鉄と血と叡智によってのみ、我々は平穏を赦される‐14
帰ってきたゼ!
ベェェェェルゲェェェン!!!
ハラハラ、パラパラ、そしてバラバラと飛翔音を変える自衛隊のヘリから降り立ち、大地を踏みしめるこの感覚よ!!
そして、お出迎えの馬車の乗り心地よ!
………正直に言って、既に日本が恋しくなってくる。
もっと、フカフカの座席がほちい!
目の前には、俺を出迎えた軍務卿。
馬車の座席に座り、向き合った彼の目は死んだ魚のようになっていた。
今回の訪日期間中、ベルゲン王国内の諸問題………てか、国を廻す方策については、すべて軍務卿に一任していたのであります。
何時もはやらんような仕事の大波に教われて、憔悴しきっておられるご様子。
疲れとるんやなぁ。目の下のクマがヤヴァイ。
「………あー、軍務卿。留守中の庶務、大義であった。」
「な、何のこれしき………国のためなれば………」
言っとくけど、別に彼が脳ミソまで筋肉になってるような人間だからこんな事になっとる訳じゃない。
ちゅーか、彼は国内有数のインテリおっさんである。
軍のあれこれを取り仕切るってなると、軍内部の予算配分だったり、補給あれこれの采配だったり、新規入隊組の育成だったり、何やかんや色々こなさなきゃいけないのだ。
そらまぁ、そうなる。
軍務卿個人は、割りとガッチムッチの筋肉系オッサンだけど、これは七割の業務と三割の趣味である。
業務内容についてはあれである。
鍛えてないと、ナメられるからね!
これは、俺達ベルゲンが前時代的な思考をしてるからじゃない。
元の世界の、オコメノクニの海兵隊の大将だって自分でマラソン大会開いて体力があるって下の人間に示したりもするらしいし?
自分が認める人間に付いて行きたいと思う。
人って、まぁ、そんなもんですよ。ええ。
けれど取り敢えずまぁ、俺達も帰ってきたことだし、彼にも筋トレタイムが帰ってくるんじゃないかな?多少は。
「軍務卿、城への道すがら結果を話そう。これからは、多少貴殿の仕事も減るだろうさ。フェールデンとの和議は成った、そして驚くなよ?日本とフェールデンとの同盟を取り付けてきたぞ!」
我ながらテンション高めである。
だって、結構な大仕事だったんだもん。
多少は口調も雑になろうというものだ。
「それは………良き事を聞けました。」
と、口では言うもののその表情は複雑そう。
まぁなぁ。
昨日の仇敵と突然仲良く!
なんて、まぁ、折り合いがつかないのはね。
お留守番してた彼には、特に難しいんだろうさ。
俺がまた何やかんや言っても、代表団の面々ほどすんなりとは行かんでしょうな。
だって軍務卿は、フェールデンの人間と直接合った訳じゃない。
フェールデンの人間を信頼するか、出来ないから背後の一撃に備えるか。
その判断が付かないもんなぁ。
「して、陛下。日本との同盟の対価は一体何だったのですかな?」
「国内資源の利権の譲渡、資源調査団の全面受け入れ………等だな。」
「そう………ですか。」
そして、吐き出す様に軍務卿はそう言った。
………突然だがベルゲンの話をしよう。
この国の歴史は、それ即ち外敵との戦いだった。
この国の人間というのは、基本的に………と言うか、よほどの例外でない限り、他国を信用しない。
と言うか、敵視している。
それこそ、可能であれば自分達以外は滅んで欲しいと思うくらいには。
その意識の改革は、恐らく俺の代では成し遂げられない。
五十年か百年か、そんな長期的にじわじわ変えて行くしかない。
ならば、結局俺の仕事は何なのか?
ベルゲンの安全を維持しつつ、国民を豊かにすることで、感情の爆発を起こさせない。
多分、出来ることはこのくらいだ。
だから、その為にも国家の中枢にいる人間とは、出来るだけビジョンを共有しないといけない。
国が1つの生き物として生きていけるように。
今回の決定の概要もあらかた車内で話終わり、城の中へと歩く途中で、突然軍務卿が思い出した様に言葉を発した。
「あぁ、内務卿に外務卿。ちと、相談事がある。少し時間はあるか?」
「はぁ、長旅で疲れているのだがな。まぁ、良いだろう。」
「ええ、構いませんよ。」
「ありがたい。では陛下、私達はここで。」
な、なんだよぅ。
俺だけ仲間外れ?
「何だ、重要な話であれば余も………」
「いえ、重要な話ではありますがまだ陛下のお力を借りるような事ではありません。今回の会議での決定で、軍と内務、それに外務の力関係が変わりそうでしてな。その調整と言ったところです。」
………ふむ。
トップが直接出向いて、その良し悪しはまだ判明していないが、デカイ事を決めてきた。
内務部と外務部の影響力やら何やらが上がって、軍部の方も何かしらが欲しいと言うことか………
まぁ、そう言うことならほっといて良いと思う。
「む、そうか。ではその辺りの事は、諸君に任せるとしよう。」
「ええ、何しろ陛下が日本に向かわれた際、陛下の承認が必要な案件が幾つかありましてな。書類は執務室にありますので………」
「………う、うむ。」
帰って一息つく暇もない………
に、にじゅうよじかんはたらけますかぁ!?
休めないことに絶望しつつも、執務室のドアに手をかける。
あぁぁぁぁ、働きたくない!やーすーまーせーてー!
ちょっとで良いのよ!ちょっとだけ!
