魂も腹は減る
コツコツコツコツ薄暗い廊下を靴の音が響く。
そしてその音はだんだん近づいてきていきなり止まる
看守
「おい!囚人番号3982番起きろ。時間だ!」
男
「…あぁ…そうかい…ついに俺もお呼ばれって訳か」
男はフラフラしながら独房を出る。そんな男に対して看守は静かに付いて来いとはなし歩き出す。
男も看守に付いて歩いていく。
薄暗い廊下をしばらく歩いていくと、今度は階段が見えてきた。
今度はその階段を一段ずつゆっくりと登っていく。すると看守は男にニタニタしながら話しかける。
看守
「お前も今日で終わりだな。お前のやってきたことは
誰も理解しないだろうな。この世からお前みたいな
奴がいなくなってくれると本当に助かるぜ」
男
「……」
看守は男に悪態をつきながら階段を登っていく。そして看守と男は階段を登りきり大きな鉄の扉の前で立ち止まる。
看守
「いよいよだな。心の準備はいいな?」
男
「……」
看守が扉を開けるとそこには、絞首刑用の台とロープが設置してあった。
男はその光景を見て一言震えた声で話し出す。
男
「…まぁ確かにな 俺の人生は本当にクソだったぜ。
子供の頃から窃盗、傷害、大人になったら罪もない
人間を騙して奪って傷つけて……そして殺した。
俺の人生はまさにゴミだぜ…」
男が自分の罪を認め話し出している時に死刑執行人が男の首にロープを巻き始める。
死刑執行人の表情は無表情だ。もう何人もの死刑囚の首にロープを巻いてきたのだろう。感情も壊れたのか、もう流れ作業のような仕事と割り切っているのか
執行人はロープを巻き終えると男の側を離れ絞首刑を実行するレバーの位置についた。
男は不思議と冷静だった。うろたえることもせず静かに周りを見渡した。
男
「せめて死ぬときくらいは景色のいいところで死にた
かったぜ。こんなきな臭い場所じゃなくてな」
男はそう呟きながら天井の蛍光灯を見た瞬間、執行人がレバーを引く。
「ガタ!!」
男の立っている床が開き男は真っ直ぐ下に落ちていった。
男
「これでやっと死ねるのか」
男は落下しているほんの数秒にそう呟いた。
「ガゴン!!」
「ギィギギギー」
「ユラ…ユラ…」
男
「…うぅぅ…ぅぅ…」
男は自分の体の感覚が少し違うことに気づき目を覚ます。
男
「俺は確か死刑になったんだったよな…死に切れなか
ったって事なのか?それにしてもここはどこだ?」
男は見たこともない風景の場所で寝転んでいた。
男は疑問に思う。
男
「俺が気を失っている間に看守たちが俺を死んだもの
と勘違いして辺鄙なところに俺の体を捨てていった
のか?それだとしたら俺は超ラッキーな男だぜ!
今度もまた違う土地で人をだまして奪って気に入ら
なければ殺し ちまえば良いんだよな!ハハ…ハハ
ハハハ」
男はまた野望高らかに笑い出した。すると真後ろに人の気配を感じたため振り返る。
するとそこへは、黒いスーツを着た中学生位の黒髪の少年がが立っている。男はびっくりしたが相手が自分よりも年下と分かるとすごい剣幕で怒り出した。
男
「おい!お前、人の後ろに立って何してやがんだ!」
黒髪の少年
「あの…私はあなたのことを迎えに来たんですよ…」
少年は男にそう伝えると男は笑い出し少年に問いかける。
男
「お前のことなんぞ知らんわ。俺はまた新しい人生を
送りに行くんじゃ!邪魔すんなら殺すぞ!餓鬼!」
すると少年はクスクスと笑い出す。その笑みは悪気が
ある笑い方ではなく本当に楽しくて無邪気に笑っているような顔に男は薄気味悪い感覚を覚えた。
黒髪の少年
「良いですか?あなたは既に死んでいますよ。貴方は
生きているうちに人を苦しめて人間の法律によって
死刑になったんですよ。そしてここがどこなのか分
かりますか?ここは貴方のように死刑になった魂や
寿命で人生を終えた魂が閻魔大王によって今後の進
路を決められる場所。ふぅ…つまりここは霊界とい
うところです」
黒髪の少年が楽しそうに説明する。すると男は呆気にとられた表情で少年に語りかける。
男
「ふふっ俺は今とても良い気分なんだ。だから殺さな
いでおいてやる。だからよ、ここから街へはどう行
