13:謎の新ボス
コウヤ達がアクト3の攻略を開始していた頃、謎のボスに相対した廃人パーティーは苦戦を強いられていた。
13:謎の新ボス
『撤退』
『k』
『無理』
召喚系は、全て接触と同時に瞬殺。
炎、氷、電気、風、神聖、魔、毒、物理、そして無属性…… 全ての飛び道具が通じない。
『虚無かよ』
まさに虚無。全ての攻撃を飲み込むブラックホール。
それでいて、あちらからは一切攻撃をせず、ジリジリと、ジリジリと、ほんの僅かずつ前進する……
ただそれだけの存在。
『クソが』
アーチャーが最後に、置き土産とばかりにポイントを1しか振っていないドライアド兵を召喚。
HP吸収攻撃ならば通じるのでは、という期待を込めた物だったが、やはり効果はない。
倒されるのを待つまでもない。一行はドライアドを置いたまま、撤収した。
トップランカー連合による隠しボス討伐隊、その第一回遠征は、こうして何の光明も見いだせないままに終わった。
一念発起、ユウイはマジホリの予習を始めていた。
攻略wikiは親に設定された「安全サイト制限」の例外として認めてもらっていたし、必死になってドルイドの育成方針……ビルド構築を学んでいった。
前衛はパラディン。物理打撃と雷属性を使う。これに、スケルトン軍団の物理攻撃が加わる。
後衛はアーチャー。今は無属性魔法のマジックアローが主力だが、この先炎の矢、氷の矢も使えるようになる。
中距離支援として、ネクロマンサーの毒攻撃もある。
各キャラの習得可能なスキルを調べ、主力として使えるものと、サブとして取得するに留まるものとを書き出し、メモを取る。
それら、味方が用いる攻撃と、自分のキャラクターとを比べ、欠けている物が何かを考える。
結果、ドルイドの万能型故の特徴の無さを思い知らされる。
パラメータも平均的で、守りがあまり硬くない。両手武器を持つより、盾と片手武器で行くべきだ。
スキルによるザコ殲滅の補助と考えると、通常攻撃は攻撃速度が速めの片手剣辺りがいいだろう。
重装鎧を扱える程の筋力も無いので、防具の方も鎖かたびら等の中級防具を使った方が良さそうだ。
手っ取り早いのは、風系のスキルでザコを範囲殲滅する事であり、今後は「踊る竜巻」にポイントを振っていく事にする。
問題は、硬い敵とどう戦うか、だ。
召喚した狼任せでボーッとしているのもコウヤに呆れられそうだが、かと言って、威力が高めの「火霊の加護」で殴り掛かると、防御の低さが問題になる。
溶岩攻撃は弾速が遅く、扱いが難しいが、アクト2のボス戦のようにコウヤが敵を足止めしてくれれば、最大火力をぶつける事ができる。
これも狙い目だろう。
もし失敗しても、高い代金を払う事で、スキルの振り直しは可能だ。
まずは、このプランで育てていく事にしよう。
こうしてユウイは持ち前の秀才ぶりを発揮し、驚くべき速度で次々と知識を吸収していった。
そして…… 翌朝、寝坊した。
「うっ、うぇっ…… グスッ…… 遅れて、ごめん、なさい!」
母親に連れられて、ユウイがコウヤの家にやって来た。
コウヤは、何も泣く事はないのに、と思ったが、それだけ本気で申し訳なく思っているのだと思い、出来るだけ優しく慰められるようにと心を配った。
「だから、もう泣くなよ。 俺なんか学校の遅刻しょっちゅうしてるんだしさ!」
「ありがとう…… コウヤさん……」
そう言って、涙目のままギュッと抱きついてくる。
「参ったな…… まあ、それで落ち着くなら……」
そう言って困り顔になるコウヤを、ユウリは実に満足げな表情で見守り、マヤはニヤニヤしながら愉快そうに眺めている。
ユウリが泣き止むと、四人は改めてマジホリを再開する。
ここぞとばかりに、ピッタリとコウヤにくっつくように隣に陣取っているユウリ。
ノートPCを並べてのプレイは少々やりにくそうではあるが、泣いてる女の子には敵わないのが男子というものだった。
第3アクトは、エルフの里であるジャングルが舞台となる。
このゲームのエルフはワイルドで、密林奥地でアマゾネス的な文明を築いている。
今回はそのエルフの集落を拠点として、広大な密林を探索し、エルフ達が寺院として使っている古代遺跡を三つ見つけ出し、それぞれからメダルを手に入れ、それを鍵としてルートを開き、魔王軍の拠点となっている砦へと地下から侵入する流れになっている。
「手分けして探した方がいい、と思う」
マヤが提案する。
ジャングルも地下道も、とにかくMAPが広大なので、ここは特に退屈になりがちなアクトだ。
先日ユウイが退屈そうにしていた事に彼女はちゃんと気付いていた。長くなりそうなアクト3を素早く終わらせつつ、彼女にもやり甲斐を持ってもらおうという配慮だった。
「そうだな、ここマジで広いし」
「ノーマルなら一人で戦っても楽勝のようですしね」
コウヤとユウリも同意する。
ユウイは、ゲームの中の事であれ、基本コウヤと一緒にいたいので不満が無いではなかったのだが、提案が理にかなっている事は分かっていたし、コウヤの同意に反対するわけもなく、黙ってウンと頷く。
予習の成果今こそを見せてやろうと、気合が入る。
「じゃあ、神殿見つけたら報告、中ボスキツかったらヘルプ出すって事で!」
「ザコ戦あまりしないで、メダルの確保、急ぐ、ね」
四人は四方に散り、探索を開始した。
(うん……? なんだこれ?)
子供達は今頃マジホリ会か、と思いを巡らせながら、コウヤの父は会社の食堂でくつろいでいた。
コウヤに復帰を促された事もあり、久々にマジホリRSwiki付属の掲示板を覗いてみたのだが、予想外のスレッドを発見し、目を見開く事となった。
【四層最奥】★★★謎の新ボス対策室★★★【情報求む】
まさか、この期に及んでバージョンアップが?!
RS開発メンバーのメーリングリストはまだ生きているはず。何かあったのならメールも届いているはずだ。
帰宅したらしっかりメールボックスを確認しなければ……
RSの開発はとっくに止まっているという設定です。