナミ、ウスデ、モジヤらのキャラクターデータも全て消滅。
全プレイヤーの間で大混乱が発生していた。
「で……どうして貴方達だけ無事なのか、何か納得の行く説明が欲しいわね」
「って、言われてもなぁ…… 俺にもさっぱり」
元々壊れかけたゲームだった。
こうなったらなったで仕方ないと、カナリはいくらか割り切っているようだったが、それでもやはり、コウヤ、マヤ、ユウイ、ユウリの四人が全員生き残っているという事には、少々理不尽さを感じているようだ。
「いえ、説明は付きますよ」
丁度、ユウリが遅刻ギリギリで登校してきた。優等生にしては珍しい事だが、遅れた理由は察しが付く。
「消えたのは、全員、MODで追加されたキャラクターです」
「「ああー!!」」
ユウリの言葉に、コウヤとカナリは声を合わせて驚き、納得する。
本来、マジホリのプレイヤーキャラクタークラスは、
パラディン、ウォリアー、ソーサラー、アーチャー、ネクロマンサー、ドルイド、アサシン、
の七種類。
他のキャラクターは全てMODによって追加されたものだ。
「なぜこんな事になったのか、というのを皆でずっと調べていて、今日は少々寝不足で……」
虚無を倒し、ようやく落ち着いて日常生活を過ごせると思った矢先、サイバラや山田マン達にも実に災難な事だった。
が、このような特徴的な現象で、原因の特定が容易だった事もあり、結果は一晩で割り出せた。
「簡単に説明すると、こういう仕組みになっているのですが……」
ユウリは、ノートにサラサラと簡単なゲーム内の仕組みを書いてみせた。
本来、追加ボスを倒した際の処理は、こうでなければならない。
・イベントボスが死んだ
>どこのボス?
>50の場合、一層ボスを処理
>100の場合、二層ボスを処理
>150の場合、三層ボスを処理
>200の場合、四層ボスを処理
>どれでもない場合、エラーとして処理
しかし、RSMODでは、この「どれでもない場合」の一行が欠けていたため……
ユウリは、この一行を消し、下に続きを書き足す。
・イベントボスが死んだ
>どこのボス?
>50の場合、一層ボスを処理
>100の場合、二層ボスを処理
>150の場合、三層ボスを処理
>200の場合、四層ボスを処理
↓ ↓ ↓
・MODバージョンの確認
>バージョンが正しくない場合、不正箇所を検出
>キャラクタークラスに問題がある場合、不正として処理
>キャラクターレベルに問題がある場合、不正として処理
……と、「イベントボス死亡時」から「バージョン確認」へと処理が飛び、以下延々と様々な不正確認の処理が続く。
不幸なことに、MODのバージョン情報を格納していたデータ領域も、200階ボスのデータ同様、一連の騒動で破壊されてしまっていた。
取り違えて読み込んでしまった数字は、「1」。
このゲームは、RSMODの最初期バージョン「Ver.1.0」であるとシステムが認識。
不正とみなす対象は、最初期には存在していなかった「追加キャラクター全て」だ。
そうして、一部、無茶なレベル上げを行っていた基本職キャラ等も巻き込みつつ、基本職以外の全キャラクターが凍結処理を受ける事になってしまった。
山田マン達は、現在必死にこの非常事態の対応にあたっているが……
「これで終わり、だな」
「そう、ですね……
少なくとも、インフェルノダンジョンの中で事態を解決するという、当初の作戦は失敗しました」
集めた8万個のポーションは、分散保管する8人のうち6人を失い、もう2万個しか残っていない。
加えて、仮にポーションが10万個あったとしても、もう勝つ事は出来ない。
撃破の要となる「瞬間強化」スキルを持つエンチャンターが全滅した今、+10ポーションで問題を解決するのは最早現実的ではない。
「もう、他に何もできる事はありませんの?」
「凍結データの復旧は可能になったんですが…… これが、かなり時間の掛かる作業でして」
復旧したいプレイヤーのIDを割り出し、凍結理由を割り出し、大量のファイル、大量の文字・数列の洪水の中から該当部分を見つけ、書き直す必要があった。
検索で該当箇所まで飛べればいいのだが、そうもいかない。
ハッキング対策で暗号化されたこのシステム、開発を担当したカノザキが存在しない今、全容究明は未だ成し得ていなかった。
結局、暗号化されたデータやファイルを一つ一つ手作業で処理して「どのファイルが目的のセーブデータなのか」「膨大なリスト上のどこを弄ればいいのか」を割り出さなければならないのだ。
先日山田マンとサイバラが復旧した2体のキャラクターは、「天使・吸血鬼が実装されると同時に作成されたキャラクター」かつ「レベルがランキング表示で確認出来ている」という事で特定が比較的容易だったが、今回はそうは行かない。
「僕も可能な限り手伝うつもりですが、何体復旧できるか……
出来て、一体がせいぜいかもしれませんよ」
「バックアップを上書きするだけではいけませんの?」
「バックアップはあくまで解析に使えるだけです。
正常の手順でメンテナンスを開始しない限り、タイムスタンプの逆行や連番のズレたIDの補正は……」
「よくわかんねーけど、とにかく無理って事は分かった」
腕組みして、コウヤは考え込むような仕草。
少し、悩んだ間を挟んで、コウヤは一人頷き、言う。
「分かった。
けど、まだまだ俺は諦めたりしないぜ。
最後の最後まで、出来るだけの事はやってみるよ」
「いや、待ってください、僕の話、分かってないでしょうコウヤ君」
「ま、いいのではありませんか?
無駄になろうと、どうせあと何日かの事じゃないですか。
気の済むまで、悪あがきを続けるのも……」
困った顔をするユウリ。
やれやれ、とカナリも肩をすくめる。
こうなったら、もう一層で虚無を仕留めるのは現実的ではない。
虚無を倒すのは、もうインフェルノダンジョンではなく、ストーリーモード内に持ち込まれると見るべきだ。
ゲーム内でのMAP管理番号で言えば、インフェルノダンジョン一層01階の次は、ストーリモード・難易度インフェルノのラスボスエリアだ。
ここならば、四層トップランカーの生き残りである一閃やブッチーも虚無の迎撃に出向く事が出来るし、ダメージ計算もインフェルノモードの補正によって、百万ダメージ達成の難易度が下がる。
虚無がストーリーモードに移動してくるのかどうか、来るとすればどのような影響を及ぼすのか、それは実際その時になってみないと分からなかったが、それでも、やはり一層で決戦を仕掛けるのは不可能であるとしか思えない。
その現実が見えている分、ユウリの頭の中では、もう完全に「どうすれば一閃のパラディンで虚無を倒せるか」という方向に切り替わっていた。
残念ながら、君の出番はもう無いよ……
そう言ってのける事も出来ず、ユウリは苦しさを胸の内に秘め、今は沈黙する。
出来るだけ、ゲームの仕組みを分かりやすく平易な言葉で説明するように、と思ってはいるのですが…
自分もそう本格的な知識があるワケでもないですし、本職の人が見たら鼻で笑われるかもしれません。
あまり深く考えないでもらえると助かります(汗)