鉄と血と叡智によってのみ、我々は平穏を赦される‐7
異様な雰囲気の会議室。
そこでは、日本、ベルゲン、フェールデンそれぞれの代表が顔を付き合わせていた。
これから行われるのは『同盟締結調整会議』である。
停戦会議が早く終わっちゃったから、そのまま日本の滞在期間の残りを利用したものです。
タイムスケジュール的にはかなり日本側に無理をしてもらってる気はするぜ!
感謝はするぜ!手加減はしないぜ!むしろ手加減はして欲しいぜ!
後、先立っての停戦会議と違って日本側の参加者が二人だけってことはありませんよ?
今度は、総理大臣とか、自衛隊のお偉いさんとか、一部資源メジャーのお偉いさんとか、大学のお偉いさんとか、何故か軍服着た白人のオッサンとかまで居る。
………ス、ステイツの軍人が何故!
フェールデンが持ち掛けた、同盟関係構築の提案。
その同盟関係構築の条件として日本が持ち掛けたのがこちらです。
『君達の国の地理情報、全部教えてね?山とか川の位置だけじゃなくて、街道とか村の位置とかまで全部。勿論、軍事施設も。効率的な防衛計画立てるためだから、仕方ないね!』
『後、どこからどこまでが君らの国なのかははっきりさせてよ?じゃないと防衛の範囲が決められないでしょ?』
『日本から君達の国に、どんな資源があるか調べる人を送るから、無条件で受け入れてね?』
『後、欲しいものが出てきたら、日本に頂戴!大丈夫、そのお代は安全で払うよ!』
………こちらの世界基準で言うと、開戦待った無し。
いや、もとの世界でも開戦するんじゃねぇの?これ。
まぁ、交渉のテーブルを立つという選択肢は、今のところ無いので、それぞれの条件についてあれこれ考えてみよう。
まず、最初の国土情報開示だが、ベルゲン的にはあまり問題ない。
ここら辺は、国防に関する事なんだけども、日本に知られる事に関してはあまり問題視しなくても良いだろう。
そもそも仮にやりあっても日本にソッコーで負けるって。対日防衛はぶっちゃげ考えるだけムダかなとは思う。
まぁ問題は、その情報の取り扱い。
例えば、日本がこの世界の世界地図を公表するとしましょう。
そして、こう、『新しい外国の地図』とか『ベルゲンの歩き方』とかいって、書店に並ぶじゃろ?
大量に印刷された本の一冊が、要らん事する国に流れるじゃろ?
血が流れる。それがこっちの世界クオリティ。
過激な少数派が国を動かす事ってあるのです、こっちの世界。
いや、フェールデンはあんまりしなかったが、お金とか教義をこねくりまわして攻め込んでくる国があるんすよ。ええ。
とはいっても、そもそもがそんな奴等に簡単に手出しさせないための同盟関係である。
なので、まぁ、ベルゲン的には呑んでもオッケー。フェールデンがどうかは知らん。
次に、領土領海確定。
えー、まず、こちらの世界にそこら辺を決める条約は存在しません。
今回決めようとすると、ダイアスとボルストはのけ者にされてしまいますね?
納得するはず無いです。
まぁ、だからといって、こっちに殴りかかると、あちらが痛い目にあってしまうようにするための同盟関係である。
なので、ベルゲン的には呑んでもオッケー。
これはまぁ、フェールデンも呑むんじゃないかな?
今なら言ったもん勝ちだしさ。
次に、資源調査団受け入れ。
これは、条件次第では全く問題ない。
むしろ、現状ではベルゲンに自国の埋蔵資源を確認する術は無いので、寧ろ願ったり叶ったりです。
何なら調査団の護衛を、此方が出しても良いくらい。
けど、何も出なくても文句いったり約束の反故はやめてよ?
最後、調査で指定資源が見つかった場合の採掘権。
うむ、思いきった事言い出しましたねぇ。
元の世界でも火種になってる様な事ですよ?
それでも切り出したということは、日本も相当切羽詰まっとるんじゃろなぁ。
あるいは、乗り気じゃないとか?
うん、オッケー。
どうせ、今のベルゲンに地下資源を掘るまともな技術もそれを活かす術もないし。
………ただ、一応の期限的なものを決めて欲しいというか、恒久的にとかは言わないでほしいかなっていうか、せめて後々自分達で買い戻せる様にして欲しいって言うのが本音だ。
どんなに使い道がないものでも、それが金になるってわかったら欲しくなるのは人情だからね。
それを考えると、国内の反発だって結構なものになるだろうし。
後はまぁ、そこら辺の資源は将来の世代に財産として残したいものでもあるのだ。固執するつもりはあんまり無いけどね。
兎に角、ベルゲンを血濡れのダイアモンドが採れる国みたいには、流石にしたくない。
………とまぁ、大筋はこんなもんかな?
勿論、細かく見れば突っ込みどころだらけだろうし、将来的に問題になると予想される事だらけですよ?
けどまぁ、それに見合うだけの価値が同盟関係にはある訳で。
なりふり構ってられない。
まぁ、それはそれとして、少しでもベルゲンの利益を拡大できるようにあれこれするんだがな!
