第41話 魔力の付与
ダリウス殿下から魔石が届けられたのは翌日のことだった。
後日と聞いていたのでもう少し先かと思っていたけれど、思った以上に早かった。
そしてその魔石は、とてもごろごろとしていて、想像していたものとは違うものだった。
「……魔石って本当にただの石みたいですね」
事前に綺麗なものではないと言われていたけれど、どう見ても本当に石ころだった。
私の言葉にランディさんは当たり前のようにため息をついた。
「そのほうが都合がいいだろう。美しいと思われるようなものであれば入手が困難になる。一般人には不要でも魔術師にとってはそれなりに使うものだ」
「それもそうですけど……これ、あちこちに転がっていそうですよね」
「実際に転がっている」
わぁ、そのあたりにありそうって思っていたら、本当にその辺りにある石だったのか……!
そして私は自分が想像しているよりずっと安い報酬をお願いしていたらしい。
そうなればダリウス殿下だって即了承してくれた上に鉄板の手配もしてくれると仰ったのも当然だったというわけだ。お礼がいらないというのがダメなら、極端に安すぎるのも当然ダメだよね。
「ただし魔石にも質の良し悪しはある。少ない質量に多量の魔力を込められる魔石がよい魔石だ。そしてこうして力を加えてやれば色は変わる。これは中の上程の石だが、これくらいにはなる」
そうしてランディさんが手をかざせば、魔石は透き通った青の石に変化していた。
「わっ、宝石みたいに……! これはどんな力が?」
「水の加護を与えた。火傷避けや熱さましにも使えるが、砕けば水になる」
持ち上げて光に透かして見れば、まるで水中から海面をみるような波の動きが感じられた。
「俺の通行許可の指輪もこの魔石と同じ原理だ。あれは本当に宝石と魔石を兼ね備えたものだが」
ということは、ランディさんから借りっ放しになっている指輪についている石は魔石だったのか。借りてからそれなりに時間は経っているけれど、石は小さいのに一度も魔力の継ぎ足しを必要としていないので、この石は質が高い魔石なのだろう。
「それで……この方法を教えてくださるんですよね。よろしくお願いいたします」
「……正直、いい加減にお前の魔術の実力が知りたいという殿下の策略としか思えないが、使う使わないはお前の自由だ」
特異な力を肯定的に捉えないランディさんは了承していたものの、やはりあまり乗り気ではないのだろか?
「いや、使える使えないかの間違いか」
「ちょっと、それって教えるのが無駄になるのかって心配しています?」
「別に」
忠告してくれたことと反対のことをお願いするのに多少罪悪感も覚えていたけど、これなら心配する必要もなかったようだ。できるできないはやってみれば判明することなので、ひとまず頑張ることが大事だろう。
ランディさんは送られてきた魔石の山からこぶし大のものを選んで私に向かって放り投げた。
「熱を持たせるだけの魔石が必要なら、火を思い浮かべながら魔力を移せ。単純な魔力付与なら、それだけで問題ない」
「単純か複雑かというのは、どこで判定が分かれるんですか?」
「例えばこの屋敷に張り巡らせている防御結界なら術式を組む必要が生じる。術者が離れても維持するように組むなら、魔術の細かい知識は必要だ」
「な、なるほど……?」
明確な違いがわかったわけではないけれど、防御結界といえばイメージだけで発動させるのは大変そうな気がする。
「早くやってみろ」
「え。あの、ほかにご指導があったりしないんですか?」
「教えただろう。要は魔力の譲渡と同じだ。方法を忘れたのか?」
教えるって、それだけ!?