………なんて、心のなかで駄々をこねても仕事が片付いてくれるわけでもないので、嫌々ドアを開けて机に向かう。
テンションが上がらないので、視線も俯いてしまうのだけど、仕方ないじゃん!
………ダメだ、こんなんじゃどんどんネガティブしてしまう!
「今日のお仕事なぁにかなぁ!」
半ばやけっぱちに、叫びながら目の前の書類の山を崩しにかかる。
………そう、書類の山である。
「えーっと、自衛隊停戦監視団のあれこれがあってぇ?こっちは、こないだの戦争で被害に合った地域の復興計画に付いて………橋の再建かぁ。あにゃー、やだなぁ。戦争なんて大嫌いじゃよ。」
正直に言おう、俺は長旅で疲れていたのだろう。
余りにも注意力が散漫になっていた。
執務室の中に、誰かがいる可能性を完全に失念していたし………
「あー、ごほん。」
書棚の近くに立っていた、見知らぬ美人さんに気付かなかった。
「なっ!?」
彼女は、軍部の礼装を身にまとっていた………
偉くキツメの顔でいらっしゃる………
「………み、見た?」
「………畏れながら。」
あ、あかん!
俺のイメージが崩れる!
俺がこう、何かアホっぽいって思われたら、要らんこと考えるやつが出てきたりして要らんことする!
ど、どうしよう?
話が広がったりする前に消すか?
………いや、自分の気の緩みでそんなことするのは流石に後味悪すぎるですよ。
と、取り敢えず会話!会話よ!
「………見たところ、軍の人間のようだが?」
「南方で常備軍の指揮を任されております、アンナ・ド・シャリーフ子爵であります。」
………シャリーフかぁ。
確かこれ、軍務卿の家名だった気もする。
いや、ベルゲン的にはそこまで珍しくない名前だしひょっとしたら被ってるだけかもしれない!
「あー、シャリーフ子爵。失礼だがご家族に軍務卿がいらっしゃったりは………」
「はっ!軍務卿は父であります!」
………だよね!
通りで見たことあると思ったもん!
他人のそら似と偶然の同姓の可能性にかけてみたけど、やっぱりダメだったでござる!
取り敢えず、後味が悪くてもやらなきゃいけない可能性があった、それとなーくこの世から退場してもらうという案は完全に消えました!
先の同盟締結によって国内での軍部の影響力が弱まった(様に見える)中で 、軍の城に上がれるクラスのお偉いさん………それも、軍のトップの身内が王様によってサクリファイスされてしまう。
どう見ても、軍部をおもいっきり崩そうとしているようにしか見えまへん!
それはあきまへん!
そんなの軍部が確実に暴発するわよ!
………と、取り敢えず説得!説得する!
今の件を口外しないと約束させる!
必要!
「………シャリーフ子爵、今見た事は………」
「はっ!陛下の奇妙なしゃべり方でしょうか?」
………あ、この子ダメだ。
察しが悪い。約束しても、ポロっと喋っちゃいそう。
ど、どうする?
「………シャリーフ子爵、少し話をしよう。すまんがメイドに茶を運ばせてくれぬか?」
「はっ!畏まりました!」
うむ、非常に何というか、軍人的なハッキリとした受け答えである。
ピシリと背筋の伸びた彼女の背中を見送って、思考をフル回転させる。
取り敢えず刹那の時間稼ぎは出来たし………ど、どうしよう?
このまま、尊大かつ頼れる王様な態度を押し通して、「何だ、あれは私の見間違いだったのか?」的な思考に持っていった方が………
「陛下、只今戻りました!入ってもよろしいでしょうか!」
「うむ、入れ。」
「失礼いたします!」
早いなぁ。
キビキビしてるなぁ。
でも、もうちょっと俺に時間をくれても良いのよ?
「うむ、ご苦労。」
メイドさんがお茶を淹れてくれる………お茶の香りが漂い始めた辺りで、メイドさんには退出をお願いした。
俺はゆっくりとティーカップに口をつける。
…一息置いたし、ちょっと情況把握しましょう。
「………して、シャリーフ子爵よ、何故余の執務室に?」
「はっ!この度の陛下の御外遊に際しまして、軍務卿の政務の手伝いのため城に上がりました!その中で、必要な資料を持ってくるよう命令を受けたのでこちらに!」
………首席と次席の両副官が抜けてたからなぁ。
信頼の置ける人間が欲しかったんやな、軍務卿。
「ほう、あの軍務卿が手伝いを任せるとは………シャリーフ子爵は優秀なようだ。」
「恐縮であります!」
すごく堂々としてますね?
恐縮してるようには見えへん!
………それから、彼女と話して解ったことが幾つかあった。
軍務卿直々に教育を受けていたようで、書類仕事はお手のものであること。
お偉いさんの娘なのに、既に実戦経験が有ること。
………て言うか、先の防衛戦で俺がこの子に勲章授与してる。
英雄と言っても差し支えない、非常に勇ましいお嬢さんであること。
そして………
「やはり、フェールデンもボルストもダイアスも!あれらの国に住まう人間全てをこの世から抹消しない限り、我がベルゲン王国に安寧は訪れないのです!」
俺の、あれな様子を絶対に見せてはいけない、過激派の見本の様な思想をしていらっしゃること………
ぐ、軍務卿。
子育ての方法についてちょっと物申させなさいよ!
更新が滞ってしまいまして、申し訳ありませんでした。
さて………当初全く想定してなかった女性キャラが生えてきたぞ?
タグをいじらなきゃ(汗)




