19:本音を隠したまま
学級委員長カナリの思いがけぬ提案に、コウヤとユウリは……
19:本音を隠したまま
「で、委員長、何だって?」
コウヤは目を輝かせてユウリに迫る。無条件で大歓迎の構えだった。
「後でメールする、だそうだよ」
「えーっ なんだよ、気を持たせてー!」
ユウリは、内心彼女の参戦を歓迎しかねていたのだが、表立っては断れる理由が無い。
何せ、妹の恋路の邪魔にしかならないのでお前はダメだ、などとあの委員長に言えるはずもない。
もしここで反対すれば、コウヤの機嫌を損ねるだけでなく、意外に人望のあるカナリの友人達から、どのような反感を買うか分かったものではない。
一方、カナリの方も心穏やかではなかった。
あくまで、彼女にとってコウヤは踏み潰すべき害虫なのであって、出来るだけ関わり合いになりたくない存在。
少なくとも、彼女の脳内の理屈ではそうなっている。
では、なぜ苦痛の源に対して自分から接触しに行くのか?
……あの精神を乱す悪であるコウヤ本人と向き合い、これに勝つ。
これこそが大いなる存在、カナリという人間の往くべき、堂々たる道ではないか。
そして、あのコウヤに勝利を収めるためには、不本意ながらユウリに連絡を取らざるを得ない。
直接会話をするなど、不愉快極まりないから、避けるのは当然だ。
そんな彼女だったからこそ、お嬢様の取り巻きグループによる「本命予想」は混乱させられる。
流れは6:4でコウヤ有利であった。
そして、その日の放課後、ユウリの携帯にカナリからメールが届いた。
『いつどのようにして協力すればいいのでしょうか。
あと、どうすればACT5に進めるのですか?』
たった二行の短文。
ユウリは彼女らしいな、と苦笑いし、コウヤに見せる。
「どうすればも何も、魔王倒せばポータル出るだろ……」
「迷うようなMAPでも無いですしね。やはりカナリさん、ゲームは苦手なんでしょうか」
足手まといになるようだと、ますます迷惑なのだが、コウヤからしてみれば、ますますやる気が出てくる展開だ。
優等生のカナリに、自分でも教えられる事がある、というのはかなり嬉しい話であったし、人助けとなると燃えるタイプである。
「まず、マジホリを既にやっているというのが驚きですね」
「でも、流石にRSの事は知らないだろうしなぁ……
今度、ウチに委員長も呼ぶか!」
「えっ、えぇ…… そう、ですね」
そう、そうなのだ。
参加希望者は、一度は家に集まる事になるのだ。
彼女のPCにMODをインストールし、RSの事も詳しく教えなければならない。
その手ほどきは、当然コウヤが喜んで得意満面で請け負うだろう。
これは、大いに問題だ。
コウヤの隣には、我が妹がいなければならない。
家族ぐるみの人生設計に、陰りが差してしまうではないか。
「どうした? ユウリ、乗り気じゃないのか?」
「そんな事はないですが……」
この問題を、お姉さんに相談する、というのはどうだろうか?
マヤさんはユウイの事を気に入ってくれているようだし、きっと願いは僕と同じはずだ。
これなら、僕達の親密度も自然に増していくのではないか……
ユウリは、まただらしない顔になっていた。
(ははーん?)
コウヤは、これを「カナリと一緒に遊べる事が嬉しい」という反応だと誤解していた。
委員長とは成績を競い合う良きライバルだし、二人はお似合いだ、と、応援する気持ちにもなっていた。
本来、コウヤも姉とユウリの仲を取り持ちたがっていたはずなのだが、その前提の事はすっかり忘れてしまっているのが、小学生男子の浅はかさであった。
「よーし、じゃあ明日は委員長呼ぼうぜ!」
こうして、コウヤも、ユウリも、笑顔で委員長の参戦を認める事となった。
その夜、コウヤ達がアクト4の続きを始めるその前、早めの時間から、討伐隊のメンバーは四層に集まっていた。
侍のムラマサ、重装兵のカベ、忍者のキツネ、の先日の三名に加え、戦士のブッチー、射手の山田マン、の五名が集まった。
本日夜を跨ぎ、火曜の午前5時には定期自動メンテナンスがあるため、万が一のリスクが高い。
犠牲者が出た場合、5時までに死体を回収できなければ終わりだ。
何年も掛けて厳選に厳選を重ね、貴重な素材を投入して強化し尽くした「最終装備」が失われてしまう。
だから、時間的余裕を見て、速めに出発する事にしたのだ。
結局、特攻作戦は先送りになり、本日の作戦方針は、先日キツネが式神を使って新事実を発見した事に倣い、様々なスキルを連打して反応を確かめよう、という後ろ向きなものだった。
(いざって時は、まあ、俺の出番だな……)
山田マンは、PCの画面の前で険しい表情になり、準備を整えていた。
装備を変更し、「その時」の備えを進めている。
アーチャーで試せるかどうかが問題だが、このアーティファクトがあれば、ソーサラーの「瞬間転移」がアーチャーでも使える。
もしもの事を考え、手荷物の一角にこれを入れておく。
だが、これはどうしてもやる必要が出来た時のため、だ。誰だって、リスクは取りたくない。
慎重に慎重を重ねる事が日常となっている、インフェルノ中毒者は、誰だってそのはずだ。
これは万が一の備えだ。
こうして、月曜の夜19時頃、ムラマサ達討伐隊の三度目の挑戦が始まった。
さて、このフラグ、どうなりますやら。