我が国の内情を鑑みるに、その提案は受け入れられない‐17
日本国は東京都の某所で、ベルゲン‐フェールデンの停戦会議が行われています。
ええ、遂に始まりました。
今回の訪日の大本命です。
用意された議場には、両国の重鎮達がずらりと並んでいる。
来ていた人員のうち、お互いに8人ずつ。
日本から、アドバイザー的人員2人。
総勢18人の会議です。
会議場の机はコの字型に並べられており、上座の右に俺が座り、左にフェールデン皇帝が座っている。
ここでそれぞれの出席者を見てみよう。
ウチの出席者は、
ベルゲン王国国王『ユーリ・フィラルド・ベルゲン』
東部トゥルド領公爵『ソベ・トゥルド』
内務卿『ロドニッツ・デア・トルネア』
内務中央担当代官『ジュン・ド・シュエリャン』
外務卿『イゴリー・レフ・ライスカヤ』
外務卿東方担当公使『ボブ・ロフトマン』
軍務卿首席副官『カリーム・ブルサリア』
軍務卿次席副官 『ジェイコブ・ティーラネン』
こうやって名前を並べると、何だか強そうだよね!
次にフェールデン帝国側。
フェールデン帝国皇帝『ヴィルヘルム・アルト・フォン・フェールデン2世』
宰相『オットー・フォン・ロイス』
西部ザクセン公爵『アンハルト・ミネベア・ザクセン』
外務尚書『メルディ・フィレア・ベルトハイゼン』
帝国陸軍元帥『ナイゼル・ホルト・ロドリンゲン』
帝国陸軍西部軍管区総監『ガルフリート・フォン・オストハウゼン』
帝国海軍大将『ハーラルト・フォン・ザインバッハ』
帝国陸軍情報局長『アドルフ・ヴァン・ザルトハイト』
つ、強そう。
と言うか、軍人が多すぎるし、名前にフォンが多すぎる問題。
何でわざわざ海軍の人まで引っ張ってきてるの?
最後に日本人二人だが
外務大臣『大村茂』
転移対応担当大臣『西牟田輝彦』
アドバイザーと言いつつ大臣クラスを出席させるとは………日本も期待してるよって言うアピールなのかなぁ?
どこかのすごい大学のセンセーとか来るのかとも思ってたが、予想は外れたね!
俺と皇帝以外は軒並み良い歳こいたおっさんだらけ。
当たり前のようにむさ苦しい。
後、気になることが一つ。
俺の隣の皇帝陛下が、アレな事。
幼すぎ。
………日フェ戦争の折りに、フェールデンの先帝は残念ながら天に還った。
その後の日本とフェールデンの停戦合意と言う名ののペナルティの一つとして、この俺の隣の5歳児の元皇太子を即位させると言う条件が盛り込まれている。
何でそんな事を盛り込んだのか、正確な事は解らないが、日本としてもフェールデンが帝位継承からごたついた挙げ句、暴走して再び日本に殴りかかってくることを恐れたのではないかと思っている。
一応この子が、継承権第一位だったのである。
専制主義国家はどうしてもそこいらの血筋やらなんやらに拘るからね。
乱暴に言えば、偉いことの保証書みたいなもんである。
その点、元村人の俺を国王に据えてしまうベルゲン王国はアレだ。なんちゃって専制主義国家なのだろう。
今例えば俺が急死したとすると、どこかから俺の養子が生えてくる。
そいでもって、その人物が次の国王様だ。
もちろん、例え養子であっても、俺自身の子供であると俺が宣言して、周囲にそれを知らしめした方が色々なゴタゴタを省けるからそちらの方が都合がいいのだけどね。
………義父さんと義兄さん、何で死んじまうかなぁ。
………しかし、フェールデン帝国も思いきったことをしたものだ。
この幼い皇帝陛下にとっては、日本って実の父親の仇だよ?
そんな国の内部に行くとか、かなり勇気がいったんじゃなかろうか?
