Ex3
“Change Than Destruction”
次の刹那、フルエフルたちを取り囲むようにラトの兵隊らしき者たちが出現した。
気配など、全く感じられなかった。フルエフルはラトが一人でこの場まで来たとは思ってはいなかったが、それでもここまで接近されるまで気付かないのは異質だ。
全員がフードで素顔を全て隠し、外套で身を包んでいる。まるで、自分の姿を誰にも見られたくないと言わんばかりの服装。あまりの人間味を廃した姿が不気味だ。
各々の手には突撃小銃。彼らはその銃口を一糸乱れぬ動きで、フルエフルたちに向け静止した。
対するフルフエルの兵隊たちも、ラトの宣戦布告と同時に臨戦態勢を取っている。
ザンカがいないため、一人少ない形となっているが、いささかの戦意も喪失していない。むしろ気力を削がれていた先までの様子はどこかへ消えている。
これからの戦闘で先の失態を取り戻すばかりに、フルエフルに従う番犬たちは己の牙をむき出しに、敵へ立ちはだかった。
フルエフルはその様子に満足そうに鼻を鳴らすと、怯む様子なくラトを睨み付けた。
「……一応、訊きましょうか。理由を言いなさい。貴女とは反りが合わなかったけど、私たちは目的は一致していた。だから、これまで互いに不可侵ということにしていたはず。それも貴女の提案。それを反故するに足る理由を、言いなさい」
「理由……。理由か。ごもっとも。確かに、人には納得が必要だ。そうだねぇ……」
ラトはもっともらしく思案するように、歪んだままの口に手を当てる。その様子はやはり作り物めいていて、予定通りであるかのように。
「……この世界は、地獄だ」
やがて彼女は言葉を紡ぎ始めた。台本を読み上げるように、高らかに歌い演じるように。言葉に熱を持たせ、観客たちに語りかける。
「この世界は、神々が興じる遊戯盤。ワタシたちはその上で踊るただの駒。その本質は己の神に捧げられるだけの、ただの生贄。ただの憐れな家畜だ。
あぁ、あぁ……! まさしく、この世界の姿は地獄そのものだ。神々が望んだままに、人々が望まぬままに。ワタシたち神仔は神の勝利の為に戦い続けた。何年も、何年も。始まりがいつであったか忘れてしまうほどに、この世界には死が溢れ返っている。
そして、死に死を重ね幾星霜! 悲劇に悲劇を重ね幾星霜!
そうさ! ワタシはその地獄に――――」
ラトの作り物めいた様子はなくなっていく。
これから紡ぐ言葉は演じられたものではないと主張するように。
「――――飽きちゃったのさ!!」
自身の本心である、と証明するように。そして、彼女は高らかに笑い、叫んだのだ。
「…………笑えないジョークね、ラト。道化師なんて名を受けて、その名の通りに演じている癖に。笑いのセンスの欠片もありゃしない」
フルエフルの底冷えするような声に対し、ラトは肩を竦める。
「いやはや、確かに。冗談であれば、これほどつまらない話はない。だが、キミの夢はここで終わる。もう目を覚ます時間さ」
そんなラトの言葉にフルエフルはある一つの可能性に気付く。
「……この数日のマレブランケの消失。それも、貴女の仕業だと言うの?」
「いいや、違うとも。それは買い被りというものさ。ワタシは何もしていない」
フルエフルの疑問にラトは嘲笑を持って応える。今日は厄日だ、とフルエフルは溜め息を吐いた。同時に目の前の少女は敵だと、はっきりと認識を改める。
「いいわ、理解も納得も出来ないけれど。それが貴女の望みなら。……後で、後悔しないことね」
「先に後悔する者はいないよ、お嬢様。いや、やはり中身までも幼くなってしまったかな? いや、そうだとしても、それもお嬢様の望みか。なんとも健気なことだ」
「ッ!! いつまでも、その減らず口が叩けると思わないことね!」
その激昂を切り火に、フルフエルはラトたちに向けて小粒のものを投げ付ける。
植物の種子。
フルエフルはこの廃墟……元ホームセンターにあらかじめ目を付けていた。この場にはいくつもの植物の種が残っている。
「いあ! しゅぶ=にぐらぁす! 豊穣の息吹よ、栄えあれ!!」
同時にフルエフルは祈りを叫んだ。
フルフエルの神性、『豊穣』。
植物の生長は硬いアスファルトだろうと止めることは出来ない。それよりも更に柔らかいものであるのなら言わずもがな。彼女がやろうと思えば、人体であれば破壊することは造作のないことだろう。
種子はフルエフルの神性を受け、異常な生育を果たす。山羊のようなうねりを上げ、蔓となってラトたちに襲いかかった。
「ははっ。■■■・■■■■! ■■■・■■■■■!」
ラトもまた、嘲笑いながら彼女の神の聖句を紡ぎ、指をパチンと鳴らした。
それと共に地面が蠢き、世界を染める灰色の砂が舞う。