けば良いか教えてもらいたいんだがよ」
男は少年の肩を掴もうとする。すると周りの空気が一瞬止まった感覚に陥った。少年は深くため息をつき、
黒髪の少年
「はぁ…すいません、時間になってしまいました」
少年はガッカリとした表情でそう呟いた。
男はまた後ろの方から何かの気配を感じ振り返る。
するとそこは先程までいた外の風景から一変裁判所の法廷のような場所に立っている。
男
「えっ!なんだこりゃ今度は…ここは裁判所か?どう
なってやがるんだ」
男は訳が分からず立ち尽くしていた。目の前には裁判官のような格好をした女性が座っている。
周りを見渡すと傍観席には先ほどの黒髪の少年1人だけが足を組んで座っている。
「バン!!」
男はびっくりして体を硬直させる。すると女性の裁判官らしき人が力強く喋り出す。
裁判官
「これより被告人の今後の進路を決める裁判に移る。
被告人は生きていた時は罪もない人間に対し散々
悪事を働き人を殺したな。そしてその反省も見られ
ず、また違う土地で悪虐の限りを尽くすという野望
を述べた。これにより被告人の処遇は明日の夕刻を
もって地獄行きを命ずる。」
男はいきなりの判決に怒りをあらわにし、裁判官に食ってかかる。
男
「てめー何様だ!俺は死刑になったんだろうが!これ
でもう帳消しだろうが、それに俺が地獄に行くのを
決めるのは閻魔大王ってあそこにいる餓鬼が俺に言
ったぜ」
裁判官
「静粛にしろ。いいか被告人お前は確かに人間界の法
律により死刑になった。
だがな、それはあくまで人間界での法律によっ
て裁かれただけというものだ。我々は肉体的な事
を裁きたいのではない。我々が裁きたいのはお前の
魂のことだ! それとな、私はてめーと言う名前では
無い。私の名前はトラヴィス・マリーここ霊界世界
においての最高責任者。お前らの世界では閻魔大王
と呼ばれている。よく覚えておけ!!」
男
「なっ!な…なんだと!」
閻魔大王と名乗る女性は淡々と男の刑罰を述べて行く
トラヴィス・マリー
「被告人は生前罪もない人々から窃盗、傷害、詐欺、
を行い人々に悲しい思いをさせ苦しめた。しかしな
我々が一番見過ごすことのできないことはお前が行
なった殺人についてだ。殺人は人間界においても霊
界においても許される罪ではない。
お前は推定3人は身勝手な欲望の為に殺しているな
なので地獄には、懲役320年だ。この罪を地獄で償
ってもらう」
男
「さっ!320年だ…と」
男の顔はみるみるうちに青ざめていく、そして身体の力が抜けその場に座り込んでしまった。ここで男は冷や汗をかきながらやっと自分の置かれている状況を理解した。死刑で死んだらそれで終わりと安易な考えを持っていた。死ねば全てのことから解放されるのだと。だが、それは違った肉体が滅びようとも魂は残る
その魂は霊界で裁かれる。悪いことをすれば地獄に落ちる。こんな話は子供さえも知っている昔から言われているお話だ。
トラヴィス・マリー
「被告人、明日の夕刻まで時間がある。それまで好き
に過ごせばいい。霊界の街を探索するのもいいだろ
う。
と言 ってもそんな気分にはならないか。せめて地獄
に行くまでの残り時間に最後の晩餐だけは済ませて
おけよ」
閻魔大王のトラヴィス・マリーは被告人の男に一枚のカードを渡す。
トラヴィス・マリー
「このカードは最後の晩餐を食べる時に出すカードだ
無くすなよ。美味しい料理が食べられなくなるぞ。
霊界には500店舗を超える食事処がある。
その中でも天界から選ばれしシェフが腕を振るう天
界レストランや地獄から来たシェフが作る地獄レス
トラ ンもある。お前は大罪人であり地獄行きが確定
しているが、安心しろ天界レストランへも足を運ぶ
ことができるぞ それでは刑の執行まで有意義な時
間を過ごせ。明日夕刻使いの者を寄越す。
これにて閉廷とする」
「バン バン」
男は気がついたら霊界の街中にぽつんと立っていた。
街の活気は勢いがあり人の形をした魂の他に天使や悪魔が入り乱れている。
男
「あぁそういえばいい匂いだな。腹減ったな…」
続く