鉄と血と叡智によってのみ、我々は平穏を赦される-6
ベルゲン代表団。
彼らは、口々に心情を述べた。
一方で俺はというと、記憶を掘り起こした後、沈黙している。
やがて、俺を除いた全員が、述べたいことを述べ、そして沈黙した。
そして、そのタイミングで俺も口を開いた。
「………お前ら、何か勘違いしてねぇか?」
いつもの舐められないための偉そうな口調を捨てる。
これだけは、王様『ユーリ・フィラルド・ベルゲン』としてではなく、一人のベルゲン人として言わなくちゃいけない。
「言っておくが、俺達みたいな国民を動かす側の奴にそんな泣き言を言う資格は無いんだぞ?」
だって、そうだろう?
俺達は、残念ながら普通の国民とは違う。
そして、幸いにも国政に口を出す立場にあるのだ。
「確かに、剣を振るしか能の無いのフェールデン野郎や、ボルストの気狂い。それにダイアスの拝金主義者共に俺達ベルゲンは煮え湯を飲まされ続けてきた。」
俺の言葉に口を開きかけた者も居るようだが、今はしゃべらせない。
きっと、賢しげに話す小僧に何が解るとでも文句を言いたいのだろう。
「確かに、仕掛けてくるのはいつだってあいつらだ。ベルゲンを生かすことに必死だったのも、解ってる。だがな、それを打開策を見つけられなかった言い訳にするなよ?俺達だけは、それを許されねぇ!俺達の命令でベルゲンの民は数えきれないほど死ぬし、命令を間違えればやっぱり死ぬ!だからな、俺達はどんな理由があっても、足を止めちゃならねぇ!」
今度は、誰も喋る仕草を見せない。
「………言っちゃ悪いが、お前らが経験したような事なんざ、ベルゲンにはゴロゴロしてる。俺達ベルゲン人にとって、それは特別でも何でもねぇぞ!」
………悲劇はベルゲンのそこら中にいくらでも転がってる。
それこそ俺のような小僧でさえ経験するほどには。
………そのベルゲンの現状を知らない彼らではない。
その事に関して、俺は彼らを疑ってはいない。
まだまだ短い時間ではあるが、彼らが血を吐くように国のために働いている姿を知っている。
彼らは、彼らの職務を通してベルゲン王国を直視し続けている。
………きっと、少しだけ、余裕が出来てしまったのだ。自分の過去を振り返るだけの余裕が。
何しろ、これまでの事はベルゲンにとっては初めての連続。
初めて結ばれた、友好を念頭に置いた国交樹立。
その相手である日本の勝利と、強大なフェールデン帝国の一方的な敗北。
見下され続けて来た、フェールデン帝国との対等な交渉と停戦。
ベルゲンは、建国以来初めて、ベルゲンの平穏という悲願に向け前進しているのだ。
彼らは、そこに少しの希望を見出だした、そこに僅かな余裕が生まれた。
そして今、足を止めようとした。
一呼吸おいて、再び言葉を紡ぐ。
そろそろ、王様に戻ろう。
「思い出せ、我々の悲願は何だったか?過去連面と繰り返された先人達の犠牲は、一体何のためだったのか?死んでいった者達に、何を託されて、今この場に居るのか?ベルゲンの地に眠る英霊達に、一体何を捧げるべきか?我々の後に続く者達へ、一体何を残すべきか?」
国王とは、国の行く末を照らし、指し示すもの。
この場の者を含め、全ての民が迷わないように。
だから、これは俺にしか出来ない仕事だ。
「ベルゲン王国国王として告げる。ベルゲンの地に平穏をもたらせ。その為に、私心を捨てよ!貴様らは、国の奴隷だ、平穏のための人柱だ!その、持てる総てを国のために使え。!必要とあらば、国王であっても、切り捨てることを躊躇うな!勝利も繁栄も、その為の道具にすぎん!次に繋がる者に何も残さずに死ぬことを、余は絶対に許さぬ!!良いな!?」
「「「御意!」」」
………一同は一斉に返事をする。
皆、憑き物が落ちたように表情を変え………別の何かが憑いたように、最早殺気にも近いやる気を見せている。
そして、感極まったのか、軍務卿付次席副官が叫んだ。
「ベルゲン王国万歳!」
それに釣られるように他の者も
「ベルゲン万歳!」「国王陛下万歳!」「ベルゲン王国万歳!」「ベルゲン平穏を!万歳!」「陛下万歳!」
そして、部屋に吹き荒れる「万歳!」の嵐。
………や、やる気を出しすぎな気がしないでもないが、きっと大丈夫だ!
二日後、日本側から同盟締結に関する条件が提示された。
『フェールデン帝国ベルゲン王国が把握している限り全ての国土情報開示並びに両国の領土領海確定と、日本の派遣する資源調査団の全面受け入れ並びに金や石油等一部指定資源が発見された場合の採掘権要求。』
………まさかの、欲しいものいっぱいちょうだい宣言である。
申し訳ありません、地図は月曜日の夜ごろになるかと思われます(滝汗)




