我が国は、貴国の脅迫に決して屈しない-2
「ふむ、日本国か。朕は寡分にしてそのような国の名を聞いた事がない。丸山とやら、貴国は果たしてどのような国であるのか紹介してはくれぬか。」
玉座から見下ろす推定外務省の七三役人丸山さんに向けて、声をかける。
前世の感覚からすると、何だか自分が傲慢に感じられる言葉遣いで少し嫌なのだが、こちとら仮にも一国の主。
(主に部下に)嘗められるわけにもいかない。
「はい、陛下。ではまず最近我が国に起きた奇妙な出来事から話させて頂きます。」
まぁ、そこから話さないとだろうなぁ。
「今より半年ほど前、我が国はこことは異なる世界よりやって来ました。」
その一言に、ざわめく部下たち。
それはそうだ、んなこと行きなり言われても理解できない。
下手すると、王様の前に狂人を連れてきたとして責任問題になりかねない。
「ほう、異なる世界と!馬鹿馬鹿しい!そんなわけがあるか!!陛下の御前でこのような狂言を吐くとは、その日本国とは礼儀どころか常識も知らぬ未開の国と見受ける!こんな者を陛下の御前に連れてくるとは、外務卿!貴殿はどれだけ杜撰な仕事をしておられる!!」
と、案の定騒ぎ立てるのは軍のトップ。
まぁね、君達外務さん達の外交失敗をいつも始末させられるもんね。仲悪いもんね。
でも、それを謁見中の今言っちゃう?
この人、政治感覚が無さ過ぎて困る。
………軍人としてはかなり優秀で、なくてはならない存在だから尚の事困る。
「軍務卿、陛下の御前である。口を慎みたまえ。まったく、これだから戦場で剣を振るしか能の無いものはいかんのだ。」
と、軍務卿を睨み付けながら今度は内務卿がチクリ。
その表情は、汚物を見るような軽蔑しきった眼をしている。
まぁね、君たちいつも予算を寄越せと煩い軍部が大っ嫌いだもんね。仲悪いもんね。
この人、協調性が無さ過ぎて困る。
………君がいないと国が回らなくなるくらい優秀だから困るのだけれども。
「まぁまぁ、内務卿に軍務卿。陛下と使者殿の前で斯様に騒がれては、我がベルゲンの縣の軽重が問われますぞ。ここは一旦落ち着いて………」
「「うるさいわ外務卿!!」」
そして、情けない表情に若干汗を滲ませながら言葉を発するのは外務卿。
まぁね、君たち本来の仕事である外務に関しては失敗続きで発言力弱いもんね。
この人はさらに、気が弱いから困る。
………国外との交渉は上手くいかないけれど、その交渉能力で軍部と内務の仲を取り持ってくれている。
実はこの国のキーパーソンなんだけれども。
軍務卿が噛みつき、内務卿が嫌味を言い、外務卿がそれを宥めては怒鳴られる。
ベルゲン首脳部日常の一幕である。
一旦放置して、話を進めよう。
「………丸山よ。見苦しい所を見せてしまったな。しかし、いきなり異なる世界などと言われても理解が及ばぬ。」
「いえ、陛下。我々も半年過ぎて尚、自分たちに何が起きたのか理解できておりません故、仕方のないことかと。」
苦笑しているようにも見える曖昧な笑みを浮かべながら、丸山さんが答える。
「気遣いに感謝する。して、使者殿。此度は、どのような用向きで我が国に参られた。」
「はい、この世界に来てから半年。我が国は手を取り合う相手所か見知った相手ももおりません。つきましては、今後良き関係を気づいてゆける様に自己紹介も兼ねまして、日本国の特産品をお持ちいたしました。どうぞお納めください。」
なるほど、今回はとりあえずの顔合わせね。引っ越し蕎麦持って、ご近所さんに挨拶回りと言う訳だ。
とはいえ、彼らの言う友好という言葉を額面通りに受け取っていては、国のトップとしては失格だ。
国と国なんて言う、大きな人間の集まり同士の付き合いともなると、お互いの利害がかち合う所が必ず出てくる。
そこを誤魔化し妥協し吹っかけたり集ったりするのが、国と国とのおつきあいである。
まぁ、目的は大方食糧の輸入先とか、転移で消えてしまった輸出先だとかではなかろうか。
下準備の調査は行っているだろうし、この世界の文明のレベルは知られていると考えていいだろう。
となると、安全保障が目的である可能性は少ない。
とは言え今はまだ、それを判断できるだけの材料がない。
もう少し探りを入れるとしよう。
まずは今、日本がどれだけこの世界の事を知っているか。
「ふむ、有難く頂戴するとしよう。しかし、貴国も災難であったな。だがしかし、少し羨ましくもある。」
「羨ましい………ですか?」
「というのも、我が国は三方を強大な国に囲まれておってな。奴ら、ことあるごとに我が国の領土を手にしようと戦争を吹っかけてくる。そんな忌々しい隣人たちとの縁が切れると言うなら、羨ましくもなろうて。」
………あ、丸山さんの表情が硬くなった。