18:問いかけ
学級委員長のカナリが、珍しくユウリに声を掛けてくるのだが……
18:問いかけ
「ちょっと、よろしいかしら? ユウリさん」
「……カナリさん?」
授業の準備で、ユウリが「集中モード」に切り替わろうとしていたその時、カナリが話し掛けてきた。
何事にも動じず、遠慮しないでずけずけと物を言うのが彼女の個性ではあったが、特に必要も無いのに彼女から話し掛けてくるのは極めて珍しい……と言うか、全くの初めてかもしれない。
何かと言うと成績や点数を張り合ってくるので、彼女にはあまり好印象を持っていない。
何か面倒な話を始めなければ良いが……と、ユウリは多少警戒気味にユウリは彼女に向き直る。
「マジカルホーリーストレングスというゲームのプレイヤーを募集しているのでしょう?
全く集まらなくて難儀しているとか……」
(!?)
堅物の彼女が、まさかゲームの話題を振ってくるとは。
しかも、コウヤと自分以外見向きもしないマジホリに食いついて来た!?
「私、困っている貴方達を見かねて、少々下調べをしまして……
協力しても良いと、そう思っているのです」
ザワ……
ただでさえ緊迫した空気になりがちなこの二人の会話に、クラスの多くの耳目が集中していた。
コウヤが散々うるさく勧誘していたため、コウヤとユウリが何やら古いゲームに熱中しているらしい、というのは広く知れ渡っていた。
が、まさか秀才で名高いお嬢様が興味を示そうとは、誰も思っていなかったはずだ。
(ほら!やっぱり! コウヤ君に近付くために勉強してきたのよ! キャ~~~)
(違うってば。本命がユウリ君だからああやって勇気を振り絞って話しかけてるんでしょ?)
(分かってないわね~ あのお嬢様にそんな度胸あるワケないでしょ? だから、ユウリ君経由なのよ)
(どっちにしても、カナリちゃんにしてはすっごい決断よね)
(ウンウン!)
誰も思っていなかった……という事もなかった。
カナリの恋の行方は、多くの女子が好んで注目している格好のゴシップネタであり、本日のこの一幕は、ある意味カナリファンクラブとも言える女子達からしてみれば、ビッグイベントだったのだ。
イケメンだけど人付き合いの悪いオタクタイプで、「残念なイケメン」と呼ばれるユウリ。
快活かつ清楚なお嬢様だが、いざと言う時全く頼りにならないため「ポンコツお嬢様」と呼ばれるカナリ。
この二人が協力して事に当たるのは、むしろ当然の流れだと思われていた。
ただ、近寄りがたい二人だからこそ、誰もおおっぴらにそうとは言わないだけで……
「おいっ! 委員長! 今、マジホリの話したか!?」
そこに、耳ざとく聞きつけたコウヤが参戦。身を乗り出し、顔と顔が至近距離まで接近する。
途端、カナリの顔が紅潮し、挙動不審になる。
「えっ あのっ…… それはっ……」
(お前は呼んでねぇ! 引っ込んでろチクショウッ!!)
カナリの心の中にいる暴言モードのカナリは、その精神の混乱を、攻撃と受け取っている。
コウヤという存在は、図々しく土足で上がり込むように距離を詰め、彼女の精神の安定を乱す、憎き相手なのだ。
だから、この心の乱れを、彼に徹底的に勝つ事で鎮めようと、そういう理屈が彼女の中で成り立っていた。
そのためのマジホリ参戦だ。
とある感情の発生に際し、それを本能的に恐怖し、そこだけはなんとしても避けるという作用が働いたが故の、非常~~~~に面倒くさいツンデレ理論であった。
「だから、ですね…… 私は……」
「なんだよ~ 参加したいってなら早く言ってくれればいいのに!
委員長みたいな真面目なヤツなら大歓迎だぜ!」
内心、ユウリは心穏やかでは無かったが、今は黙っておく事にする。
始業ベルが鳴り始めたからだ。
自分も集中モードに切り替えて行かなければ。
「じゃあ委員長、話の続きはまた後でな!」
「あっ、はい……」
ユウリは授業に集中し始め、コウヤは自分の席に戻る。
顔を赤くしたカナリだけが一人取り残される形になっていた。
(ポンコツすぎるだろ~~~~)
見守っていた女子達が、ため息をつく。
そんな女子達の様子を、不機嫌な顔で遠くから眺めている数人の男子達がいた。
「チッ……」
それは、まだ恋愛の絡んだ嫉妬では無かったが、明らかに敵意を剥き出しにした、声に出しての舌打ちだった。
wikiの掲示板は、次第に討伐隊の八人による書き込みが盛り上がりを見せ始め、真剣な「虚無」対策会議が始まっていた。
・移動速度のパラメータは1 ※検証済み※
・召喚NPCを倒した際の処理で、一瞬だけ動きが止まっている ※検証済み※
・攻撃は一切行わなず、接触した敵を即死させる(赤鎧から作った鉄ゴレが一発)
・倒されたNPCは死骸を残さない(死亡扱いではない?)
