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マジホリRSの全てが終わった後、一人の男が帰って来ていた。

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「うーす、久しぶり……」


「ハハッ なんだその頭、酷いな」


金髪に染めた頭はクシャクシャで、地の黒い色が混じっていた。


「貧乏暇なしってヤツでよ……

ま、こんなんでも仕事があるだけマシか」


金髪の男は、キタガミ。

ようやくアメリカから帰国した、マジホリ開発の中心人物だった男である。

ファミレスでサイバラと合流し、これから復旧作業の手伝いに加わる所だった。


「結局、バジリオンも潰れたか」


「ダチを殺した大企業様だぜ…… せいせいしたぜ」


世界有数のエンターテイメント企業、ディズリーグループ傘下で開発された大規模MMO「ファンブルヒーローズ」……

その開発企業、「バジリオンエンターテイメント」にカノザキとキタガミを誘ったのは、他ならぬマジホリの開発者本人だった。


数人のチームでマジホリを一から作り上げた男、デイブ・バーウィック。

彼は、訴訟を抱えて危機に陥ったフリゲートゲームス社を救ってくれたMOD開発者達の技量を見込んで、新規事業の人材としてスカウトしてきたのだ。

彼はフリゲート社が潰れてから、幾つかのゲームに携わったが、かつてのような成功を掴めずにいた。

他のゲームからのソースコード盗用と言う汚名を背負った彼は、懸命に働き、今度こそ自分の力で再起しようと足掻いていた。

長年の奮闘がようやく認められ、下請けとは言え、ディズリー資本の下で超大作の開発を任されるという、人生の転機。

彼は全力でファンブルヒーローズに取り組んだ。


しかし、開発の遅れから、ライバルである「ギアブロ3」の発売とバッティングしてしまい、ファンブルヒーローズは完成度の高さに反し、爆発的人気を得られないでいた。

多角経営のディズリーにとって、このゲームは大量に存在するコンテンツの一つでしかなく、本気で広報を打つ事もなかった。

知る人ぞ知る良作、という程度に留まり、日本語化もされないまま年月が経過していき……バジリオン社の経営は傾いていった。

ディズリーからの資金も次第に絞られるようになり、コストカット、人員削減が繰り返され、その反面、客を集めるため、無謀とも言えるゲームのテコ入れ……超大型アップデートが繰り返された。

