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16:アクト3、魔王ナートホープ

コウヤ達はアクト3ボスを目指し、魔王軍の砦に突入する。

16:アクト3、魔王ナートホープ



『じゃ、行くぜ!』


コウヤを先頭に、次々と魔王軍の砦に突入する四人。防御力の高い順に飛び込むのが定石だが、ここではそこまでの用心の必要は無い。

画面が砦内部に切り替わると、そこは魔王軍の厨房。汚らしい調理場を慌ただしく走り回るゴブリン兵は、こちらには気付いていない。

こちらに気付いた敵が角笛まで辿り着くと、大量の敵が狭い砦の通路内に押し寄せてくるのが厄介なのだが、難易度ノーマルではそれも怖くない。

勝手に攻撃しないように召喚NPCを消す必要もなく、強引なプレイでどうとでもなる。


『楽勝~』


寝ている敵や、鍋の前から動かない敵は格好の的。普段は空振りが多いユウイの溶岩攻撃も確実に命中していく。

ネクロの呪いスキルで鈍足化も掛かり、敵の群れは角笛に辿り着くどころか、ロクに移動を始める間もなく一瞬で殲滅される。

ささやかな戦利品を回収後、四人は厨房を出て廊下を進み、小部屋毎にまとまって出陣の準備を進める魔王軍のザコ兵士達を一隊一隊各個撃破していく。


『おっと、ごめん』


狭い通路では突進系のスキルが有用なので、コウヤはパラディンの盾スキル、「雷光の突撃」を使って敵群を貫通するように前後に往復する。

が、突進攻撃によって獣人兵の一体が弾き飛ばされ、遠く背後にある角笛のある場所に落下してしまった。

ブオオーと角笛が鳴り響き、MAP端の画面外から敵の大軍がワラワラと発生し始める。


『どんまい』


とは言え、経験値稼ぎには丁度いいくらいだ。一行は貫通スキルや範囲スキルを使って、これらを手早く掃討していく。


『この調子 サクサクいこ』


敵の死体から骸骨兵を補充しながら、珍しくマヤが先を促す。

やはり、ヌルゲー状態のノーマルモードとは言え、ゲームプレイは爽快だ。感情をあまり表に出さないマヤも、多少興奮気味になっている。


サクサク進行で操作が慌ただしい事もあって、チャットは必要最小限のまま、四人は黙々と敵軍を蹴散らし、砦の内部を進んでいく。

会話はなくとも、いかにも邪悪な敵軍とその拠点を叩き潰していくプレイは、(多少血生臭くはあっても)少年少女の心を滾らせるには十分だった。

一行はそう時間を掛ける事もなく、最上階のボス部屋に到達する。



アクト3ボス、魔王ナートホープ。

その姿はあちこちが溶け崩れた人型の悪魔から、無数の触手が伸びたような姿で、崩れた下半身の代わりに触手でペタペタと移動するという、気味の悪いものだった。

これが昨今のゲームであればユウイ辺りは嫌がってプレイしたくなくなったのだろうが、斜め見下ろし型のマジホリの画面上ではボスキャラと言えどもそう大きいサイズではなく、何がどうなっているのかよく分からないのが幸いだった。

その、なんだかよく分からないウネウネボスが、取り巻きにローブの魔術師を複数体引き連れ、攻撃を仕掛けてくる。


コウヤのパラディンが、オーラスキルを「守りの加護」から「浄化の加護」に切り替え、敵の毒と呪いに備える。

と同時に、マヤのネクロマンサーがボスに呪いを掛け、動きを鈍くし、敵の火力効率を落とす。

大量に召喚した骸骨兵はナートホープの放つ毒の波動でバタバタと倒れていくが、ユウイの狼達は触媒無しに補充する事ができるので、倒される端から補充され、次々と食らいついていく。

一方で、ユウリのアーチャーは周辺に浮かんで包囲を仕掛けてくる取り巻きの魔術師を倒していく。


(こいつ、よく見たら……)


