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小さな箱庭の壊れた世界  作者: Ratte
1st day - 無間機餓
8/72

#8

“One Light Source”




 *




 ――――数時間前。




 分厚い暗幕が窓を覆い、外の光の一切を遮断した部屋の中。大きめの長細い机の上に置かれた蝋燭の火が陽炎のようにゆらゆらと踊り、部屋にいる複数の人影を映していた。

 少年と少女たちが机の回りで囲っている。一人を除き、彼らは所々が色褪せて灰色掛かった黒い野戦服のようなもので身を包んでいる。


「……位置的に多分、――――――――と――――――の連中だ。五キロ先からでも『視』えた。……ただの小競り合いじゃない、本気のやつだ」


 その中の一人、金髪の少年が苛立たしげに言った。染毛をしていたのか毛先が赤みかかっていて、頭にはゴーグルを掛けており、野戦服を着崩して首には銀で出来たスカルネックレスを掛けている。男とも女とも付かぬ中性的な顔立ちで、小柄な体格も含めると見る者によっては女に見えるかも知れない。だがそれは、彼が最も嫌うことだった。

 少年はイライラした時の癖なのだろうか。手の内にあるオイルライターの蓋を開け閉めたり、忙しなく繰り返している。


「どうする? シンゴ。……やるか?」


 苛立っている金髪の少年とは対照的にシンゴと呼ばれた青年は顎に手を当て静かに思案する。鋭い目付きが印象的な青年だ。野戦服の袖は捲り、前を開いているため内側に着た赤いシャツが露わになっている。本人にとってはそうではないのかもしれないが、その眼光のせいで何もしていなくとも不機嫌そうな表情に見えた。


「他のーーーーーーの動向は?」

「いつもやりあってるやつらはいつも通り。他の連中は様子見か……興味がないんだろうよ。邪魔が入ることはまずないだろうよ」

「そうか。……俺たちだけでやることになる」

「オレたちには時間がない。明日には全部、決まるんだ。だからこそ……やれることはやっておいた方が良いとオレは思う」

「……そうだな」


 シンゴは目を閉じ、しばし思案に耽る。

 そうして少し間を置いてから再度目を開くと、決意したように言う。


「行くぞ」

「オーケイ、わかった。準備する。ナイフやハンドガンも、間に合わせである。オレも前衛(フロント)に出れば……」


 はやるように捲し立てる少年の言葉をシンゴは遮る。


「いや、セレン。お前はいつも通り、後衛(バック)に専念しろ。……ラタネ」

「はいッす!」


 それまで黙って二人の話を聞いていた少女……ラタネが元気のよい返事をする。ぼさぼさに伸ばされた濃い茶色の髪。先の二人と違い、下がスカートになっている野戦服は二人のそれより更に着古されているように見える。それは大切に着続けてそうなったようで、使い潰されたような古着特有の不快感はない。その少女は茶色の瞳を輝かせ、シンゴの言葉を待つ。


「セレンと共に後ろを頼む。……出来るか?」

「はい! シンゴさん! アタシ、出来る限り頑張るッす! ……どしたの、セレンくん?」

「……なんでもねぇ。シンゴ、生き残りの回収だけならオレたち二人だけで十分じゃねえか?」

「なんすか、セレンくん、アタシをお荷物扱いっすかー。いやいや、セレンくんのことだから……ハハーン、心配してくれてるんすねー! いやー、セレンくんはやさし……ナンデモナイデス」


 ラタネはセレンの今にも爆発しそうな視線に、言葉途中に口をつぐむ。それを見てフンッと不機嫌そうに鼻息を鳴らすと、セレンは視線をシンゴに戻した。

 シンゴは首を横に振る。


「……生き残った者は、俺たちのような『部外者(アウトサイダー)』となった者だけとは限らない」


 その言葉にセレンは想定し得る上で、最悪なパターンを想像する。


「暴走した、『神仔(かみこ)』……」


 シンゴは頷いて、残った最後の影に向かって言う。


「レキナ」

「……はい」


 最後の影――レキナと呼ばれた少女は頷いて応えた。その少女を一言で言うのならば、御伽噺から出て来たような少女だった。

 他の三人とは別世界にいるかのような、青を基調とした鮮やかな和服に似た服。瑠璃(ラピスラズリ)色の濃い蒼い長い髪。服の隙間から覗く肌は透き通るように白い。蝋燭の陽炎に揺れる紫水晶(アメジスト)の瞳は、まるで虚ろな(ソラ)のように光を飲み込んでいる。その表情は何処か、人形染みた印象を受けた。


「お前たち神仔の持つ『神性』は強力な力だ。お前たちの父……神々がゲームに勝利するために授けた切り札。しかし、その強力な力故に、使えば『侵食』と呼ばれるデメリットをその身に受ける。

 故に、『神性』は使わない方が良い切り札だ。……俺と、セレンは四年前にその事を身をもって知った」


 それは彼らにとって忌むべき記憶なのだろう。

 シンゴの言葉にセレンは何か思い出したのか、苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべる中、


「アタシは見たことないんですけどねー」


 と、ラタネは拗ねたように呟いた。


「お前がその力を使うときは、本当にどうしようもなくなった時だけだ。お前はセレンとラタネより後方で待機を。俺たちがどうしようも、何も出来なくなったら――ーーその時は、頼む」

「……わかりました」


 シンゴの言葉に抑揚無く、無表情のままレキナは頷いた。そんな二人を見て、セレンは不安げに顔を曇らせる。


「シンゴ……」

「……大丈夫だ。俺たちには『コナトゥス』もある。それに、これから行く場所に俺たちに何かが起こる何かがある。

 そう、俺の『直観』が告げてるんだ――――」

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