とてもよく似ているふたりの決定的な違い
「ディート。俺はおまえを見ていると、いらいらしたんだ」
唐突に、問いかけを無視して突き付けられた言葉に、ディートが動揺するのがわかる。
「おまえは、昔の俺にそっくりだったんだよ」
マーセストは、言うつもりのなかったことを、つい、こぼしてしまう。
「内向的で、戦うなんてこととは無縁で、やろうとも思わないで、そこにある日々をただ過ごすだけ。大切な人が傍にいる日常を当たり前のように享受し、多少思うところはあっても行動を起こすわけではなく、だらだらと現状に甘えながら過ごす」
それは、昔のマーセスト自身だ。
そしてディートにも自覚があったのだろう。
神妙な顔になってマーセストの話を聞いている。
「結局、理由はどうあれ、おまえも戦うことを選んだ。本当に似ていて厭になる。だが俺とお前とは決定的に違う。俺はそれを嬉しく思う」
ディートは自分と同じ選択をしないだろうと、マーセストには思えるから。
「隊長、それって……」
答えはすぐにわかるだろう。
マーセストはディートの問いに答えず、エミナへ視線を向けた。
「エミナには詫びておこう。大変な仕事を請け負わされたようだしな。だが戦争は終わった。これからどうするのか、ふたりで話し合って決めればいい。だが、時はいつ来るかわからない。今この瞬間にもアーイエシルはオルイガから消え去るかもしれない。そのことだけは心しておけ。今は永遠じゃない」
「はい」
しっかりと頷くエミナの瞳は力強く、不安そうな色を浮かべているディートより頼りになりそうだ。
ディートは戦闘だけではなく、人間としてもひとりの男としても、もっと成長しないとな、と考えたところで、自分に言えた義理じゃないか、とマーセストは心の中で苦笑した。
「じゃあな」
「……隊長?」
マーセストはふたりに背を向けた。
ディートの擦れた声が聞こえたけれど、振り向かない。
「ここからは俺とオーシャだけの時間だ」
ディートにもエミナにも聞こえなかっただろう。
小さく口の中で呟き、マーセストは正面の階段を見上げた。
八年ぶりに再会したその女性は、階段の中ほどで立ち止まり、マーセストを見下ろしていた。