ユウリはここで目ざとく気付く。周囲の取り巻き魔術師は、今までデモムービーに登場していたローブの男と同じ姿をしており、その名前は「放浪者の幻影」となっている。

邪神を復活させながら魔王軍へと合流したあの男の分身体なのだろうか。

その辺りの物語設定も、検索すればすぐに出てくるのだが、ユウリもコウヤに習い、初プレイの楽しみとして残していた。

攻略情報は事前にミッチリ予習しても、ストーリーに関してはネタバレを極力避けるというのがユウリのスタイルだった。


コウヤの体力はジワジワと削られているが、都度ポーションで回復。

ユウイもドルイドの精霊スキルを「太陽の精霊」に切り替え、体力回復を補助する。

ネクロは手持ち武器で切り込むと危険なため、引き続き呪いを掛けつつ、サブ武器の弓に切り替えてチクチクと小さなダメージを重ねていく。

そうこうしているうちにユウリが魔術師の幻影を全滅させ、ボスに火力を集中。

瞬く間にナートホープの体力は尽き、断末魔を上げて消滅していく。


『いえーい』


『楽勝~』


また今回も、ボスの体内から石が出現。その緑色に明滅するクリスタルをクリックし、魔剣を使って異次元送りにする。

と、今回もまた聖者ラーテの声が響き、感謝と祝福を述べ、ポータルを開く。

が、これは町へ帰るためのポータルではない。ここから直接、アクト4に飛ぶ事になる。

ラーテは天界の軍勢による魔界侵攻に加わるよう、プレイヤー達を呼び寄せているのだ。


『アクト4始まるけど、戻らなくていいよな?』


一応エルフの里に何かやり残しが無いかを確認してから、コウヤ達はポータルに入っていく。


プレイを続けるうち、ユウリはこのアクト間に挟まるムービーが楽しみになっていた。

魔王ナートホープを倒した際、体内から出現した石は、今までのザンダルナ、ドゥゲムの丸い石と違い、発光する結晶体だった。

ザンダルナとドゥゲムは「邪神」。一方で、ナートホープ含む、本作のメインエネミーである魔王三兄弟は、神ではなく魔王。

敵軍の内部の裏事情を感じさせる設定から、何らかの伏線が伺える点が、ユウリの楽しみの一つになっていたのだ。

この辺りは説明書のプロローグ部分に詳しく書かれているのだが、ゲームパッケージ同梱の説明書はコウヤの家にしか無く、自ら情報制限を掛けているユウリには分からない設定だった。


そして、ムービーが始まる。


紫色の暗雲に、緑色の雷光が走る。地表はゴツゴツとした岩場だらけの黒い荒野。アクト4の舞台、魔界だ。

本作の、設定上最大の敵、魔王デアゴーンの居城が遠景で描かれる。

魔王城の周囲には、幾つもの陣屋が並び、ザコから中ボスまで、様々なモンスターが戦支度をしていた。

黒に統一された甲冑と長槍を与えられ、軍隊らしく隊列を組むゴブリン達。

巨大なオーガが投石機に砲弾をセット。鞭を振るって現場を監督するのは有翼の悪魔。

無数の攻城兵器の眼の前には、巨大な門が設置されている。

魔王は満足げに自陣の威容を眺め、あと少しで大軍勢を人間界に送り込むためのポータルを開けるだけの魔力が溜まる、とつぶやく。

その魔王の背後に、例のローブの男が現れ、「弟が倒された」と告げる。

魔王デアゴーンは、一瞬驚きに表情を歪めるが、すぐに余裕の笑みに戻り、「取り戻すのはお前の仕事だろう?」とローブの男を追い返す。

出陣の時を間近に控えたデアゴーンにとっては、今から始まる大戦争こそが本懐であり、弟の死など些末事なのだろう。

その魔王軍の陣営の上空に、まばゆい閃光が迸る。

と、天使の軍勢が降臨し、光の矢を放ち、空から魔王軍を縦横無尽に攻撃し始める。

一隊の天使達が槍を地面に突き立て、結界陣を形成。魔王が開こうとしている巨大な門の眼の前に最終防衛ラインを敷く。


……という所でムービーは終わり、魔界の戦場、その只中に敷設された結界内にプレイヤー達が出現する。

出迎えるのは、背中から光の翼を生やした聖者ラーテ。彼もまた、天使の一人であったのだ。


人間界で魔王軍を指揮する魔王ナートホープの居城を落とし、今度は天界との連合軍で魔界に打って出るという燃える展開。

まだ時間に余裕もあったし、コウヤ達は引き続きアクト4攻略に取り掛かる事にした。




夜、そんなコウヤの自室でのマジホリプレイをチラリと眺めてから、コウヤの父は自分のPCを開き、例の事件に進展はなかったかと掲示板をチェックする。


28 ムラマサ ****/**/**(日) 21:22:18.45

 今日は三人で偵察だけやってみる事になりました

 無策ですが、何か試すべきアイデアあったら書き込みお願いします


興味はあるが、彼らの挑戦は毎回151階から200階近くまで降りていく事になるのだから、時間が掛かる。

事の顛末は明日またチェックして見るとしよう……




そして、日曜日が終わった。


次からは平日。小学生パートも再開です。

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