・全ての攻撃が0ダメージ(ダメージ表記を隠す能力の可能性?)
・最下層に発生し、階を越え、上に向かって移動している
以上を踏まえ、日常のトレハンに支障を来す存在として認知され、各プレイヤーがこれを脅威であると捉えたのだ。
そして、議論はやがて一点に収束し、どうしても結論を先送りにしなければならない流れとなってしまう。
どうしても試さなくてはならない事を、誰もがやりたがらないからだ。
つまりは、モルモット役である。
近接攻撃を仕掛けた事のあるプレイヤーのみ、「鑑定前」モンスターが、「未確認」モンスターへと変わる。
グレー一色の状態でボスの姿を見る事が可能となり、敵の体力ゲーシも視認可能となる。
ボスの名称、保有する能力、弱点・無効属性の有無、等は一度撃破しなければ分からないままだが、グレー状態に持っていけば、得られる情報は一気に増える。
だがしかし、何年も……多い者では十年以上、手塩に掛けて育てて来たキャラクターだ。
万が一、死体の回収が出来ない状態になってしまったら、絶望的な損失となる。
週に一度、火曜午前5時からの30分の定期自動メンテナンスを挟むと、床に落ちているアイテムは消滅する。
それは、死体となって転がっている装備品も同様だ。
まず、151階から装備無しで回収しに向かうのは無謀極まりない。
予備の武装で最下層を目指すのが現実的な対応ではあるが、これも難易度的に苦しい。
死んでもいいような武装で虚無に挑むというのも、やはり道中の戦闘が厳しく、難しい
普段なら、死んでしまった場合、パーティーメンバーに助けを求め、死体の近くにポータルを出してもらって回収する。
ソロプレイで死んでも、死亡して町に戻された後、他のガチ勢にパーティーを組んでもらえば、助けてもらえる。
メンテ時間までに仲間が死体の場所に辿り着いてくれれば、そこにポータルを出してもらえるからだ。
だが、虚無が相手の場合、そうはいかない。
死亡からの復帰ルートで、再び虚無と遭遇する可能性が高いからだ。
四回死ぬと、一番古い死体は装備ごと消える。
何度でもリトライ出来るワケではない。
死ぬ度に所持金が半額に減るし、経験値も0まで減る。
どれだけ死んでもレベルが下がる事は無いが、そのレベル開始時点から経験値の稼ぎ直しになるので、ガチ勢にはとても痛い。
だから、誰かが近接攻撃を仕掛けに行く必要があるとしても、誰も実験動物役などやりたがらないのだ。
58 山田マン ****/**/**(月) 17:11:59.88
ブッチーさん、何か裏技的な解決策無いですか?
59 ブッチー ****/**/**(月) 17:42:21.65
あったらとっくにやってるっつーの
60 カベ ****/**/**(月) 18:01:17.84
気持ちは分かりますが、そういう話は無しの方向で。
規約違反ですから、一応。
ハンドルネーム、ブッチー。
レベル751 ウォリアー(♂) BLACK_CHEATER
ブラックチーター、略してブッチーである。
自らチーターと名乗り、手段を問わず出来る事は全てする、というのがポリシーであり、自他共に認める卑怯者として知られている。
ムラマサやカベ達のようにストイックなプレイヤーからは嫌われているが、システム上出来ない事はしない、RS利用上の規約で禁止されている事はしない、というポリシーの持ち主であり、その存在は已む無く肯定されている。
ようするに、「法の抜け穴」を探すのが大好物、という人物だった。
一方で、頭の固いカベからしてみれば、「不正行為を助長する書き込みは禁止」というwikiの規約に抵触するからやめろ、という事になる。
彼にしても、藁にも縋る思いなので、彼が解決策を持っているなら、聞いてみたい所ではあったのだが、その気持は表に出さないでいた。
61 人形姫 ****/**/**(月) 19:15:45.77
で、どうする?
さあ、どうする?
その問いかけに、応えられる者はいなかった。
そう言えば、外見に関しては特に考えてなかったなぁ……
コウヤはツンツン主人公ヘア、ユウリはセンター分け、ユウイはツインテ、マヤは貞子気味……とか?(今適当に考えた)
カナリは…ほら、あれ、「若おかみ」のピンクのアレ。あのイメージ。