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我が国の内情を鑑みるに、その提案は受け入れられない‐12

「………我が国への取材?」


「はい、陛下。どうにも、日本国民がベルゲンについての情報を欲しているようでして。先日の著作物取引の決定で、取引先としてベルゲンへの注目が高まっているようです。」


まぁ、異例のスピード決定だったしね。

約一週間で、『日本とお話しする姿勢』を整えるって言うのは並の事じゃない。

それも政府間だけの事じゃなくて、民間との金銭が絡む取引に関して、そして法整備も含めてだもの。

日本の投資家さん達も、お預け食らったワンコ状態でこの先の進展を待っているでしょう。

その声にマスコミが押される形だろうか………

しかしこっちは、絶賛戦争中の国だというのに。

日本のマスコミの、そのバイタリティーには感心しきりである。


「………外務卿、こちらが戦時中であると言うことは相手は知っておるのか?」


「あちらの外務省には伝わっておりますので………」


「………外務卿。その取材については待ってもらえ。この状況下で日本人に何かあったら、全てがご破算になりかねん。」

変なことされて、難癖つけられても困るし。

ピリピリしてるのは何も首脳部の人間だけじゃない、国民だってそうなんだ。



………対日研究も必要だよなぁ。

取材の打診があったと言うことは、日本は民間交流を望んでいると言うことだ。いや、実に有り難い事なんじゃが。

けど、両国とも、余りにお互いを知らなさすぎる。

日本人にとって何がタブーなのかをベルゲン人は知らないし、その逆もまたしかり。

こちとら、ごった煮多民族国家なんだから多少は許容できるが………

一線を越えたらヤバイ。

「戦争についてどう思いますか?対話で平和を目指そうとは思わないんですか!?戦争なんて愚かな事ですよ!」

とか言う人が来て、しつこく連呼されたらヤバイ。

こちとら万年サンドバッグ国家なんだもの。

その愚かな事をしないと殺されてしまう立場なんだもの!


そんな発言、大名行列に騎乗したまま突っ込む事レベルの地雷だ。

『日本人平和主義者惨殺!』

なんて記事が新聞の紙面を飾った日には………第二次生麦事件の発生だ。

ウチには、生麦村なんざないけど。

え?政府はそんな事しないって?

そうかもしんないけど違うかもしれない。

何より、互いの国民感情が悪くなることは確実でしょう。

だったら防ぐに越したことはない。


………それはそれとして対日研究である。

最初にこっちから送った使者に、日本の書物を手当たり次第持って帰ってもらったりはしたがそれが満足いくほどフィードバックはされていない。

………対日研究機関の設立、そろそろ本腰をいれなきゃかなぁ。

対日研究機関構想は、結構前からあるんだけど、それに関してはちょっと修正が必要です。

予定では、内務主体の組織にするつもりだったけど………


ふと、内務卿のを見やると、そこには青白い顔をした内務卿が虚空を見つめていた。


いやぁ、正直法律の制定を嘗めとりましたわ。

著作権法ね、あれヤバイの。

取り敢えずガワだけを猿まねして導入したの。

そしたらね、そこから派生して制定しなきゃいけない法律が出るわ出るわ。

Wik○ped○aのリンクを延々クリックしてるんじゃなかろうかという勢いですよ!

内務卿のチェックのお陰で、国にとっての致命傷は避けられているものの、内務卿の勤務時間に致命傷を与えてしまったようで………

加えて、フェールデンに第一防衛線を食い破られてしまってるからね、国内の一般物流をアレコレする内務卿の負担は倍々さらに倍。

このままだと内務卿が死んでしまう。


研究機関は………外務卿かなぁ?

お互いの国の関係を友好に進めるためとか何とか言って名目作って………よし、決めた。



「とは言え、何時かは取材を受け入れる必要があるな………ふむ、外務卿、日本国民は何を知りたいと思うだろうか?」


「ありとあらゆる事なのでしょうが………さしあたっては、国民の生活などが一番注目されるでしょうな。」


「………よし。外務卿、取材の件に関してはそちに一任する。見せて良いもの、悪いものの判断は確りと行うように。同時に、対日研究機関の設立も行え。日本の国民性、産物、動向。ありとあらゆる事を調べよ。日本に関することで、その予測が立てられるようにせよ。」

まぁ、国民性だけを研究するんじゃ勿体無いし、色々と見落としがありそうだし。


すると、内務卿が顔を輝かせた。


「内務卿として、陛下の案に賛成いたします。もちろん、内務からも人員を出しましょう。」

やっぱり、その辺りの情報が少ないのも負担になってたな。


だが、軍務卿から待ったの声が上がる。

「陛下、軍部としては賛成致しかねます。設立に関しては何時かは必要でしょうが、 現在フェールデンからの侵攻を受けているのです。撃退するまでは、こちらに注力していただきたい。」


「………此度の敵は、それほどまでに手強いか?」


「………はい、陛下。部下からの報告から予想するに、状況は非常に悪いと言わざるを得ません。」


「………他方面から兵を引き抜いても構わん。何なら、この王都の兵も動員せよ。この苦境を脱して、少しで早く国体を強化する時間を稼がねばならん。皆には負担をかけるが、今はそれが必要なのだ。」


日フェ戦争によって、各国の日本への警戒感は一気に上がっただろう。

どの国も、競うようにフェールデンを打ち破ったその力を取り込もうとする筈だ。

そして、このベルゲン王国がその流れに乗り遅れれば、その遅れを取り戻すことは不可能だ。

力をつけた他国は、先ずもって目障りなベルゲン王国を潰そうとするのだから。


「………畏まりました。しかし陛下、我が国には余裕が無いことは覚えておいて頂きたい。」


苦虫を噛み潰したような軍務卿の表情。睨まないでよ、恐いぜ!

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