フェールデンと日本が意見対立したときに、同盟提案のお礼として、日本の機嫌を損ねない程度にフェールデンの味方をしたり。
同盟に誘われた借り、これを借りの作りっぱなしにするのは怖いですし!
資源が発見された場合、そこに作られるであろう採掘プラントなり何なりの周辺地域に日本が投資するであろう資金というか恩恵をベルゲンがしっかり確保できるように地雷を埋めたり。
日本のお金で街が出来たら美味しいなって思うの!
あとは、万が一日本が攻撃された場合に備えての援軍の必要があるからベルゲン軍の実力を日本が把握する必要があるとかいって、合同軍事演習しつつベルゲン軍が、近現代の軍事的ノウハウを取り入れられるよう働きかけてみたり。
え?技術的にかけ離れてるんだから意味なくないって?まぁ、今は無駄かもしれんが、いつか役に立つかもしれないし。
そんなこんなで、本筋の同盟関係をダシについでとばかりに色々妥協したり、要求したり………出来たら良いなぁ。
まぁ、今回の突然の会議も開催は第一回目。
最初は同盟締結の為にそれぞれの国が必要とする条件と、それについて良く解んない所への質疑応答がメインだ。
常識的に考えればだけどね!
勿論、先方の条件については、会議開始前に内々に此方側にも伝えられている。
なので、こっちはこっちで代表団の人間と色々話して、返答自体は決めている。
そこら辺のやりとりは、外務卿にお任せしてあるし、ついでに内務卿に、後々の利益を少しでも多く確定出来るように命令もしたし。
あんまり発言権の無い会議、アゲインである。
ま、ベルゲンとしてはフェールデンが日本とゼロサム的なやりとりしてる間に、win-winの話し合いが出来れば万々歳です。
別ゲーをさせていただこう!
というか、ここまで思いっきり譲歩?いや、無茶な要求呑むって言ってるんだもん。
ガキの使いでは無いのだからね、もうちょっと何かしら持ち帰らないと!
………帰ったときの国内の反発に今から怯えまくりッスよ、先輩。
………それはそれとして、暇になる訳だ。
皇帝君は今回ちょっと話しかけづらい位置に座ってるし。
誰か居ないかな?
暇潰しのお話相手………げふんげふん、適度な利益を引き出せそうな相手。
………と、ステイツの軍人さんらしき人と目が合っちゃったよ?
笑いかけられたので、曖昧な笑みを返しておく。
今、ベルゲンは日本とフェールデンの相手で手一杯です!
因みにベルゲン的には、今アメリカさんと仲良くするのはかなり勇気がいる。
だって、あの人たち日本国内で自衛隊に次ぐ武力を持った第三国の軍隊なのだ。
そんな人たちと、他の国が仲良くしてるとか思われると………邪推する人とか出てきません?
というか、日本の転移に何が巻き込まれてるか解らんのが恐ろしすぎる!
空母とか、極秘に持ち込んでた核兵器とかあったら、完全に厄ネタじゃねーか!
え?在日米軍が日本に吸収されて傘下に入っている可能性は無いのかって?
………出席者の前にね、あるの。
役職と名前が書かれたプレート。
そこにね、書いてあるの。
『アメリカ合衆国第5空軍・在日米軍司令官:ジョージ・A・バーンズ中将』って。
中将ですってよ!とっても偉いんだってさ!
まぁ、彼らも現状日本しか頼れる国は無いだろうから下手なことはせんだろうが。
こっち側のどの国であっても、彼らが欲しいものを提供できんだろうし。
と、彼は近くの通訳の人に話しかける。
そして、皇帝君を見て
「は?」
みたいな顔をする。
………そらね、5歳の子供が同盟だ何だって厳つい名前の会議に参加してたらそうなるわな。
事前に情報を貰ってたとしても、ビビるもんはビビる。
俺については、多分テレビで俺の顔でも見たんやろ。
先日のお昼の番組の映像、ニュースとかで使い回されてるの何回か見たし。
と、そうこうしているうちに会議が始まった。
「えー、それでは、同盟締結調整会議を行います。それでは始めに………」
そんなこんなで進行する会議。
大体の事は、手元に配られた資料に書いてあった。
勿論、この資料は極秘資料でしょうね。
その資料の内容をなぞるように、細部のあれそれを説明しながら全員で確認してゆく。
………暇ぁ。
いや、真剣に聞いているよ?でも、それはそれとして暇ぁ。
………うむ、取敢えずは一通り終わったかな?
確認だけで二時間ぐらいかかってる。
まぁ、良くわからない所とかの補足を参加者の内解る奴がしたりしてるので、そら時間はかかるわな。
ほら、皇帝君とか顔が強張ってるし。
………はぁ。
「すまんが、良いかな?」
「ユーリ陛下。如何されましたか?」
「いやなに、流石にちと疲れてな。どうだろう、会議の方もキリが良い所だし一度休憩を挟まぬか?」
すると、日本の総理大臣………西田宗則さん?が賛意を示す。
「………そうですな、そうしましょうか。フェールデンの方々も宜しいですかな?」
「うむ、僕は構わぬ。」
そして、真っ先にオッケーする子供皇帝。
明らかにホッとしとる。
それを切っ掛けに、会議は一時中断。
レッツ休憩タイムである。




