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第25話 作戦会議

「とりあえず、お前はメアリーが来るまでに帰れ」

「え? ランディさんはどうするつもりですか」

「メアリーが来るのを待って捕らえる」

「だ、だめです」


 当たり前のように答えたランディさんに、私は間を置かず口をはさんでしまった。

 当然ランディさんから向けられたのは理解できないといった表情だ。


「なんの問題がある」

「あ、捕らえるのがダメっていう意味じゃないんです。でも、メアリーも魔術が使えるって、ランディさんは前からご存じでしたか?」

「見た。だが、使えると言ってもたいしたことはない」

「でも、殿下を呪い殺すほどの術ってそう簡単に使える魔術じゃないですよね? そんなに簡単に使える術なら国が混乱していてもおかしくないと思うのは、私がこの国の人間じゃないからでしょうか? それが使えるっていうことは、用心したほうがいいと思うんです」


 道徳的なことで秩序が守られている国だっていうことも考えられるけど、そんなに簡単にホイホイできるものなら、失礼ながらドイルさんのような『度胸がない』って言われているような人でもあっさりできてしまいそうだ。

 召喚術と同様に生贄を必要とされている術なら、そうそう簡単にできない……と、思う。


「今、その事に気付けないくらいランディさんは冷静じゃないです。ランディさんが凄い魔術師だということはわかっています。でも、メアリーの力もわからない。現にランディさんはメアリーを知っていても召喚が行使できる人だとは思っていなかったじゃないですか」

「……」

「殿下のことを大事に思っていらっしゃることは知っています。でも、それでランディさんに何かがあれば、私はランディさんを置いて帰ったことを後悔します」

「お前がいてなにができる」

「生贄にするっていうことは、殺しちゃだめなんですよね? それなら、私は術が完成するまでは殺されません。その間は油断も誘えるとおもいます。メアリーは私に魔力があることに気付いていますが、使えるとは思っていないと思うんです。ここへ連れてこられる間も魔術は使ってませんし、そもそも使えると思うなら、ここに閉じ込めておくだけって不十分だと思うんですよね」


 私の主張に耳を傾けてくれたランディさんだけど、出てきたのは溜息だった。


「まんまと連れ去られた人間に冷静じゃないと指摘されるのは、あまり納得がいかないな」

「う……」


 でも、ここで言い負けてしまうわけにはいかない。


「ということで、私も残ります」


 少し強引だが、まだ去れない。


「俺の頭なら冷えた。お前がいたら邪魔になる」

「そうかもしれません。でも、メアリーはランディさんだと警戒してしらを切るかもしれません。どうせなら、現行犯で押さえてください。彼女、私が相手ならきっと油断します」


 メアリーは私と対峙しても自分の優位を疑わないはずだ。

 もちろんランディさんがここにいるのなんて知らないし、それも不意打ちで強襲をかけるきっかけになると思う。

 リスクがないとはいえないけれど、私だって一人じゃない。


「やめろと言えば」

「帰ったふりしてまた来ます」

「……」

「だいたい私だって、殿下のことを存じ上げています。顔見知りが殺されるのを放っておくわけにはいきませんから」


 しかも私を使って殺そうとするなど、黙っていられるわけがない。

 ランディさんは盛大な溜息をついた。


「……お前が好きなようにやれ。俺は隠れている」

「ありがとうございます」

「ただし、危険だと判断したらすぐに止める」

「了解です」


 スマートとはいえないながらも、無事に説得は成功だ。

 メアリーが来るのを待ち構えるのも、一人きりのさっきよりは『やるぞ』という気合いが強くなって不安もない。それは自らが油断しすぎないように叱咤しなければいけないほどだ。


「メアリーが来るまでは休んでおけ。あれの話を聞いているのはギルバードだ。明日の朝までには来るはずだ」


 ここに来るまでの間にランディさんはその辺りのことも確認してきてくれたのか。

 来てくれてすぐのときも周囲の気配について言及してくれていたし、さっき、今のランディさんは冷静ではないといったけど、取り消さなくちゃいけないかもしれない。というか、失礼だったと思う。


「でも、あれ? ギルバードさんに伝令が向かったんですか?」

「ああ。御者が向かうところまでは確認した。確かにギルバードの仕事を考え、なおかつ直前まで一緒にいた者ならそこに駆け込ませたところで不自然ではないとメアリーは考えたのだろう。足止めにもなる」

「メアリーの悪知恵、他に生かしてほしかったですね」


 あまり見習ってよいものではないことはわかるけど、そこまで色々よく浮かぶものだと私は呆れてしまった。


「もっとも、ギルバードも最初から予想していたわけではないにせよ、メアリーがお前を連れ去る様子は見ていた。そして、わざと見逃した」

「え? 見えなかっただけじゃないんですか?」

「悪知恵が働くと言っただろう。あれも伊達に殿下の護衛をやっていない」

「なるほど……」


 今日は元々餌であることは重々承知であったけど、あくまでドイルさんから情報収集をするための餌のつもりだった。いつの間にか増えていたメアリーの餌への役割も教えてくれていたらよかったのに。


「なんだかギルバードさんには後々ぜひ多大なる報酬をいただかなければ、納得できないような気がしてきました」

「ああ、好きに言えば言い。俺は殴るつもりだ。お前も一発殴っておけ」

「え? 殴るのは、ちょっと……」


 さすがに冗談かなと思ったけれど、ランディさんの目は物凄く本気だった。

 怒っていいはずの私より怒っていた。

 そしてそれを見ていると、だんだんギルバードさんのことのほうが心配になってきた。

 だって、一応どういう形になるかはともかくとして、餌になるのを了承したのは私だし……


「……ランディさん、お手柔らかにしてあげてくださいね」

「知らんな」

「知らんじゃなくてですね……!! ほら、結果的にここも見つかったことですし!!」


 けれどランディさんの表情に納得の色は浮かんでこない。

 ごめんなさい、ギルバードさん。多分、あなたは殴られます。

 そんな同情を抱きながらも、それでもそれだけ心配されたことに私は不謹慎だと思いつつも、くすぐったい嬉しさを感じてしまった。



 そして今後はあまり心配をかけないようにしなければいけないという決意を固めると同時に、この嬉しさをやる気に代えてメアリーからうまく話を聞きだそうと気合いを入れた。




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