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第32話 やはり過程は大事にしよう

 余りに見慣れた家に戻ってきて、私は言葉を失った。


「今の音……って、あら、お帰り真昼ちゃん。ご飯にする? お風呂にする?」

「あ、ただいま」


 呆然としていると台所のほうからお母さんが現れた。

 そしてごくごく自然に話し始めるものだから、一瞬、今まで玄関で寝てたのかと思ったが、自分の服装が視界に入ってそれだけはないと断言で来た。うん、あり得ない。


「お母さん、私、今まで異世界にいたんだけど……!!」

「そりゃそうでしょう。お母さんとお父さんの前で召喚されたのだもの」

「そりゃそうでしょう……って、じゃなくて!!」


 一瞬体験してきた私ですら嘘だと思いかけたのに、あまりに当然のように言われて私はがくっと力が抜けそうになった。ちょっと待って、 どうしてさも自然としていられるの!!


「それで、真昼ちゃんはどんな冒険をしてきたの? 三か月だし、そろそろ何らかの報告がくるかなーって思っていたんだけど……連絡を寄越す前に帰ってくるとは、さすが私の娘ね。もう世界は救ったの?」


 お母さんはとても満足げな笑みを浮かべているけど、私としてはその意味が分からない。


「お母さん、なんでそんな得意げなの?」


 そもそも、私は単に連絡手段なんてなかっただけなんだけど……。


「でも真昼ちゃんもお母さんと同じで渡界師の腕前はかなりのもののようね。自分で望む世界に渡ることができる渡界師って、お母さんが行った世界にはいなくて驚かれたのよ。これに関してはお母さんの方がお父さんより上手なのよね」


 だからお母さんの血を継いでくれていて嬉しいわとか、でも私はお父さんみたいに強くないからとっても助けてもらったのだというのろけとか色々続いているけれど、私の耳には右から左に流れていく。

 だって、今、お母さんはとんでもないことを言っていた。


「……お母さん、私、もしかして自分で好きに世界を行き来できるの……?」

「え? こんな正確に帰ってきてるのに、そうじゃないの? マヒルちゃん、どうやって帰ってきたの?」

「どうもこうも、送りつけられて帰ってきたんだけど……!!」

「それはずいぶん優秀な送還師さんがいたのね。知らない世界なのに正確にうちまで送り帰すなんて」


 感心したお母さんを見て、私の力は激しく抜けていく気がしていた。

 正直マヨネーズの作り方を特訓するくらいなら、娘に帰るすべを教えてほしかったと思う。いや、そうするべきだろう。もちろん私が異世界への召喚なんて信じていなかったのも原因かもしれないけど、そういうのを教えられていたらもうちょっと信じることもできたというか……!!


 でも、今はそんなことよりも……。


「ねえ、お母さん。お母さんって、自分でお母さんが行った世界から帰ってきたんだよね? それって、条件はあるの?」

「もちろん。条件は自分と縁があるものが存在することよ。最初に召喚されるのは求められてのことだけど、その世界と縁ができれば、自分の現在地と結ぶことができるの」

「縁があるもの……」


 思い浮かべれば、あの世界に置いてきたスマートフォンがそうだろうか?

 それ以外にもランディさんにもらったドレスなんかはどうだろう。ものというのが場所という意味でもいいなら、場所でも思いつくところはある。

 そう、前提条件だけならクリアすることもできるはずだ。


「……ねえ、お母さん。私、渡界師としての技術を学びたいんだけど、私に教えてもらえるかな。できれば、魔術もわかるなら教えてほしい」

「それはもちろん。でも、どうしたの? 送り返してくれた人がいたなら、真昼ちゃんがやるべきことは終わったんじゃないの? それなのに、すぐに戻るの?」


 そんな不思議そうなお母さんの言葉に、私は苦笑した。


「あのね、お母さん。私が呼ばれたのは世界を救うためとか、そんなお母さんたちが経験した大それたものじゃなかったの」


 むしろ、原因は王族を暗殺することができるだけの魔力を秘めているからという、とんでもなくひどい理由で、混乱の原因にすらなりかけた。


「一応悪いことをする人は捕まえることができたんだけど――でも、まだやり残したことがあるの。だから、戻りたいかな」


 そう私はお母さんに堂々と言ったんだけど――お母さんは目を丸くして瞬いた後、両手を合わせてきらきらと輝き始めた。


「素敵ね……!! なんていうか夢があるわ!!」

「あ、ありがとう……?」

「でも、その理由は気になるわねぇ。でも、鉄は熱いうちに打てっていうし、さっさと渡界術をマスターしちゃいましょう! そうすればいつでもこっちと行き来できるし、ゆっくりお話も聞けるけど、そのやり残したことは急ぎなんでしょう?」

「うん、割と……怒りに任せて色々言わないと収まらないことがあるんだよね」

「え? その、もっと素敵な理由じゃなくて?」


 お母さんが若干引いている気もしたけど、あんな強制的に別れを惜しむ間もなく戻されてたまるかというものだ。


「……お母さん、できれば真昼ちゃんと恋バナがしたかったなぁって思うんだけど……」

「私もできればそのほうがよかったよ」

「っていうことは、今後そうなる可能性もあるのね!? わかったわ、早速特訓しましょうか! ……でも、やっぱりその怖いお顔、どうにかしてからにしないかな?」


 お母さんにそう言われたけど、私にはそんなことに気を遣う余裕はなかった。

 それができるくらいなら、さっさと行き来する方法を会得したい。あと、お母さんが知っている魔術についても聞いておこう。行った世界が違う可能性もあるから、そのまま使えるかはわからないけどなにかのヒントになるかもしれない。今回のことも、私自身がもっと魔術が使えていればギリギリにならなかった可能性もあったんだし。


「お母さん、びしばし鍛えてください。多少手荒でも短時間でどうにかなると嬉しいです」

「うーん、よくわからないけど、わかったわ。私も娘の師匠になるのは夢だったし! でも、ちゃんと色々落ち着いたらどんな冒険をしたのか、教えてね?」


 そうしてあっさり受け入れてくれるお母さんに私は深く感謝した。

 残念ながらお母さんが望むような冒険を語れるとは思えないけど、色々あったことはゆっくり聞いてほしいなとは思っている。


 しかしそれまでにはまず私があちらの世界とこちらを行き来する手段を会得しなければいけない。……でも、これもよく考えれば、一度こちらの世界に返してもらえなければ考えられなかったことなんだよね。


「結果良ければ――って言った口で言うのもなんなんだけど、やっぱり過程も大事だわ……!!」


 しかし、ひとまず特訓だ。

 何がともあれ、ランディさんへの文句はあの世界に戻れなければいろいろと言いたいことも言えないのだから。








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