表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/53

鉄と血と叡知によってのみ、我々は平穏を赦される-9

休憩を挟んでの会議再開。


日本国内閣総理大臣西田宗則は、内心溜め息をついていた。


この会議で話し合われているのは、日本国、フェールデン帝国、そしてベルゲン王国間での同盟締結に関しての事である。


率直に言うならば、日本国としてはこの同盟を締結する気はない。

いや、締結させてはいけない物だった。


今回同盟関係について提案したフェールデン帝国。

そして、そこに組み込まれたベルゲン王国。

両国共に、ダイアス=ロングランド諸島王国やボルスト神聖帝国との戦争を行っている。


その状態で、防衛義務を持つ同盟を組むことがどういう事か?


同盟を結ぼうとしている両国が、戦争に突入した場合には参戦しなければならない。


それがどういう事か?

彼は手元の資料に描かれた、この世界の地図に目を落とす。

そこには、広大な土地が描かれていた。


そう。広いのだ、この広さの面倒を見るとなれば日本の手に余る。資金、人員、装備。それこそあらゆる面で。

例えそれが、防衛の義務でなく自動参戦であっても、その準備のためのコストが日本を大いに圧迫する。


西田は別のページに目をやる。

そこには防衛省からあげられた、同盟を締結した場合に必要となる予算が記されていた。

………こんなものを、許可するわけにはいかない。

今これを許せば、日本と言う国が内側から崩壊しかねない。


彼もそろそろ70歳に届こうかと言うところ。

その目には、彼が生きた日本の歴史が浮かぶ。


焼夷弾によって焼き払われた国土で、明日の生活を心配する母親。

隣国で始まった戦争から始まった特需と経済成長、その後の高度経済成長の恩恵に預かり、明日を夢見る事を許された少青年期。

大国によって世界が二つに別れた冷戦。

そのなかで起きた、数々の事件。


東側に着くことを求めて、テロをやらかした若者がいた。

石油の輸入が止まると聞いて、スーパーに便所紙を買いに走る主婦がいた。

夢のような好景気と、その終わりによってもたらされた不況。

そして、その負債を返済しようと躍起になる若年層。

何度もこの国を襲う大災害。

隣国の台頭と驚異、同盟国からの防衛に関する突き上げ。


………激動の時代を生きてきた自負がある。

この国を、一人の国民として見てきた。

この国を、一人の政治家として支えてきた。



日本は今、滅亡の一歩手前にいる。

戦後から築き上げてきた、国際社会で生きるためのありとあらゆる成果と努力が無に帰している。


ふと、西田は会議室の椅子に座る一人の少年を見た。


………西田は、ベルゲンの年若い国王を全く信用していなかった。

いや、出来なくなっていたいった方が良いだろうか。


下からの報告で、西田がユーリに抱いていた印象としては、『珍しいものに興味深々の玉座に座らされた少年』である。


だが、そんな印象を一変させる出来事があった。


この会議が始まる前に、内閣調査室から上がってきた、とある音声データ。

それは、日本滞在中のベルゲン人達の会話を盗聴したもの。


そのなかで、あの少年は一体何をした?

確かに、大人達の操り人形だと思っていた少年が、国の意思決定に確りと関与していたのは驚きだ。

だが、その驚きも彼の振る舞いの前で霞んでしまった。


データの中で、ユーリと言う少年は言葉だけで大人達に不満を飲み込ませただけでなく、一瞬で彼らを掌握した。

………確かに、利益からでなく感情から不満を見せていたのだから、そのベクトルを変えることに裏取引等の事前の工作は必要が無かっただろう。

彼らの歴史や境遇が、団結を促しやすくする要因の一つではあっただろう。


………だが、あれは何だ?

彼の言葉で、瞬く間に静かになる大人達。

………そんなことができる政治家が、一体日本にどれだけいる?

いや、そもそも彼の本領は本当に政治家として発揮されるのか?

データで聞いた、彼の言葉………あれは、政治家と言うよりは煽動家の物では無かったか?


思えば、彼が来日後に希望して実現してしまったテレビへの出演。

それは彼が煽動家として打った一手ではないのか?

現にあれ以降、メディアでは連日彼についての報道がなされている。

その中に、否定的な論調の物は見当たらなかった。


もしも、本当にただ彼が日本との友好を目的として動いているのならまだ良い。

此方の目的と一致するし、手を取り合うことも出来るだろう。


だが、もしも、彼がベルゲンという国を生かすために、日本を泥沼に引きずり込もうとしているのならば………




視線の先の少年国王は、少し大人びたとは言え年相応の様子を見せている。


だが西田には、彼が年相応の少年とはもう見ることが出来ないでいる。

彼の中にある、得体の知れない何か。


それを引きずり出さなければならない。

彼が抱えているものを、何としても確認する必要がある。



異世界への転移から半年強………日本と言う国は、未だ崖の側から離れることが出来ないでいる。

やっぱり、日本は盗聴してました。

そして、普通に警戒しますよね?

というお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