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第12話 言葉足らずは焦ります

 服は脱げと言われてそう簡単に脱いでいいものではない……よね?

 だが、ランディさんは不機嫌そうなまま言葉を続けた。


「何をしている。肩を見る。早くしろ」

「はいわかりました……なんて言えるわけないでしょう!? ちょっと待ってくださいよ!!」


 当然のように言われた言葉に私は叫んだ。

 この服は肩だけ出せるようなものではない。これに抵抗を感じないほど私の羞恥心もお留守ではない。

 しかし従わない私にランディさんは容赦なかった。というか青筋が切れるような勢いで不機嫌そうな顔をされてしまった。


「痛んだなら見ればわかるかもしれないだろう。脱がすぞ」

「セクハラ禁止!! 診察なら相応の服を用意してくださいよ! 」

「セ……? よくわからんが、悠長にしている場合じゃない」

「むしろ今のほうが緊急事態なんです!?」


 異常は確かに自分でも気がかりだが、すでに痛みは消失している。

 悠長というほど時間がほしいわけではないのだから、ほんの少しの猶予がほしい。

 だが、ランディさんは私の方に踏み込み、腕を掴んだ。


「ちょ、」

「見せれば終わる」

「それが嫌なんですって!」


 だめだこの人理解してない!

 私も火事場の馬鹿力をフルに発揮するけど、びくともしない。魔術師という職業は筋力的にはひ弱な設定がセオリーではないのかと日本のアニメや漫画に問いかけたくなるが、今はそれどころでもない。


「大人しくしろ」

「悪徳代官ですか!?」

 

 思わず口をついた非難する言葉がランディさんに通じるものではないとしても、もうそれを気にかける余裕はない。

 しかしそうして抵抗しているうちに、踏ん張っていた足が滑った。うわ、と、声をあげる前に私の腕を掴んでいたランディさんの顔に驚きが広がった。そして次の瞬間に感じたのは背中への衝撃だ。思わず息を詰めるも、後頭部から落ちなかったことは不幸中の幸いだ。

 ……でも、目の前いっぱい見覚えのある衣服が広がっているのも大問題なんだけど!


「観念しろ」


 般若が思い浮かぶような声に私は顔がひきつった。転んだ折に巻き込んでしまったランディさんは、今は私の上にいる。しかも声が相当冷え切っている。


 逃げ場がない。


 そう冷や汗をながしつつも、まだ逃走を諦めていなかった私は打開策を考えた。

 が、それが解決するまでに、部屋には絶叫が響いた。


「お前ら何やってんの!?」

「ギルバードさん!! 助けて!!」

「ギルバード、手伝え」

「はっ!? どういう状況!?」


 状況とかあとでいくらでも説明しますから!! そんな私の切な願いが届いたのか、とりあえず私はランディさんの下から救出された。

 状況が把握できていないギルバードさんは、そのまま私とランディさんの間に入ってくれている。


「んで、何があったんだ。ランディが嫌がる婦女子に迫っていたというようにしか見えなかったが」

「馬鹿なことを言うな。肩に召喚の手掛かりがあるかもしれないから見せろといっただけだ」

「肩……? なんでそんな……ってのは置いといて……お前、それでも押さえ付けて脱がすとか配慮が足りないって次元じゃないぞ。引っ叩かれなかっただけマヒルは優しかったと思え」


 やれやれと肩をすくめたギルバードさんは上着を脱いだ。

 それを『なんでお前が脱いでいる』というような風に見ていたランディさんの前で私に投げ寄越した。


「どっちの肩かしらないけど、片方だけ腕だして。前はそれで隠せるか? ランディは準備できるまでそっちを見ないように見張ってるから」

「なんなんだ」

「女性の羞恥心というものをお前は考えておけ。配慮不足ってこった。焦るのも分かるが、押し進めるより相手の話を聞いたほうが上手くいくこともあるって、冷静になりゃわかるだろ」


 呆れながらランディさんの両肩を掴み百八十度反転させようとしているギルバードさんの『焦る』という言葉に私は疑問を抱いた。

 急いでいたのはわかる。けれど焦りとは、一体どこからだろう?


