鉄と血と叡智によってのみ、我々は平穏を赦される-15
さて………俺はこの目の前のベルゲン右派の象徴みたいな「外国なんて皆死んでしまえ系女子」をどうするべきだろうか?
この世からサヨナラしてもらう………将来的な遺恨を残さないためには、確かに今打てる一手のひとつではある。
決して最善ではないのだけどね。
軍務卿が態々呼び寄せてまで、王宮の書類仕事の手伝いをさせているのだ。
恐らく親子仲は悪くない。
悪くないどころか………軍務卿が後継者として育ててる可能性もあるんじゃないか?これ。
後、実行手段が問題だ。
相手は実戦経験済みの、現役軍人さん。
半端な奴だと返り討ちである。
じゃあ毒殺?
国王とお茶した後に、急に体調崩してポックリ逝くの?
どう見ても俺が犯人である。
それに、彼女の主張が国内の多数派の意見なのも問題だったりする。
俺に意見したと言って、公的に処す事が出来ない。
公的にとなると、事の経緯を明らかにする必要が出てきますね?
と言うことは、それをすると同じようなことを言う奴をコロコロしまくる羽目になりかねんとですよ。
俺に無礼を働いたとか言って、原因をうやむやにしたままボッシュートするのも難しいだろう。
軍務卿って、この国でも有数の権力者なので。
Q:王様の癖に、国内で好き勝手やる為の仕組みとか無いのかよ?
A:ありますが、その仕組みの上の方に軍務卿が居ます。
じゃあ、彼女を処さない方向で。
但し、何も対処しないままリリースするのは無しで!
方法は、まぁ無いことはない。
様は完全に俺の味方になってもらえば良いのである。
そもそも、彼女みたいな意見の人間を上手いこと宥めすかすのも俺がこれからやらなきゃいけない事なワケでして。
理路整然と今後はフェールデンと仲良くしなくてはいけないと説き伏せても、多分意見を変えて俺の側に付いてはくれない。
彼女のそれは、完全に感情から来てるからね。
日本で代表団に対して説得が成功したのは、彼らが発展しまくってる東京を見て日本とフェールデンの接近に危機感が芽生えたのがひとつ。
もう一つは今までと態度が違うフェールデン人を見たから。
要はベルゲン人を人として見るようになったフェールデンの人間を実際に見て多少は溜飲が下がったから。
そんな経験をしてない彼女のような人間を、劇的に変えるのは難しそうである。
一応、強制的に彼女をこちら側に引き込みつつ、八方丸く納める方法は………ある。
というか、あった。
あってしまった………
しかも、この手段ならば彼女を合法的に隔離する事さえ可能である。
けどなぁ………流石に踏ん切りがつかんというか………間違いなく後悔しそうだしなぁ………
と、そんな悩んでる俺を尻目に彼女はますます持論………「私が考えた最高にかっこよくて気持ちいい国防論」を展開させている。
しかも、妙にこっちの心にストンと入ってくるような………
やだ、この子「スキル:扇動」とか持ってそう!
絶対に野放しにできんぞ!
「ですから、ダイアス=ロングランドは押さえられるのです!全ベルゲン三千万人を持ってボルストと相対すれば、必ずやベルゲンは勝利するのです!」
………ベルゲンの三千万人。
ウチの国民大体六千万人。
無理に決まっとるでしょうが。
でも、それができたらとてもスッキリするよね………彼女の案を実行するために必要な物となると………いや、待って俺今なに考えた!?
こ、これはアカンでござる!
この子を野に解き放ってはいけない!
こ、こんなんあれやぞ!
軍事がある程度わかる鉤十字大好きちょび髭オジサンみたいなもんやぞ!
………あれ?それって結構良いのでは?
と、思ったけどダメだ。
日本のレスポンスが怖すぎる!
日本人からすると第一印象独裁者とかダメです!
や、やはりたった今思い付いた最終囲い込み作戦を………
と、俺の思考がグルングルンしてるときだった。
執務室の扉がノックされる。
「陛下!宜しいでしょうか!」
この声は………ぐ、軍務卿かぁ。
目の前の軍務卿の息女を見てみれば、俺に「どうしますか?」と聞かんばかりの視線を向けている。
ちゃんとこっちを立ててくれる辺り、いい子なんやなぁ。
………まぁ、大丈夫かな。
「うむ、入れ!」
声が少しでかくなったが別に動揺してるワケじゃない!
ホントダヨ!
「失礼します!む、アンナ子爵も居られたか。」
「はっ!軍務卿閣下!自分は席を外した方が宜しいでしょうか?」
「………ふむ。陛下、これから先程の件についてのご報告をさせて頂きますが、アンナ子爵も同席させて構わんでしょうか?」
先程の件………あぁ、三卿でのパワーバランスについてのアレコレね。
早いなぁ。
しかし、何故同席させるの?