しかも遊びたい盛りなのに、玉座なんかに押し込まれてる。流石に同情するわ。
チラッと横目で見る彼の顔は、努めて無表情を装っている感じだ。
誰だよ、5歳児にこんな顔させてるやつ。
アレだぞ、5歳っつたら、春日部市出身の有名な幼稚園児と同い年やぞ。
などと、思いながらフェールデン側の悪い大人たちを一瞥する。
彼らの顔には、笑顔が貼り付けられている。
そこに何となく蔑みを感じてしまうのは、ベルゲン人の被害妄想みたいなもんかもしれない。
前世日本人フィルターが掛かっている俺でさえこの始末。
生粋のベルゲン人のであるこっちの代表団の心中はいかばかりか………
いきなり殴りかかって、新たな外交問題を生まないかが一番心配です。
会議は、日本の外務大臣さんの言葉から始まった。
この度の会議は歴史的に大変重要な云々かんぬん。
日本国は両国の歩みよりの姿勢を云々かんぬん。
そいで、俺とチビッ子皇帝が握手をして、一言ずつ挨拶して会議は開始である。
因みにこの会議中、俺の仕事は殆ど無い。
だって曲がりなりにも国王なのだ、発言力がでかすぎてね。
例えば俺が要らんことを言ってしまったとしよう。
ヒートアップして、「全面戦争じゃ!」とか。
停戦するのに、「フェールデンの土地がほしいなぁ。」とか。
まぁ、極端な例だけどね。
すると家臣であるところの代表団人員は、それを実現出来るかどうかは別として、やる姿勢を見せないといけないのです。
そうしないと、マズイですよね?
そんなわけで、ミスると言い逃れが出来ない立場の俺には基本発言権はないのである。仕方ないよね。
やることと言ったら、ヒートアップしたベルゲン側の人間を強制的にクールダウンさせる事。
あとは、最後に調印するくらいじゃなかろうか。
………クールダウン作業が無いことを祈ろう。
恐らくは、フェールデン帝国側も似たようなもんだろう。
………大丈夫だよね?俺みたいに転生とかしてないよね?
この5歳児の転生前が、どっかの国のトップとかだったら死ねるわー。
ベルゲン最期の日だわー。
そんな俺の心配や妄想をよそに、会議は動き出す。
少なくとも、表面上は穏やかに。
まず、お互いが停戦の条件を述べる。
ベルゲン王国はもちろん、フェールデン侵攻前の国土の保全。
「今まで通りの状態にしてね?」
である。
フェールデン帝国の条件であるが、現状フェールデンの支配下にある地域をフェールデン領土として承認すること。
ふざけんな!
とは、思うもののこれはまぁそうするだろうなぁとも思う。
言うだけならタダの精神だ。
多分フェールデンも本気で領土の要求が通るとは思ってない筈………多分。
因みに、それを聞いたベルゲン側は皆ぶちギレ寸前の表情です。
外務卿と東方公使と俺以外。
そこから始まる口撃の応酬、非常に迫力があります。
皆、言葉だけはキチンと取り繕ってますから一安心(?)かなぁ。
一番激しくやりあっているのは、こっちと向こうの公爵さん同士である。
領地が隣接しているせいで、物理的にいつもやりあっているしね。当たり前ではある。
………そんな大人たちの、利害と感情のぶつかり合いを間近で見せつけられているフェールデン皇帝の様子であるが………若干涙目で顔をひきつらせている模様。
………流石に、年長者としては見過ごせないかなぁ。
いや、決して同情とかではないぞ?
虐げられてきた、ベルゲンの民の事を思えばそんなことできよう筈もない!
これまで犠牲になった者の中には、この子より幼い者も居ただろう。
これはあくまでも、ちょっとフレンドリーな所を見せて、フェールデンのトップ対ベルゲン感情を少しでも軟化させようと言う、高度に政治的な判断に基づいた行動なのである!
………よし、自分への言い訳完了。
いや、冷たい政治的な判断って確かに大切なんだけどさ、こういう人間らしさを忘れた政治家なんて多分糞の役にも立たないよ?
だって、いっつも正論しか言わないような奴には、誰もついていきたがらんでしょ?
誰かの賛同を得られない政治家なんて、何も出来ないしね。
ほら、石田三成だってそんな感じで負けた的なイメージあるやん?
と言うわけで、俺はこっそりと隣に座るフェールデン帝国国家元首に話しかける。
「のう、ヴィルヘルムどの。あっちに座っておる日本国の大臣じゃが………何だか馬に似ておらんか?」
「!?」
俺、前世通算50ちょめちょめ歳。
子供なし。
あ、あやし方が今一分からない。
遂に明かされた内外両卿のフルネーム。
果して軍務卿の名前が出る日は来るのだろうか?