大型アップデートと言えば聴こえがいいが……、上の命じた経営戦略とは結局「ギアブロ3」をパクれ、というものだった。

開発チームの縮小と、恥知らずな大型アップデートの強行。

破綻は時間の問題だったのだ。


帰国し、日本から在宅で開発に参加していたカノザキは、それでも懸命にファンブルヒーローズの開発を続けた。

しがないSEでしかなかった自分が、今では憧れのデイブ社長と共にハクスラを開発している……

夢のような時間だった。


だが、上の意向で改革を命じられ、デイブの目指すゲームとはまるで違う形に作り変える事を強要され、デイブの心も荒んでいった。

終わりのない泥沼のようなストレスと疲労の中、ついに彼はチームを置いて、一人退社してしまう。


開発の中核を欠いた状態で、カノザキやキタガミは必死にファンブルヒーローズの立て直しを続けた。

それは、かつての状況の再現。

元となるソースコードを解析し、自らの手で再現し、新たな形に作り変えるという、オリジナルバージョンへの作り変えである。

俺達ならやれるさと、キタガミもカノザキも意気込んで泥沼に飛び込んだ。


だがしかし、月日の流れは無情。


ゲームの開発規模は異なり、開発も複雑化。

最早、現代のゲーム開発の現場は、生半可な知識の素人同然の人間が集まってどうにか出来るような世界では無かったのだ。


特に、知識と技術の不足を作業量で補うタイプのキタガミは、困った立場に追いやられていた。

「マジホリをまるごと再現してみせた天才達」という触れ込みでスカウトされ、社の期待を一身に背負っていた分、周囲の落胆も大きかった。

なんとかして彼の面目を立たせようと、カノザキは懸命に働いた。

働きに、働いた。


だが、バジリオン社のブラック企業ぶりは、彼らの限界を越えて、酷かった。


次々に社員は退社して行き、素人レベルのカノザキやキタガミまで、開発の中核に据えられる始末。

やり甲斐こそあったものの、計画の実現は不可能だった。

次の大型アップデートは、不可能だ。

絶対に間に合わない。

一ヶ月延期しても、二ヶ月延期しても、足りないだろう。


彼らは、とっくにありとあらゆる手を尽くしていた。


そう…… 合法、非合法を問わず。


なんとか新たなファンブルヒーローズを形にするため、キタガミが取った手は、ソースコードの盗用である。


いや、厳密には盗用ではない。

なぜなら、そのソースコードを書いたのはキタガミ自身だからだ。


彼は、マジホリRSの一部をファンブルヒーローズに移植する事で、絶望的な開発作業をなんとかしようとしていたのだ。


元来、ファンブルヒーローズもマジホリをベースにして開発されたゲームで、スクリプトの相性は良かった。

少し手を加えるだけで、かなりの数の新キャラクターを移植する事が出来る。


予定通りの大型アップデートは無理でも、これでなんとか「新しい目玉」を用意する事は出来る。

開発の現場はこのギリギリのやり方を歓迎した。


だが、その時だった。


心身共に疲弊しきったカノザキが過労で倒れ、帰らぬ人となった。

その指先に一枚のメモを残し、何も言い残さずに……





俺はここにいるよ(008552164)、か……」


「結局、何だったんだ? 虚無ってのは」


「偶然が生み出した、ただのバグ、のはずだけど……」


その数列が、なぜ虚無に浮かび上がったのか、それを説明出来る者は存在しない。

理由らしい理由を思いつく者も、誰一人としていなかった。

きっと、今後もずっと分からないままなのだろう。





冷めたコーヒーをすすり終え、キタガミは再び口を開く。


「それでも、俺はバカだから、あいつの意志を継ぐんだって思ってよ……」


大混乱の中、正常な思考が働かず、ただただ、彼はゲームのバージョンアップだけを目指し、足掻き続けた。


だが、そこに更に追い打ちを掛けるように、思いもしない所でマジホリRSが世界中から注目される出来事が起きた。


上層部の一人が、ゲームサイト上の虚無事件の記事を見て、ある事に気付く。

吸血鬼が、砲兵が、付与術士が、旅商人が…… 見た目を変えただけで、我が社の用意している新キャラクターそのままではないか、と。

そして、ソースコード流用の事実がディズリー側に知られる事となる。


過去、マジホリが訴訟を抱えて自滅した経緯を知る上層部は、再び呪いが発動する事だけは避けたかった。

盗用元の権利を有しているのはバジリオン社自身であるし、法的には問題とはならないはずだった。

だが、「上」はもう、この状況を見過ごしはしなかった。

ロードマップの破綻、プレイヤーの減少、業績悪化、人材の流出…… 開発チームの崩壊は明らか。

最早、バジリオン社は利益では無く、負の遺産を生み出そうとする厄介者でしかない。


ディズリー本社は、バジリオンの閉鎖を決定。

ファンブルヒーローズは大型アップデートを数日後に控えた状態で、突然のサービス終了を迎える事となった。


「デイブ社長、今頃どうしてるのかなぁ……

またいいハクスラ作って欲しいんだけどなぁ…… 「ヘルガード」もシステムは良かったじゃないか」


「あれ? 知らないのお前?

今度はテラディアとハクスラを組み合わせた新作を、インディーズで作ってるんだぜ」


「おおっ 何それ、面白そうじゃないか!」


「ま、俺はチームに呼ばれてねーんだけど」


「当然当然」


「ちぇっ……」


結局、会社の崩壊で、キタガミのソース盗用も不問に付される事となった。

が、おそらく、もう誰も彼を雇ってはくれないだろう。

彼もゲーム業界での再就職は諦め、今は物流業で慣れない肉体労働に勤しんでいる。


「で、そんなキタガミ君に、いい話があるんだけどね」


「ん? なんだ?」


サイバラは、笑顔で話を切り出した。








※この物語はフィクションです


※この物語はフィクションです


※この物語はフィクションです

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