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02:廃人への入り口

このゲーム簡単すぎね? コウヤは話が違うと憤慨するが……

02:廃人への入り口


「父ちゃん!! 終わっちまったぞ!」


コウヤは、腹立ち気味に父親に抗議の声を上げる。

じっくり遊べるゲームが欲しいと言ったのに、たった2日でクリアできてしまったのだ。

確かに爽快で、サクサク進めて、段階的にキャラが強くなっていく楽しいARPGだったが、これでは流石に短すぎた。


「だろぉ?」


だが、父は嬉しそうに、さも当然であるかのうな反応を示す。


「マジホリは、こっからなんだよ!」


再び古いパソコンを起動し、タイトル画面を表示。聖騎士KO-YAを選択する。


「ここから再スタートする時、こいつを見落としてただろ?」


名前の横に、緑色の四角いマークがあり、父はそこをクリックする。

と、緑の上にグレー、下に青のマークが出現する。


「グレーがイージー、緑がノーマル、青がハードモードだ」


「でもさぁ、もう一回同じ事やんの? ストーリー変わるワケじゃないんだろ?

話も薄くてありきたりだったじゃん」


「でも、簡単すぎただろ?

爽快にザコをふっとばせても、これじゃちょっと物足りない」


「うん……そうだね。ちょっとヌルすぎ」


「じゃあ、今度はまた新キャラ作ってハードやってみようか。聖騎士でハードに難易度変更してもいいけど、一からやった方がいい感じに難しくなるからな」


「ふーん……」


確かに、RPGは新しいキャラを作って、次々成長と装備更新を繰り返す時期が一番気持ちいいかもしれない。

その辺りをじっくり味わう前に、適当な装備のままラスボスを倒せてしまったし、もう一度キャラを作り直すのも楽しそうだ。

コウヤは、新たに死霊術師(ネクロマンサー)を作成し、難易度青=ハードモードを開始した。

この先にはまだ上の難易度があるんだよな、と、難易度赤をらくらくプレイしていた父の事を思い出す。

確かに、やりこみ甲斐はありそうだ。

コウヤは、なんとなく父の術中にハマッているようなのがシャクに思えたが、結局それから連日プレイを続け、一週間後にはハードをクリアしてしまった。


(で、次は……?)


父に尋ねるまでもなく、コウヤは難易度選択を開き、次のモードを確認する。

が、難易度赤は登場しておらず、難易度紫、ベリーハードが出現したのみであった。


(だろうと思った)


LV68で終わるなら、まだ難易度インフェルノには届くまい。

既に、コウヤは冒険の途上で手に入れた他のキャラクター用のレアアイテムを無駄にするのを惜しみ、サブキャラクターも作っていた。

キャラの作成上限は99人なので、父に迷惑を掛ける事が無いのも分かっていた。

当時インターネット上に作られた攻略サイトもまだ残っていたので、ある程度の知識は、調べれば分かる事だったが、「せっかくの初プレイなのだからと何も見ないでプレイしよう」と言うのがコウヤが父から教わった教訓であり、これにはコウヤも同意していた。

やってやろーじゃんか、と、コウヤはすっかりマジホリに本気になり、次への準備をし始めていた。


「コウヤ、どうだ? マジホリは?」


「うん。今ベリハのアクト4だよ」


「早いじゃないか」


「だろー」


父は満足そうに褒めるし、コウヤも悪い気はしなかった。

あまりゲームにハマりすぎるな、というのが父の教訓の中でも最も大切なものとして教えられていたが、それでも、たかがゲームであろうとも、自分の腕前と知識が高まって、強くなって先に進めるようになっていく感覚は、実に気持ちのいいものだ。

RPGにはプロゲーマーなんて道も無いし、やりこんだところで何かの役に立つ事は決してない。

それでも、この気持ちよさが病みつきになるのだ。


「じゃ、ベリーハードをクリアしたら、父さんがご褒美をやるからな」


「なんだよ、気になるじゃん!」


そう言われて嬉しくならない小学生はいない。コウヤは俄然やる気を増し、夜更かしをしてまた母に叱られる事になるのだが、日課になっているスマホゲームと平行しつつジワジワと攻略を進め、二週間後にはベリーハードの最終第七アクトをクリアしていた。

