我が国は、貴国の脅迫に決して屈しない‐6
さて、国王として臣下の意見を反映させた結果、我が国は軍を国境に展開させた。
まぁ、こうする他に選択肢は無かったのだが。
正直、今回の日本の使者は、外交については赤点しかつけようがなかった。
日本国内の情勢不安はによるものが大きいとして仕方がない事としても、そういった点を外交相手にさらけ出したらいかんですよ。
今回使者からもたらされた情報は、極論すると
「お隣に引っ越してきたんですが、困ってます。助けて下さい‼」
としか受け取りようがないのである。
国外の情報が殆んど無い状況で、情報収集を目的とした使者をノーガードで送ればそうなる。
………でだ。
そんな、相手に弱みを見せ同情を引くような交渉術はこの世界では通用しない。
自分の事情を鑑みて同情してくれるような国が一つでもあるのなら、まだ可能性はあったかもしれない。
最も、そんな国があるのなら、ベルゲン王国も苦労はしない。
弱みややさしさを見せれば、それを口実に、軒先どころか母屋までをあの手この手で狙っている奴等ばっかりだもん。
見つけた弱味につけこまない奴は愚か者。
それが、この世界の常識だ。
肉食系の国家しかいないのである。
だから、今回の日本の接触に対して、それを落ち度としてしか認識できずに、周辺三国のうち何れかは日本と敵対する方向に動くだろう。
相手の弱みに付け込むことができない。
そんな国の首脳は無能であるとされ国内外での大きな波紋を呼ぶ為、それしか手がなくなるからだ。
国内では
「こんなチャンスに動けない様な見る目の無い奴よりも、俺が舵取った方が百倍ましや!!現政権はその座を俺に渡せ!」
と言った意見が出てくる。
国外では
「こんなチャンスを指をくわえて見てるとかありえない。動けない理由があるんだろう。今こそ、ぶん殴るべし!!」
と言った意見が出てくる。
意見を言うだけならば問題はないのだが、そいつらは暴力をもってその意見を通そうとする。
その暴力を止めるだけのシステムが、この世界では確立されていない。
今回使者を向かわせた先の国についての情報も、日本は掴めて居なかった。
ごくごく基本的なことも掴めていなかったんだから、世界の人間の気質なんかの可視化の難しい情報は知りようがなかっただろう。
以上の点から、三国………いや、我が国も含め四国とも日本に向けて、敵対的な態度を取るしか無いのだ。
しかしながら、ここで俺の元日本人としての経験が生きてくるわけだ。
戦後の日本という国は、海外進出に対して非常に慎重だ。
例えばそれが、一企業の行動であっても『海外進出』と言う言葉に、『大胆な』とかいった言葉を反射的に足したくなる。
それが、自分の住む国そのものの海外進出ともなると、先の大戦でのトラウマを直撃する訳だ。
勿論、それはそれで過去の手痛い失敗から学んだが故の正しい反応だ。
それが、異世界への転移なんて馬鹿げた状況でも通用するのなら。
そして同時に、外敵の動向に対して非常に敏感な側面を持っている。
今回の使者は県の手ごたえと、おそらく行っているであろう航空機による偵察から、こちら側の国々の軍事行動は筒抜けになる………。
よって、国内に対しては、何らかの軍事行動を行っているとアピールしつつ、周辺国に軍事的なスキがないとアピールしつつ、日本に向けては敵対の意思が(ガチガチに日本への侵攻準備をしている国に比べて)ないとアピールできる無敵の一手。
国境への兵力増強である。
………まぁ、実はこれ、不穏な空気が流れた時のいつも通りの対応なんだけどね。