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鉄と血と叡知によってのみ、我々は平穏を赦される-4

………ふ、雰囲気悪いー。

もー、ちょっと男子ー。

そんなに睨まないでよー、泣いちゃうでしょー?


………はい、会議後宿泊先の都内のホテルにて集まった対フェールデン停戦交渉団だが、その雰囲気は最悪です。


皆不満があるようですよ?


「どうした、皆一様に余を睨んで。言いたいことがあるならこの場で述べよ。」


「「「………」」」


皆睨むだけ?じゃぁ、こっちから聞いたろ!




はぁ、分かっているのだ。

ベルゲンにおける対フェールデンでの戦争でなくしたものの尊さは。



「外務卿、貴殿の身中を明かせ。何を言っても処断はせぬよ。」


「………申し訳ありません、此度の陛下のフェールデンとの同盟賛成は、最上の選択であったと解っては居るのです。しかし、ハイそうですかと首を縦に降るには、時間が必要な事なのです。」


三卿の内、最も広い視点を持つ(であろう)外務卿。


その彼は、奥歯を噛み締めるような声で、こう呟いた。


「解っては居るのです。フェールデンの提案にいち早く乗るのが、我々ベルゲンにとって、最上の選択であると。ベルゲン王国に住まう全ての者が望む未来を得るための選択であると………ですが!」


「申してみよ………いや、教えてほしい。貴殿が何を思っているのかを。」


「………畏れ多くも!陛下に我が胸中を打ち明けます!私も分かっているのです!フェールデン、そして日本の同盟によって我が国にもたらされるであろう貴重な平和が!………しかしながら申し上げます!だったら………何故、我が息子はフェールデンに殺されなくてはならなかったのですか!」


………そうだね。何でだろうね。

何で俺達はこんなにあの忌々しい大国の事情に振り回されなくてはいけないんだろうね?


「自慢の息子でした。あいつの行く末を見て、あいつの子をこの手に抱く………そんな夢すら奪っていったフェールデンと、何故手を取り合わねばならないのですか!」


「………許せ、外務卿。それでも、お前の望んだ家族の幸せを、ベルゲンの民が叶えるために必要なのだ。」


………そして、彼らの慟哭が、俺を何故だ何故だと責め立てる。


………内務卿、ロドニッツ・デア・トルネア。

彼は最初妻の出産時、運悪くフェールデン侵攻を受けて王宮に登らなくてはならなかった。

彼の妻は、出産時に子供と共に死亡。

フェールデンを恨まない訳がない。


内務中央担当官、ジュン・ド・シュエリャン。

彼の一族は、ボルストで異端であるとされた一族。

フェールデンに、彼の妹の婚約者が殺されていた。


外務卿付東方担当公使、ボブ・ロフトマン。

同僚が、常に首だけになって外国から帰ってくるのを見ていた。

確かに、彼らは過去に悪事を働いた結果、外国への使者という結果死亡率の高い役目を命じられた。

だが、彼らが本当に悪人だったと、彼は断言できない。

フェールデンに赴いた、仲の良かった同僚が、返ったら開けようといっていた蒸留酒は、未だに封も破られずに私室の戸棚にしまってあるという。


軍務卿首席副官、カリーム・ブルサリア。

隻眼の彼の傷付いた目は、フェールデンとの戦争でなくしたものらしい。そして、方目を、失った彼を逃がすため、彼の部下は皆戦死した。そこには、彼の弟も含まれる。


軍務卿次席副官、ジェイコブ・ティーラネン。

彼には、2つ年下の婚約者が居たそうだ。

今回の対フェールデン戦争。

彼の家はフェールデンの占領下に置かれ、奴等を追い払った後、婚約者の姿はどこにも無かったそうだ。


東部トゥルド公爵、ソベ・トゥルド。

彼の領地は、フェールデンと接する。

彼は、自分に任された土地が大好きだと言う。

春には種植の、夏には雨乞いの、秋には収穫の、冬には年納めの祭りがあると言う。

来年の、種植の祭りが楽しみだと言った青年の村は焼け落ちた。

雨乞いの祭りの準備に忙しかった村は、祭りを迎えることなく、この世界から消え去った。

収穫の祭りで、幼なじみに結婚を申し込むと意気込んでいた男はもうこの世に居ない。

年納めの祭りの主役を勤めるのが楽しみだと言った幼い女の子は、フェールデンに笑顔を奪われた。


ベルゲン王国国王、ユーリ・フィラルド・ベルゲン。

俺を、ユーリとして生んでくれた父と母は、もう二度と俺を誉めてくれない。



「皆、聞いてほしい………お願いだから、聞いてください。三国同盟。これが、まだ見ぬベルゲンの子供たちに遺せる最大の希望、その最短の道なのだ。我々の義務、我々が今ここに居る意味とは、次の子らに道を遺すことなのだ。頼む、分かって欲しい。今我々が抱いている怨嗟は、子供たちに背負わせてはいけない。今こそ思い出して欲しい。我々が、国の舵をとる立場にいる理由を………」


「皆頼む。今こそが1000年先のベルゲンに、尊い物を遺す絶好の機会なのだ!」


………静まり返る室内。

俺は、この世界に落とされたばかりの頃の事を思い出していた。

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