何かコネ的なアレコレだったら流石にアカンよ?
娘だから特別扱いとかダメです!
まぁ、俺の知ってる軍務卿ならそんなことはせんだろうけど。
「ふむ、それはアンナ子爵が軍務卿の息女だからか?」
「………はい、陛下。今回ばかりはそうなります。何せ、この度の件はコヤツが決定に大きく関わっておりますので。」
若干返答が遅れたのは、多分俺の意図することを正確に読み取ったからかな?
しかし、決定に娘が関わってくる………いや、何か嫌な予感がするぞい?
「………解った。軍務卿、その報告とやらを聞こう。」
「はっ!陛下、この度私と内外両卿の国内での勢力均衡を保つために話し合いましたところ………」
何故かタメを作る軍務卿。
そして、彼の顔は段々にやけて、最終的に満面の笑みになる。
「私の娘、アンナ・ド・シャリーフ子爵を陛下の妻として嫁がせることが決定しました!」
ああああぁぁぁ………そうゆうの決めちゃう?
本人達抜きで!
いや、まぁ、確かにそれだと十分すぎるほど軍部の発言力が高まると言うか………少なくとも暴発したりはしなくなるだろうけどさ!
んで、俺に自由恋愛だとか言う贅沢は出来ないだろうけどさ!
「ぐっ、軍務卿………そういう大切なことを何故俺に何も言わずに決めるのだ?」
「それについては、申し訳なく思っております。しかしながら陛下………国内に陛下の妻となれる者、そうはおりませんぞ?」
あぁ、そうでしょうよ。
変なところの子と、結婚したらまたぞろバランス調整に頭を悩ませる必要があるでしょうし?
国の舵を、対外融和路線に切るのなら三卿のパワーがいい感じに拮抗してるこの状況じゃないとヤバいし、都合が良いし?
国外の相手?ははっ、ご冗談を!
「ぐっ………それは確かにそうだが………」
後、あれである。
俺のチョンボで国がヤバい件………その解決策である最終囲い込み作戦とも大体一致する。
そう、そうなのだ。
俺が彼女と結婚して、妻を大事にする体で後宮?的なところに封印すれば、一応解決しちゃうのである。
ある程度時間をかけて………と言ってもそんなに時間はとれないだろうが全力で彼女を口説き落とす。
仮に嫌がられても、彼女の意思は勅命的な強権発動で封じ込め。
周囲については………軍務卿は反対しないだろうと思ってました!他にはテキトーに餌を与えりゃなんとかなる。
………もちろん、人一人の人生を台無しにした上で背負うことになるのだから俺だって全力で彼女を幸せにする義務があるけど。
イチャイチャラブラブ、打算マシマシ生活が必要です。
後宮で何か悪巧みして、西太后めいたクーデターするかもしれないって?
………軍の若手将校かき集めてクーデターされるよりまだ分かりやすいのでマシです。
俺が軍務卿の傀儡にされるようなことは、多分無い………多分無いし、外から見たら今既に三卿の傀儡だもん。
後は俺が14歳で、アンナ子爵が21歳。
この年齢差でごちゃごちゃ言うやつが出てくるだろうけど………んなもん誰と結婚したって、何かテキトーな理由を作ってごちゃごちゃ言うわな。
タイミング的にも、多分バッチリなんだろう。
俺が日本に行った時に、「陛下に何かあったら、跡継ぎでヤバい!早く跡継ぎを作ってもらわなきゃ!………話は変わりますがウチの娘が相手を探していて(話が変わってない)………」とか言い出すやつが出始めたんでしょう。
………ふへへ、何かもう俺から断る正当な理由無いじゃん。
後は、容姿が気に食わんとか駄々こねる様な理由しか出せないじゃん。
………だからって、そんなにぽいぽい覚悟が決められるかと言えば………やっぱりちょっとしり込みしちゃう。
多分、この辺りは元日本人の結婚観に引っ張られてる。
後、前世で娘が居たなら丁度彼女くらいの年齢だよなぁと考えてしまうと………ねぇ?
これが孫ぐらいの年齢だったら、一周回って吹っ切れる………って、前世で行ったキャバクラで聴いた。
つまりあれである。
俺だって、感情が許してくれない事はあるのだ。
「………ふむ。余は………アンナ子爵と夫婦になること、悪くないと思っておる。」
状況が、そう言わせてる気はする。
だけどね。
「だが!軍務卿。当の本人はどう思っておるのだ?………なぁ、アンナ子爵よ。ベルゲン王国の貴族としてではなく、一人の人間としてどう思った?どう感じた?………君は、俺と結ばれることが嫌では無いか?」
せめて、彼女が理性で感情を塗りつぶしてしまう前に、その本心を知るくらい、我が儘を言っても良いだろう?




