プロローグ.
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………。
……ああ,なんだ?
………やけに寒いな。
もう少し….もう少しだけ……眠ろう…….
……….
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――某所.
雑然としたひと気のない空間.
かつては無機質に整備されていた床は苔むし,短い草が根を伸ばしている.
自然光など届くはずもなかった空間に,光が筋になって差し込んでくる.
長い間,人の手の入っていない機械が,そこかしこに横たわっている.
それらは,すでに自身の役割を終え,自然に還る時を待っているようだ.
それらに混じり,部屋の隅に静かに鎮座している箱のような機械が一つ.
生き物でないことを示しているような冷たく白い外装.時折,存在を主張をするように赤いランプが点滅している.
ピ――――――.
唐突に,静寂を破り,この場に似つかわしくない電子音が鳴り響いた.
箱はその音を合図にして,思い出したかのように白い息を吐き出した.
プシュ――ッ.
長らく,外界との出入りがなかった箱の内部に,部屋の中の澄んだ空気が入り込んでいく.
空気が入り込んだ分だけ,追い出されるようにして白い息がさらに吐き出されてきた.
ハッチが開く.
冷たく見せる白い箱の外装の一部が大きく口を開けた.
ちょうど,人が一人通り抜けられそうな穴が生まれた.
穴の奥には外の空気を久しぶりに吸い込んだ空間がある.
まるで外界のあらゆるものから,中身を守っているような厚い壁に囲まれている.
新鮮な空気を吸い込んだ箱の中の空間には,同様に新鮮な空気を吸い込んでいるものがいた.
「……んあ?……寒っ」
冷えた空間の中に,体温を取り戻すことで意識を取り戻した人間が一人.
いったいどれほどぶりになるのか,わからないくらい久しぶりに体を起こした.
初めまして.
中村 行です.
初挑戦の小説です.
気長にお付き合いください.