あまりの短い説明に私は驚かずにはいられなかった。けれどランディさんはあくまでも当然といった様子のままだ。
「ほら、やれ」
「わかりました、けど……」
けれど魔石に口付けをして力を付与しているところを見せたくはないなぁと思った私は後ろを向いて、屈みこんだ。そして魔石を抱え、そっと魔石に口付けた。
そうすると魔石は光り、赤く透明な石へと変化していた。
「わあ」
先ほどランディさんが実演してくれたときも驚いたけれど、実際に自分で作ったときの感動はそれよりも大きい。
しかし顎に手を当てているランディさんは不思議そうな表情を浮かべていた。
「あの……もしかして、これ、失敗したように見えます……?」
「いや。単にえらく縮こまった妙な体勢で力を使うんだと思ってな」
「あ、はい! ええっと、私にとっては一番これが力を与えやすいと思うので!」
「そうか」
だいぶ変だと思われていそうな気はするが、たぶんこれは気付かれていない。
それに魔石自体にもうまく力を与えられたのだから、完璧だ。
「できた魔石はどうすればいいんでしょうか」
「魔石用の台座がある。ここに置けば発動する。魔力の出力量はつまみで調整できる」
「それはすごい……! もしうまくいきそうなら、ここの台所に用意してもいいですか? イリナさんたちも便利に使えるようになると思うし、私が氷のしか使えないことになっているなら、なんとか融通してもらえるようにお願いしたということにして……」
そう言いながら様子を窺うと、ランディさんは溜息をついた。
「好きにしろ。魔力を継ぎ足すなら城に来て行えば問題もない。誰かに頼んだと、イリナたちは思うだろう」
「ありがとうございます。でも、その溜息はなんですか?」
「わかっていたことだが、これで飯を作ろうと思う魔術師なんざほかにいないと思っただけだ」
「だ、だって私には魔術師という自覚はないですし……実際魔術は使えますが、魔術師ではないですよね?」
「ああ。だからこそ、不思議なことになっているなと思っただけだ」
それなら私は魔術が使えていること自体がいまだ不思議なのだから、それはおあいこだと思う。
「これでもっと美味しいごはんを作りますから楽しみにしていてくださいね。それで……残りの魔石はどうしましょう?」
「好きに使えばいい。いらなかったら庭に捨てておけ」
「……本当に石ころみたいな扱いなんですね」
「実際そんなものだし、この屋敷なら盗まれることもまずない。必要になれば再び手元に戻せばいいだけだ。品質に変化もない」
確かにそうなのかもしれないが、一応これはダリウス殿下からの贈り物なので、本当にそんな雑な扱いでいいのか少し迷う。しかし長年忠誠を尽くしていらっしゃるランディさんが言うのだから、本当にその扱いでも問題はないのだろう。
「そんなことより、殿下からの荷物に手紙は入っていなかったのか?」
「あ、ありました。四日後、妹姫様にはお会いすることになりました」
「そうか」
「ただ、実は……いまさらながら礼儀作法に若干不安があるんですけど……。あ、もちろんお断りするとかそういう話ではなくて、ちょっとした心配事です」
メアリーやドイルさんは相手の態度自体がアレだったので誤魔化してしまうという勢いで気にしていなかったが、相手が本物のお姫様かつダリウス殿下が気にかける相手となれば話は別だ。我がまま盛りなのかもしれないが、きっと根はよい子なのだろう。
しっかりと食べられるご飯を作ると言う目的は果たすつもりでも、初対面かつなにか無作法をする人間であれば殿下の口添えがあってもよくは思われないだろう。
「あまり気負うな。殿下も可能だと思ったから頼んだんだろう」
「……ま、それもそうですよね。一応一通りは前に教えてもらってますし、頑張るしかないですよね」
「お前、本当に立ち直りが早いな」
「それが取り柄ですから」
それでも今の立ち直りの速さは、こうして励ましの言葉をもらったからでもある。
「ありがとうございます、ランディさん」
怪訝な表情をされたので、たぶんランディさん自身には励ました自覚がなかったのだろう。けれど、こうして新しい調理器具も仕上がりかけているのだからきっと新たな依頼だって完遂できるはずだ。
どんな料理が必要になるのか想像できないことに少し緊張するけれど、それでも少し楽しみなような、心が躍るような気持ちも私は同時に抱いてしまった。
なんにせよ、頑張らせていただきます!




