鉄と血と叡知によってのみ、我々は平穏を赦される‐10
さてさて、再開された会議です。
お互いの主張について粗方確認し終わったところで、いよいよ条件を詰めていく。
要は、ようやく本日のメインイベント突入ですよ!
ここからは、大人達の大人げない戦いが始まるぜ!
俺と皇帝君は高度に政治的な判断からお口にチャックする必要があるんだもん!
「さて、我々フェールデン帝国の主張については日本の皆さんも、ご理解を頂けたかと思います。我々も日本国が求めるものについて、理解は出来ました。しかしながらですな、貴国の求める条件………此方は些か………」
一番槍で口火を切った宰相さん。
何やら思わせ振りに言葉尻をすぼめてゆく。
それに対して、日本の総理大臣は言葉を引き継ぐように彼に話しかける。
「ええ、貴国の仰りたいこと、確かに理解できます。しかしですな、我々としても………」
と、まぁこんな感じで会議は進行するわけです。
言葉を一つ一つ捕らえると何だか小難しく感じるけど、結局の所宰相さんは
「(同盟締結の)お値段もうちょっと負かりまへんか?」
で、総理大臣が
「いやー、これ以上安くするとウチも赤字ですんで!」
と言ってるだけである。
このお買い物についてベルゲンは
「言い値で買うから、何かオマケつけてよ!」
って伝える予定です。
内務卿が。
まぁ、暫くは日本とフェールデンで丁々発止の値段交渉、もといネゴシエーションが繰り広げられるでしょう。
途中で煮詰まれば、フェールデン側の誰かがベルゲンに水を向けるでしょうし?
此方としても、彼らの交渉に水を指す意味は無いので暫くは一同お口にチャックですよ!
ベルゲンは空気の読める賢い子!
もちろん、変な結論が出て、
「お前らもそうするよね?」
的な同調圧力がかかる前に、こっちの意見を伝えなきゃいかんのですが。
と言うか、最悪交渉が決裂してやっぱり無しで!とかなる可能性だってあるからね。
その前には、発言が必要ですな。
「………なので、その点を考慮していただきたい。西田殿、何も我々は貴国に利のない提案をしているわけではないのです。フェールデン帝国とベルゲン王国の安定化は、貴国の発展に寄与します。その点はご理解頂けているでしょう?」
「ええ、勿論ですオットー宰相。しかしですな、我々日本もあらゆる面で苦しい立場に置かれているのです。この同盟締結には国家国民生存の為に、充分かつ明確なメリットが必要なのです。」
ふむ、お二人の交渉は平行線をたどってる様ですな。
なかなか譲らない両陣営、その出席者たちも何やらイライラしている様子。
そろそろかな?
「ふふふ、日本の方々は随分と交渉が上手なようですな?そうは思われませんか、ユーリ陛下?」
………おおっと、ここで宰相から俺個人へのキラーパス!
いや、これ外交的には結構失礼な事にあたるよね?
一家臣が、いきなり他国の国家元首に話しかけるとか。
………いやまぁ、ここで形式上立場が上の俺を引っ張り出して強力な援護射撃にしたいんだろうけどさ。
ふむ………どうしよっかな?
そこら辺は、僕らの頼れる内務卿に色々伝えてもらう予定だったけど………
うむ、これ、俺が発言すれば、こっちの意思がしっかり統一されてるよってアピールにもなるんじゃないか?
ちらりと周りに気づかれないように内務卿に視線を向けると………あ、オッケーっぽい。
じゃあ、やっちゃいますかね!
「ふむ、確かに総理大臣殿は随分と交渉が上手な様であるな。これでは、我が国も気合いを入れて交渉せねばなるまいて。総理大臣殿には、手心を加えて貰いたいものであるなぁ。」
と、取り敢えずオットー宰相が望んだような事を言っとく。
うむ、これには宰相さんもニッコリご満悦な様子。
反対に、総理は若干表情固めだ。
「………ふむ、そういえば、我々ベルゲン王国の意思をまだ伝えていなかったな。いかんいかん、これでは交渉が出来んではないか。」
「そうでしたな。いやはや申し訳ありません、ユーリ陛下。西田総理との交渉に夢中になってしまいました。して、貴国ベルゲン王国は此度の条件、どう思われますかな?」
宰相が、表面上は穏やかに俺に言葉を促してくる。
うむ、援護射撃に期待する感じがひしひしと伝わってくる。
総理大臣さんの表情も、これは多分敵が増える予感に苦い思いをしているからだろう。
だが安心してほしい!
我がベルゲン王国は、生きるためには手段を選んでられないのだからな!
「我がベルゲン王国は、日本国の提示した条件を全て呑もう!」
「「………は?」」
ん?
何で日本の総理大臣さんまで顔をひきつらせてるんだろう?
あれかな、聞こえなかったのかな?
「ふむ、もう一度言おうか?我々ベルゲン王国は、日本国の条件を全て呑むと言ったのだ。」
さぁて、日本にオマケを弾んでもらうぞぉ!