そして、予想通りに難易度赤、インフェルノが新たに解放されていたのだが、その難易度にコウヤは愕然とさせられる。


「なんだこれ!!」


一番最初に出現する最弱のザコモンスター、大ネズミの攻撃を一発食らっただけで、体力が四割ほど持っていかれた。

キャラクターは、ベリーハードをクリアする際に使った、聖騎士KO-YA、LV92だ。

装備は今まで手に入ってきたアイテムの中では万全と言ってよく、このようなダメージはあり得ない事だった。

そもそも聖騎士の高い防御力の上に、物理耐性も50%以上乗せて、属性攻撃以外は何も怖くない状態だ。システムがおかしいとしか思えない。

と、ステータスの各種耐性を確認して、コウヤは愕然とする。


「なんだこれ!?」


全ての耐性が、マイナスになっている。

物理耐性が-42%と言うことは、属性全てに-100%のペナルティが付いている事になる。

前衛の一番の弱点となる炎や氷などの耐性には特に気を付けていたから、それぞれスキルや装備構成を工夫して、高めになるように心がけていたのに、全てがマイナスだ。

大量の敵が襲いかかってくるこのゲームにおいて、攻撃を避けて戦うというのは不可能に近い。

そもそも、父はウォリアーの盾スキルで火炎攻撃を防いでいたではないか。


「父ちゃん!!」


どういう事なのか、問い詰めずにはいられなかった。


「だよな~~~?」


父は、ニヤニヤしながら、用意していた物を取り出して見せる。


「欲しかっただろ? ノートパソコン!」


確かに、ノートPCは前から欲しかったし、物置部屋のデスクトップPCでしかプレイできないのは不便だった。

だが、しかし、このノートPCは、明らかに、かなり、古臭かった。


「まあいいけど…… 嬉しいは嬉しいけど……

 で、これで、どうするん?」


「流石に、インフェルノをこのままプレイしていくのは、マゾい!

父さんみたいにLVを上げ続ければ正攻法でもなんとかなるけど、そんな事をさせる訳にはいかんからな。宿題もやらず、成績が下がって、廃人ゲーマー一直線だ。

だから、ここから先は、このゲーム本来の楽しみ方で行く」


「オンラインか!」


そう。オンラインモードだ。

マジカルホーリーストレングスは、本来、最大8人でパーティープレイ可能なMORPGだ。

物置のパソコンにはネット回線が繋がれていなかったから、当然プレイできなかったが、Wi-Fiの使えるノートパソコンなら、部屋でくつろぎながらチームプレイが出来る訳だ。

これがオンラインゲームである事は最初から分かっていた。そもそもオンラインを選択できないから、最初から諦めていただけだ。


「オンライン用にキャラを作って、また一からやり直しになるが、ベリハまでは準備運動みたいなモンだってのはコウヤももう分かってるだろ?

インフェルノじゃ、インフェルノで手に入る装備を使わなきゃ生きていけないし、チームで戦わなきゃアイテム掘りも難しい。

オンラインの方はドロップアイテムもシングルより良い設定になってるから、ベリハで準備する事も出来る」


それで、ノートパソコンの出番か。

ここからが本番、というワケだ。全く、酷いゲームを勧められたものだ。一ヶ月近くプレイしてようやくチュートリアルが終わったような物なのだから。


「じゃ、やってみっか」


「父さん、オススメ設定で全部準備しといたからな。遊んでくれなきゃ泣くぞ」


「おっけーおっけー」


コウヤは、デスクトップよりかなり遅いノートPCの起動にやきもきしながら、ようやく立ち上がった画面で、マジホリのアイコンをダブルクリックする。


「あっ、そうじゃなくて…… まあいいか」


気になる事を言う、と訝しみながらも、コウヤは新たに聖騎士KOUYA-Xを作成し、オンラインモードを選択する。

オンラインモード用のゲームサーバーを探す画面に切り替わり、サーバー検索中、という文字が表示される。

が……


「で、どういう事?」


画面には、サーバーが見つかりません、と結果が表示され、サーバーリストは空っぽのままだった。


「うん。当然、こうなる」


「だから、どういう事?」


「当たり前だ。

なんてったって、このゲーム、とっくにサービス終了してるからな」


「はぁ!?」





タイトル回収。でもまだまだ本編開始は先!


<用語補足:「MORPG」>

MOとは、マルチプレイヤーオンラインのこと。複数人数で遊ぶオンラインRPGという意味になる。

これが大人数になると「MMO」となる。

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