我が国は、貴国の脅迫に決して屈しない‐8
日本国さんは、ベルゲンをどうする気なのでしょう?
今ベルゲンはこの世界の恒例イベント『チキチキ・ベルゲン領土切り取りレース予選』が開催中です。
ここに何らかの刺激があると、予選終了で本番の開催になるのです。
ちなみに予選の勝敗は、三国の外交結果次第です。
ここは今、火薬庫なんてもんじゃないのです。
ガソリンの充満した密室です。
お願いですから火遊びじみたアクションを起こさないで欲しいのですがねぇ。
ともすれば、目の前の日本人に怒鳴り付けたくなる内心を自制して声を絞り出す。
ここは玉座の間、王様はいかなるときも泰然としてないといけない。
「先日の来訪よりさほど時はたっておらぬが、貴国のにとって余程急ぎの案件があると見た。して、以前来た丸山とやらはどうした?」
「はい、陛下。本日は私どもの国と正式に国交を結んで頂きたく、陛下の御前へと参上いたしました。」
………あかん事になるのが確定してしまいました。
だって、外国との友好関係なんてうちの国がまともに結べるわけないじゃない!
え?諦めが早いって?
では、納得してもらう為にも、国情を紹介がてら、転生してからこれまで俺の身に何が起きたかもダイジェストで紹介しようと思う。
詳細に紹介しろ?俺のトラウマにダイレクトアタックなので嫌です。
俺が転生してから13年の時間があったわけですが、孤児になるまでの五年とそれからの時間で『外国』の恐怖と、あいつらの蛮族加減については嫌というほど刷り込まれてたんですよ。
俺が転生したのは、ベルゲン王国の沿岸部。
三国の中ではダイアス=ロングランド諸島王国と一番関係がある場所だ。
そこの貧しい漁村の長男として第二の生を受けたのだが、そこでは『どこそこの娘が海岸で行方不明になった』とか、『どこそこの漁師が海で無残に殺されて海岸に流れ着いた』という噂話を大人たちがして居るのをよく聞いた。
幼児期には、子守歌では如何に外国人が血も涙もない奴らかというのを子供にもわかるようにアレンジされたおとぎ話を子守歌代わりに育ちました。
タイトルは『ダイアスの鬼』………どストレートにダイアス=ロングランド諸島王国の人間が敵役である。
ざっくりと概要を述べると、ダイアスの鬼(船乗り)が上陸して(彼らが)満足する。
村人は、力を合わせて鬼を皆殺しにする。
どう見ても、実際に起きている事ですねぇ。
………ちなみに、古今東西の童話や昔話には教訓じみたものが込められている事が多い。
そして、この話の教訓は
『こんな風になりたくなければ、ダイアスの船が来たら事故に見せかけて一人残らず殺せ。』
である。
貧しい漁村である村では、村民はフルで働かなければ生きてゆけない。
なので両親が働きに出ている間、村で働けなくなったジジババに面倒を見てもらっていたのだがその間に聞かされるお話が『フェールデン帝国でどんな仕打ちを受けたか』。
というのも、ベルゲンでは各国の被差別民や下層人間を現在進行形でたくさん受け入れている。
それこそおとぎ話なんて心理的距離が遠い話ではなく、自分達がどんな仕打ちを受けたかが生々しく語られるわけだ。
一番どぎつかったあるババの話にタイトルをつけるとしたらこうである。
『私の姉がどんな酷い目にあったか』
………タイトル詐欺じみた、かなりマイルドな表現だとこうなる。
このフィルターをオフにすると、タイトルだけで嫌悪感が沸く内容となっております。
ボルストについて?
前世の十字軍じみた蛮行がニュースとしてしょっちゅう聞こえてくるんですよ。
あいつらが一番元気なんじゃなかろうか?
国民単位で、外国についての警戒心や敵愾心………いや、外国に対しての殺意が国民に沁みついているのを理解させられた。
でだ、ここからは俺が体験したことになるのだが。
五歳の時にその村が攻め滅ぼされた訳ですよ。
そこで身をもって学ばされるんです。
教えられたことは、間違いだったと。
教えられたことより、実際に起きる悲劇はよっぽど酷い………。
んで、前国王たる父親に拾われ、国のトップに立つかもしれない人間としての目線で教育されると知ってしまうのだ。
この国では、俺が体験した悲劇はありふれたものだという事を。
悲劇を止められないこの国の首脳部は無能なんじゃないかって?
………いや、そんなことはないだろう。
何しろ、ベルゲンが滅んでいないんだから。
………と、ここまで説明させてもらったうえでもう一度言おう。
外国との友好関係なんてうちの国がまともに結べるわけないじゃない!
上から下まで『外国=敵』だと認識しているのだ。
そりゃもう、友好だなんて言っても反射的に拒否反応を示すに決まっているでしょう!!
我ながら、事あるごとに報復を叫ぶ超タカ派に良くぞならなかったものだ。
ベルゲンの王族教育ってすごいや!
そんな教育を受けていない人間は『外国』に対して半ばアレルギー反応じみた排斥運動を確実に起こす。
その手段は『外国』勢力に対する無差別テロ。
前世の現代社会においては、許されざる手段を持ってです。
………とはいえ、現代日本の国力を知っている人間としては国交を結ばざるを得ない。
その先に国内の爆発が見えていてもあの工業力というか生産力は、将来ベルゲンがこの世界の弱者の楽園たるベルゲンであるための必須条件であるだろう。
これを実現するため?
三国の侵攻を民間に被害を出さずしのぎつつ、日本の顔色を窺いつつ、国内に不満を生ませない国家方針が必要になるわけだ。
そんな、もはや芸術的な国家運営。
一歩間違えばベルゲン国民6000万すべてが死に絶えるかもしれない。
しかし。
それでもやらねばならぬ。
今が決断の時である。
国としても、一個人としても必死の決断を言葉にしよう。
「………よいだろう、我がベルゲン王国は、『日本国』との国交を樹立する」
tips
『血染めのベルゲン』
ベルゲンと諸外国の国境地帯は、しばしば『血染めのベルゲン』と呼称される。
日常的にどこかで流血を伴う悲劇が発生し、誰かが涅槃へと旅立つ。
父祖の血肉で維持する領域がベルゲン王国。
田畑の実りは、国民の地によって保障されるのである。