 しかしそんな疑問を私が浮かべる前でランディさんは不機嫌そうにギルバードさんの手を払いのけ、そしてローブを脱ぎ捨てた。そして私に向かって叩きつけるように投げつけた直後、私に背を向けた。


 これは、使えということなのだろうか。

 ランディさんは後頭部しか見えないので、私はギルバードさんに視線で訴えると、笑いをかみ殺したギルバードさんがこちらを見て頷いた。どうやら私の考えは通じ、なおかつ間違ってはいなさそうだ。


 ギルバードさんも背を向けてくれたので、私は急ぎがさごそと用意した。


「まだか?」

「あ、用意できました」


 布ずれの音がとまったからだろう、かかった声に私は答えた。そして近づいたランディさんは私の肩を見た。ギルバードさんはその様子を少し離れて見守っている。


「……」


 いくらいろいろ隠しているとはいえ、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 見ても何もなかったらすぐ終わってほしいと思うのと、もしかしたら何もなくても魔術師には見える何かがあるのかもしれないという緊張が混ざり合う。そもそもランディさんが無言なのも悪いと責任転嫁だってしたくなる。


「あの……」

「これ、お前、本当に今まで気付かなかったのか?」

「え?」


 なんのことだと思い振り返れば、ランディさんの表情は真剣だった。


「ギルバード、鏡はあるか」

「……何があった?」


 離れていたギルバードさんも私の後ろに回った。

 え、なにかがあるのかと思えば、ギルバードさんは慌てて部屋を出ていった。背中が見えない私のために、鏡をとりにいってくれたのかもしれない。


「肩から背中にかけて文様がある。確認するが、入れ墨はしていないな」

「え?」

「知らないことであるなら、召喚に起因するもので間違いないだろう。おそらくこれを知れば、アイツもさすがにお前が召喚された者だと気付いた」


 その言葉と同時に、ランディさんの手が私の背に触れた。おそらく文様の部分だろう。そしてアイツというのはあの偉そうな男のことだろう。

 私の中で緊張が全身を駆け巡った。


「見る限り現時点で直接身体に悪影響を及ぼしているわけではない。そもそも召喚時からある文様で害があるなら、すでに身体に不調が出ているだろう」

「そ、そうなんですね。じゃあ、純粋な手掛かりになるんですね!!」


 なんだ、びっくりしたけど、それなら見つかってよかったものではないか。

 ランディさんの怖い表情を見ると非常にマズイ状態だったのかと思ったけれど、手掛かりがずっとここにあったのに気づかなかったということに対する何とも言えない気持ちが表情に表れていたのかもしれない。そりゃ、ランディさんが気づけないのは当然の場所なんだから、私が気づかなきゃだめだったよね。すごく調べてくれていたから、申し訳ないと思ってしまう。


「少しこの文様に封印を施す」

「え?」

「文様自体を触るわけじゃない。ただ、アイツとのつながりを一旦封じる。手掛かりを失うことには決してならない」


 ランディさんが何をしようとしているのか、その説明で私がわかるわけもない。

 でも、ランディさんは身体に害はないと言っていたにもかかわらず急いでいるようにも感じられた。


「あの」

「集中する。話しかけるな」


 やっぱり、焦っている。

 そもそもさっきはギルバードさんに鏡を要求していたのに、ギルバードさんが帰ってくる前、そして私が自分で文様を見る前に封印をしなければならないほど、急いでいる。

 でも、そんなに急がなければいけないものなら、本当に無害と言えるのだろうか? そしてそれを封印する人に悪影響も出ないのだろうか? ランディさんが凄い魔術師だとはいっても、リスクがあるのではないだろうか。


 けれど、私が懸念を伝える前に背中に衝撃が走った。

 しかしそれは心臓が跳ねるほどのものであるにも関わらず、先ほど感じたような痛みはなく、包むような暖かさが感じられる。悪いものではない、それがすぐに分かった。

 

 そしてそれは、いくらも時間が経たないうちに消えた。


「終わった」

「あ、ありがとうございます」

「寝る」

「え?」


 そう言った瞬間、ランディさんは倒れた。


「ランディさん……!?」





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