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第3話 ものぐささんへの挑戦状

 そして私が市場で買ったのは鶏肉だ。


 私が売る明日のお弁当は唐揚げ弁当に決めている。

 ついでにフライドポテトにケチャップを添えるのもありかなと思う。

 こっちの世界ではいわゆる衣に味をつけて調理をするフライドチキンはあるけど、先に味付けをする唐揚げの調理法はそう多くはないみたい。


 もちろん美味しけりゃどっちでもいいよね! というのが私のスタンスなんだけど、私が作り慣れているのは唐揚げなので、やっぱり鶏を揚げるといえば唐揚げだ。

 すりおろしたニンニクで味をつけた唐揚げ、美味しいよね。

 本当はお醤油も欲しいところだけど、少なくとも王都には醤油という調味料は存在していないようなので、ニンニクのほかには粗挽きのこしょうと塩、それからブイヨンで味付けする。

 さすがに醤油の作り方なんて知らないし調べたこともないからな……。でも、ないのをグチグチ言ってても始まらない。

 日本に帰れば、醤油だってザブザブ使えるし! もちろん塩分過多にならないように気をつけなければいけないけど!


「って、そうじゃなくて。食べるのは私じゃなくてランディさん、っと」


 そう言いながら私はいくつか小さめの唐揚げを作った。

 明日のお弁当は明日で用意するけど、まずはランディさん用の試作品を作って安心したい。


 用意できた唐揚げを材料にして私が作るのは、一口パンだ。

 唐揚げを小さめにしたのはパンに入れて一口で食べられるようにするためなのです。

 ……って、まぁ、実際には一口にしてはちょっとだけ大口にはなるかもしれないけど、食べようと思えば一口でも大丈夫なはず。私が一口で食べられるし!


 あの様子だと、ランディさんはすでに食に興味がないことは確実だ。

 無理矢理押さえつけられて食べているときは苦痛だろうから、美味しいとかまずいとかの感想とはもはや別次元になってしまっていると思う。だから久しぶりに食べたものを美味しいと思わせた上で、食べるのが極力面倒くさくないものを用意すれば別の物も食べてくれるかもしれない。


 このパンなら手も汚れるというほど汚れないし、一口で食べれば食べかすだって落ちないはずだ。


 パンと空気が同等だと言ったらしいランディさんにあえて惣菜パンを出すのは少し冒険だとも思う。でも、ここは惣菜パンがない国だ。初めての惣菜パンで、パンに対する思いも変えてくれるかもしれない……!


 ただ、私もパンを何度も作ったことがあるわけではないので、少しどきどきしてはいる。発酵とか、失敗してなかったよね?

 そんな不安を抱えながらもできあがった唐揚げパンは、おじいさんとおばあさんが試食してくれて、とても喜んでくれた。あと、驚いてくれていた。


 私は好意的な反応にほっとし、翌日は作ったいつものお弁当と、唐揚げパンを手にいつもの定位置に向かった。ギルバードさんはやっぱりちょっと遅れた時間にお弁当を二つ買いに来てくれたので、そのときにランディさん宛の唐揚げパンを託し、食べてもらえるかどうか見て欲しいとお願いした。


 ギルバードさんも初めて見る唐揚げパンに驚いていて、試食用にひとつ渡すと美味しいと言ってくれた。唐揚げ、万歳! どうか今度こそ、ランディさんの口まで食事が届きますように。なんとか、ギルバードさんがランディさんが食べるように、うまく誘導してくれますように。


 そう願って、私はお城の外でギルバードさんの結果報告を静かに待っていた。食べてくれるか、食べてくれないか。それで明日からのお弁当作戦も変わってくる。


 それから、結構長い時間をそこで待機していたと思う。


 やがて現れたギルバードさんはとてもにこやかな笑みを浮かべていた。

 その表情を見れば、その結果はすぐに分かった。


「食べてもらえたんですね!」

「ああ。最初はいらんって言ってたんだが、食うまで帰らねぇって言ったらいつもは渋るんだが、嫌そうな顔をしたわりにあっさり食ったよ。確かに試食したら美味かったけど、妙なモンだから食わないんじゃないかと懸念もあったが、無用な心配だったな」

「……って、いやそうな顔はしてたんですね」


 それって、やっぱり食べ物がよく見えたわけではなく、ギルバードさんという邪魔者を追い払うために食べたってことよね。


 結果的に食べたんだし、ギルバードさんがほっとしてるんだから成功といえば成功なのかもしれない。

 でも、私としては微妙だ。お弁当屋さんとしても、帰るためのコンタクトをとろうとしている立場からしても、そして生活改善させなきゃいけないと思った謎の使命感からも、全部非常に微妙な結果だ。

 そして一瞬食べてもらえたと喜んでしまっただけに、落胆も大きい。


「あ、でも嫌そうな顔をしたのは最初だから、決して味がどうこうで嫌な顔をしてたとかじゃないからな、そこは誤解しないでくれな、な?」

「……おいしそうにされている様子とか、ありましたか?」

「いや、表情は……まあ、変化が乏しい奴だから……でも、不味かったら一口で『もう食った』って言うやつだから、三つとも食べたってことは美味しかったんだって。よそ見してても食べれるやつを作ってくれたのがよかったみたいで、いやぁ、さすがアイツを見てから料理を考えるっていっただけあるなって思ったし……!!」


 フォローしてくれるギルバードさんの言葉が本心なのかお世辞なのか、私にはわからない。でも、まあ、ものぐさが食べてくれたというのなら、確かに人間らしい生活への進歩といえば進歩なのかもしれない。

 けれどいまの状態だとギルバードさんが突撃しない限り、食べないことを続けそう。そのうえ、下手をすればギルバードさんにお弁当を託した私に対する印象が「余計なものを作るやつが現れたせいで……」なんてものになっている可能性もあるから、そんな印象のままだと一番の目的が遠ざかった可能性もあるわけで……うん、やっぱりせめて食事を億劫なものだと思っていらっしゃる現状を変える必要がやっぱりあるわね。もしくは慣れてもらって、食べる習慣を身に付けてもらうとか!

 いや、ここはやっぱり苦になるよりおいしさを感じてもらう食事を作ることが解決への最も近道かもしれない。


 というか、それが一番の方法じゃなくても他の方法が思いつかない。


「ギルバードさん、明日も作ってみていいですか?」

「え、いいのか?」

「いいのかって、このままだと負けた気分になってしまうので」


 いろいろな意味で、勝負に負ける。

 そう思うと、語気も強まる。


「ずいぶん頼もしいな。よろしく頼むよ」


 むしろよろしくと言いたいのは私の方だ。そして、私にとっては運んでくれるギルバードさんが頼もしい。

 そしてそのギルバードさんは、ランディさんが『よそ見してても食べれる食事』だから食べたといっていた。ならば明日も、この方針は継続だ。


「そのうち自分から「食べたい」って言う食事、用意してみせます」


 そしてコンタクトをとってやる!

 なんせ、それができれば私の今の計画はひとまず全部達成できるのだから――。



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